2021.05.21

マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと (コア体験の強化編) | マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第13回>

昨年同様、今年も我慢のゴールデンウィークでした。自宅でテレビを点けている時間が増える中、電子コミックアプリ各社のテレビCM大量出稿に気付いて、マンガに関するビジネス領域が大きく変わったことをあらためて実感した次第です。
先月は番外編として、2021年4月9日に11年7ヵ月におよぶ連載が最終話を迎えた「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応をご紹介し、以下の考察をまとめました。

  • 「進撃の巨人」がティーン・ヤングに与えた体験は、非日常感、ワクワク感、なりきりやすさ
  • 2013年から始まったテレビアニメ化が人気の起爆剤に
  • 巧妙な伏線の考察・回収が、作品への没入感や盛り上がりを加速
  • Twitterでもマンガ原作最終回前後の熱狂ぶりが確認された
  • SNSを盛り上げるのはファン&キャストの書き込みとオリジナルイラスト

筆者も6月9日の単行本最終巻発売を楽しみにしています。

さて、今回はマンガを使ったプロモーションに際して、原作マンガの発信環境や設定・内容をどう活かしていくべきかについて解説していきます。

電子マンガを購読する女性

電子コミック普及で変わってきたマンガの読まれ方・楽しみ方

まず、マンガの発信環境から見ていきましょう。

掲載誌のタイプ

現在出版されているマンガ雑誌は、メインターゲットで分類すると児童誌、少年誌、青年誌、少女誌、女性誌。刊行頻度で分類すると週刊誌、隔週刊誌、月刊誌、季刊誌など、様々なタイプがあります。今は少年誌も30代以上男性の読者が一般的になり、ドラマ化をきっかけにオトナ女子の青年誌購読も珍しくなくなるなど、当初の境界線が曖昧になっています
人気作品の掲載誌は発行部数が多くなって新人や若手の作品も一緒に読まれる機会が増えるため、その中から次代を担う柱が成長していく可能性が高まります。ただ、最近は雑誌でなく単行本化された段階で読む「単行本派」や、原作に触れずテレビアニメだけ見る「アニメ派」も増えており、新人・若手育成に関する従来のエコシステムが機能しにくくなっているようです。

マンガのジャンル

マンガのジャンルについては、各所で様々な視点から分類されています。例えば C-stationマンガ検索 では、大分類として 1)スポーツ、2)趣味、3)ヒューマン・ビジネス、4)政治・社会、5)恋愛、6)結婚・暮らし、7)SF・ファンタジー、8)動物・ペット、9)その他 が設定され、2)趣味 を例にすると、車・バイク /釣り /音楽 料理 グルメ 旅行 ゲーム ギャンブル 文化・芸術 に細分化されています。
最近は複数ジャンルを掛け合わせたものが多く、一大ジャンルとして定着した異世界転生ものに限定しても、学園、バトル、アイドル、料理・グルメ、職人、政治・経済など異なる要素を交えて展開されるものが多数ありますが、これは読者の嗜好性が多様化したゆえの結果です。単純な娯楽や息抜き、爽快感だけでなく、知識・教養、生きるための行動指針や哲学としても楽しめるような作品もあり、それぞれに熱心な読者が付いて、ターゲットを踏まえたクロスメディアやコラボ展開が盛んです。
例えば「頭文字D」は実在のクルマを多数登場させた「公道バトルもの」ですが、ミニカー・プラモデル・ゲームなどの商品化だけでなく、群馬県をはじめとした関東各地を聖地巡礼する材料にもなり、また数多くのマンガ・アニメでパロディや二次創作が作られる広がりを見せて久しいです。

提供メディア

スマホと定額料金サービスの普及に伴って急拡大中の電子書籍市場全体で、マンガ(電子コミック)が占める割合は9割近くと圧倒的です。無料・試し読み、サブスク型など様々なサービスがアプリやブラウザで用意され、電子コミックのみで公開されるオリジナル作品も増えています。
昔からのコアファンにとって、出版されたマンガ雑誌や単行本は今もコレクターズアイテムとして大切に保存すべきものです。逆にライトファンや若手世代には、電子コミックは持ち運びや読み終えた後の廃棄に煩わされる面倒がない利便性が支持されているようです。
マンガの電子化は、移動中・休憩中などのスキマ時間を有効活用でき、さらに森林資源の保護や、コロナ禍の巣ごもり生活でも手軽に楽しめるなど、様々なメリットがあります。これらを考えると、今後さらに進んでいくことでしょう。
電子コミックアプリによっては、小さなスマホ画面での読みやすさに配慮して縦スクロールで読めるよう各コマを縦に並べ直して配信しているものもあります。オリジナル作品のページレイアウトによる見た目や、行間に込められた作者の想いを重視する方にとっては違和感があるでしょうが、これもWEB時代のひとつの方法であり、マンガの読まれ方自体が大きく変わっていることを示しています。

以上のように原作マンガの発信環境が多様化し、特に電子コミックや定額制動画配信サービスが普及した現在、気になったマンガを好きな時に一気読みすることも容易です。またアニメ・ドラマ・映画などの映像化や、ゲーム化(特に既存人気ゲームアプリへのコラボ出演)、作品展、コラボカフェなどのクロスメディア展開によって、ファンの拡大や熱狂度が可視化されやすくなっています。これらは新作マンガに限らず、以前流行った、あるいは時代と合わずに埋もれていたマンガが脚光を浴びる絶好の機会でもあります。

マンガが提供するコア体験

当連載の第2回ではキャラクター全般が読者に提供する体験価値、第8回では個別マンガ・キャラクターが読者に提供する体験価値について、コレスポンデンス分析を用いて紹介しました。
今回は、マンガのジャンルとも密接に関係するコアな体験価値の提供について、最新の調査結果(『キャラクター定量調査2020』※2020年9月全国男女3-74歳2,000人に実施)から、以下の傾向を整理しました(図表1)。

図表1. 好きなキャラクターに接することで、どんな気持ちになりたいか(コレスポンデンス分析)

図表1. 好きなキャラクターに接することで、どんな気持ちになりたいか

今回も前回とほぼ同様の傾向を示しましたが、以下に要約します。

  • 男女園児は好きなキャラクターになりきる"ごっこ遊び"で友達とのコミュニケーションが活性化。この年代は男女の違いが少ない
  • 小学校低学年になると男女の差は拡大し、男子はなりきりでカードゲームなどに明け暮れる。一方、女子は他者の目を意識するようになって、キャラクターグッズが自己表現や友達の証を表すコミュニケーションツールとして機能、この傾向は女子中高生や20代も同様
  • 男女中学生・高校生は、受験勉強などに追われる生活の息抜き、現実逃避手段として、マンガやアニメ、映画、ゲームなどキャラクターコンテンツの物語・ストーリーや世界観に没入、この傾向は男女大学生や男20代も同様
  • 男性30代以上は、キャラクターが若かりし頃のノスタルジーの象徴
  • 女性20代以上は、職場や家庭・育児の疲れを癒す存在として、キャラクターが存在意義を発揮

コアな体験価値をプロモーションで強化することが拡散のカギ

原作マンガの電子コミック化やアニメ・ドラマ・映画の定額制動画配信サービスが普及・充実することで、スマホやPCさえあればいつでも気になったマンガ・キャラクターコンテンツに接触することが可能な環境になっています。その時に、自分も読んでみよう、観てみようという態度を明確にし、行動を一押しするのは、身近な人たちや一目置く人たちのポジティブな感想です。キッズであれば周りの友達や兄弟、ティーン以上であればSNSやYouTubeでつながっている仲間、特にその道の専門家・事情通などインフルエンサーがどれだけお勧めしているか、実際にコンテンツに接した人のコメントがどれだけ熱いか(今どきの言い方で言うと、"ヤバい!""エモい!"など)、自分に刺さるかが重要です。

図表1で紹介したように、性・年代によって求めるコアな体験価値の方向性は異なります。このような価値を構成する要素をいかに効果的に組み合わせ、強化するか考えることで、上記の反応が違ってきます。コラボグッズやイベント企画、キャンペーンなどのプロモーションが効果的に機能し、追体験・拡張体験などの形で提供体験を強化できた場合は、驚きや共感が拡散を促す原動力となります。元のマンガ・キャラクターコンテンツの魅力を高め、ファン拡大や熱狂度を高める起爆剤になることもあり得ます。

ターゲットが共感を覚えた設定・世界観を追体験させよう

マンガのコア体験と、それを取りまく価値構成要素の関係を表す概念図を、図表2で示してみました。

図表2. マンガのコア体験を強化拡張するために考慮すべき要素

図表2. マンガのコア体験を強化拡張するために考慮すべき要素

ここには記載していませんが、アニメ化・ドラマ化・映像化・そしてゲーム化も、原則として追体験や拡張体験を強力に促す「コンテンツ強化手段」であることを補足しておきます。

ではここで、少年誌におけるバトルマンガを想定してみましょう。このジャンルでは、仲間や敵の魅力を引き出し、ストーリーへの没入感や臨場感・一体感を高めて追体験や拡張体験を促すことが有効です。そうすると、例えば以下のような複合的なプロモーションが考えられます。
そうすると、

●園児・小学校低学年などキッズ向け

  • 「ごっこ遊び」に夢中になるこのターゲットには、そのための武器や変身・強化アイテムなどを提供

●小学校高学年以上のティーン向け

  • 「なりきり欲求」が強いこのターゲットには、個人でも友達同士でも遊べるカードやアプリなどのゲームを用意
  • さらにコンビニや書店で、商品や雑誌を買うと付いてくるキャンペーンとしてそれらの派生アイテムを提供

というように、マンガそのものや関連商品の購入を促進するプロモーション構造を描くことができます。

2000年代に流行った飲料にボトルキャップを付与するスーパー・コンビニでのキャンペーンは、クオリティと原価・スケジュールの両立が厳しくなって今はあまり見かけなくなりました。しかしスマホ向けに、目覚ましやカレンダーなど実用性が高いアプリと共にレアキャラの画像や音声を提供するなど、デジタル上の施策は以前よりも現実的になっているかと思います。

今回は以上です。次回は、作品の魅力である設定や世界観を尊重したコラボキャンペーンなどのクリエイティブ事例について解説する予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
第12回:《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務で活動中。

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