2021.02.24

(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか| マンガキャラクター 活用の極意と最新事情<第10回>

緊急事態宣言が続く中、入試シーズンが始まっています。例年通りというわけにはいかないでしょうが、社会人大学院生の一員として、卒業式が無事に行われることを心から願います。

さて、前回は、日本国内に居住する男女3~74才2,000名を対象として昨年9月17日(水)~23日(水)に実施した定量調査結果から「キャラクターが提供する体験価値」について、以下の傾向をご紹介しました。

  • 好意度も関連商品所有意向も高いマンガキャラクターは、ファン層の拡大および継続して人気が保たれる契機として「アニメ化」が機能している
  • マンガキャラクターへの「好意度」に特に影響を及ぼす提供体験は、「元気・楽しさ・ワクワク感」
  • 少年マンガに好影響を及ぼす提供体験は、「非日常感」と「元気・楽しさ・ワクワク感」

今回は青年マンガと女子マンガを中心に、キャラクターの好意度や関連商品所有意向を高めるのに有効な因子が何なのかを明らかにする試みです。
前回に続く形で、多変量解析の一手法である共分散構造分析・構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)と呼ばれる手法を用い、「キャラクターの提供体験と好意度・商品所有意向の因果関係」についてご紹介します。なお、因子分析や重回帰分析などの機能を併せ持つ統合的な統計手法である構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling:SEM)で示した各指標の見方については、前回の解説をご覧ください。

青年マンガに好影響を及ぼす提供体験

さっそく、個別マンガキャラクターのSEM結果を紹介します。まずは青年マンガから、「クッキングパパ」と「はたらく細胞」です。

図表1. 青年マンガ作品の提供体験と好意度、関連商品所有意向:因果モデル

《クッキングパパ》

《はたらく細胞》

「クッキングパパ」では、「好意度」に影響を及ぼす提供体験は「郷愁・幼年回帰」です。1985年から連載され、1992年から1995年にはテレビアニメ化された長期作品だけあってか、第6回で紹介した通り、男性20-49才を中心とした懐かしさや子ども時代の思い出に浸るファンが多いことがわかります。
また「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験は「元気・楽しさ・ワクワク感」です。「好意度」「関連商品所有意向」とも「非日常感」からのパス(標準化推定値)がマイナスになっていることと考え合わせると、日常の出来事に身近な材料を使った料理を絡める展開にワクワクするファンが多いことを窺わせる結果です。
これらの結果から、電子書籍を含めたレシピ本やクックパッドとのコラボには、ネット時代ならではの更なる需要があると考えられます。

「はたらく細胞」では、「好意度」に影響を及ぼす提供体験が「元気・楽しさ・ワクワク感」、そして「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」です。また「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験は「癒し・安らぎ・収集」です。
固有の特徴を持つ多様な細胞を擬人化したキャラクターたちが毎回人間の体内で起こる事件に立ち向かう展開へのワクワク感や、読んで元気になる点が、男女中学生から10代と男性20-34才を中心としたファンの支持ポイントであることが窺えます。

同年代でも、男女間で所有したいアイテムのテイストは異なる

ここで、「はたらく細胞」のメイン支持層である男女中学生から34才を男女別に分けて、支持構造の違いをみてみました。

図表2. 男女別にみた「はたらく細胞」の提供体験と好意度、関連商品所有意向:因果モデル

【男子中学生~34才】


【女子中学生~34才】


男女ともに「好意度」および「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験が「元気・楽しさ・ワクワク感」であることは共通しており、特に女性でここのパス(標準化推定値)の数値が大きいことから、やはり同作品がこの点で支持されていることがわかります。
また、女性では「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験として「癒し・安らぎ・収集」も大きくプラスなのに対して、男性では「癒し・安らぎ・収集」がマイナスになり、逆に「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」は男性でプラス、女性でマイナスになるなど、など、性別による違いもみられます。
これらの結果から、グッズや二次創作作品を展開するにあたって、男性は好きなキャラが身にまとっている帽子やシャツ、持ち物などなりきり感を楽しめるアイテム、女性はキャラを2-3頭身にデフォルメしたかわいいイラストも併用したバッジやキーホルダーなど多彩なキャラをコレクションできるアイテムへの反応がより良好になるのでは、と推察されます。

女子マンガに好影響を及ぼす提供体験

続いて、女子マンガから、「東京タラレバ娘」「ちはやふる」「美少女戦士セーラームーン」です(図表3)。
「東京タラレバ娘」「ちはやふる」ともに、「好意度」に影響を及ぼす提供体験は「元気・楽しさ・ワクワク感」で、「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験は「癒し・安らぎ・収集」です。
細かくみると、「東京タラレバ娘」の「元気・楽しさ・ワクワク感」は「勇気がわく」などで構成されており、登場キャラたちの行動に勇気をもらっているファンの存在を窺わせます。また「ちはやふる」の「元気・楽しさ・ワクワク感」は、「元気になれる」「ワクワク・ドキドキする」などで構成されており、こちらはワクワクしながら競技かるたのストーリー展開を楽しみにしているファンの様子が窺えます。

図表3. 女子マンガ作品の提供体験と好意度、関連商品所有意向:因果モデル

《東京タラレバ娘》

《ちはやふる》

《美少女戦士セーラームーン》

「美少女戦士セーラームーン」では、「好意度」および「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験が「郷愁・幼年回帰」と「元気・楽しさ・ワクワク感」です。また、「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験として、「癒し・安らぎ・収集」も有意になっています。

年代が異なると、許容できるアイテムのテイストが大きく異なる

ここで、「美少女戦士セーラームーン」のメイン支持層である女性を、今のキッズ層と連載当時キッズだった年代層に分けて、支持構造の違いをみてみました。
女子園児・小学校低学年では、「好意度」および「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験が「元気・楽しさ・ワクワク感」「癒し・安らぎ・収集」で、その一方「郷愁・幼年回帰」からのパスはマイナスとなっている点が共通します。
ここでの「癒し・安らぎ・収集」は、「身の回りにつけたり飾りたくなる」「ほっとする」などで構成されており、女子キッズ層の所有意向を喚起するグッズの方向性を示す結果といえます。
女性20-34才(F1)では、「好意度」に影響を及ぼす提供体験が「郷愁・幼年回帰」です。また、「関連商品所有意向」に影響を及ぼす提供体験は、「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」と「癒し・安らぎ・収集」です。
ここでの「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」は「夢や希望を感じられる」「みんながオシャレと思ってくれる」「しぐさやセリフを真似したくなる」、「癒し・安らぎ・収集」は「癒される」などで構成されています。
これらの結果から、この年代が少女時代にハマった美しい思い出を再現するような、ロマンチックで大人にとってもお洒落、癒し要素を全面に打ち出したコンテンツやグッズ、コラボが効果的だと考えられます。
なお、「元気・楽しさ・ワクワク感」を打ち出すことは、この年代では子どもっぽさにつながるためか「関連商品所有意向」を高める上でマイナスに働くようで、その点は要注意です。

図表4. 年代別にみた「美少女戦士セーラームーン」の提供体験と好意度、関連商品所有意向:因果モデル

【女子園児・小学校低学年】

【女性20-34才(F1)】

以上のように、同じマンガキャラクターであっても、性別や年代で支持ポイントが異なるため、、それらを把握してコンテンツやグッズ、コラボ展開を変えることが、好意度や関連商品所有意向を高める上で重要と思われます。

最後に、日本映画の歴代興行収入記録を更新中で、続編テレビアニメ化が先日発表された「鬼滅の刃」の、昨年9月時点の性・年代別結果についてもご紹介します。
まず、男子園児・小学校低学年で、「好意度」に影響を及ぼす提供体験が「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」である点が目を引きます。この年代は、一般的にスーパー戦隊や仮面ライダーなどでごっこ遊びをしますが、それが今は「鬼滅の刃」で描かれる大正時代の鬼との対決を模したチャンバラ遊びになったわけで、この先祖返りとも呼ぶべき現象は極めて興味深いです。
同年代の女子園児・小学校低学年は、「癒し・安らぎ・収集」が「好意度」および「関連商品所有意向」に及ぼす影響が大きくなっています。彼女たちは登場キャラの人間関係に癒され、ほっとしているようで、性別による違いが如実です。
男性20-34才(M1)では、「非日常感」が「好意度」および「関連商品所有意向」に及ぼす影響が大きく、今どきの若者にも新鮮な、非日常感溢れるストーリーに引き込まれている様子が窺えます。
同年代の女性20-34才(F1)では、「癒し・安らぎ・収集」と「非日常感」が「好意度」に、「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」が「関連商品所有意向」に及ぼす影響が大きくなっています。一見わかりにくい結果ですが、ストーリーに引き込まれるだけでなく、おそらく今の爆発的なブームに乗って、友人間やSNSで登場キャラへの愛着やなりきり体験をアピールするためにグッズ収集を楽しんでいる人が多いのでは、と思われます。

図表5. 性・年代別にみた「鬼滅の刃」の提供体験と好意度、関連商品所有意向:因果モデル

【男子園児・小学校低学年】

【女子園児・小学校低学年】

【男性20-34才(M1)】

【女性20-34才(F1)】

今回は以上です。SEM(共分散構造分析)に慣れていない方にとって、ややとっつきにくい内容だったかと思いますが、こんな分析手法や解釈もあるということで、あえて二回連続でご紹介しました。
次回からは、これまでの分析結果を踏まえながら、マンガを使って実際の企画や制作を進める場合の成功のポイント、失敗しやすい進め方などについて語っていく予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガキャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガキャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。

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