2022.04.07

ユーグレナと人気マンガ『はたらく細胞』のコラボ動画に見る なぜ企業はマンガをマーケティングに活⽤するのか|講談社メディアカンファレンス 2021 学びコンテンツレポート④

バイオテクノロジー企業、株式会社ユーグレナは、人気マンガ『はたらく細胞』とコラボして、アニメ声優陣による豪華フルボイスマンガ動画を展開。著者の清水茜先生が描き下ろしたオリジナルキャラクター"ユーグレナさん"も登場し、大きな話題となりました。本コラボを含めた複数の事例をもとに、マンガIPを活用したプロモーションのメリットや効果について、紐解きました。

谷口 優(以下、谷口) 今回、進行を担当する月刊『宣伝会議』編集長の谷口です。ここではユーグレナさんがマンガ『はたらく細胞』とコラボしたプロモーションの展開を中心に、マーケティングにおけるマンガの活用について紹介していきます。

本木 学(以下、本木) 株式会社ユーグレナ、サステナブルマーケティング部の本木と申します。弊社では、マーケティング活動そのものもサステナブルであるべきだという意志を込めて「サステナブルマーケティング部」と命名されています。私が担当しているのはプロモーション領域で、今回の企画の仕掛けなどを担当しています。

谷口 本木さんは、そもそも『はたらく細胞』が大好きだったそうですね。

本木 はい。もともとマンガの大ファンだったので、今回の企画には「コレしかない」と最初から思っていました。

谷口 マンガの活用は、担当者の作品に対する熱量も成功に関わっているのかなと思います。前田さんも自己紹介いただけますか。

前田亮(以下、前田) 講談社メディア開発部の前田と申します。BtoBサイト「C-station」のチーフエディターを務めています。本日は「マンガIPの活用」という観点からこのセッションに参加させていただきました。

抱えていた2つの課題。「認知向上」と「理解促進」

谷口 『はたらく細胞』とのコラボ事例について、あらためてご紹介ください。そもそもなぜマンガ作品とコラボしたのかという課題感から伺えますか。

本木 我々が生産している健康食材として「石垣島ユーグレナ」というものがあります。認知度は50%くらいあるのですが、さらに拡大したいという狙いがありました。

同時に、石垣島ユーグレナは、あるゆる研究からも健康に貢献できることがデータとして示されていながらも、一般の方にはまだ浸透していないので、理解度を深めたいということもありました。

谷口 商品特性上、単に石垣島ユーグレナという商品名を認知してもらうだけでなく、その先の商品に対するある程度の理解までが必要だと考えていらした。そのコミュニケーション手段で悩んでいらっしゃったということですね。

本木 そうですね。「カラダ健康サイクル」という話自体、リテラシーが高いところがあります。課題がひとつでなく、ふたつとなると、トータルで伝えていく必要がありますから、マンガ活用を選択したのは、適切だったと感じています。

谷口 マンガを使って商品や事業をわかりやすく説明するというのは、これまでにもいろいろな企業でやられてきたことです。そのなかでも、今回の『はたらく細胞』はまさにドンピシャという印象です。

本木 そうですね。『はたらく細胞』というコンテンツは、そもそも人間のカラダの仕組みをわかりやすく紹介している作品ですから、我々が伝えたいことにピッタリだったということがまずありました。

加えて、我々はブランドコンセプトとして「細胞から元気なカラダへ」と唱えており、さらに「つくる・はたらく・まもる」という健康サイクルも打ち出しています。我々が普段から提唱していることが、タイトルとも一致しているという点で、「コレしかないな」と感じました。

広さと深さの両方を実現した「コラボ動画」

谷口 具体的な施策についてもご紹介いただけますか。

本木 コンテンツのコアになったのは6分尺の動画で、清水茜先生に描き下ろしていただいた"ユーグレナさん"というキャラクターが登場します。

最初はマンガ動画というかたちで、いわゆるパラパラマンガのようなものにしたいとご相談していました。しかし結果的に、声優さんにも参加いただき、非常にリッチなコンテンツに仕上がりました。声優ファンの人たちの反応もよく、高評価をいただけたのは、うれしかったですね。

中央にいるキャラクターは、今回のコラボオリジナルの、清水茜先生が描き下ろした"ユーグレナさん"。
本動画では、アニメではなく、静止画を動画化し、それぞれのの声はアニメ版の声優が務めた


谷口
 動画だけでなく、制作物も展開されたようですね。

本木 動画をキーコンテンツとしながら、特設サイトを開設し、小冊子や販促用チラシも作らせていただきました。また、『はたらく細胞』のファンとの親和性は高いと考え、連載していた『月刊少年シリウス』には広告を掲載し、コミックの第6巻には投げ込みチラシを挟ませていただきました。

これらの反応も非常に良かったですね。ほかにもYouTubeにも広告を出しているのですが、制作段階から「6分(最初から最後まで)見てもらうことに意味がある」、「見ていただかなければ伝わりきらない」と考えていたので、広告展開でも最初からフルで見られる形で配信したところ、こちらも好評でした。

谷口 認知獲得施策と言うと、とかく多くの人にリーチすることを求めがちですが、今回の施策では、ファンのコミュニティを対象ににしっかり届けることで、「広さ」に加えて「深さ」を同時に実現する施策だったように感じられます。

本木 おっしゃるとおりですね。ファンの方たちにも喜んでもらえたのではないかと思っています。

YouTubeの再生回数にしては、400万回いけば合格と社内では話していたのですが、結果は570万回再生を超えました。さらに、広告には"付きづらい"といわれるコメントが178件、高評価率も98.6%となりました。ちなみにコメントは「広告とは思わなかった」、「こういう広告をやってくれるならうれしい」といったものが多かったですね。

動画自体も6分尺ということもあり、10人に1人くらい最後まで見てくれれば合格と考えていたのですが、28%の方に最後までご視聴いただけました。こうした結果からいっても、『はたらく細胞』の世界観を大事にすることでファンの方にもきちんと届けられたといえるのではないかと考えています。

谷口 企業が伝えたいメッセージを、一方的に伝えようとすると届きづらいものです。なのに、これだけの時間を皆さんに見てもらえたというのは、それだけの没入感をつくりだせたということなんでしょうね。

マンガIPを活用するメリットと、成功したコラボ例

谷口 マンガIPを活用するメリットについても、お聞かせいただけますか。

前田 マンガIPには、課題を突破する力があります。どんな力かといえば、1つめが「訴求力、伝達力」です。アピールする力がどれくらいあるかを考える客観的な基準としては発行部数が挙げられます。講談社の主要作品でいえば、『島耕作』シリーズが約4400万部、『セーラームーン』で3600万部、『進撃の巨人』にいたっては1億部という発行実績になっています。

伝達力については、マンガは文字だけではなくビジュアルとセリフで構成されていますので、その特性が生かされます。日本人の情報処理量として、本などを読むときは1分間に1000文字処理できるのに対して、マンガは1分間に2000文字処理できるといわれています。マンガのほうが同じ時間で2倍の情報を伝えられるわけです。

2つめが「共感力」です。一般的にユーザーや生活者の方は、作品のファンであればあるほど、登場するキャラクターに共感を覚えやすくなります。キャラクターが何かを体験したり、おすすめしたりしていると、ユーザーは自分ごとの疑似体験のように考える傾向があります。

そして3つめが「オリジナリティ」。タイアップでは、原作ではあり得ない組み合わせでキャラクターを登場させることなども可能です。ファンの方たちにも見たことのないコンテンツを楽しんでもらう機会を提供することも、成功のポイントになると考えています。

谷口 ユーグレナさんの企画はこの三拍子が揃ったものだったと思います。最近の事例を他にも紹介いただけますか。

【事例】株式会社明治×『逃げるは恥だが役に立つ』

前田 明治さんの「チューブでバター1/3」という商品と『逃げるは恥だが役に立つ』というマンガIPをコラボした例があります。

この施策の狙いは、家事の負担が大きい子育てママ層の方にさまざまな料理を手軽に作れるこの商品の魅力を伝えて、「商品を手に取ってもらう」、「家事の負担を軽減してもらう」ということでした。料理研究家によるオリジナルのレシピを用いながら、忙しい子育てママの悩みに寄り添ったストーリーを描いています。結果がどうだったかといえば、このメディアの露出は、明治さんの目標の約4倍に達したそうです。

また、SNSでも多くのユーザーからポジティブな投稿がありました。そこには偶然ながら、実写ドラマに出演していた新垣結衣さん、星野源さんの結婚発表とほぼ同時のタイミングでプロモーションが始まったことも影響していました。

谷口 マンガを活用したことで、レシピもよりわかりやすく、魅力的に見えますね。

【事例】株式会NTTドコモ×『週刊少年マガジン』

前田 次にご紹介するのは、複数のマンガIPとタイアップした例です。NTTドコモさんと『週刊少年マガジン』に掲載されている作品群とのタイアップです。

ドコモさんが展開しているスマホのアクセサリーブランド「docomo select」は、認知向上という課題を抱えていました。そこで競合他社との差別化と認知向上を目指し、『週刊少年マガジン』の人気マンガ4作とコラボレーションしました。

作品は『フェアリーテイル』、『七つの大罪』、『進撃の巨人』、『転生したらスライムだった件』です。おのおのの作品から5つのデザインを提示して、ユーザーの投票によって作品ごとに1位を決定し、各作品の1位になったデザインがスマホケースとして商品化、販売されるというスキームを採用しました。結果としては、総投票数が4ケタ万票にもなり、Twitter上でも大きな話題となるなど、大きな成果につながりました。

この企画が優れているのは、最終的に商品化されるスマホケースのデザインをユーザーの投票で決定するという点。参加意識を喚起して双方向性を持たせられたところにあります。トータルのプランニングが非常にすぐれていたケースですね。

谷口 IPの力を掛け合わせたことで、インタラクティブな仕掛けの生活者の巻き込み力が高まった施策と言えそうです。

【事例】学校法人同志社×『宇宙兄弟』

前田 もうひとつは、難しいことをわかりやすく示すことができた例です。学校法人同志社さんと『宇宙兄弟』のコラボですね。

さまざまな可能性を秘めながらも、一般的にはなかなか理解されにくい「宇宙生体医工学」という分野があります。

夢のあるユニークな研究を広くわかりやすく伝え、この分野へのチャレンジを学内外の人たちに知ってもらいたいということが先方の希望でした。しかし訴求したい内容が非常に学術的で、一般的に見て広告宣伝向きではないとは考えられていたようです。

この課題の解決にあたって、宇宙が舞台のマンガである『宇宙兄弟』と組み合わせて、マンガのキャラクターと実在の大学教授のコラボレーションを展開。新たに作られたキービジュアルは、ホームページやパンフレットなどで1年間ご使用いただきました。

このコラボ企画の紹介記事には、通常の10倍から30倍ほどの反響があったそうで、記事が載った『週刊モーニング』は学内の売店でも通常の20倍仕入れて完売したといいます。わかりにくいことや難しいことをわかりやすく説明できる。このマンガの特性を生かされた企画であり、マンガクリエイティブの可能性も示唆されたように思います。

マンガIP活用は、作品の「ファン」であることも重要

谷口 ここまでいくつかの事例を見てきました。本木さんがお感じになられたことや、今後チャレンジしたいと思われていることなどをお聞かせいただけますか。

本木 マンガの魅力はいま前田さんがお話しされたとおりだと思います。広告主側として気をつけたほうがいいかなと考えるポイントは3つほどあります。

1つは、作ったものをきちんとリーチしていくためのメディアプランを立てる必要があるということ。2つめは、マンガの世界観を邪魔しないで大切にするコンテンツにしていくこと。3つめは当該マンガのファンであることです。

今回、我々も原作が好きなメンバーだけでチームを固めていたので、「自分たちが満足できないコンテンツは世に出さない」という気持ちで臨みました。その姿勢が成功につながった要因になっている気がしています。また、本当はグッズなども作りたかったのですが、コロナ禍で工場が止まっていたということもあり、実現できなかったので、次に機会があればそういうこともやっていきたいですね。

谷口 今後に期待ということで、楽しみにしておきます。前田さんはいかがですか。

前田 マンガへの愛と理解が不可欠だということは私も同感です。実際に他のプロジェクトにおいても、キャラクターに対して愛のある人だけで取り組んだケースがありました。日頃の業務を通じても、企業とマンガIPがコラボしていく可能性は非常に大きいということをひしひしと感じていますので、皆さんにもいろいろと考えていただけるといいですね。

谷口 魅力的な作品がたくさんあるなかで、どの作品とコラボして、どのようなコンテンツをつくっていけばいいのか、コンテンツの選定やメディアプランに難しいさはあるかもしれませんが、マンガIPのキャラクターやストーリーなどを自社の課題やターゲット特性などにうまく絡めていける作品を選ばれたらいいのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

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【講談社メディアカンファレンス 2021:学び動画】
ユーグレナと人気マンガ『はたらく細胞』のコラボ動画に見る なぜ企業はマンガをマーケティングに活⽤するのか

登壇者:
・本木 学/株式会社ユーグレナ サステナブルマーケティング部プロモーションチームリーダー
・谷口 優/株式会社宣伝会議 出版・編集取締役、月刊『宣伝会議』編集長
・前田 亮/講談社 C-station チーフエディター

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