2021.04.20
《番外編》「進撃の巨人」が読者に提供した体験とSNSでの反応| マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第12回>
新年度が始まりました。「まん延防止等重点措置」が多くの地域に広がって不安を煽る報道も続きますが、緊急事態宣言であらゆるイベントが中止・延期された昨年の今頃と比べると、少なくともマスク生産は行き渡りました。ワクチン接種の進行を待ちながら、焦らずにwithコロナの時代を過ごして行こうと思います。
前回お知らせした通り、4月14日に東京ビッグサイトで開催された「ライセンシングジャパン」で、日本キャラクター大賞2021表彰式が行われ、プレゼンターを務めてきました。大方の予想通りグランプリは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」で、昨年の「TVアニメ『鬼滅の刃』」に続く快挙です。公開178日の4月12日時点で興行収入が396億円を超える新記録を更新し続けており、文句なしの受賞でした。
プロダクト・ライセンシー賞で「キャラクター30枚入BOXマスク」が選ばれたのは2020年を象徴する出来事ですし、キャラクターライセンス賞の「ディズニーツイステッドワンダーランド」と「TVアニメ『呪術廻戦』」、ニューフェイス賞の「クマーバチャンネル」など、今後が楽しみなキャラクターも選出されています。選考委員特別賞の「機動戦士ガンダムシリーズ」、リテイル賞の「miffy style」、プロモーション・ライセンシー賞の「クレヨンしんちゃん×クラフトボス」など、定番キャラクターの設定・世界観を活かすプロモーション企画で、コアファンの維持と新たなファンの獲得を両立しながらビジネス拡大していった試みが評価されたのも、喜ばしいことです。選定委員の1人として立ち会えて光栄でした。
さて、前回はマンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)として、以下をご紹介しました。
- 作品のポテンシャルを測るターゲットの「ボリューム」として、定量データが企画実現に向けての重要な材料となる
- マンガを使ったプロモーションを考える際には、ターゲットの性・年齢・職業・年収・居住地・家族構成など「デモグラフィック属性」を参考にしながら、男性向けか女性向けか、キッズ、若者、大人、どの年代向けかを検討していくべき
- マンガ・アニメへの愛着度や出費額など「サイコグラフィック属性」を確認しながら、メジャー作品では広く浅い層向けに対して流行っている感を創出すること、ニッチな作品では、尖ったコアファンを満足させることが重要
今回は第二弾として、作品の魅力である様々なマンガの設定や世界観をどう尊重し、発信環境に応じてどのようにプロモーションを展開するべきか、基本的な考え方についてお伝えする予定でした。
しかしこちらは次回とさせていただき、今回は2021年4月9日に11年7カ月におよぶ連載が最終話を迎えた「進撃の巨人」について掘り下げることにしました。
2014年3月に電子書籍アワードの電子書籍大賞を、2014年6月に日本キャラクター大賞(当時はLicensing of the Year in JAPAN)のライセンシング・エージェンシー賞を受賞し、原作コミックスの世界累計発行部数が1億部を突破した「進撃の巨人」。掲載誌の別冊少年マガジンは即時完売・重版が決まりました。今回は定量調査結果やTweetから、「進撃の巨人」が読者にどんな体験を提供したのか、どんな反応をもってフィナーレを迎えたのかをご紹介します。
「進撃の巨人」がティーン・ヤングに与えたインパクト
図表1は、「進撃の巨人」に接することでどんな気持ちになるのか、2020年9月中旬に全国の男女3-74才2,000人に実施した「キャラクター定量調査2020」を用いて、性・年齢別にまとめた結果です。
図表1. 性・年齢別:「進撃の巨人」による提供体験(2020年9月調査結果)
全般に「別の世界に入り込める」「日常では味わえないスリルや冒険を感じられる」などの《非日常感》や、「ワクワク・ドキドキする」「気分転換できる」など《元気・楽しさ・ワクワク感》、「同じキャラクターが好きな人同士で盛り上がれる」「夢や希望を感じられる」など《参加・注目・同一視》の項目でスコアが高く、特に男20-34才(M1)を中心とした男女中学生-34才から熱く支持されています。
壁に囲まれた閉塞的な世界で理不尽に襲ってくる巨人への絶望感、そんな中でも全力で立ち向かう仲間たちの絆など、ダーク・ファンタジーとしての設定・世界観と、時折入るユーモア、終盤に向けて壁の向こうにあった複雑な世界情勢など、時間をかけて謎が解き明かされていく展開に驚き、感情移入することで、連載開始時主人公たちと同年代だった層がコアファンとして変わらず支持を続けたものと思われます。
「進撃の巨人」の人気トレンド -アニメ化が起爆剤に-
図表2は、「進撃の巨人」のマンガ連載が開始された2009年9月から2021年4月15日までの、Googleトレンドによる検索数推移です。
テレビアニメ第1期が放送された2013年4月-9月にかけて最大値を記録し、テレビアニメ第1期のオープニング主題歌「紅蓮の弓矢」でLinkedHorizonが紅白歌合戦に出場、実写映画公開などの展開を経て、その後はテレビアニメが放送される度に検索数が上昇しています。そして2020年12月から2021年3月までのテレビアニメ第4期The Final Seasonで検索数が右肩上がりになり、4月は15日までの半月分にもかかわらず、2014年5月以降で最も高い検索数となっています。
図表2. 「進撃の巨人」Googleトレンド時系列推移(2009年9月~2021年4月15日)
これらの結果から、話題になっていたマンガ原作がテレビアニメ化されることで検索数が一気に伸びること、紅白歌合戦を頂点とするTV番組で主題歌が披露されることで社会現象として可視化されリーチが広がること、それらのプロセスを経て原作マンガの魅力が幅広く浸透していったことがわかります。最近では「鬼滅の刃」が同じパターンを辿っています。
「進撃の巨人」の人気トレンド、最終話の熱狂
図表3は、「進撃の巨人」最終話発売直前と発売当日、発売翌日以降の一週間におよぶTwitter書き込み量と書込み内容に関する分析結果です。
フリーソフトとして公開されているWeb Tweet Crawlerを使って「進撃の巨人」に関するTweetを全てダウンロードした上で、作品と関係ない個人・団体の宣伝・グッズ交換ツイート、特定アカウント向け返信である@ツイートを排除。さらに同じくフリーソフトのテキストマイニングツールKH Coderを使って、まず頻出語を集計しました。その際に集計条件であるキーワード「進撃の巨人」「進撃」「巨人」は、表記から除外しています。
私自身も発売当日までにテレビアニメ全75話を視聴し、未だアニメ化されていない分の原作マンガ複数話を電子コミックで読み、公開直前の最終話をAmazonで予約、日付が変わった後に別冊少年マガジンをKindle版で購入して読みました。これらの行動に時間がかかり、大量のTweetがあったであろう発売当日前後3時間のデータが収集出来ておりません。その点をご考慮いただいた上で、参考までにご覧ください。
図表3. 「進撃の巨人」Tweet頻出語・時系列推移(2021年4月7日~4月13日)
最終話発売直前は「明日」「あと○日」などのカウントダウンが、発売以降は、「良かった」「泣いた」などの感想や、作者の諌山先生への感謝の気持ちを綴るTweetが多く、発売前後を通してネタバレを警戒するTweetや、フライングでネタバレ内容を披露するTweetなどが多くみられました。エレン、ミカサ、リヴァイなど、メイン登場人物の名前も多く書かれています。
巧妙な伏線の考察・回収が、作品への没入感や盛り上がりを加速する
図表4は、「進撃の巨人」最終話発売直前と発売当日、発売翌日以降について、同じくKH Coderを使って共起ネットワーク図として可視化した結果です。発売前後にわたって完結記念キャンペーン&企画が話題になっていることがわかります。
また最終話発売直前では、カウントダウンを見届けたい読者たちの思いや、4月6日に産経新聞に掲載されYahoo!ニュースになった担当編集者の川窪慎太郎さんインタビュー記事も多くリツイートされており、まさに社会現象であったことを窺わせる内容です。
図表4. 「進撃の巨人」Tweet共起ネットワーク図(2021年4月7日~4月13日)
最終話発売後は伏線回収に関する書き込みも多く、25年かけて完結した「エヴァンゲリオン」同様、独特の設定・世界観のストーリー進行に伴って複雑に張られた伏線を考察し、SNS上で解説する楽しみ方をしているファンの多さを窺わせる結果となっています。
SNSを盛り上げるのはファン&キャストの書き込みとオリジナルイラスト
図表5は、「進撃の巨人」最終話発売直前と発売当日、発売翌日以降の一週間におよぶTweetでの「いいね!」数上位5Tweetです。
図表5. 「進撃の巨人」関連「いいね!」上位5Tweet(2021年4月7日~4月13日)
最も「いいね!」が多かったのは、主人公エレン・イェーガー役の声優・梶裕貴さんアカウント(67.3万フォロワー)による4月9日1時52分のTweetで、4月15時日時点では9万件の「いいね!」、1.6万件のリツイートが付いています。ちなみに2番目は、6人組人気エンタメユニット「すとぷり」メンバーの莉犬さんアカウント(47.1万フォロワー)による4月9日21時1分のTweetです。
また、 日テレのZIP!特集告知やアニメ「進撃の巨人」新コラボ企画告知などの公式アカウントに交じって、登場キャラの大集合イラストを描いた、フォロワー約2千人の個人アカウントTweetが4番目に来ている点が特徴的です。
これらの結果から、アニメ化を起爆剤にして、コアファンとキャストがともにSNSで盛り上げていくのが今のマンガコンテンツであること、その際には万人受けでなくても熱心なファンに支持されているタレントや、作品の設定・世界観を充分に理解し、捧げた愛情の本気さが窺えるオリジナルイラストを描いた個人のTweetが、フォロワーの多寡にかかわらず拡散していくことを、あらためて確認した次第です。
今回は以上です。あらためまして、諌山創先生、11年7ヵ月におよぶ熱い連載、本当にありがとうございました!
<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点
第8回:ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか
第9回:どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第10回:(続)どんな体験提供がキャラクターの魅力を高めるのか
第11回:マンガを使ったプロモーションに際して考えるべきこと(ターゲット編)
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。