2022.03.10

#3 音楽・エンタメ業界におけるOTTの活用事例と課題|マーケティングを加速させる動画とOTT

この連載では、ビジネス向け動画配信プラットフォームのグローバルリーダーであるブライトコーブのRegional Channel Director森貴浩氏が、OTTとその手段である動画をマーケティングに活用する方法を解説します。第3回は、音楽・エンターテイメント業界のOTTをテーマに、国内外のトレンドや課題についてのご紹介です。

音楽アーティストのライブ配信、イベント配信が活性化

2年にも及ぶコロナ禍で急速に拡大した「OTT(Over The Top)」の市場。なかでも、音楽・エンターテイメント業界ではこのOTTを活用した動画配信の動きが非常に活発です。もちろんそこには、NetflixやAmazonプライムビデオなど、サブスクリプション形式の動画配信サービスも含まれます。
一方で、全世界に及ぶパンデミックの影響で、無観客で実施されたアーティストのライブを、都度課金で限られた人のみがオンラインでライブ視聴できる、いわゆるペイドライブも急増しました。

音楽・エンターテイメント業界独自のOTTを構築

音楽・エンターテイメント業界のライブ配信の特徴は、セキュリティや映像・音などの質が高い動画配信に特化したOTTを作り、配信することが多い点です。課金してくれた視聴者に質の高いコンテンツを配信したいことのあらわれであるとともに、楽曲の著作権などの権利問題が大きく影響していると考えられます。

YouTubeはPR目的、SNSは双方向コミュニケーションツール

一方でYouTubeなどの動画共有プラットフォームは、あくまでPR目的であり、自社で構築した配信サービスと使い分けている傾向があります。アーカイブやダイジェストはYouTubeで公開するものの、実際のライブ映像は自社で構築した配信サービスを使ってライブ配信する、といった形です。
同じくライブ配信を行えるツールとして、TikTokやInstagramなどもありますが、これらは1対Nでコミュニケーションを取る手段として活用されています。アーティストが行うライブ配信ツールというよりは、双方向型のコミュニケーションツールとして捉えた方がいいでしょう。

テレビをネット接続のモニターとして使うようになった視聴者

視聴者側の動きとしては、デバイスに依存しなくなったことが挙げられるでしょう。海外ではAppleTVやAmazonのFire TV(ファイヤーTV)、GoogleのChromecast(クロームキャスト)、ゲーム機、Blu-rayプレーヤーなどでインターネットに接続されたいわゆる「コネクテッドTV」や、スマホからAirPlayやキャストによって視聴することが一般化しています。テレビをモニターとしてライブ配信を視聴するこの動きは、国内でも次第に広まってきています。

ライブ配信からECサイトやファンクラブへ誘導

日本において多くのアーティストのライブ配信を行い、マネタイズに成功している事例の一つが、ソニー・ミュージックソリューションズが2020年6月にローンチしたOTT「Stagecrowd(ステージクラウド)」です。視聴者は「Stagecrowd」上で見たいライブを検索できる仕組みになっており、サービス開始半年で350本を超える音楽ライブを配信しています。

ソニー・ミュージックソリューションズは、もともとアーティストのファンクラブを運営しており、アーティストの関連グッズ販売を行うECサイトを持っていました。この会員基盤やシステムを活用しながら、ライブ配信のソリューションを展開したのです。
「Stagecrowd」では、一般公開されているライブ配信を販売することはもちろん、ファンクラブ限定配信も販売しています。ファンクラブとうまく連動することで、クラブへの入会も顕著に増えました。
純粋なライブ配信の利益だけでなく、そこからファンクラブ入会やグッズ販売へと導線を作り、マネタイズを成功させているのは特筆すべき点です。

ライブ配信とVODを組みわせたオンラインフェスイベント

近年はトークセッションや音楽ライブを組み合わせたフェスのようなイベントを、数日間に渡ってオンライン配信する事例も出てきています。11時から12時のトークセッションはあらかじめ収録していたものを配信し、12時からはリアルタイムでアーティストのライブを配信するというように、配信側がライブ配信とVOD(ビデオオンデマンド)をうまく組み合わせた展開などがみられます。

ちなみにこの手法は、音楽・エンターテイメント業界に限らず、終日行われるセミナーなどのビジネス分野でも増えてきました。視聴者側のライブ感を損なわずに負荷を減らしてコンテンツを提供できる、配信側にとってはありがたい手法であるといえるでしょう。

より快適なライブ配信を実現する、視聴環境に応じたオプション機能

通常のライブ配信に加えて、視聴者をより楽しませようという企画が、各社のサービスで試されています。
その一例として、友人同士等のユーザー間でチャットやSNSなどを使い、同じタイミングのライブ配信を視聴しながらコミュニケーションをする「ウォッチパーティー」があります。
ただしこの機能を実現するには、ユーザー間での視聴を同期させることはもちろん、同期がずれた場合の対応策や、そもそもこのような企画をしても安定した配信を実現できるかなど、さまざまな確認・検討事項があります。最初に取り組む時は、自社では気が付きにくいポイントまで相談できる、さまざまなライブ配信の実績があるパートナーを見つけることが肝要でしょう。

ライブ配信はマネタイズだけでなく、マーケティングのチャンスでもある

音楽・エンターテイメントにおけるライブ配信を、マネタイズのチャンスだけでなく、マーケティングのチャンスと捉えている事例もあります。
例えば、ある企業では、お客様のリード情報を取得するために、「Webフォームを入力してくれた方は、アーティストのライブが無料で見られます」という形でエンターテイメントのライブ配信をキャンペーンのインセンティブとして活用しました。その結果、多くの申込者数を獲得し、ライブの視聴者数も何万人にも上ったということです。
この規模の成果をリアルなライブイベントで得ようとすると、東京ドームほどの会場を用意してライブをしなくてはなりません。インセンティブとしてライブ配信を活用するメリットは、費用対効果の上でも大きいと実感できた事例です。

ライブ配信を活用して社員のエンゲージメントを高める

マーケティングだけでなく、社員のエンゲージメント向上にライブ配信が利用された事例もあります。例えば、とある人材派遣会社は、コロナ禍で尽力してくれた派遣社員に向けてアーティストのライブ配信を行いました。またある電力会社も、特定の社員に向けたライブ配信を行いました。
このように、2021年はOTT活用が急速に進んだだけでなく、ライブというコンテンツを活用してマーケティングや社員のモチベーションアップにつなげる事例が出てきた年であったともいえます。

ライブ配信の安定・安心・安全性の追求は今後も課題

一方でライブ配信の課題の一つとなっているのが、セキュリティの担保です。特に音楽・エンターテイメント業界のライブ配信の場合は、外部モニターに接続できないようにしたり、画面キャプチャができないようにしたりと、楽曲の著作権が侵害されないようセキュリティを強化するケースもあります。
ライブ配信の場合は、その性質上、安定・安心・安全という3要素が非常に重視されます。サーバーの準備と負荷対策は、同時視聴者数がどれだけ見込まれるのかを見極めた上で行われなければなりません。実際にどれだけのトラフィックが発生するかは実施してみないと不透明な部分でもありますが、備えられることにはできる限り備える姿勢が大切です。

配信側は、視聴者のスムーズな導線を設計することが大切

当社の事例ではありませんが、ライブ配信中にサーバーが落ちてしまったという話もときどき耳にします。これは、ユーザーの入口部分であるログイン認証でトラフィックが大量に発生してしまったことが原因であることが多いようです。
リアルなライブでは、番号順に入場や退場の案内を行うなど、人流が集中しないような工夫がされています。オンラインのライブ配信の場合も、ユーザーの入場から退場、物販やファンクラブ入会までスムーズに行えるような導線を上手に設計することが求められます。
またトラブルが発生した場合、視聴者の信頼を損なわないために、解決のための人員を確保しておくなどの体制を整えておくことも必要です。再発防止のために、事後に原因究明と徹底した対策を行うことはもちろんです。

コロナ禍で一般化したライブ配信は、コロナが収束した後も引き続き盛り上がりを見せることが予想されます。音楽・エンターテイメント業界でコンテンツを有効活用し、さらなるファン獲得を目指すためには、独自のOTTを構築・運用することも視野に入れながら、これまでにご紹介したようなさまざまな工夫を凝らすことが必要となるでしょう。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 Regional Channel Director Japan
森 貴浩(もり たかひろ) 

株式会社USENでGYAO事業本部のショッピングチャンネル立ち上げと新規顧客開拓に従事し、当時日本初のWEB動画による広告媒体の営業を実施。その後、凸版印刷株式会社へ入社。営業としてイベントプロモーションをはじめとするアカウント先のプロモーション業務全般を担当し、動画制作業務も複数実施。
2019年にブライトコーブ株式会社に入社し、Account Managerとしてエンタープライズ領域の伸長をリード。2021年には新設されたChannelセールスチームのDirectorに就任、日本における販売代理店プログラムの立ち上げを行う。動画配信サービスのチャンネル立ち上げやイベントプロモーション、ブライトコーブでの様々なビジネスにおける動画活用のユースケースを作成してきた経験から、事業会社における動画活用全般に関して精通する。

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