2021.08.24
接点別にみたマンガ活用プロモーション(コラボカフェ編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第16回>
緊急事態宣言の中、57年ぶりに東京オリンピックが開催されました。開催の是非や開会式・閉会式の内容などを巡って賛否が大きく分かれましたが、ホーム開催による地の利や、スケートボード・サーフィン・フリークライミング・空手など新設競技種目の健闘もあって日本のメダル獲得数は過去最多、巣ごもり生活でリアルタイム視聴率が軒並み好調という結果になりました。
直接観戦は叶わずとも、TVやSNSを通して、国や性別・年代を超えてアスリートが互いを称え合う様子を垣間見ることが出来て印象的でしたが、皆さんはどうお感じだったでしょうか。
先月はマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントのうち、コンビニエンスストアについて以下の内容をまとめました。
- コンビニのヘビーユーザーは20~50代男性
- コンビニでのキャンペーンやコラボグッズは、キッズや女性をコンビニに呼び込むトリガー
- コンビニをキャラクターの接点として使う際に留意すべきポイント
- 店頭や店内での視認性アップを工夫する
- 作品の世界観やキャラクターの設定を十分に理解した内容にする
- 購入したくなるきっかけや言い訳を用意する
- コンビニヘビーユーザーやキャラコアファン以外への発信・共有を図る
今回は、主要接点別のマンガを使ったプロモーションの事例と展開上のポイントとして「コラボカフェ」について解説します。
作品の世界観や推しキャラを体験しながら飲食できる非日常空間
コラボカフェとは、キャラクター、アーティスト、映画、アニメ、ゲームなど様々なコンテンツを題材とした飲食メニューを提供するカフェのことで、作品とのコラボを主体とした専門カフェ(アニメイトカフェやLEGSの店舗など)と、一般飲食店と話題作品のタイアップによるメニュー展開(パルコなど)が併存します。
諸説ありますが、2000年代前半には特設カフェやメイド喫茶、カラオケ店舗などでアニメコラボメニューの提供が始まっていたようです。基本的に期間限定で、作品の世界観やキャラクターを店内装飾やオリジナルメニュー、特典、グッズ、店員などで徹底再現し、ファンが没入できる非日常空間を提供している点が大きな特徴です。
一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2020」によると、アニメ関連のライブ、イベント、2.5次元ミュージカル、ライブビューイング、施設・展示会、カフェなど"コト消費"の売上を合算した「ライブエンタテインメント」の市場規模は、2018年で774億円、2019年で844億円です。その中でコラボカフェは2018年で80億円と、まだシェアは小さいながらも過去4年間で4倍と急伸しています。一般飲食店より客単価がかなり高いこともあり、海外でも通用するビジネスとしても注目されています。
コラボカフェの主な客層はコアファンの若者
ここで、2020年9月に日本全国の男女3-74歳2,000名を対象に実施した「キャラクター定量調査2020」結果から、コラボカフェの訪問経験を紹介します。(図表1)。
図表1.性・年齢別:キャラクターコラボカフェ訪問経験
「キャラクターとコラボしたカフェ・飲食店」の訪問経験者は男女3-74歳全体の14.6%。最も多いのはF1(女20-34歳)とM1(男20-34歳)です。メニュー価格が総じて高めなこともあってキッズの訪問経験は少な目です。
続いて、どんなタイプのファンがコラボカフェに来るのか? についてです。キャラクター全般への好意度とマンガ全般への好意度で分類したファンタイプ別で、「キャラクターのカフェ・飲食店」の訪問経験を比較してみました(図表2)。
図表2.キャラクターファン・マンガファンタイプ別:キャラクターコラボカフェ訪問経験
キャラクターのコアファンおよびマンガのコアファン(それぞれ「キャラクターが好きなほうである」「マンガが好きなほうである」の質問に、「かなり当てはまる」と回答した人:男女3-74歳全体に占めるシェアはともに約15%)では、コラボカフェの訪問経験が4割近くに達しており、ライトファン(同質問に「まあ当てはまる」と回答した人)以下の層を大きく引き離しています。
この結果から、コラボカフェはキャラクターやマンガにかなりの思い入れやこだわりを持つ層が集まる場所であり、彼らや彼女らの熱い思いに応える体験の提供が、顧客満足度と売上確保を両立させる上で不可欠であることがわかります。
キャラクターとの接点としてコラボカフェを使う場合に留意すべきこと
数は少なくとも熱いファンが多いキャラクターを選定する
コラボカフェは、路地裏や雑居ビルの中など立地条件が悪くても、また価格が多少高くても、SNSなどから熱心なファンが情報を嗅ぎつけてやってくる場所です。
しかし客数の多寡や売上は、選定するキャラクターによって大きく違ってきます。特にコロナ禍で不要不急の外出制限が要請されている今の状況では、逆境を跳ねのける熱烈な支持があることが望ましいです。また「これまでコラボ展開は少ないものの、通受けしながら拡がりつつある」などの成長性も、いち早く着目したいところです。
なお熱心なファンが多くても、中高生など自由に使える金額が限られる客層がメインのキャラクターの場合は、オリジナルメニューやグッズを安価に近づける工夫も必要です。
作品の世界観やキャラ設定を十分に理解して準備を
「進撃の響宴 ~ACT.1~」 (2020年Mixalive TOKYOで開催)で提供されたコラボカフェメニュー
コラボカフェに来るファンの、作品や押しキャラに対する要望は極めて高いものです。オリジナルメニューやグッズの掘り下げが甘いと、決してファンの満足は得られません。コアファンが「なるほど!」と膝を打つ、こだわりやユーモア、ウィットに富んだネーミングやビジュアルでメニューやグッズ、特典を用意すべきです。
記念になって実用性もあるグッズ(たとえばコースターやマグカップ、グラス、プレートなど)のラインナップには、「まさか、こんなセリフやシーンを使うとは」と驚かせ、運営側にも熱心なファンがいることを実感させたいところです。コアファンの共感やリスペクトを得るうえで効果があります。
がっかり感につながるグッズの欠品は極力避けるべきです。全ては無理でも、すぐに増産できるものをスタンバイしておくべきでしょう。
接客には特に気を配る
メニューやグッズが良くても、接客担当店員の対応が不十分だと、せっかくカフェに来てもらってもリピーターにならないばかりか、SNSで不満をぶちまけられて、強烈なネガティブキャンペーンになる恐れがあります。付け焼刃での対応が難しい領域ですが、おひとり様や、注文時の店員とのコミュニケーションが苦手な来店者も多数存在することをふまえることが大切です。
顧客に寄り添う接客を指揮するスタッフの確保や、レクチャーによってあらかじめ作品に対する知識やポイントを共有するなどの万全な準備によって、素敵な空間を演出し、来店客の高揚感を高めることができます。
店員が登場キャラのコスプレをするなどの施策も有効ですが、その店員に作品への愛着や理解がないと、効果は半減するかもしれません。
SNS映えを意識して、コアファン以外への発信・共有を図る
こだわりと楽しさを兼ね備えた店内装飾、オリジナルメニュー、特典、グッズ、店員などは、可能な限り撮影OKにし、SNS映えする材料として随時提供します。キャラと一緒に撮影できるフォトスポットを用意して、おひとり様やカップル向けに店員が撮影を申し出るなどの行動もすべきでしょう。画像を伴う体験は、このネガティブな社会環境下でもコアファンが訪問したいと強く思うきっかけとなります。さらには、ライトファンをも惹きつける材料になり得るでしょう。
講談社の最近のコラボカフェ事例
最後に、講談社の人気マンガ・キャラクターを使ったコラボカフェ事例を紹介します。
東京リベンジャーズ×アニメイトカフェ
2021年5月19日~6月21日
開催場所:グッドスマイル×アニメイトカフェ秋葉原・大阪日本橋
TVアニメ放送を記念しての施策。9月にはアニメイトカフェ名古屋で、また8月末以降に秋田、愛知、新潟、福岡でも出張版を開催予定。主要キャラが店員風の衣装に身を包んだ描き下ろしイラストのコラボグッズが用意され、コラボフードメニュー案を一般募集する企画も展開。採用されたメニューはこちら。
『SHAMAN KING』 × Chugai Grace Cafe
2021年8月1日~8月15日
開催場所:渋谷MODI 7F Chugai Grace Cafe
作品をイメージしたメニューや、主要キャラがカフェ店員の衣装に身を包んだ描き下ろしイラストを使用したグッズ、またノベルティとしてメニュー注文特典のコースターや、コラボメニュー・グッズ特典のクリアカードなどを用意。
進撃の巨人×Mixalive TOKYO「進撃の響宴 〜ACT.1〜」
2020年9月4日~11月1日
開催場所:Live Cafe Mixa
カフェ・舞台・ライブハウス・グッズショップなど、ライブエンタテインメントが渾然一体となった発信拠点「Mixalive TOKYO (ミクサライブ東京)」のライブカフェ第1弾。コース料理と一緒に、音楽と映像で『進撃の巨人』の世界を楽しめるショーレストランスタイルを展開。
今回は以上です。ここで記した他にも、2021年6月23日~7月26日のカードキャプターさくらカフェbyアニメイトカフェなどが展開されており、コラボカフェが一般化している様子を窺い知りました。
2020年以降のコロナ禍でライブエンタテインメント業界全体が沈み、コラボカフェにとっても厳しい状況が続いています。以前通りとはいかなくても、今より楽しめる状況になることを心から願います。なお前回もお知らせした通り、C-stationにはキャラクターコラボ事例が多数紹介されているので、是非ご覧ください。
次回は、マンガキャラクターを使ったプロモーションとして、同じく最近増えている2.5次元舞台での活用事例について語る予定です。どうぞお楽しみに。
<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)
第14回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編)
第15回:接点別にみたマンガ活用プロモーション(コンビニ編)
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。