2021.11.26

接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第19回>

街は年末に向けて賑わいを取り戻しつつあり、クリスマス展示も始まりました。今年も大規模なご当地キャライベントが開催されず、全国の先生たちと旧交を温める各学会もオンラインでしか開催されないのは残念ですが、少しでも日常が戻ってきたのは嬉しい限りです。これが束の間の喜びでないことを、心から願います。
先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、聖地巡礼について以下の内容をまとめました。

  • ファン同士と地域住民の交流によって成立する聖地巡礼
  • 聖地巡礼を行う層はマンガやキャラクターのコアファン
  • 聖地巡礼をキャラクターとの接点として考える際に留意すべきこと
  • 講談社作品に関連する聖地巡礼事例

今回は、芸術の秋として現在各地で開催中の、アニメやマンガ、キャラクター関連の美術展・展示会や常設ミュージアムの活用事例について解説します。

貴重な資料と限定グッズによるファン交流と学びの場

マンガ関連の常設美術館は、1980年代以降に人気マンガ家の出身地や所縁の場所で次々と開館されています。1985年に長谷川町子美術館(東京都世田谷区桜新町)、1994年に手塚治虫記念館(兵庫県宝塚市)、1996年にやなせたかし記念館(アンパンマンミュージアム:高知県香美市)、2000年に石ノ森章太郎ふるさと記念館(宮城県登米市)、2003年に水木しげる記念館(鳥取県境港市)、2009年に永井豪記念館(石川県輪島市)、2011年に藤子・F・不二雄ミュージアム(神奈川県川崎市多摩区)、2020年にトキワ荘マンガミュージアム(東京都豊島区)など、枚挙に暇がありません。

また、作者や国を横断したマンガ関連資料の収集・展示・保存を目的とする施設も、各地で設立されています。代表的なものとしては、「釣りキチ三平」で知られる矢口高雄先生の出身地・秋田県横手市で「まんが」がテーマの本格的美術館の先駆けとして1995年に開館された横手市増田まんが美術館、マンガ学部がある京都精華大学と京都市の共同事業として旧・龍池小学校校舎を改築し、国内外のマンガ関連資料を集めて2006年に開館した京都国際マンガミュージアム、著名な漫画家を多数輩出した地として、2012年に開館した北九州市漫画ミュージアム、さらには2012年から2013年に開館した新潟市マンガの家&新潟市マンガ・アニメ情報館など、多くの施設が挙げられます。

他にもアニメーション全般を対象とする博物館としては、2003年開館の杉並アニメ資料館を拡充する形で2005年に開館した杉並アニメーションミュージアムがあります。

役所や図書館などの公共施設、デパートやファッションビルなどの商業施設、画廊・ギャラリーでの展示に加え、著名な美術館や博物館でも、期間限定でマンガ・アニメ関連展示会が開催されることは、もはや珍しくありません。
筆者も先日、国立新美術館にて開催中の「庵野秀明展」で、庵野氏に関する学生時代の自主製作作品を含めた膨大な資料を食い入るように観ている多くの若者たちの姿を目の当たりにし、作品の影響力に圧倒されました。膨大な数の美術展・展示会について、以前はイベント情報誌や専門誌などからしか情報を得られませんでしたが、今はネットで軽く検索しただけで、以下のようなサイトや個人SNSから気軽に情報を得ることができます。

11月から12月に行くべきアニメ展示14選>>
原画展.info>>

美術展・展示会には様々な形態のものがありますが、デジタル作画が増えているとはいえ、原画展はマンガ生原稿ならではの微細なペンタッチまで直接見られる絶好の機会です。他にもアニメ原画、企画書、デザイン準備稿、インタビュー映像など、コアファンにとってはどんな名画にも優るレアなコンテンツです。
ただ同様の美術展・展示会が乱立する現在、熱心で目の肥えたファンが満足できる貴重な資料をどう体系化して展示するか、他にない限定グッズをどれだけ用意できるか、総合的な企画力で成否が分かれる点は、いずれも共通します。

来場者はマンガやキャラクターのコアファン

ここで、2020年9月に日本全国の男女3-74歳2,000名を対象に実施した「キャラクター定量調査2020」結果から、キャラクター関連の美術展・展示会や常設ミュージアムへの来場経験を紹介します。(図表1)。

図表1.性・年齢別:キャラクター関連の美術展・展示会への来場経験
Q.  以下にあげる中で、あなたご自身の行動に当てはまるものがございますか?

「アニメやマンガ、特撮、キャラクター関連の常設ミュージアムや博物館に行ったことがある」人は、男女3-74歳全体の14.5%です。キッズから40代までの幅広い層で来場経験者が多く、特に多いのは男女20-34歳と男子ティーン、次いで男女35-49歳と女子キッズ・ティーンです。
また、「アニメやマンガ、特撮、キャラクター関連の期間限定の美術展や展示会に行ったことがある」人は、男女3-74歳全体の13.2%です。特に多いのは男女20-34歳、次いで男女ティーンと男女35-49歳で、常設展と比べて年齢層が高めです。

キャラクターのコアファンとマンガのコアファン(「キャラクターが好きなほうである」「マンガが好きなほうである」それぞれの質問に、「かなり当てはまる」と回答:男女3-74歳全体に占めるシェアはともに約15%)では、キャラクター関連の美術展・展示会や常設ミュージアムへの来場経験は3割以上に達し、ライトファン(同質問に「まあ当てはまる」と回答)以下の層を大きく引き離しています。

これらの結果から、アニメやマンガ、キャラクター関連の美術展・展示会や常設ミュージアムは、キャラクターやマンガにかなりの思い入れやこだわりを持つ層が、貴重な資料に触れることで作者や作品への知識をより体系的に習得し、理解を深めることで、さらなる愛着や消費行動につなげる場であることがわかります。

美術展・展示会をキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと

作品や作者との結びつきが強い地域を選定し、交通手段も配慮する

常設展は、作品の舞台や作者の出身地に開館することで、聖地巡礼の拠点となり、ファン同士が交流する場として機能させることができます。自治体にとっては、町おこしの目玉として地域住民の賛同を得られやすいという利点もあります。
その際には、航空、鉄道、バスなどの交通機関とセットで展開して、地域周遊しやすくする工夫が必要です。例えば、水木しげる記念館に先立つ1993年、鳥取県境港市に誕生した水木しげるロードは決して交通の便が良い場所ではありません。しかし、JR境線全ての駅に妖怪の名前を付けて、ラッピングと声優ナレーションによる「鬼太郎列車」「ねずみ男列車」「ねこ娘列車」「目玉おやじ列車」「こなきじじい列車」「砂かけばばあ列車」を運行し、旅行気分を高めています。また、遠方からも米子鬼太郎空港を使ったアクセスが可能です。

トークイベント、コラボカフェ、原画・複製画販売などとセットで展開する

期間限定の美術展・展示会は、話題性による集客の確保や、限定グッズによる売上増など、作品コンテンツにとって短期的なビジネス効果を期待しての開催が多く見受けられます。美術館や博物館にとっては、従来顧客と異なる新規開拓のきっかけ、ドアオープナーになりやすい企画として、最近増えている印象が強いです。

開催期間中に作者や声優のトークイベント、コラボカフェ、原画・複製画の注文販売などを行うことで、話題と売上の両面で盛り上げることができるでしょう。これらの施策は常設展でも同様に効果的ですが、短期間での成果が求められる場合は、より重要になってきます。なお、コアファン向けの図録や高額資料・グッズだけでなく、キャラのイラストや名シーン・名台詞を組み合わせた缶バッジ、トートバック、アクリルキーホルダー、ポストカード、ガチャガチャなど、キッズ・ティーンでも入手できる、リーズナブルで面白い限定グッズも揃えておくべきでしょう。

SNSや動画配信で、ファンへの発信・共有を図る

これまで紹介してきた他の接点と同様、距離・時間・資金面などの点で、会場に行けないファンに現地の熱気を伝えるため、公式アカウントを使っての日常的なSNS発信や、イベント時の動画配信は必ず行うべきでしょう。特に期間限定の美術展や展示会は、終了間近や終了後にファンが気付くことも多いため、機会損失を防ぐためにも積極的な情報発信やファンによる拡散が不可欠です。SNSで第三者が感動の言葉と共に発信した画像に触れれば、自分も直で見たいという欲求が高まるものです。
前述の「庵野秀明展」のように、最近は展示会場内での撮影をほぼOKにしている展示会が増えていますが、SNS発信を促す上で良い傾向だと思います。少なくとも、入り口や出口に撮影スポットを用意しておくべきでしょう。

講談社作品に関連する美術展・展示会事例

最後に、講談社の人気マンガキャラクターに関連する期間限定の展示会事例を紹介します。

TOKYO 卍 REVENGERS EXHIBITION

2022年1月29日~2月14日:東京・池袋サンシャインシティ
2022年3月19日~3月27日:大阪・南港ATC Gallery
和久井健先生の貴重な原画展示を軸に、漫画・アニメ・実写映画の作品世界を体感できる様々な展示を実施されます。11月15日からチケット抽選販売が始まり、「東京卍リベンジャーズ展 Tシャツ」が付属するグッズ付きチケットも販売されています。公式アカウント(@revengers_ex)フォロー&RTでティザービジュアルポスターが当たるキャンペーンも展開中です。

ちはやふる展 in松屋銀座

2021年12月27日~1月17日:東京・松屋銀座8階イベントスクエア
貴重な設定資料や調査メモ、本展のための描き下ろしイラストをはじめ、初公開のカラー原稿なども展示する、過去最大規模の原画展です。技巧を凝らして描かれる制作風景や、末次由紀先生が作品にかける思いを語った映像などを通して作品創作の裏側も紹介し、競技かるたの配置再現コーナーや、展覧会限定の図録やオリジナルグッズを多数取り揃えた販売コーナーなども実施されます。2022年6月に北九州、2023年1月に神戸でも開催予定です。

BLUE LOCK EXHIBITION

2021年10月16日~11月7日:タワーレコード渋谷8階
原作:金城宗幸、作画:ノ村優介両先生による週刊少年マガジン連載中、累計発行部数450万部突破の人気漫画の原画展です。100枚以上のモノクロ生原稿+カラー複製原画を展示して、記念撮影用フォトスポットを設置、オリジナルグッズ販売に加えて複製原画の受注販売も実施。会場では関連グッズの購入による特製ノベルティのプレゼントもありました。
「渋谷街頭ウォールジャック」と銘打ち、2021年10月16日~29日に「ブルーロック」キャラクター16人の私服イラストポスターなど全18種計240枚が渋谷の各所で、2021年10月18日~24日に12キャラクターの私服イラストとユニフォーム姿の巨大イラストが半蔵門線渋谷駅コンコースで掲出されました。

TeNQ 宇宙兄弟展#3

2021年11月17日~2022年2月28日:東京ドームシティ 宇宙ミュージアムTeNQ
2015年のTeNQ 1周年記念開催、2017年の「宇宙兄弟」連載10周年記念開催に続く今回は、13年ぶりにJAXAで宇宙飛行士の募集を開始する年であることにちなみ「宇宙飛行士」がテーマです。
「宇宙兄弟」に登場する多くの宇宙飛行士を通じ、マンガで描かれるエピソードと現実の世界を比較することで、「宇宙兄弟」の世界観をより深く堪能し、宇宙の魅力を体感できます。
キャラクターと同じポーズをするとその場面の吹き出しが出現するインタラクティブ展示や、最新40巻の複製原画、コミックス全巻の表紙デザインを用意し、展覧会オリジナルトートバッグがセットになった特別チケットも販売します。

今回は以上です。
緊急事態宣言が解除されて、デパートやショッピングモール、美術館・博物館の入場制限が緩和されました。インバウンドの復活にはまだ時間がかかりそうですが、観光地も賑わいを取り戻しつつあります。知的好奇心を満たしつつ、限定グッズも入手できる美術展や展示会は、身近な楽しみとしても観光の一環としても、外出の背中を一押しするきっかけとして機能するでしょう。

なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧ください。

次回は、マンガキャラクターを使ったプロモーションとして、アニメやマンガ、キャラクター関連の街頭や交通機関での広告・販促物の活用事例について語る予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら