2022.01.07
接点別にみたマンガ活用プロモーション(屋外・交通広告編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第20回>
明けましておめでとうございます。去年は報道やSNSで自分が見たい情報しか見えなくなるフィルターバブルが加速し、オリンピックや選挙などに関する極端な意見が飛び交った一年だったように思います。コロナ禍はまだまだ長引きそうですが、いたずらに惑わされることなく、2022年が多くの方にとって良い年になることを祈念します。
先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、アニメやマンガ、キャラクター関連の美術展・展示会や常設ミュージアムの活用事例について以下の内容をまとめました。
- 美術展・展示会は貴重な資料と限定グッズによるファン交流と学びの場
- 来場者はマンガやキャラクターのコアファン
- 美術展・展示会をキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと
- 講談社作品に関連する美術展・展示会事例
今回は、アニメやマンガ、キャラクター関連の屋外広告や交通広告活用事例について解説します。
屋外・交通広告は、顧客の生活動線上に配置された貴重な接触の場
今回紹介するのは、街頭や看板などの屋外広告と、駅・空港や交通機関に掲載される交通広告です。交通関連では、車体に掲載されるラッピング列車・バスや、関連イベントとしてのスタンプラリー企画も含めています。
2021年2月に電通が発表した「2020年 日本の広告費」によると、マスメディア4媒体広告費(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)が計2兆2,536億円で広告費全体に占めるシェア36.6%、インターネット広告費が2兆2,290億円で全体シェア36.2%なのに対し、屋外・交通広告や折込・DM・イベントを合わせたプロモーションメディア広告費は1兆6,768億円で全体シェア27.2%でした。
これは決して低い数値ではありませんが、コロナ禍の外出自粛による影響を受けて、マスメディア4媒体広告費が前年比88.8%、インターネット広告費が同105.9%、プロモーションメディア広告費が同75.4%とインターネット広告以外は総崩れとなり、近年堅調に伸びていた交通広告も大きく減少しています。
スタンプラリー企画は2015年のウルトラマン以降、ガンダムやキン肉マン、ドラゴンボールなどでキッズ・ファミリーや中高年男性に人気を集めてきました。2021年1月に開始を予定していた「JR東日本 エヴァンゲリオンスタンプラリー 全駅達成計画」は、コロナ禍対応で3月にいったん延期となりましたが、最終的には中止となりました。1997年から夏休みに開催されてきた「JR東日本 ポケモンスタンプラリー」も、2020年以降中止が続いています。
そんな逆風下の屋外・交通広告および関連イベントですが、顧客の日常生活動線上に配置されるという特性があります。そのため、作品を知らない人にも半ば強制的に繰り返し接触が見込め、参加も容易であるという優位性は揺るぎません。
近年、屋外では渋谷スクランブル交差点に代表される大型ビジョン、駅・交通機関では駅構内のデジタルサイネージや、JR東日本「トレインチャンネル」東京メトロ「Tokyo Metro Vision」に代表される電車ビジョン広告など、動画広告のプラットフォームが増加しました。各社でも動画広告の到達率の高さをアピールしています(参考:JEKI MEDIA DATA 2020)。
これらのプラットフォームでキャラクターの動画を採用すれば、マンガ・アニメ・ゲームコンテンツなどのPRはもちろんですが、ふだんスルーされがちな業種や企業の広告訴求力も高まると考えられます。
マンガコアファンの注目度が高く、行動変化を促しやすい
ここで、2020年9月に日本全国の男女3-74歳2,000名を対象に実施した「キャラクター定量調査2020」結果から、キャラクター関連の屋外広告や交通広告へのユーザーの接触経験を紹介します(図表1)。
図表1.性・年齢別:キャラクター関連の屋外広告・交通広告の接触経験
Q. 次にあげるものの中で、あなたがふだん、お好きなキャラクターや気になるキャラクターと接することが多いのはどれですか?
「街角や駅などの店頭、看板、ポスター」での接触経験者は、男女3-74歳全体の30.8%です。特に多いのは男女20-34歳と男女ティーン、女子キッズで、幅広い層で接触経験者が多くなっています。
また、「キャラクターの旅行・ツアー・スタンプラリー/乗り物(電車・飛行機・バス・船・クルマなど)」での接触経験者は、男女3-74歳全体における23.0%です。内訳で特に多いのは男女20-34歳、次いで男女ティーンです。
キャラクターのコアファンとマンガのコアファン(それぞれ「キャラクターが好きなほうである」「マンガが好きなほうである」の質問に、「かなり当てはまる」と回答:男女3-74歳全体に占めるシェアはともに約15%)では、「街角や駅などの店頭、看板、ポスター」での接触経験が5割以上、「キャラクターの旅行・ツアー・スタンプラリー/乗り物(電車・飛行機・バス・船・クルマなど)」での接触経験が4割以上に達し、ライトファン(同質問に「まあ当てはまる」と回答)以下の層を大きく引き離しています。これらの結果から、キャラクター関連の街頭や交通機関の広告は、キャラクターやマンガのコアファンにかなり注目されやすいことがわかります(図表2)。
図表2.キャラクターファン・マンガファンタイプ別:キャラクター関連の街頭や交通機関での広告の接触経験
さらに、東京メトロのメディアデータ2020によると、車内でのスマホ利用率は93.4%、「車内広告を見た後に商品名や金額を検索する」人が57.0%もいることから、車内での広告接触が、スマホ情報検索、そしてSNS共有・購入などの行動変化を促す即時性の高いトリガーとして機能していることが推察されます。
屋外・交通広告をキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと
顧客の生活動線を十分に考慮して、場所と時期を設定する
屋外広告や交通広告はコミックス発売、TVアニメ放送開始、劇場公開、スマホゲームアプリ・アニメ配信開始などの告知のために積極的に使われていますが、例えばスマホゲームアプリの広告でも男子向けは秋葉原、女子向けは池袋に棲み分けるなどコアファン濃度を考慮したエリアの設定や、コラボカフェや展示会との連動で、効果がより高まります。時間帯を指定できる場合は、動画広告を通勤・通学時に厚めに展開するなどの工夫も検討すべきでしょう。
インパクトのある出稿形態やクリエイティブを用意する
主要な駅周辺や交通機関は、通勤・通学に急ぐ人たちで混雑して、広告をじっくり見られる環境でない路線や時間帯も多々あります。そんな時でも広告を視野に入れてもらうには、一度見たら忘れられない工夫が必要です。
そのためには、駅構内や周辺の通りを同一作品のキャラクターで埋め尽くす広告や、電車内の中吊り・窓上・ステッカー・吊革など全ての広告スペースを独占するトレインジャック、電車・バス・航空機自体を広告スペースにするラッピングなど、大きなインパクトを生む出稿形態を検討したいところです。コストがかかるうえ、時にはクレームの対象となるリスクもありますが、「嫌が応にも気付かせる」という点では絶大な効果があります。
もちろん、制作者側は知恵を絞り、顧客に刺さるインパクトのあるクリエイティブを心掛けるべきなのは言うまでもありません。
2018年にJRや私鉄の電車内や駅構内で展開された、ブラック・ジャックとドロンジョという意外な組み合わせを起用したパートナーエージェントの婚活支援サービス広告では、思わず拡散したくなる凝った内容で動画も公開され、SNSでも大きな話題を集めました(「ブレーン」2018年3月号)。
自分ごと化しやすい内容で、ファン主導のSNS・ECサイト誘導を図る
屋外広告や交通広告はどうしても大都市中心の展開に偏りやすく、そもそも鉄道やバスなど公共交通機関を使わない層に届きにくい弱点があります。情報の流れをよくするには、作品のターゲット層に対し、どんな点で便利さや生活の変化をもたらすのかがイメージできる、ユーザー目線に立った広告を用意することがまず重要です。
さらに、スマホ連動を容易にさせるため、描き下ろし画像・動画や登場キャラとの相性診断コーナー・アプリなどのスペシャルコンテンツを用意して、誘導用QRコードを掲示すべきです。
これらの広告やスペシャルコンテンツに触れて、広告メッセージを自分ごと化して受け取った層がSNSに書き込むことで、展開エリアや路線利用者の外にも情報が広がり、SNSやECサイトで商品をチェックする機会が増えます。このような流れをイメージしてプロモーションを設計することが大事であり、先ほど紹介した婚活支援サービスはその好例といえるでしょう。
講談社作品に関連する屋外・交通広告事例
最後に、講談社の人気マンガキャラクターに関連する屋外広告や交通広告の事例を紹介します。
「はじめの一歩」電子版発売交通広告:『にどめの一歩』
2021年6月28日~7月4日:JR渋谷駅
7月1日の『はじめの一歩』電子版発売告知のため、週刊誌連載や単行本の読者をメインターゲット、知っていても読んだことのない人をサブターゲットに展開しました。原作の熱烈なファンである「かまいたち」山内健司さんが「デンプシーロール」「ドラゴンフィッシュブロー」などの必殺技を再現した6種のビジュアルで、世界観へのリスペクトとユーモアの両立を目指した内容です。SNSでは「元気が出た」「駅で笑ってしまった」など好意的な反応が集まりました。
>「AdverTimes」参考記事
「東京卍リベンジャーズ」交通広告:『日本リベンジャーズ』
2021年9月13日~9月19日:JR東京駅中央通路
9月17日の「東京卍リベンジャーズ」コミックス第24巻発売告知のため、主要キャラクターが並ぶメインポスターの他、各地方担当キャラクターがご当地代表として喋る"地元バージョン"47種類の掲示を展開しました。
「くまモンの親友(ダチ)がやられとっとに日和っとる奴おるや?」(熊本)などの方言を交えたセリフが話題になって、ポスター掲出中は多くのファンが盛んに撮影し、SNSでの共有が行われました。
9月17日の朝日新聞朝刊では、地域によってデザインが異なる広告が掲載され、Twitterで「#オレの地元が最強」と呟くとポスターが計48人に当たるキャンペーンや、ポスターや立て看板が掲出された書店での対象コミックスの購入で特製47都道府県リベンジャーズイラストカードがランダムで1枚もらえるキャンペーンも実施されました。
>「日本リベンジャーズ」公式サイト
JR東京駅のポスター掲示(筆者撮影)
「ゆびさきと恋々」巨大交通広告
2021年9月13日~9月19日:JR・東急電鉄 渋谷駅
2人組の漫画家ユニットである森下suu先生が「デザート」で連載している作品のコミックス第5巻発売と、男性シンガーソングライター・もさを。さんがコラボレーションしたミュージックビデオ公開を記念しての展開です。渋谷駅ハチコーボードと道玄坂ハッピーボードで大型広告、TOQサイネージピラーにコラボミュージックビデオと広告を掲出。キャッチコピーは、渋谷駅を意識した「1日330万人が使うこの駅で、今、目があった。恋は、これぐらい奇跡だと思う。」です。
「東西線 OFFPEAK PROJECT × あしたのジョー」:『あしたのために』
「東京メトロ「メトポ」 × 巨人の星」:『メトポの星』
2021年7月1日~2022年3月31日:東京メトロ東西線
「あしたのジョー」は2007年から展開されている東京メトロ東西線の朝ラッシュ時間帯オフピーク促進キャンペーン、「巨人の星」は「PASMO」チャージによるポイントサービス「メトポ」の登録促進キャンペーンです。駅構内でのポスターやデジタルサイネージ、電車ビジョン広告への掲出で、マンガ・アニメの当時ファンである中高年層だけでなく、若い層にもインパクトを与え、SNSで共有・拡散を続けています。C-stationでもキャラクターコラボ事例として紹介しています。
>「メトポ」公式サイト
今回は以上です。
大都市では当たり前のように展開される多くの屋外広告や交通広告も、地方在住のファンにとっては直接見られない貴重なものだったりします。今回紹介したような動画コンテンツやSNSと連動した施策は、それらのファン心理を充たす上で大きな価値がありますし、投下コスト以上の意外な効果をもたらしていると感じています。
なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧ください。
次回は、マンガキャラクターを使ったプロモーションとして、少し目先を変えて、アニメやマンガ、キャラクター関連のコスプレイヤーの活用事例について語る予定です。どうぞお楽しみに。
<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)
第19回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編)
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。