2022.06.08

最新定量調査データで探る、人気マンガの浸透状況(前編)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

5月29日に福井市から千葉県成田市まで出向いて、「成田伝統芸能まつり」と併催された「ご当地キャラ成田詣」に参加してきました。
イベント会場の街角をご当地キャラが闊歩する、日常の中に異物がいる不思議な空間を久々に味わうことができました。強烈な日差しでマスク焼けしましたが、対面イベントの良さを満喫したひとときでした。円安の進行やウクライナ情勢など不安材料は残ったままですが、GW後の目立つリバウンドもみられず、夏に向けてこのままコロナ禍が収束していくことを切に願います。

さて、これまで2年にわたって掲載してきたこの連載も、今回から第二部になります。
マンガIP活用の可能性について、定量調査テータ分析やSNSによるソーシャルリスニング、ターゲットとなる若者層や関係者へのインタビューなど、今まで以上に生の声を可視化する方向性で解説していきますので、よろしくお願いいたします。

初回は、最近のヒット作品の支持状況について、2021年11月に実施した「キャラクター定量調査2021」の結果を用いて紹介します。

好意度上位30キャラクターのうちマンガ系は3分の1を占める

本調査は日本国内に居住する男女3~74歳の1,165名を対象として、2021年11月5日(金)~10日(水)に実施しました。調査実施機関は「楽天インサイト」で、園児・保育園児~小学生(+中学生の一部)は、母親が子どもの回答を聞きながら代理記入しています(図表1)。

図表1. 「キャラクター定量調査2021」調査概要

まず、好きなキャラクターを3つまで自由に書いてもらった結果(純粋想起と呼ばれる測定方法です)を紹介します。男女3~74歳の1,165名から全部で404のキャラクター名が書かれており、それらを作品単位でまとめた上位50作品のランキングが図表2です。

図表2. 好きなキャラクターランキング(純粋想起:作品単位)

この形式での定量調査を実施するようになった2000年代半ば以降、初めて「ポケットモンスター」がトップを獲得した点が目を引きます。
ファンシー系やゲーム系に交じって、マンガ原作系(青色表記)は、2位「ドラえもん」を筆頭に上位10位中3作品、上位30位中10作品がランクインしています。
「鬼滅の刃」は4位と、前年の5位に続いて多くの支持を獲得しており、講談社作品では「東京リベンジャーズ」が25位に、「転生したらスライムだった件」が33位、「進撃の巨人」が50位です。

マンガ系は男性全般、特に男子ティーン・ヤングで多くの作品がランクイン

男性の年代別に各上位10作品をみてみました(図表3)。
男性ではマンガ原作系が多くランクインしており、特に男子ティーン(中学生-19歳)やM1(男性20-34歳)では7~8作品とかなり多くなっています。男子ティーンでは、「転生したらスライムだった件」が5位、「進撃の巨人」が7位です。

図表3. 男性・年代別:好きなキャラクターランキング(純粋想起:作品単位)

女子ティーンで「東京リベンジャーズ」が人気

女性の年代別でも各上位10作品をみてみました(図表4)。
女性は各年代ともファンシー系が多くを占めています。その中で、女子ティーン(中学生-19歳)で「東京リベンジャーズ」が5位にランクインしているのが特徴的です。

図表4. 女性・年代別:好きなキャラクターランキング(純粋想起:作品単位)

「東京リベンジャーズ」は女子ティーン・ヤングのマイキー支持が突出

純粋想起による好意度ランキングで上位になった講談社の3作品を対象に、具体的にどのキャラが記入されたかを確認してみました。2名以上から記入されたキャラ名を以下に記します。

「東京リベンジャーズ」 (計17名)
佐野万次郎(マイキー):4名 (女子中学生1、女子高校生1、女20代2)
花垣武道:2名 (男子高校生1、女子中学生1)
龍宮寺堅(ドラケン):2名 (男30代1、女子中学生1)
場地圭介:2名 (女子小学4-6年生1、女40代1)

「転生したらスライムだった件」 (計12名)
リムル:6名 (男子中学生1、男子高校生1、男子大学生1、男20代1、女子小学4-6年生1、女30代1)

「進撃の巨人」 (計7名)
エレン・イェーガー:3名 (男子高校生2、女子高校生1)
ヒストリア・レイス:2名 (男子小学4-6年生1、男子高校生1)「進撃の巨人」 (計7名)

「東京リベンジャーズ」で、佐野万次郎(マイキー)が女子ティーン・ヤング4名と多くの票を獲得して、主人公の花垣武道や龍宮寺堅(ドラケン)を上回っている点が目を引きます。また「進撃の巨人」で、主人公のエレン・イェーガーと、この頃はそれ程出番が多くなかったヒストリア・レイスが複数票を得る一方で、以前人気だったリヴァイの名前が挙がってこなかったのが意外でした。

「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」は、支持層がほぼ重なる

続いて、「東京リベンジャーズ」「進撃の巨人」、あと比較材料として「鬼滅の刃」「呪術廻戦」を対象に、キャラクター名(作品名)を呈示しての好意度の性・年代別結果を紹介します(図表5)。
横棒グラフ中のスコアはTOP2 BOX(4段階評価のうち「好き」+「やや好き」と答えた人の割合)による好意度で、当該キャラクターの非認知者も含めた全数ベースで算出しています。

「東京リベンジャーズ」は純粋想起による好意度と同様に、女子ティーン(中学生-19歳)からの支持が突出しており、次いでM1(男20-34歳)、男子ティーン(中学生-19歳)、F1(女20-34歳)からも支持されています。女性からの支持は、昨年のテレビアニメと、人気俳優陣による実写映画によるものと考えられます。
「進撃の巨人」は、M1(男20-34歳)からの支持が突出しており、次いでM2(男35-49歳)、男女ティーン(中学生-19歳)、F1(女20-34歳)からも支持されています。

「鬼滅の刃」は殆ど全ての性・年代から支持されており、特に男女キッズ(園児・小学生)と女子ティーン(中学生-19歳)、M1(男20-34歳)、M2(男35-49歳)の支持が圧倒的です。
「呪術廻戦」は「東京リベンジャーズ」と支持年代がほぼ一致しており、男女キッズ(園児・小学生)では上回っています。女性に支持される連載中の少年マンガ作品として、どちらも今後が期待できそうです。

図表5. 少年マンガ各作品の性・年齢別好意度(「好き」+「やや好き」)

今回は以上です。
2021年11月は、コロナ禍も2年目を過ぎてワクチン接種が進み、前年よりは世間が落ち着きを取り戻しつつあった時期です。自宅で楽しめる気軽なエンタメとして、インターネットによる電子コミックやテレビアニメのサブスク制配信も普及が進みました。
雑誌連載や本放送で見逃した、または地方のため放送されなかった作品を見られる機会や手段も増えてきた中、これらの人気作品がどう評価されているのか。次回は同じく「キャラクター定量調査2021」結果から、作品の「提供体験」をキーワードに紹介する予定です。どうぞお楽しみに。

<第1部バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
第16回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編)
第17回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(2.5次元舞台編)
第18回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(聖地巡礼編)
第19回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(美術展・展示会編)
第20回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(屋外・交通広告編)
第21回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コスプレイヤー編)
第22回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・前編)
第23回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(動画配信サービス・ 後編)
第24回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(スポーツコラボ編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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