2022.01.12

#4 社内外の強みを活かしたチームビルディング ― 持続性が高く強いマーケティングチームを作る方法|マーケティングを成功させる チームビルディングの強化書|マーケティング超入門

本連載では、成果を持続的に生み出すマーケティング・チームを組むことを目的に、企業のインハウスマーケターが企業または個人事業主に一部業務をアウトソーシングするときの注意点やケーススタディを紹介します。今回のテーマは、マーケティングのプロと長期的に良好な取引をするために意識したいポイントです。外部マーケティング企業の見極め方や、プロジェクト進行時の姿勢など、持続的なチームビルディングに必要な心構えを解説します。

マーケティング企業に相談するときの心構え

広告運用やサイト育成などの中長期的なプロジェクトをマーケティングの専門企業に相談するとき、おそらく多くの企業は「プロフェッショナルに任せれば飛躍的な成果が上がる」と期待するはずです。もちろん、プロフェッショナルだからこそできることはあります。一方で、「プロフェッショナルならすぐに成果を出せる」、あるいは「何もしなくても成果が出る」という認識は誤りです。

戦略立案から施策の実施、そして効果検証を経て数字の変化を期待できる段階に至るまでは、最低でも半年は見なければなりません。プロジェクトの内容によっては、さらに多くの時間がかかることもあります。

デジタルマーケティングに分類される施策のほとんどは、データ分析を通じた施策改善を繰り返しながら内容の精度を徐々に高めていくため、長期的な運用によってしか得られない成果もあります。短期的な数字にフォーカスして施策の良し悪しを判断することはおすすめしません。

外部マーケティング企業に相談をするときには、あらゆる観点から「相談する意味」を検討してほしいと思います。マーケティング企業と連携するメリットは、数字の向上だけではありません。社内マーケティング部の業務負担を軽減すれば、そこから新たなアイデアが生まれてくるかもしれません。あるいは、専門会社ならではの知見やマーケティングトレンドを取り入れることで、適切な施策を幅広く模索することもできるでしょう。

これらのメリットと予算を並べ、外部マーケティング企業の力が必要かどうか、冷静に判断してみてください。やみくもに成果を求めて相談してしまうと、外部マーケティング企業も本来の力を発揮することができません。

そして、相談することを決めたならば、社内外のメンバーが一丸となってマーケティングチームを築くことを意識し、丸ごと任せるのではなく共に成果を出すよう心がけましょう。

自社にフィットしたマーケティング企業を見極める方法

一言で「マーケティング企業」といっても、得意とする領域や対応範囲は企業によって大きく異なります。その中から自社の相談にフィットした企業を探すためには、いくつかのポイントをもとに相性を見極める必要があります。

事前にマーケティング企業の強みを分析しよう

まず、各マーケティング企業の強みや対応分野を比較してみましょう。特に注目したいポイントは、下記の3点です。

  1. BtoCとBtoBどちらの企業との実績が多いか
  2. 得意とする領域はどこか
  3. どのフェーズに対応可能か

ビジネスモデルがBtoBかBtoCかで、デジタルマーケティングの戦略の立て方は大きく異なります。まずはこの二種類のいずれに強いマーケティング企業か判断し、そのうえで自社が相談したい内容と似た実績があるかどうかを確認してみましょう。

得意とする領域はケーススタディを見ていればわかるはずです。ECサイト向けの広告運用、SEOコンテンツのディレクション、動画コンテンツ作成......具体的な実施内容を見てみると、マーケティング企業各社の独自性が見えてきます。

そして最後に、それらの成果物のために戦略構築の段階から入れるのか、あるいは制作に特化しているのか、運用面に強いのかなど、どのフェーズに対応できるのかも確認してみましょう。

この3ステップでマーケティング企業の強みを分析することで、自社が相談したい内容に合った企業をある程度絞ることができるはずです。ここで挙げたポイントが希望と異なる企業に相談してしまうと、受注側の得意分野に沿って営業や商談が進み、本来の相談と施策がずれてしまうことも珍しくありません。

企業の本質を見極めるため、他社の声を頼ろう

長期的な取引が可能かどうか判断するために一番役立つのは、実際にその企業と長期的な取引を続けている得意先との関係を調べることです。多くのマーケティング企業はブランド力の高い企業との取引実績をコーポレートサイトに並べていますが、重要なのはブランドよりもどれだけ深い付き合いをしているかです。

もしも取引実績のある企業から情報を得られるコネクションがあればぜひ利用したいですし、具体的な施策について触れられているケーススタディを探してみるのもおすすめです。細かなリサーチを経て企業文化や担当者の人柄などを把握できれば、より自社とのマッチ率が高いマーケティング企業を見つけられるでしょう。

また、こちらがいくらチームビルディングを目ざしても、マーケティング企業側が利益を優先した提案や商談を重ねることで破談してしまうケースは、残念ながら珍しくありません。これまでマーケティング企業とやりとりしたことがある場合、心証を悪くした経験がある方も多いでしょう。この点については、過去実績を参照したり実際に取引した企業の声を聞いたりして、できる限り評価の高いマーケティング企業を地道に探すほか方法がありません。

ひとつ実践できることとして、マーケター向けのセミナーや交流会に定期的に参加し、企業マーケター同士の横のつながりを拡げることが挙げられます。ある程度カジュアルに話せるマーケター・コミュニティの口コミは、心強い道標になるはずです。

持続性の高いマーケティングチームを築くためのポイント

次に、持続性の高いマーケティングチームを築くポイントを解説します。単発的なプロジェクトにとどまらないチームビルディングのためには、発注する企業とマーケティング企業の双方の歩み寄りや工夫が必要です。ここでは、発注する企業側の視点に立ったポイントを挙げてみます。

ポイント1: 内輪の壁を取り払う

社内でマーケティング業務を完結させて久しい会社は、どうしても閉鎖的なコミュニケーションになりがちです。社内ならば明言せずとも伝わる内容でも、外部マーケティング企業に依頼するならば、改めて逐一伝えなければなりません。チームを作る段階になったら、透明性の高い情報共有を徹底しましょう。

たとえば、決済権をもつメンバーが誰なのか、業界の暗黙のルールはあるのか、推奨される姿勢はどのようなものかなどを事前に伝えておくと、外部マーケティング企業の担当者は動きやすいはずです。また、伝え方も「わかりやすさ」を意識しましょう。暗黙知を他者向けに変換できれば、自社の背景や課題を整理することにもつながるので、社内にもポジティブな効果をもたらすことが期待できます。

さらに、プロジェクト進行中に発生したマーケティング担当者の異動や社内システム移行などの情報は、詳細かつ迅速に伝えましょう。業務に関するアップデート情報が共有されないと、外部マーケティング企業の担当者は適切な対処ができないため、取引上のトラブルにつながるケースもあります。

無意識に築かれた内輪の壁を取り払うことは、透明性の高いチーム運営の基本です。マーケティング部門にとって良い機会と捉えて、情報共有の体制やルールを整えてください。

ポイント2:マーケティングのプロの力を最大限に活用する

次に、これからチームの一員となるマーケティング企業の社員は、全員マーケティングのプロであるということを忘れないことが大事です。デジタルマーケティングの手段の多くは、それぞれが効率よく結びつくことでシナジー効果を生み出します。多角的に課題を分析してもらえば、そんなシナジー効果を知るプロならではの改善策が見つかる可能性があります。

何らかの運用をマーケティングのプロに任せると、運用の工程や順序が体系化されます。それをもとにしたガイドライン作成を相談すれば、自社メンバーも効率的な運用を実現できる足がかりができるでしょう。また、最新のマーケティングトレンドやツールの情報などについては、マーケティングのプロのほうが当然よく知っています。最新情報をうまく自社のマーケティングに活かすためには、日ごろからコミュニケーションを取り、キャッチアップする姿勢を示すことが大切です。

ただしはじめに相談した業務以上の何かを頼む場合は、当然そこに追加予算が必要となります。しかし予算を絞ることに気を取られ、プロのスキルに制限をかけてしまうことは望ましくありません。気軽に相談できる人間関係を育み、予算が動く前の段階で細かな条件を確認できるようにしておくと、成果につながる提案が出やすいはずです。

ポイント3:課題設定がズレないよう議論を重ねる

施策についてチーム内で検討する際は、課題設定について検討する時間を十分に取りましょう。

外部マーケティング企業に相談すれば、当然その成果に対してはシビアになるものです。ただ、期待通りの成果がもたらされなかった場合、その原因を相手の力量にあると判断する前に、課題設定について再考してほしいのです。

マーケティング施策のほとんどは、正確に課題を捉えていさえすれば、ある程度の成果が出ます。言い換えれば、正しい課題設定こそがマーケティングにおける最大の難所でもあるわけです。

正しく課題を設定するためには、企業や業界、市場に対する深い理解と、データを正しく読み取るスキル、そして優れた戦略観が必要です。これらすべてを社内の担当者がもっているなら良いのですが、いずれかが欠けているからこそ成果が上がらず困っているのだと思います。外部マーケティング企業を活かそうとしても、この課題設定の検討段階をおろそかにしたりお任せにしたりすれば、結局同じ結果が待っているでしょう。

マーケティングのプロは、データの読み取りや扱い、戦略についての知見は豊かですが、業界や市場への理解は発注する企業側のほうが深いはずです。互いの情報を開示しあい、課題設定に向き合うことが、成功の鍵を握ります。

長期的なパートナーシップが成果につながりやすい理由

外部マーケティング企業を頼りにするならば、基本的には長期的かつ持続性の高いチームビルディングを意識したほうが成果に結びつきます。その理由について具体的に解説します。

初期投資は少ないほうがいい

マーケティング企業への最初の依頼時には、初期費用がかかります。案件成約までの打ち合わせやリサーチなどに該当するこの初期費用では、多くの場合少額とは言えない見積もりが出てくるはずです。必要な投資ではありますが、何度も依頼先を替えればそのたびに初期費用を負担しなければなりません。

それだけではありません。初めて連携する相手には、業界やビジネスモデルの解説や、自社のマーケティング組織構成についての共有をしなければなりません。他にも契約などの労務関連業務や、コミュニケーションツールを連携するためのアカウント発行など、実際の業務を始める前に必要な準備は山ほどあります。これらにリソースを割く回数を最小限にしたほうが効率的であることは、言うまでもありません。

担当者同士の信頼が醸成されればアクシデントが減る

社内外のメンバーが集うプロジェクトでは、メンバー同士のあうんの呼吸が成果を左右することが多いものです。ことマーケティングについては、施策に関わるディスカッションや効果測定など、信頼を前提として率直な意見を交わし合わなければならない場面が多々あります。最大限の力を発揮するチームビルディングには相応の時間がかかるため、ある程度の期間は同じメンバーで課題に向き合うほうが効果的です。

互いの理解が深まってくると、予想外のアクシデントも減ってきます。安心や安全性を担保し、社内外のメンバー同士が情報を開示し合えるチームこそ、成果を導き出すチームといえるでしょう。

より深い提案、解像度の高い施策が生まれる

長期的な取引を続けると、お互いの業界や企業への理解が深まります。類型化されたサービス提供から始まったマーケティング企業でも、試行錯誤と改善を繰り返しコミュニケーションを重ねれば、やがて最適なプランの提案につながることでしょう。

デジタルマーケティング領域におけるOne to Oneコミュニケーションの重要性が注目される昨今、運用の最適解は流動的かつ複雑化しています。プロのマーケティング企業であっても、正答を見つけることは容易ではありません。マーケティング企業がより解像度の高い施策を模索するためには、長期的な付き合いが必要不可欠です。

チームをともに育めるマーケティング企業を探し、持続的な成果向上を目指そう

業態や業界を問わず、成長を目指す企業にとってマーケティングは極めて重要な分野です。施策を強化したり、業務リソースを分散したりするために、プロの力が必要になるときは遅かれ早かれやってくるでしょう。

そこでより良い成果を求めるのであれば、繰り返しになりますが、信頼できるマーケティング企業を見極め、長期的にチームを築き上げていくことが大切です。今回解説した内容を参考にしつつ、自社にとって適切なパートナーを探してみてください。

筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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