2022.05.11

接点別にみたマンガ活用プロモーション(スポーツコラボ編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第24回>

移動および飲酒に関する自粛要請も制限もない三年ぶりのゴールデンウィークは、長らく閑古鳥が鳴いていた観光地の盛況と久方ぶりの交通大渋滞をもたらしました。今もwithコロナの日々は続いていますし、ロシア・ウクライナ情勢も不穏なままで、以前の状況に完全復活することは難しいかもしれませんが、こうやって少しずつ日常を元気にしていきたいものです。

先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、マンガ、キャラクター関連動画配信サービス活用の後編として、以下の内容をまとめました。

  • 動画配信サービスをキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと(続き)
  • コスパやハンドリングしやすさを考えてストリーミング提供社を選定する
  • YouTuber やライバーを活用する際にはリスクマネジメントも必要
  • 講談社作品に関連する動画配信サービス活用事例

今回は、プロ野球やJリーグなどをはじめとした、スポーツ競技とのコラボによる活用効果と事例について紹介します。

スポーツを舞台とした作品が王道であり続ける理由

ロサンゼルス・エンゼルス大谷翔平選手のメジャーリーグでの大活躍や、千葉ロッテマリーンズ佐々木朗希選手の完全試合達成など、現実がマンガを上回る劇的展開を見せる時代になりましたが、プロや高校を舞台にした競技スポーツ系マンガは今も王道で、これまで多くの名作が誕生し続けてきました。

特に団体競技系では、主人公が所属するチームの先輩・後輩、ライバルチームの強豪たちなど、見た目や性格が個性的でインパクト充分なキャラクターを多数投入できます。そして、つらい練習風景や緊迫感のある試合展開、絶妙なタイミングで挿入される回想シーンなどの描写を見せることで、読者や視聴者が登場人物たちに共感や尊敬などの感情を抱きやすくなります。あたかも実在の人物であるかのように声援を送ることによって作品世界にハマりやすくなる点が、競技を問わず共通する強みです。

身体能力に恵まれた魅力的な男性キャラが多数登場する作品では熱烈な女性ファンが一定数見込めますし、超人的な技巧も、マンガやアニメでなら違和感なく表現できます。よほどの運動神経の持ち主でもない限り、破天荒なマンガを若手俳優がドラマや映画で再現することはCG全盛の現在でも限界がありますが、最近の2.5次元舞台では、マンガのコマ割りを表現した演出など独自の見せ方が進化することで、新たなファンも増えているようです。

時代を創ったスポーツ系マンガ・アニメ作品

過去の講談社作品を辿ると、まず1966年から1971年まで週刊少年マガジンに連載された「巨人の星」が思い出されます。テレビアニメも1968年3月から1971年9月のロングランとなり、スポ根ものの代表作として一世を風靡しました。筆者の世代では1976年から1979年に連載され、再度アニメ化された「新巨人の星」も思い出深いです。

巨人の星」 原作:梶原 一騎 著:川崎 のぼる


1972年から1977年に週刊少年マガジンに連載された「野球狂の詩」は、先日死去された水島新司先生の手で1997年以降もタイトルと掲載誌を変えて続編が描かれました。テレビアニメも1977年12月から1979年3月まで続き、大人の視聴を意識した作風と毎回1時間枠の長さで話題になりました。

最近では、高校野球を題材とした「ダイヤのA」が人気を集めています。週刊少年マガジンで第1部が2006年-2015年まで、第2部「ダイヤのA actII」が2015年から連載中で、そのリアルな世界観は、大谷翔平選手が「影響を受けた一冊」と公言しているほどです。テレビアニメも2013年10月以降、3期にわたって放送されました。

ダイヤのA」 著:寺嶋 裕二

サッカーマンガでは、1981年連載開始の「キャプテン翼」が今も世界各国で人気を集めています。週刊少年マガジン連載作品では、1987年から1992年の「オフサイド」、1990年から2003年の「シュート!」があります。「シュート!」はテレビアニメやSMAP主演による実写映画も話題になりました。

2007年からモーニングで連載中の「GIANT KILLING」は、弱小プロサッカークラブの監督が主人公という大人向けの視点で描かれた異色作です。名セリフを集めたサラリーマン向けビジネス書が発刊されたり、Jリーグ公式戦とのコラボ企画やアディダス製レプリカユニフォームなどの企画も多数実施されています。他にも週刊少年マガジン連載作品では、2013年から2021年の「DAYS」、2018年から連載中の「ブルーロック」などが、ぞれぞれの時代でティーン・ヤング層の人気を集めています。

個人競技系では、1967年から1973年に連載された「あしたのジョー」がプロボクシングへの関心を高めることに貢献し、ライバル・力石徹の葬儀など社会現象を巻き起こしました。テレビアニメは、1970年4月から1971年9月の第一作、1980年10月から1981年8月の第二作とも不朽の名作です。同じくプロボクシングが題材の「はじめの一歩」は1989年から週刊少年マガジンで連載中。134巻まで発売され、何度もテレビアニメ化されています。

あしたのジョー」 原作:高森 朝雄 著:ちば てつや

スポーツ系作品への支持を可視化する

スポーツ系マンガ・アニメ作品の支持状況を可視化するため、「キャラクター定量調査2020」※結果から、スポーツ系12作品(野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、ボクシング、プロレスリング)を対象として、(1)男子中学生-19才、(2)男20-34才、(3)女子中学生-19才、(4)女20-34才について、キャラクター好意度(X軸)と関連商品所有意向(Y軸)と認知率によるバブルチャートを作成しました。

※日本国内に居住する男女3~74才2,000名を対象として、2020年9月17日(水)~23日(水)に実施

個々のキャラクター認知者を母数とした好意度(「好き」+「やや好き」と答えた人の割合)をX軸に、関連商品所有意向(「ほしい」+「ややほしい」と回答した人の割合)をY軸にした散布図で、認知率(「よく知っている」+「名前を聞いたような気がする」と答えた人の割合)を個々のキャラクターの円の大きさで表しています(図表1)。

図表1.性・年齢別:スポーツマンガ・キャラクターの好意度×関連商品所有意向×認知率によるバブルチャート

全般にM1(男20-34才)>男子ティーン(男子中学生-19才)>女子ティーン(女子中学生-19才)>F1(女20-34才)の順で、好意度と関連商品所有意向が高いことや、「ダイヤのA」が男女ティーンおよびM1で右上の好意度も関連商品所有意向も平均以上のゾーンに位置すること、「GIANT KILLING」が認知率こそ低めながら、いずれの性・年齢でも関連商品所有意向が高いことなど、異なる作品支持傾向がうかがえます。

スポーツチームとのコラボを考える際に留意すべきこと

スポーツ系のマンガ原作がアニメ化、映画化、舞台化などを機に話題を集めたい時は、以下の3つのパターンによるコラボが一般的です。いずれについても、女子ファン目線での企画やコラボグッズの展開比重が増しつつあるようです。

(1)実在プロチームとのコラボ
公式戦・交流試合の球場・競技場で、限定コラボグッズ発売、声優ライブ、トークショーなどを行い、集客とグッズ売上増を図る。

(2) スポーツ用品メーカーとのコラボ
マンガに登場する(架空の)チームや選手のコラボモデルを発売して、話題性を高める。

(3) スポーツジャンルのゲームアプリとのコラボ
ゲーム内にて、期間限定の選手として登場させて、新規加入促進や課金を図る。

これらのコラボを考える際に留意すべきことを考えてみましょう。

ライブ体験で積極的にアピールする

2.5次元舞台や声優トークショーは、スポーツ系マンガ・アニメならではの表現を生かした上で、原作の熱気を再現・増幅した強烈なライブ体験の場です。また、登場キャラに心酔したコアファンによる限定コラボグッズ売上も大いに期待できます。しかし、2020年以降はコロナ禍でオンライン開催を余儀なくされて、ファン1人あたりの支払額も減少しています。

制限が緩和されたいま、ファンコミュニティを拡大できるチャンスが来たと前向きに考え、多少の減衰はあっても競技場でのライブビューイングや配信を通じ感動の輪を広げるべきでしょう。

古参ファンと新規ファンの交流の場を心がける

今回紹介しているような声優トークやキャラクター動画、限定グッズなどのコラボ企画は、プロ野球やJリーグの古参ファンからあまり歓迎されないことも往々にしてあります。新規顧客を呼び込むための一過性の企画にとどまらず、たとえば人気声優が選手や熱烈ファンにインタビューした動画や記事などを配信し続ける施策がよいでしょう。古参ファンとともに、その家族や同僚なども競技の魅力や会場の熱気に気付くきっかけとなるかもしれません。

ニッチなスポーツや新興スポーツも対象にする

今回紹介しているケースはメジャースポーツ系ばかりですが、競技ルールや魅力をわかりやすく紹介できるマンガやアニメならではの特性を生かせるのは、これまで「ニッチ」や「新興」とされてきたマイナースポーツのほうです。やり方次第では、その競技を普及させる上で障壁となっていた一般層の無関心や偏見の壁を壊す、効果的なPR手段となり得ます。

実際に近年は、スケードボード、フリークライミング、カバディ、男子新体操、アイスホッケー、サイドカーレース、自転車競技、サーフィン、バドミントン、ビーチバレー、女子硬式野球など、新ジャンルやそこそこ認知されていてもこれまで取り上げられることが少なかったスポーツのアニメ化が多くなっています。例えば「ウマ娘」のように、競技の普及に一役買う起爆剤としての新たな視点や切り口を用意できれば、統括団体の協力を得ることも可能です。

講談社作品に関連するスポーツコラボ活用事例

最後に、講談社の人気マンガキャラクターに関連するスポーツコラボ活用事例を紹介します。

ダイヤのA×プロ野球各チーム公式戦・交流戦

テレビアニメ開始以降、東京ヤクルトスワローズ、埼玉西武ライオンズ、福岡ソフトバンクホークス、阪神タイガース、楽天イーグルス、北海道日本ハムファイターズなど、複数のプロ野球球団の公式戦や交流戦でのコラボ企画を毎年実施しています。人気声優陣が集結して試合後にトークイベントを開催し、コラボグッズを販売するのが主な内容で、通販ショップでもコラボグッズを販売しています。
参考サイト(北海道日本ハムファイターズ)>>
参考サイト(楽天イーグルス)>>

ダイヤのA×ミズノ

第1期から第3期まで放送されたテレビアニメでは、スポーツ用品メーカーのミズノが制作協力・番組スポンサーとして参加しました。コラボグッズの販売も行い、作中にミズノ関連のスポーツ用品・ロゴが多数登場しています。
ミズノは「DAYS」のユニフォーム、スパイクのコラボモデルも発売しています。
参考サイト(ミズノ・コラボグッズ)>>
参考サイト(「DAYS」公式サイト)>>

ダイヤのA×実況パワフルプロ野球

2015年からスタート。「サクセス」に青道高校が登場し、主人公・沢村栄純や御幸一也、倉持洋一とともに、甲子園を目指すシナリオが用意されています。2019年からは「ダイヤのA act2」コラボで「新・青道高校」シナリオが追加されて、新キャラとして奥村光舟や由井薫が加わりました。
参考サイト(「実況パワフルプロ野球」公式サイト)>>

進撃の巨人×福岡ソフトバンクホークス

スポーツがテーマではないマンガによるコラボ事例もあります。福岡ソフトバンクホークスは、2022年3月25日から、「進撃の巨人」の連結アクリルチャームや缶バッジ、ハンドタオル、Tシャツなどで、九つの巨人がホークスナインに扮して大暴れしているグッズを用意。新たに制作したコラボエンブレムの刺繍を付けたポロシャツも販売しています。
参考サイト(進撃の巨人 The Final Season)>>
参考記事>>

講談社×スポーツブル

講談社が運動通信社のインターネットスポーツメディア「スポーツブル」内で共同展開しているスポーツ漫画プロジェクト。「COMIC BULL」発初期7タイトル(大学野球「ビッグシックス」、卓球「青色ピンポン」、女子高校サッカー「アオハれ乙女」、ボルダリング「ザ・ボルダー」、アスリート飯「アスメシ」、バドミントン「バドラッシュ」、高校野球「リトル・ブル」)の単行本を2020年5月15日より全国書店にて発売開始しました。2022年4月28日時点でオリジナル18作品を掲載し、6作品を連載中です。
参考サイト(スポーツブル)>>
参考記事>>

今回は以上です。
スポーツとのコラボは、コロナ禍の逆風にあっても、将来的にはバーチャル技術の発展も含めて、刺激的な体験を提供する場として期待できます。メジャースポーツをさらに発展させる上でも、マイナースポーツのサステナブルな活動支援の上でも、様々な可能性を秘めていると言えるでしょう。

次回は連載三年目を迎えたまとめとして、最近のヒット作品の支持状況を2021年末に実施した「キャラクター定量調査2021」の結果を用いて紹介する予定です。どうぞお楽しみに。
なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧ください。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)
第19回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編)
第20回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(屋外・交通広告編)
第21回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コスプレイヤー編)
第22回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・前編)
第23回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・ 後編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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