2021.06.23

マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (クリエイティブ事例編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第14回>

関東も梅雨入りし、開催時のコロナ対策など詳細は未だ不透明ながら、東京オリンピックがいよいよ現実的になってきました。ワクチン接種が進んで、一刻も早く日常が戻ってくることを心から祈ります。
先月はマンガを使ったプロモーションに際して考えるべきことのうち「マンガの読まれかたが変わってきている中で、コア体験を強化することの重要性」として、以下の内容をまとめました。

  • 読者の嗜好性多様化で、マンガ雑誌の当初の境界線やジャンルが曖昧になっている
  • 電子コミックの普及で、マンガの読まれかた・楽しみかたが大きく変わった
  • 読者によって異なるコアな体験価値をプロモーションで強化することが拡散のカギ
  • ターゲットが共感した設定・世界観をいかに追体験させるかが重要

今回は、マンガを使ったプロモーションに際して、作品の魅力である設定や世界観を尊重したコラボキャンペーンなどのクリエイティブ事例について解説していきます。

耐久経験消費財としての性質を持つキャラクターグッズ

共同研究でいつもご一緒させていただいている大阪府立大学の荒木長照教授が、2002年に「耐久経験消費財としてのキャラクター」で提唱したように、キャラクターは以下の性質を持つとされています。

  1. キャラクターは、単純化されたわかりやすく安心できる「人造パーソナリティ」で、回想や心地良い感情を運んでくれるメディア的性格を持つ
  2. コンテンツやグッズを通して長期にわたりキャラクターとの接触を繰り返すことで、キャラクターそのものの魅力に消費者の経験が付加され、キャラクターの価値が増していく
  3. キャラクター忘却やグッズ廃棄が訪れるまで効果が持続する、耐久消費財的性格を持つ
  4. キャラクターが心地よい感情も一緒に運んでくれるので、そのままでは伝わりにくく関心を持ってもらいにくい、商品・企業や自治体・団体などのメッセージでも格段に伝わりやすくなる

これらの性質は、マンガやアニメのコンテンツおよびグッズに限らず、日々触れるキャラクター関連のスマホアプリやキャンペーンについても当てはまります。活用効果を高めるには、いかにキャラクターに接する機会を増やし、魅力的な体験を持続させるかが重要です。
それでは、少年マンガ・青年マンガ・女子マンガそれぞれについて、効果的なマンガ作品活用事例や、最近展開された事例をご紹介しましょう。

こだわり抜いたコラボグッズで、SNS拡散や店舗・ECサイト誘引につなげる

少年マンガ活用事例 : 進撃の巨人、五等分の花嫁

「リソル生命の森 × 進撃の巨人」は、アウトドア施設が話題性・独自性の不足、稼働率改善、新規顧客開拓などの課題を解決するため、「進撃の巨人」の話題性を見込んだ起用例です。
作品の舞台と共通した施設環境や『立体機動装置』に似た実際の装具などからヒントを得て、キャラクターパネルなどの設置物やコスチュームなどで「なりきり体験」を促し、作品の世界観に没入できる仕掛けを多数用意した点が興味深いです。
クライアントのトップやスタッフが作品の大ファンであったため、作品の魅力やコアな体験価値をよく理解していたことがポイントで、こだわり抜いたコラボグッズやカフェメニューの開発により、客単価がアップした点も特筆されます。

リソル生命の森事例写真

リソル生命の森グッズ写真

他にも「進撃の巨人」とのコラボ商品は数多く展開されていますが、中でもお酒の通販サイト「KURAND」が2021年6月11日~7月7日の期間限定で発売した「マーレ産の赤ワイン」が異色です。コラボグッズとしては比較的高額ですが、作中で重要な役割を果たすアイテムを再現していて、購入特典の憲兵団ロゴ入りワインオープナーも含めてコレクター心理をくすぐります。注釈で書かれた「※この赤ワインを飲んでも巨人にはなりません」などのシャレも効いた、コアファンに刺さるユニークな商品です。

「五等分の花嫁」は2022年に劇場版映画での続編公開が発表され、男子ティーン・ヤング+女子ティーン向けにコラボグッズが多数展開されています。しまむら、ヴィレッジヴァンガード、ドン・キホーテ、タワーレコードなどのアパレル・雑貨店舗では、Tシャツ、缶バッジ、アクリルキーホルダーなどのグッズが発売されました。またスマホゲームアプリのコロプラ「白猫テニス」との期間限定コラボでは、ゲーム内への登場やガチャ、Twitterキャンペーンで抽選賞品が用意されています。

五等分の花嫁

グッズやアプリを通して作品魅力の源泉である五つ子に日常的に触れ、ファン同士のコミュニケーションツールとしても機能することが、推しキャラへの愛着を強化しています。その際にはファンが納得する各キャラのイメージを尊重することが不可欠で、描き下ろしイラストや、名セリフや名シーンとセットにしたグッズやアプリを用意する工夫が、ファンの愛着を高めグッズ購入を促す手段として有効となっています。

独自性の高いキャラクターグッズを用意することは、SNSでの拡散はもちろん、安価なグッズをきっかけにして店舗やECサイトに誘引、ついで買いも促進できるため、副次的な意味も含めて効果的です。ドン・キホーテでは「進撃の巨人」の描き下ろしグッズも販売されており、同様の効果を狙った施策と言えます。

原作マンガ独自の世界観をオリジナルコンテンツやイベントで増幅、自然な形で理解・啓発

青年マンガ活用事例 : 島耕作、はたらく細胞

「長野県 × 島耕作」は、せっかく作った企業誘致PR特設サイトのアクセス数が伸びない、説明が難しい、情報がいろいろなWEBサイトに散在している、などの課題を解決するため、長野県が「島耕作」の抜群の認知度を見込んで起用した事例です。
企業誘致のメインターゲットである都市部在住50~60代経営者にとって、島耕作が"身近な"存在であったことが決め手でした。難しい行政用語や複雑な制度解説も、本編マンガそのものと見まがうコマ割りや登場キャラクター同士のやり取りによる自然なストーリー、キャラクターが実際に会話しているような流れで、長野県の魅力を説明している点がユニークです。

島耕作✕長野県 事例画像

「はたらく細胞」は、独自の役割と個性を持つ細胞が擬人化されて多くのスピンオフ作品が展開され、多くの男女ティーンおよびM1層(男20-34才)から高く支持されています。
「細胞のはたらきを楽しく学べる」という作品の独自価値を活かしたコラボが多数展開され、アニメ「第11話 熱中症」のアナザーストーリーとして2019年7月に大塚製薬ポカリスエット公式サイトで公開された「第11.5話 熱中症~もしもポカリスエットがあったら~」は、熱中症への理解と対策を啓発する取り組みとして注目されました。

はたらく細胞事例画像

最近でも2021年GW期間中にららぽーと4施設 (磐田 / 沼津 / 名古屋 / 愛知東郷)で、細胞の"はたらき"を学べるスタンプラリーなどのコラボイベントが開催されました。コアファン向けでは、2021年3月30日~4月29日にキャラウムカフェ池袋でコラボカフェが開催されて、キャラ設定と世界観を活かした独自メニューやグッズ、ノベルティが提供されました。
また、全国のイオンとイオンスタイルで2021年4月23日から発売中のコラボアパレル・グッズでは、サンリオデザインプロデュースで人気キャラたちが可愛くデフォルメされ、女性層へのさらなるアピールも図っています。

共感できるナビゲーターとして、ターゲットの苦手意識を払拭することも可能

女子マンガ活用事例 : 東京タラレバ娘、美少女戦士セーラームーン

「丸井グループ × 東京タラレバ娘」で、投資信託販売"つみたてNISA"の見込み顧客として、ボリュームゾーンである20~30代女性層へのアプローチを考えた丸井グループ 。新規市場開拓の難易度、"金融商品=難しい"という先入観の払拭などの課題を解決するため、「東京タラレバ娘」登場キャラクターの親近感や共感を見込んで起用しました。
ターゲットにとって縁遠く難解さや不安がつきまとう金融商品に対し、関心を惹いて自分ごととして捉えてもらうため、「東京タラレバ娘」を使った知育アプリを展開。生活する上での"お金の管理と備え"の重要性から金融商品の基礎知識まで、登場キャラクターたちがチャット形式でレクチャーすることで、商品理解を深めることに貢献しました。同世代で親しみや共感を持てるキャラクターが自分たちに向けて語りかけるという仕掛けにより、ターゲットの苦手意識を払拭した好事例です。

東京タラレバ娘事例画像1

東京タラレバ娘事例画像2

2021年1月から劇場版「美少女戦士セーラームーン Etarnal」が公開された「美少女戦士セーラームーン」は、ローソンでコラボ飲料・食品を多数展開して全国の店頭を賑わせました。さらにコアファンが多いF1層(女20-34才)向けに、ANNA SUIやメイベリンとコラボし、セーラームーンの世界観を活かしたアクセサリーやコスメを展開しました。
連載第10回でも記したように、キャラクターとともに成長した大人の女性にも映える見た目や品質を持ち、体験価値強化に役立つグッズを用意した点が特徴的です。

「アテンションゲッター」「ナビゲーター」「ソーシャルコミュニケーター」など、目的に応じた役割を

企業が抱える課題解決のために、マンガキャラクターを使ったプロモーションなどの活動を行う際には、キャラクターにどんな役割を担わせるかを最初に考える必要があります。そこで、キャラクターが持つさまざまな役割を、以下の三段階に整理してみました(図表1)。

コミュニケーション目的に応じたキャラクターの役割変化・重層化

図表1. コミュニケーション目的に応じたキャラクターの役割変化・重層化

今回ご紹介したコラボグッズやイベント、キャンペーンの多くは、情報伝達にあたっての最初の段階である、注目を集める「アテンションゲッター」として、特定の性・年代など狙うべきターゲットの認知を高める役割を期待されての起用です。
「長野県 × 島耕作」と「丸井グループ × 東京タラレバ娘」は、「ナビゲーター」としての活用です。ターゲットが特に親近感や共感を持つキャラクターからの語りかけによって、メッセージや商品内容への興味や理解が大きく促進されることを企図しています。
そして「ポカリスエット × はたらく細胞」は、熱中症への理解と対策を啓発するシンボルとなる「ソーシャルコミュニケーター」としての活用です。こちらも、キャラクターを使ったストーリー仕立てで説明することで、自分や家族のため熱中症予防に気を付ける意識が高まるものと思われます。SDGsやコロナ禍の新しい生活習慣など、啓発領域でのキャラクター活用は増加しています。ストーリーと共に訴求できるマンガキャラクターのポテンシャルは、特に大きいでしょう。

しかし、キャラクターを起用すればよいというわけではありません。今の世の中では、店頭にもWEBサイトでもSNSでもキャラクターが溢れています。「アテンションゲッター」として活用しても、注目を集めるフェーズで苦戦することがままあります
そこで、生活習慣としての接触機会が多い新聞広告や、通勤・通学導線上の屋外広告(OOH)など、ネット以外の媒体を使って大胆かつユーモアやウィットを感じさせる展開を設計することなどを考えるとよいでしょう。話題性を高めてSNS拡散を促し、接触者のリーチを広げる上で有効です。

たとえば、「進撃の巨人」完結巻発売当日の2021年6月9日に掲載された朝日新聞朝刊の嘘予告「一瞬日本に転生した上で死んで異世界転生したオレはちょっと巨人化してみたら一斉に手のひら返しでみんなからチヤホヤされた件」や、2021年6月7日~13日にJR新宿駅の東西自由通路大型LEDビジョンで展開されたスペシャルムービー「感激の巨人」は、その好例といえるでしょう。

今回は以上です。C-stationにはキャラクターコラボ事例が他にも多数紹介されているので、是非ご覧ください。
次回は、マンガキャラクターを使ったプロモーションとして、コンビニエンスストアでの活用事例について語る予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応
第13回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編)

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。

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