2021.08.27

フックと回収エンジンでビジネスを拡大!──ドリームインキュベータが出版社から事業を譲受した理由

アウトドアなどの専門誌を多数出していた老舗出版社、枻(えい)出版社の24メディアブランドを譲り受け、子会社「ピークス株式会社」を再始動させた株式会社ドリームインキュベータ。雑誌の販売部数低迷が続くいま、あえて出版事業に参入した理由は「メディアの持つコアなファンにある」と言います。ドリームインキュベータ執行役員でピークス代表取締役の半田勝彦さんにお話を聞きました。

ドリームインキュベータ執行役員兼ピークス代表取締役の半田勝彦さん

出版社のメディアでファンビジネスを拡充

──民事再生法の適用を申請した枻出版社から24媒体を譲り受け、出版社ではなく「ファン・メディア・スタジオ」(ファン起点のビジネスを創出するカンパニー)として子会社「ピークス」を新たに再始動されました。その目的を教えてください。

半田 メディアに参入したのは、出版にこだわっていたわけではなく、もともと弊社が出資するボードウォークで行っていた「ファンビジネス」(特定の分野に対して高い熱量を持つユーザーを対象とした商品やサービスを提供する事業)を拡張できると考えたからです。

これまで出版社における「読者」というと、紙の雑誌を読む人を指していましたが、現在はデジタルもSNSも含めて広く「ファン」と位置づけることが多くなっています。そう考えると、出版社の買収=コアなファンを抱えるメディアIPを活用したビジネスの買収と捉えることができ、弊社の「ファンビジネス」の延長線上にある事業拡張であると考えています。

特に、出版社を起点としたファンビジネスを展開していくにあたり、エンゲージメントの高いファンを抱えている専門誌は、最強の「フック」になると考えました。

──「フック」とは、具体的に何を指すのでしょうか?

半田 弊社では、ビジネスモデルを「フック」と「回収エンジン」で表現しています。

ピークスに当てはめて考えると、「フック」は差別化を図るメディアIPで、「回収エンジン」はそのメディアIPを活用してマネタイズする事業やサービスを指します。

ドリームインキュベータ社では、ビジネスモデルを「フック」×「回収エンジン」で表現し、
そのビジネスモデルにより利益を創出するというフレームワークがある


「フック」と「回収エンジン」のフレームで成功した、ファンビジネス

──すでに成功している御社のファンビジネス、電子チケットサービス事業では、「フック」と「回収エンジン」はどのように位置づけているのでしょうか。

半田 株式会社ボードウォークが運営していた「ticket board」は、音楽コンサートなどのモバイル電子チケットサービス事業を展開していました。しかし多くの会員数を抱えているのにも関わらず、チケット販売手数料の利幅が薄く、事業が赤字化しているという課題がありました。

そこで、弊社が資本提携とコンサルを行い、電子チケットをフックとし、そこで得たファンデータを活用して、コンサートグッズ、ツアーDVDの販売、ファンクラブ運営という回収エンジンへとビジネスモデルを転換したところ、約半年で事業を黒字化できました。

これまでのチケット会社のビジネスモデルで考えると、チケット販売を「フック」であり「回収エンジン」に考えるのが一般的でした。ところが、チケット販売でマネタイズしようとすると、利幅が薄すぎて「チケットぴあ」のような大手業者には太刀打ちできないという課題がありました。

そこで弊社は、電子チケットを「フック」にして、グッズやDVD/CD販売、ファンクラブ運営を「回収エンジン」にするビジネスモデルにシフトチェンジしたのです。

「ファンデータを有効に活用することで、事業の黒字化に成功した」と語る半田さん


たとえばある人気アーティストでは、ライブチケットをチケットボードの独占販売としたことで、飛躍的に会員数が増大。その後、ライブにご応募いただいた方にファンクラブの入会申込メールを送付したところ、ファンクラブ会員が4倍に増加し、ファンクラブの会費でも大きな収益を上げることに成功しました。

さらに、チケットに落選した応募者に対しては、ファイナルツアーDVDの案内メールを送付し、大手レコード店に匹敵するDVDを販売しました。店舗を持たず、広告宣伝費もかけず、ツアー終了後にメールマガジンを配信しただけで、大手レコード店より多い販売数を達成できたのです。


「フック」と「回収エンジン」でビジネスを展開

──ピークスのビジネスモデル(出版メディアを活用したファンビジネス)では、どのような「フック」と「回収エンジン」を構築しているのですか?

半田 これまでの雑誌媒体は、「雑誌」がフックと回収エンジンの両方を果たしていたためにビジネスモデルがうまく構築できていないケースも多くありました。

そこで新生ピークスでは、趣味をテーマにしたコアなファンを持つメディアIPをフックに、オウンドメディアの制作支援や、広告・事業開発などの「BtoB事業」と、体験型のイベントやECサイトでの物販、サブスクなどの「BtoC事業」を設けることで、回収エンジンの多角化を行いました。

もともと枻出版社時代からオウンドメディアの制作支援などのブランドスタジオ事業がうまくいっていましたので、それをBtoB事業の基盤にしつつ、弊社との連携によって、さらに回収エンジンの多角化を強化していくと考えています。

メディアIP(フック)でエンゲージメントの高いファンを獲得し、
ファンデータを活かした事業(回収エンジン)でマネタイズする「フック」と「回収エンジン」のビジネスモデル

──特に強化された部分があれば、教えてください。

半田 もともとあった、趣味メディアプラットフォーム「FUNQ(ファンク)」やメディアのECサイトでは、雑誌コンテンツを掲載するだけでなく、読者データや会員情報の管理も行っていましたが、これまであまりデータ活用がされていませんでした。

そこで、これらの読者データを分析し、2021年3月にYouTubeを使った大型オンラインイベント「FUNQフェス」を開催しました。
フェスでは、各専門誌の編集長と、その分野で人気のユーチューバーやインフルエンサーが対談形式でお気に入りアイテムを紹介していくというライブ即売会も配信。ゴルフ専門メディア『EVEN』の編集長が紹介した7万5000円のキャディバッグ50個が即完売するという、驚異の売れ行きをみせました。

FUNQフェスの延べ視聴回数(※)は、約6万再生。視聴者規模としては爆発的に多かったわけではありませんが、非常に高いエンゲージメントを持った「ファン」が集まることが確実に予測できたため、大手企業からの協賛もいただくことができました。

今後はさらに映像分野にも注力し、YouTubeチャンネルなどへの動画投稿数も増やし、認知度とエンゲージメントを高めていきたいと思っています。

※各コンテンツのアーカイブ配信も含む、6月18日時点


「メディアビジネス」から「ファンビジネス」へ

──出版メディアの「フック」と「回収エンジン」で、メディアビジネスはどう活性化していくと思われますか?

半田 ピークスの領域となるゴルフや自転車、登山、釣りなど趣味性の高い専門メディアの読者・ユーザーには、コアなファンが多くいます。エンゲージメントの高いファンは趣味領域での消費額が大きい傾向があるので、回収エンジンを多角化することで、様々なファンとの接点の中で価値提供ができます。

ピークスは出版社ではなく、あくまでファンとの関係性を築き、付加価値の高いサービスを提供する「ファン・メディア・スタジオ」という位置づけです。

ですから、広告ビジネス依存度の高い「メディアビジネス」を展開するのではなく、編集部のコンテンツを作るアイデアや知見、さらにはファンや外部のクリエイターとの深いつながりを活かし、新しい取り組みをしていけたらと考えています。

また、これまでの「出版」では、純広告やタイアップが中心でしたが、「ファン・メディア・スタジオ」では、ファンに興味や共感を持ってもらえる視点をもとに、クライアントのWEBサイトやオウンドメディア構築・運用をサポートする仕組みも強化しています。

──具体的にはどのような取り組みが考えられますか。

半田 BtoC分野では、企業やKOL(キーオピニオンリーダー)とコラボし、趣味アイテムの商品開発なども一緒に進めています。

加えて、BtoB分野では現在、観光地域づくり法人(DMO)や地方自治体との関係性強化にも力を入れています。たとえばオウンドメディア制作やSNS運用に力を入れている地方自治体の職員を出向で受け入れるなどの取り組みを行っています。出向者にスキルや知見を共有・育成し、将来的には自分たちでコンテンツ制作ができるようにサポートをすることで、ローカルファンを増やすお手伝いができると思っています。

今後は業務提携のような形で、他社のメディアIPとの連携も強化していきたいとも考えています。提携する他社IPをフックに、自社の回収エンジンでマネタイズできるような横展開でスケールさせていくことを考えていきたいです。

「1st. Party Dataの価値が高まる中、ファンビジネスの重要性はますます高まる」と半田さん

講談社が提供する各種プロモーションサービスのご利用に関するお問い合わせ・ご相談はこちら