2021.03.24

マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)| マンガキャラクター 活用の極意と最新事情<第11回>

ようやく一都三県でも緊急事態宣言が解除され、私も社会人大学生として久々の卒業式に臨むことができそうです。すっかり暖かくなって桜が開花しましたが、コロナ収束まで未だ道半ば、花見などで油断せずに日々を過ごしていかないと、と感じています。
前回は、日本国内に居住する男女3~74才2,000名を対象として昨年9月17日(水)~23日(水)に実施した定量調査結果から、キャラクターが提供する体験価値について以下の傾向をご紹介しました。

  • 青年マンガに好影響を及ぼす提供体験は、「郷愁・幼年回帰」と「元気・楽しさ・ワクワク感」、「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」
  • 同年代でも、男女間で所有したいアイテムのテイストは異なる
  • 女子マンガに好影響を及ぼす提供体験は「元気・楽しさ・ワクワク感」、少女時代の人気作品へは「郷愁・幼年回帰」も」
  • 年代が異なると、許容できるアイテムのテイストが大きく異なる

この連載が始まって間もなく一年ですが、その間にも様々な広告キャンペーンやコラボが展開されています。私も毎年選定委員を務める日本キャラクター大賞の第二次審査会が先日開催され、いかに多くのライセンサーやコンテンツホルダーが自社扱いコンテンツの支持・熱量拡大に心を砕いているか、いかにライセンシーとなる一般企業がコミュニケーションツールとして有効な人気コンテンツを探して効果的に活用することに工夫を凝らしているか、あらためて実感しました。また同時に、コンテンツごとに固有のターゲットやふさわしい世界観があって、それらを考慮しないと、キャンペーンやコラボ展開が上手く機能しないことも確認した次第です。
なお、日本キャラクター大賞のうち各部門発表は4月上旬に、そしてグランプリ発表と表彰式は東京ビッグサイトで開催される「ライセンシングジャパン」会場にて4月14日の13時からを予定しています。お楽しみに。

さて、今回から数回にわたって、マンガを使ったプロモーションに際して「ターゲットとなる支持層と設定・世界観をどう活かして、刺さるクリエイティブを作り込んでいくべきか」を、データや活用事例を示しながら解説していきます。初回は作品の「ターゲット」に関して考えてみましょう。

アニメビジネスの主流は「製作委員会」

マンガを使ったビジネス展開やプロモーションは、下図のようにさまざまな形態に拡がっています。

一般的なアニメや映画など、映像化に際しての現場では、「複数企業からの出資で作品を製作し、出資比率に応じて参加各社に利益を分配する」いわゆる製作委員会方式が、リスクヘッジなどの観点から現在主流となっています。「尖った企画が通りにくい」「利害関係の調整が大変」などのデメリットもありますが、これら製作委員会への出資企業や、劇場版映画への協賛企業が、画像をその後の商品化やSP(セールスプロモーション)キャンペーンで優先的に使用することが出来るメリットは大きいです。またTVアニメ化作品では、番組提供スポンサーになることが、アニメ画像を使う前提条件になっていることが多いです。
なお今回から解説していくマンガを使ったプロモーションは、主にSP(セールスプロモーション)キャンペーン、そしてSPキャンペーンと連動しての商品化に関する内容となります。図に記したように、現在は多くの施策が同時に行われています。ライセンサー側はブランドマネジメントのため、これらの許諾や監修に多くの労力を費やしています。

作品のポテンシャルを測る、ターゲットの「ボリューム」

世の中には、現在連載中のものから過去のヒット作、知る人ぞ知る幻の名作まで、様々なマンガ作品が溢れています。現在連載中で読者の反応が良好なメジャー作品は、早い時点でアニメ化を目指した製作委員会が立ち上がっていることが多いです。製作委員会のメリットとデメリットについては前述しましたが、委員会メンバー以外の企業が途中参加することは至って困難、という点も知っておいたほうがいいでしょう。みな自らが主導権を得るため、ポテンシャルがありそうな新人作家の青田刈りや、かつてのヒット作のリメイクを考えています。
そのような作品のアニメ、ドラマ、映画などの映像化、マンガ原作や映像化作品を用いた商品化やSPキャンペーンを検討する際には、多くの利害関係者を説得する必要が出てきます。そこで、マンガ原作の累積発行部数や、今どの程度知られているか、読まれているか(または読まれていたか)、好意を持たれているか、さらに過去に映像化された作品であれば当時の視聴率や興行収入、現在のマンガアプリやアニメ配信での接触者数・視聴回数などの定量データが、企画実現に向けてターゲットの絶対数を測る重要な材料となります。
以前は(今も一部では)雑誌に付けた読者人気投票ハガキの順位が絶対的な意味を持っていましたが、SNSが普及した今は、雑誌発売直後やアニメ・ドラマ放送中の書込み数が可視化されるため、リアルタイムでの反応を確認することも容易です。
ただ、突出した実績を示す一部作品以外は、定量データでそれ程の違いがみられないこともあります。原作マンガでそこそこの実績を残していても、スタッフ・キャストのミスマッチや力不足、タイミング、そして何と言ってもクオリティなどの要因から、映像化しても不発に終わった作品もよくあります。Twitterでの熱狂的な呟きも、実は特定層、しかも金銭の余裕がない層のノイジー・マイノリティによるものだった、という事態も起こり得ます。
これらは、ライトノベルやゲームが原作の映像化についても同様です。一般的な定量データを過度に重視せず、あくまでも勘と経験によるリスクを低減するための判断手段としての使用にとどめておくべきかもしれません。

ターゲットのデモグラフィック属性とサイコグラフィック属性

次にターゲットの属性とされる、性・年齢・職業・年収・居住地・家族構成などの「デモグラフィック属性」と、マンガ・アニメへの愛着度や出費額などの「サイコグラフィック属性」について、どう考えるべきかヒントを挙げてみましょう。
国内では少子高齢化でキッズ・ティーンの人口自体が今後も減り続け、彼らの小遣いで買える商品売上が減少する可能性は高いですが、クリスマスや誕生日のプレゼントになる高額商品や、教育に良い・身体に良いなどの大義名分がある商品では、6ポケットと呼ばれる両親・両祖父母の合計6人、さらに両親の兄弟も含めた多くの大人の財布が当てにできます。
また今の50代以下は、物心ついた頃からマンガ週刊誌やTVアニメが身近に存在していた世代です。マンガ・アニメの商品購入や関連イベント参加への抵抗が少ないこれらの大人たちに、ブームの追い風や大義名分の理論構築などで背中を一押しすれば、子や孫向けに、あるいは自身の楽しみとして、二世代・三世代での消費が見込めます。キッズ・ファミリー向け作品では、家庭の財布を握っている母親層の支持を得ることが最も重要ですが、大人のおひとり様需要も年々大きくなって、今や無視できないものとなっています。
一方、ターゲットのボリューム自体は小さくとも、マンガ・アニメ・ゲームなどに対する熱量が高い超高関与層が読者に多く含まれる作品であれば、いわゆる"沼消費"として、イベント会場やSPキャンペーンで、限定コラボなど高額商品やサービスが飛ぶように売れる現象も起こりやすくなります。最近は、出版社に限らずファンシー系や外資の大手コンテンツホルダーでも、スマホゲームアプリなどでコアファン向けに尖った内容の新作を発表することが珍しくなくなりましたが、これはこの"沼消費"を見込んでの、海外向けも視野に置いた戦略だと思われます。

図表2は、講談社を中心に主要マンガ各作品のコアファン(作品名を呈示して4段階評価で好意度を質問しところ、TOPの「好き」と答えた人)について、それぞれのデモグラフィック属性を示したバブルチャートです。

図表2. 主要マンガ作品コアファンの女性比率×平均年齢×コアファンボリュームによるバブルチャート

コアファンに占める女性の比率をX軸に、コアファンの平均年齢をY軸にして、コアファンのボリューム(出現率)を個々のマンガ作品の円の大きさで表しています。
少年マンガは左下ゾーンに、女子マンガは右下ゾーンにそれぞれ多く含まれるのに対し、青年マンガはドラマ化で女子に多くのコアファンが増えることや、長期連載作品はコアファンも一緒に年を重ねていくことがわかります。なお、少年マンガでもかつての人気作品や長期連載作品は、青年マンガ同様にコアファンの年齢が高くなっています。

マンガを使ったプロモーションを考える際には、これらのデータをあくまでも参考材料にしながら、男性向けか女性向けか、キッズ、若者、大人、どの年代向けかを検討していくべきでしょう。

サイコグラフィック属性から見えてきた2つの方向性

図表3は、同じく主要マンガ各作品のコアファンについて、それぞれのサイコグラフィック属性に起因するコンテンツ関連出費額を示したバブルチャートです。コアファンのマンガ・コミックス関連出費月額をX軸に、PC・ケータイ有料配信出費月額をY軸にして、コアファンのボリューム(出現率)を個々のマンガ作品の円の大きさで表しています。ここでのX軸、Y軸の出費月額は、特定作品に関するものではなく、各ジャンル全体に対する出費であり、各作品のコアファンは重複しているので、その点を注意してご覧ください。

図表3. 主要マンガ作品コアファンのマンガ・コミックス関連出費月額×PC・ケータイ有料配信出費月額×コアファンボリュームによるバブルチャート

各作品とも、コアファンのマンガ・コミックス関連出費月額がいずれも調査対象者全体の平均額を上回る中、キッズ・ティーンも含めた幅広い層でコアファンのボリュームが大きいメジャー作品は、平均額を少し上回る程度にとどまります。これらのメジャー作品は、PC・ケータイ有料配信の出費月額では平均額を下回ることから、コンテンツ全般に関して広く浅い消費をするファンが多くを占めていると言えます。
一方、右上ゾーンのコアファンボリュームが小さいニッチな作品は、マンガ・コミックス関連、PC・ケータイ有料配信ともに出費月額が極めて多いことから、熱量が高く、実際の消費活動も活発なファンが多くを占めていると言えそうです。
以上の結果から考えると、メジャー作品では、広く浅い層向けに対して流行っている感を創出することが重要で、例えばリーズナブルな価格のコラボグッズや、多くの応募者に参加賞としてシールやデジタル壁紙など、お手頃な景品が当たるキャンペーンを行うこと、その際にはお決まりの版権イラストだけでなく、描き下ろしのデザインや脇役キャラも起用することで目新しさを打ち出す、などの工夫が有効です。
そしてニッチな作品では、尖ったコアファンを満足させるため、高額コラボ商品を期間・個数限定で用意して1to1(あなただけ)感を創出することや、SNSの拡散協力を促す施策など、好きな作品の力になっている実感を持たせつつ、コアファンの手で新たなファンを増やす機会を用意すること、などがポイントになってきます。

今回は以上です。次回は、マンガを使ったプロモーションに際して必要なことの第二弾として、作品の魅力である設定や世界観をいかに尊重して、SPキャンペーンやコラボグッズ、イベントを展開していくべきかについて語る予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガキャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガキャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。

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