2022.04.05

接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・後編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第23回>

今年も桜の季節が巡ってきました。この原稿を書いている3月末時点で都心は満開を迎え、筆者が仕事で引っ越してきた福井市の足羽川桜並木は開花予想日が4月2日です。そんなせっかくの時期ながら、先月からロシアのウクライナ侵攻に関する報道が続き、コロナ禍と合わせて素直に花見を楽しみにくい状況下にあります。21世紀になっても理不尽な戦争が続くのか、どうすれば終わらせることが出来るのか、もどかしい限りです。

先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、マンガ、キャラクター関連の動画配信サービス活用について、以下の内容をまとめました。

  • 新興プラットフォームも既存マスメディアも参入・共存する動画配信サービス
  • 動画配信サービスは、ティーン・ヤング+キッズ層、特に男性に深く浸透
  • 配信動画は、高確率でマンガ・キャラクターコアファンの視聴が見込める
  • 動画配信サービスをキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと
  • TVアニメ視聴や劇場版映画来場を効果的に促す連携を行う
  • 費用対効果を考えて説得力のあるコラボ動画を作成する

今回は、前回の続きとしてマンガ、キャラクター関連の動画配信サービスを接点として考える際に留意すべきことと、講談社作品の活用事例について解説します。

動画配信サービスをキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと(続き)

コスパやハンドリングしやすさを考えてストリーミング提供社を選定する

OTT (Over The Top) と呼ばれるストリーミング配信サービスは、Netflix、Amazon Prime Video、Huluなど多くの会社が提供中で、最近の講談社マンガ原作アニメ作品で確認したところ、約15社の配信サービスで視聴可能となっていました。
しかし、一般視聴者からは各社間の違いがわかりにくく、サブスクリプション制であっても可処分時間に限りがあるため、テレビCMなど従来メディアでの広告やニュースでの露出が多い提供社のみが選ばれがちです。
ただ大手であっても、再生数やどんな曜日や時間に再生されたかなどの詳細情報を開示しない提供社があるため、コンテンツホルダー側からは、どのサービスで配信することでリーチが広がるのか、提供効率が高まるのかがわかりにくい、との声も聞こえてきます。提供社を選定する際には、加入者数やアニメ全般のコアファンが多いサービス会社はもちろん、コストパフォーマンスやハンドリングしやすさも考慮材料とすべきでしょう。

YouTuber やライバーを活用する際にはリスクマネジメントも必要

小中学生がなりたい職業の上位にYouTuberがランクインするようになって久しいです。再生数がかなり多くないと生活出来るほどの広告収入は見込めませんが、裾野は確実に広がっています。

2019年の「ゲゲゲの鬼太郎」では、人気YouTuberのHIKAKIN(ヒカキン)が本人役でゲスト出演するなど、YouTuberを既存アニメ作品の話題性アップに活用する事例がありました。
2Dまたは3Dのアバターを使って活動する、「キズナアイ」などVTuberの活躍も目立っており、同じく2019年にテレビ東京で「四月一日さん家の」(わたぬきさんちの) では、現役のVTuberを俳優(役名あり)に据えた3DCGアニメ作品が放送されるなど、盛り上げ役だけでなく、コンテンツのメインに登場する機会も出てきています。「ゆるキャラ®グランプリ」企業その他部門に、2019年は「ピーナッツくん」、2020年は「甲賀流忍者!ぽんぽこ」と、実の兄妹がファンの献身的な応援で連続優勝したのは象徴的な出来事でした。
インスタやLINEに加え、SHOWROOMや17Liveなど投げ銭形式によるライブ配信・視聴サービスも増えています。絶対数は少なくとも一部の熱烈なファンさえいれば、TVや映画、舞台に端役で出演するよりも、ライバーとして当面の収入が確保されます。

ただ、これらのYouTuberやライバーをプロモーションや新規コンテンツとして活用する際には、炎上発言による契約解除や、距離の近さを錯覚したファンによる誹謗中傷、鍵アカウントも含む過去書き込みの暴露、ストーカー行為などのリスクもあり、個人や仲間内で運営していると対応が後手後手に回りがちです。活動の身軽さ・自由さが生む負の側面を根絶するのは困難ですが、送り手自身がファンあっての存在であることを忘れず気を付けることが必要です。活用する企業側もリスクマネジメント面でサポートすべきでしょう。

講談社作品に関連する動画配信サービス活用事例

それでは、講談社の人気マンガキャラクターに関連する動画配信サービス活用事例を紹介しましょう。

1)はたらく細胞×ユーグレナ

2021年1月13日から、「ユーグレナヘルスケア・ラボ」特設サイトと、ユーグレナYouTube公式チャンネルで、原作マンガのコマを使ったフルボイス動画を公開しました。
作者の清水茜先生描きおろしによる新オリジナルキャラクター"ユーグレナさん"が登場し、人気声優の釘宮理恵さんが声を担当している点がポイントです。その結果、動画再生数は556万回再生(1/13~3/10現在)を記録し、当初の目標である400万回を大きく超える結果となりました。

2)はたらく細胞×厚生労働省

2021年4月28日から特設サイトを公開し、YouTube上で新型コロナウィルス感染症への理解促進および感染予防を訴求するムービングコミック動画を配信しました。
JICA(国際協力機構)の支援を得て多言語に翻訳し、世界に向けてYouTube動画を無料発信している点がポイントです。なお、動画配信期間は2022年3月31日まででした。
>参考サイト

3)東京リベンジャーズ×内閣府

2022年4月1日から施行された、成年年齢を20歳から18歳に引き下げる「民法の一部を改正する法律」に伴う変更点の周知や消費者トラブルなどへの注意喚起を呼びかけるための施策です。2022年1月7日から、テレビCM1本とWEB動画5本によるコラボ動画を公開して、「18解禁 新成人たちよ、未来をつくれ。」のメッセージを伝えています。
動画公開と同時に、「#18解禁決意の旗」というハッシュタグボタンを付けて<新成人としての決意>をツイートすると、作中の聖地である渋谷に投稿者ツイートが旗となって掲げられるTwitterキャンペーンが2月28日から3月13日まで実施され、2月28日から特設サイトでも公開されました。
>参考サイト1
>参考サイト2

4)アニメ専門チャンネル「アニメタイムズ」

エイベックス・ピクチャーズ、講談社、集英社、小学館ら14社で設立した株式会社アニメタイムズ社が、2021年8月に講談社・集英社・小学館のアニメを配信するためアニメ専門チャンネル「アニメタイムズ」を開始しました。Amazon Prime Videoサービス内での提供で、Amazon Prime会員なら月額437円(税込)で、初回30日間はお試し無料で、話題の人気作品や懐かしの名作アニメまで、約500タイトル、7000エピソードを楽しむことができます。オリジナル作品の制作・配信も計画されており、人気声優の神谷浩史さんがメインナレーターを担当している点もポイントです。
>参考サイト

今回は以上です。
動画配信サービスは、技術の進歩に応じて今後の勢力図も変わっていくものと思われます。これまでの経験に囚われず、目的に応じた新しい使い方を日々試していくことが、顧客満足度を上げるうえで有効でしょう。
次回は、プロ野球やJリーグなど、スポーツチームとのコラボによる活用効果と具体事例について紹介する予定です。どうぞお楽しみに。
なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧ください。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)
第19回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編)
第20回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(屋外・交通広告編)
第21回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コスプレイヤー編)
第22回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・前編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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