2022.03.04

接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・前編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第22回>

コロナ禍の中、北京2022オリンピックが開催されました。本来であれば政治や経済と別であるべきはずの平和の祭典が岐路に立たされていることを実感しつつも、トップアスリート同士の名勝負の数々は刺激的でしたし、公式マスコット「氷墩墩(ビンドゥンドゥン)」の意外な人気ぶりも興味深かったです。
先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、アニメやマンガ、キャラクター関連のコスプレイヤー活用事例について、以下の内容をまとめました。

  • アニメブームとハロウィンを契機に、ファン主導で一般化したコスプレ
  • 推しキャラへの強いなりきり願望を具現化したコスプレイヤー
  • コスプレイヤーをキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと
  • 講談社作品に関連するコスプレイヤー活用事例

今回は、マンガ、キャラクター関連の動画配信サービス活用事例について解説します。

新興プラットフォームも既存マスメディアも参入・共存する動画配信サービス

今では当たり前のように使われている動画配信サービスは、

  1. インターネットの普及
  2. 通信高速化と低額費用の実現
  3. スマホとWi-Fiの普及

などの条件が揃ったこの10年間で一般化しました。

主要プラットフォームの歴史を振り返ると、動画共有サイトは2005年にアメリカでYouTubeが、2006年にニコニコ動画が、2007年にYouTubeが日本でもサービス開始したのが始まりです。当初より動画の違法な海賊版が国内外で多数アップロードされ、最近も長編映画を勝手に編集した「ファスト映画」の無断アップロードが相次いで物議を醸していますが、法整備やガイドラインの徹底で、それらの問題は落ち着きつつあります。

OTT (Over The Top) と呼ばれる、インターネット回線を通じてコンテンツを配信するストリーミングサービスは、2011年にHulu、2015年にNetflixとAmazon Prime Videoが日本でサービス開始しました。いくら見ても定額料金で済むサブスクリプション制による気軽さや、2020年以降のコロナ禍で強いられた巣ごもり生活を契機に、世界各国で普及が進みました。ここでも日本のアニメは国内のみならず海外でも人気ジャンルとなっています。
ストリーミングサービスは「好きな時間に視聴してもらえ、SNSでの共有や商品購入にもつなげやすい」という従来のマスメディアになかった点が評価されました。新聞社、雑誌社、ラジオ局はもちろん、今ではTV局も自社コンテンツの接触機会を増やすため、YouTubeや自社サイト、あるいはTVer(2015年~)やParavi(2018年~)などのOTTサービスを用いて、積極的に動画を配信しています。
アニメやドラマでは、本編の見逃し配信から、PV・予告編、キャスト・スタッフへのインタビューや対談、さらにはサイドストーリー・スピンオフといった独自の派生作品まで、配信内容は多岐に渡ります。

これらのサービスは、深夜や休日午前中など視聴しにくい時間帯の視聴や、ハードディスク残量を気にしながら録画するなどの不便に煩わされることなく、移動中や就寝前などのスキマ時間を有効活用できる意味で魅力的です。また海外を含めた放送地域外住民や、遅れてきたファンたちに視聴機会を提供し、幅広い層に作品の認知と興味を高める意味でも、極めて有意義です。OTT側としても、独占作品や派生作品を用意することが、サービス加入促進や囲い込みを図る上で有効です。

また、ツイキャス(2010年~)、YouTubeライブ(2011年~)、LINEライブ(2015年~)、Showroom(2013年~)、17Live(2017年~)、インスタライブ(2017年~)などのライブ配信サービスも登場して久しいです。これらSNSの要素を併せ持ったサービスを使って、俳優・声優・アイドル・お笑い芸人、および予備軍たるアマチュアやV-Tuberたちが、ファン向けに特化して発信することも多くなりました。投げ銭形式でファンの熱意をコミュニティ内で可視化しながら、広告に頼らないで発信者側のマネタイズに直接貢献していく、という新しいビジネスモデルも普及しつつあります。
ここまで紹介したように、いまや様々な背景や目的を持つ配信サービスが乱立・共存しています。今後どのように進化し、淘汰が進んでいくのかが注目されます。

動画配信サービスは、ティーン・ヤング+キッズ層、特に男性に深く浸透

2020年9月に日本全国の男女3-74歳2,000名を対象に実施した「キャラクター定量調査2020」結果から、インターネットで配信されるキャラクター動画やアニメの視聴を紹介します(図表1)。

図表1.性・年齢別:インターネットで配信されるキャラクター動画やアニメの視聴
Q.  以下にあげる中で、あなたご自身の行動に当てはまるものがございますか。

インターネットで配信されるキャラクター動画やアニメの視聴者は、男女3-74歳全体の29.0%です。性・年齢別では、男子キッズ・ティーンと男性20-34歳でインターネット動画視聴者が4割以上と特に多く、女子キッズ・ティーンと女性20-34歳、男性35-49歳も約3割と多くなっています。

続いて、動画配信サービスタイプごとにキャラクター接触状況を比べてみました(図表2)。

図表2.性・年齢別:動画配信サービスタイプ毎のキャラクター接触状況
Q.  次にあげるものの中で、あなたがふだん、お好きなキャラクターや気になるキャラクターと接することが多いのはどれですか。

男女3-74歳全体では、「YouTube、TikTok、ニコニコ動画などの動画投稿サイト」が29.9%、「Netflix、Amazonビデオ、Hulu、dアニメストアなどの動画配信サービス」が22.7%、「SHOWROOM、17Live、インスタライブ、LINEライブ、Youtubeライブ配信などのライブ配信・視聴サービス」が14.5%です。(いずれも「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」計)

いずれのサービスも、男子ティーンと男性20-34歳の接触者が多い点が共通します。YouTubeなど動画投稿サイトは男女キッズや女子ティーン、男性35-49歳、Netflixなど動画配信サービスは女性20-34歳や男女キッズが、それぞれ高くなっています。
SHOWROOMなどライブ配信・視聴サービスは、男子ティーンと男性20-34歳以外の層ではまだ接触者が少ないようです。

配信動画は、高確率でマンガ・キャラクターコアファンの視聴が見込める

キャラクターのコアファンとマンガのコアファン(それぞれ「キャラクターが好きなほうである」「マンガが好きなほうである」の質問に、「かなり当てはまる」と回答:男女3-74歳全体に占めるシェアはともに約15%)では、インターネットで配信されるキャラクター動画やアニメの視聴者が6割以上で、ライトファン(同質問に「まあ当てはまる」と回答)以下の層を大きく引き離しています。これらの結果から、インターネットでの配信動画はキャラクターやマンガのコアファンに注目されており、視聴の可能性が極めて高いことがわかります(図表3)。

図表3.キャラクターファン・マンガファンタイプ別:マンガ、キャラクター関連のインターネット動画視聴

動画配信サービスをキャラクターの接点として考える際に留意すべきこと

今やマンガやアニメなどコンテンツ自体の接触を促す上でも、企業や団体のマーケティング活動を活性化する上でも、動画配信は重要なポジションを担っています。そこで、どんな点に配慮すべきか、いくつかヒントを記してみました。

TVアニメ視聴や劇場版映画来場を効果的に促す連携を行う

現在放送中のTVアニメを視聴してもらう、近日公開の劇場版映画に来場してもらうためには、実際の動画を見て期待を高めてもらうのが一番です。それも単に予告編や紹介映像を流すだけでなく、作者やスタッフが共通する過去作品や関連作品をYouTubeや各種OTTサービスで期間限定無料公開するなどを考えたいところです。
SNSと共通したキャッチコピー的なハッシュタグを投げかけて、有名・無名を問わず作品の熱烈なファンたちに期待や見どころを熱く語ってもらい、それらのコメントが可視化されるような施策も用意すべきでしょう。
ただし映画の場合は、魅力的な予告編映像などで公開前に盛り上げても、本編鑑賞後の感想が良くないと、予告詐欺と言われて炎上につながるリスクもあるので、注意すべきでしょう。

費用対効果を考えて説得力のあるコラボ動画を作成する

企業や官公庁、地方自治体のプロモーションに既存人気作品を使うことも珍しくなくなった昨今、実際の施策や作品をみると、内容や費用対効果の面で微妙ではないかと感じることがよくあります。
使用料が高額なキャラクターの場合、予算の関係でテレビCM出稿本数や出稿地域を減らさざるを得なくなることもあるようですが、そういった本末転倒にならないよう、配信動画にシフトすることも考えるべきでしょう。なぜコラボするのか、作品世界観やストーリー、作者の出身地などで整合性があれば、広告への違和感や反感も緩和されて、話題になる可能性が高まります。

今回は以上です。
インターネットまわりのサービスは日々進化して生活に入り込んでおり、動画配信についても、この10年ですっかり様変わりしたことを実感します。マンガが紙媒体だけでなくWEBでの閲読が一般的になりつつあるように、アニメもテレビや劇場だけでなく、WEBでの動画視聴が増えています。そこではオリジナル作品視聴だけでなく、コラボやパロディ動画など守備範囲も広がっています。さらに今後に向けては、海外への配信が活発になる仕組みが整えられることでしょう。

次回は動画配信サービスをキャラクターとの接点として考える際に留意すべきことの続きと、講談社作品に関連する配信動画活用事例についてさらにご紹介します。どうぞお楽しみに。
なお、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されていますので、ぜひご覧ください。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)
第19回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編)
第20回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(屋外・交通広告編)
第21回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コスプレイヤー編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。

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