2021.09.22

接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第17回>

すっかり秋めいてきました。東京オリンピック・パラリンピックの開催による功罪がきちんと検証されないまま、緊急事態宣言は延長に次ぐ延長、そしていまメディアは政局報道一色です。この数ヵ月で様々な趨勢が明確になるかと思いますが、幾多の我慢を強いられている皆さん、特に運動会や文化祭、修学旅行などの大切な行事がいずれも中止・延期になっている学生たちにとって、少しでも希望が見える状況が巡ってくることを切に願うばかりです。
さて、先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、「コラボカフェ」について以下の内容をまとめました。

  • 作品の世界観や推しキャラを体験しながら飲食できる非日常空間
  • コラボカフェの主な客層はコアファンの若者
  • キャラクターとの接点としてコラボカフェを使う場合に留意すべきポイント
  • 講談社の最近のコラボカフェ事例

今回は、マンガを使ったプロモーションの接点として最近話題になることが多い「2.5次元舞台」について解説します。

キャラになりきる若手俳優とファンとの共創で成立する2.5次元舞台

2.5次元ミュージカル協会によると、2.5次元ミュージカルとは2次元のマンガ・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称のことで、音楽・歌を伴わない作品も含めて2.5次元舞台と呼ばれています。
ぴあ総研「2.5次元ミュージカル市場動向」によると、2018年の2.5次元ミュージカルはタイトル数197本、動員数278万人、市場規模推計は前年比44.9%増の226億円と、急成長を続けています。
横浜国立大学の須川亜紀子教授は、著書「2.5次元文化論」で、次の5つの要素を持つコンテンツが2.5次元舞台だと定義づけています。

  • マンガ、アニメ、ゲームを原作、原案に持つ舞台作品(台詞劇、音楽劇、その他)。
  • 特にキャスト自身よりも、二次元キャラクターのビジュアル・内面・世界観の、三次元での再現性が前景化している。
  • 俳優たちが、俳優業以外にアイドル活動に類似する活動やSNS発信を活発に行っている。
  • マーチャンダイズの重要性が相対的に高い。
  • ファンの参加・関与の重要性が高い。

まず1970年代後半の第二次アニメブームで声優が注目されて、ほぼ同時期の1974年に初演の宝塚歌劇団「ベルサイユのばら」、さらに1991年にSMAPが演じた「聖闘士星矢」、主役キャストを交代しながら1993年-2005年まで続いたバンダイミュージカル「美少女戦士セーラームーン」、1997年-2006年の「サクラ大戦」歌謡ショウシリーズなどが人気を集めました。
そして、NAS(ADKグループ)およびネルケプランニングが2003年に始めた『テニミュ』の愛称で知られるミュージカル「テニスの王子様」によって、今に至る2.5次元舞台のフォーマットが確立され、その後もブームを牽引し続けています。プロジェクションマッピングを駆使して人気の「ハイキュー!!」演出を手掛けたウォーリー木下さんが、東京パラリンピック閉会式演出で幅広い層に注目されたのは、記憶に新しいところです。

2.5次元舞台の主な客層はマンガ原作のコアファン

ここで、2020年9月に日本全国の男女3-74歳2,000名を対象に実施した「キャラクター定量調査2020」結果から、2.5次元舞台・ミュージカルの観劇経験を紹介します。(図表1)。

図表1.性・年齢別:2.5次元舞台観劇経験

Q.  以下にあげる中で、あなたご自身の行動に当てはまるものがありますか?

性・年齢別:2.5次元舞台観劇経験

「俳優・声優がキャラクターを演じる2.5次元舞台・ミュージカル」の観劇経験者は男女3-74歳全体の6.6%で、まだ伸びしろを感じさせるスコアですが、特に多いのは男子ティーンとM1(男20-34歳)です。
一般的にSNSなどで女性ファンの声が多くみられるため少々意外な結果ですが、何度も舞台公演に行って熱心な書き込みを連発するコアファンが存在するため、定量調査で確認できるユニークユーザー数とSNS発信量は必ずしも一致しないものと考えられます。

続いて、どんな人たちが2.5次元舞台を観るのか、キャラクター全般への好意度とマンガ全般への好意度で分類したファンタイプ別で、「2.5次元舞台・ミュージカル」の観劇経験を比較しました(図表2)。

図表2.キャラクターファン・マンガファンタイプ別:2.5次元舞台観劇経験

キャラクターファン・マンガファンタイプ別:2.5次元舞台観劇経験

2.5次元舞台の観劇経験は、キャラクターのコアファン(「キャラクターが好きなほうである」に「かなり当てはまる」と回答した人。男女3-74歳全体に占めるシェアは15%)で1割未満なのに対し、マンガのコアファン(「マンガが好きなほうである」に「かなり当てはまる」と回答した人。男女3-74歳全体に占めるシェアは15%)では2割近くに達するなど、かなりの開きがみられます。
この結果から、2.5次元舞台は、魅力的な世界観・設定を備えたストーリーやキャラクターが用意された、マンガ原作にかなりの思い入れやこだわりを持つ層が参加する「熱気に溢れた空間」であることがわかります。

2.5次元舞台をキャラクターの接点として使う際に留意すべきこと

魅力的なキャラと熱心なファンがいるコンテンツを選定する

2.5次元舞台は、観客にとっては好きなキャラクターが目の前に実在することで、その世界に入ることができる夢の舞台です。そしてコンテンツホルダーにとっては、アニメや映画よりも製作期間や予算がかからない施策として重宝される手段でもあります。そこで、ストーリー性があって、個性的で魅力的なキャラクターが多数出てくる原作の選定がまず重要になります。
最近は2.5次元舞台が多数制作上演されているため、深夜アニメ同様に原作の奪い合いが激化しています。また、旬の人気マンガをアニメ化する際に設立された製作委員会が、ファンを巻き込むための水平展開として、最初から舞台化を前提に準備していることも多いです。今はそれらのメジャー作品以外へとパイが広がっており、スマホゲームアプリ作品や、親世代が現役だった時代に人気だった作品を舞台化するケースもみられます。

人気キャラの外見・内面をキャストで忠実に再現する

舞台に登壇するキャストには、一般的な知名度や人気よりも、顔や体型、髪型、身長、服装はもちろん、髪や眼の色、決めセリフなどで演じるキャラクターを忠実に再現することが求められます。
ただし演技の完璧さばかりを見せつけるのではなく、生身の人間が頑張って推しキャラを再現している未熟さや虚構性も垣間見せるなど、コアファンが参加・関与できる共創の余地を残すことも大切です。
「色があまりついていない」「色を感じさせない」俳優たちが成長する過程を見守ることがファンの矜持であり、これらは宝塚歌劇団やジャニーズ事務所メンバーの舞台と共通する傾向です。
なお、作品間で奪い合いになる程の人気を集めるキャストも存在しており、次のステップとして特撮ドラマのヒーロー役や恋愛ドラマの相手役などへ活躍の場を広げていくケースも数多く見られます。

劇場の興奮を共有・追体験し応援の証となるグッズを作る

観劇の記念となり、推しメンバーへの応援の証となるような劇場限定グッズを用意することで、マネタイズを図ります。缶バッジやアクリルキーホルダー、カード、タオル、ペンライトなどに加え、個人ブロマイドやサインもグッズ化することで、キャスト自体に収益が支払われる仕組みも有効です。

配信のメリットを最大限に活用する

コロナ禍で劇場の収容人数が限られ、県を跨いでの移動が自粛要請される昨今の情勢から、リアルタイムとアーカイブでの配信を活用して直接の観劇者以外にも観てもらう機会を設けないと、公演自体が成立しない状況になっています。
配信には、時間や距離の制約が少ないというメリットもあります。配信メインで考えた場合、交通の便や収容人数の多さで劇場を確保することにこだわらず、空いた客席部分も芝居の空間として活用したり、カメラワークに凝ったりするなど、発想の転換が必要です。

公演前後のSNSや動画配信でファンへの発信・共有を図る

劇場のホワイエ(出入り口と客席の間のホール)などで、ファンとキャストが直接触れ合う機会も設けにくくなっています。その状況をカバーするため、キャストによるオフショットのSNS発信や、キャスト間トーク動画を生配信することで、公演の認知を広げファンとの距離を縮めたいところです。
配信中は、SHOWROOMや17、インスタライブなど配信アプリのコメント書き込み機能や有料ギフト投げ込み機能を使って、個々のファンの声援や貢献度合いを可視化したり、ネットサイン会でキャストとファンの交流を深めるなどの工夫も効果的でしょう。

講談社の最近の2.5次元舞台事例

最後に、講談社の人気マンガキャラクターを使った2.5次元舞台事例を紹介します。

リアルファイティング「はじめの一歩」The Glorious Stage!!

2020年1月31日~2月9日
上演劇場:品川プリンスホテル ステラボール

原作マンガは1989年から週刊少年マガジンで連載中、単行本の累計発行部数9,600万部を超え(2019年8月時点)、現在131巻まで刊行されています。2000年以降何度もTVアニメ化され、当公演の演出・脚本は、アニメで幕之内一歩の声を務めた喜安浩平さんが担当しました。公演後はHulu 、dアニメストア、Amazon prime、CS衛星劇場などで配信・放送されています。
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舞台「炎炎ノ消防隊」

2020年7月31日~8月2日、8月7日~9日
上演劇場:大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、神奈川 KT Zepp Yokohama

原作マンガは2015年から週刊少年マガジンで連載中、単行本の累計発行部数1,650万部を超え(2021年8月時点)、現在30巻まで刊行されています。2019年から2期にわたってTVアニメ化されました。大千秋楽公演がDMM.comで8月16日まで配信され、2020年12月にBD・DVD発売、2021年9月にdTVで配信開始されました。2022年1月に続編の上演が決定しています。
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舞台「賭博黙示録カイジ」

2020年12月4日~6日、10日~13日
上演劇場:京都 京都劇場、東京 ヒューリックホール東京

原作マンガは1996年から週刊ヤングマガジンで連載、TVアニメ・ゲーム・パチスロ機・実写映画など複数メディアで展開されています。12月4日(京都初日)と12月13日(東京千秋楽)がDMM.comでライブ配信、2021年4月にBD・DVDが発売されました。
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舞台「東京リベンジャーズ」

2021年8月6日~22日
上演劇場:大阪 COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール、東京 日本青年館ホール

原作マンガは2017年から週刊少年マガジンで連載中。単行本の累計発行部数3,500万部を超え(2021年8月時点)、現在23巻まで刊行されています。8月14日、22日の公演はライブ配信も実施、公演終了後にキャストによる約10分のアフターイベントも開催されました。
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今回は以上です。
2020年以降のコロナ禍で、2.5次元舞台も中止・延期が相次いでいます。一方、オンライン配信やBD・DVD発売、CS局放送など、劇場から離れざるを得なくなったファンも楽しめる形態が一般的になりつつあります。苦境は続きますが、臨機応変な対応によって、意外なビジネスチャンスが出てくるかもしれません。

次回は、マンガキャラクターを使ったプロモーションとして、最近すっかり定着した、アニメやマンガの舞台となった場所や地域を巡る「聖地巡礼の活用事例」について語る予定です。どうぞお楽しみに。
なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、是非ご覧ください。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。

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