2021.04.16

「天才が努力してそこにいる。その事実に励まされる」講談師 神田伯山──マンガから学んだことvol.6

さまざまな分野で活躍する人物から「マンガから学んだこと」を聞く連載。今回は、月刊「モーニング・ツー」で連載中の本格講談マンガ『ひらばのひと』の講談監修を行う、六代目 神田伯山さん。マンガへの思いを聞きました。

ヘアー/Yuko Aoi

今"日本一チケットの取れない講談師"、6代目神田伯山
2007年、三代目神田松鯉(しょうり)に入門。2020年2月11日に真打に昇進し、長く継ぐ者のいなかった大名跡「神田伯山」を襲名。ラジオ・テレビ・YouTubeなど幅広く活躍中

マンガは、あらゆる世代を網羅している、素晴らしいカルチャー

──伯山さんが、いちばん最初に出会ったマンガについて教えてください。

伯山 私にとって、いちばん古いマンガ体験は『コミックボンボン』です。当時は『かっとばせ!キヨハラくん』(1987-1994年連載)というプロ野球選手が登場するギャグマンガにハマっていました。おかげで、野球通ではないんですが、西武黄金時代の選手情報だけは少し詳しかったりします。

その後、当時の多くの少年たちと同様に、『週刊少年ジャンプ』や『週刊少年マガジン』、『週刊少年サンデー』の発売を毎週楽しみにしていました。作品だと『ドラゴンボール』や『スラムダンク』が好きでしたね。影響を受けて、僕自身もバスケットを始めましたし、NBAが盛り上がっていた時代でしたので、マンガとリアル、両方に熱狂していました。

講談社さんのマンガだと、『はじめの一歩』は好きでしたね。特に鷹村VSブライアンホーク戦なんかは、夢中になって読んでいました。

はじめの一歩(1) 著:森川 ジョージ

──最近読んでいるマンガや、マンガを読んで何か影響を受けたことがあれば教えてください。

伯山 最近では、夫婦の"あるある"を描いたマンガを読んだりするのですが、マンガって、少年の心に寄り添ってくれるものもあれば、大人の心にも寄り添ってくれるものもありますし、バリエーションが豊富ですよね。ふと昔のマンガを読み返してみれば、そこに新たな発見があったりもする。あらゆる世代を網羅していて、すごく素敵なカルチャーですよね。

私は講談師として、お客さまにエンターテインメントを提供していますが、マンガほど、多彩な才能が集まっているジャンルって、少ないんじゃないでしょうか。ありとあらゆる天才たちが群雄割拠していて、しかもその天才たちが「努力してそこにいる」という事実に、とても励まされます。

ありがたいことではあるのですが、本を2冊出版して、年間700席ぐらい公演して、慣れないメディアにも多く出演して、という時期がありまして。「ちょっと疲れたな」と思ったときに、ふと『ワンピース』の尾田先生のほうが絶対大変だという事実に気づき、元気をもらった、という経験があります。尾田先生の方が自分よりもっとがんばっている。自分もがんばろう。そんな風に、作者の方に感情移入して、励まされることもありますね。おこがましいですが。


『はたらく細胞BLACK』は誰にでも、すすめられる稀有なマンガ

──伯山さんは、テレビアニメ『はたらく細胞BLACK』のコメンタリー動画に出演してくださっていますね。この作品の魅力をどのように感じていますか?

伯山 読んだ瞬間、この切り口(体内細胞の擬人化)はやられたなって、みんな思ったんじゃないですか。それくらい斬新ですよね。
私は、第3話「興奮、膨張、虚無。」のコメンタリー動画に出演させていただいたのですが、EDというある種、下ネタとして消費されてしまいがちな内容をど真ん中に据えている面白さがありますよね。"大人な"内容ではありますが、人間のとても大事な機能だから、支障が出ないように、もっと自分の身体を労ってあげようと思える。着地点がいいなと思います。

自分の身体について学べるマンガですから、学校の授業でも扱えるでしょうし、この作品の裾野の広さはすごい。一部の人のマンガではなく、「みんなのマンガになる」ポテンシャルを秘めていますよね。本来、身体の仕組みを学ぶのは難しいですが、こんなに面白くて分かりやすく知れて、さらに楽しく見ているうちに知識も増えていく。誰にでも、年齢問わず、すすめられる稀有なマンガのひとつだと思います。

なぜなら、病気や身体の不調は高齢者や一部の人の問題ではなく、どんな人にでも訪れる可能性があるからです。今現実にみんながコロナと戦って辛い思いをしている時期だからこそ、このマンガへの関心も高まっている、という側面もあるのではないでしょうか。今後さらに多くの人から愛される作品へと成長していきそうですよね。


『ひらばのひと』は、講談の世界に光を当ててくれた

──講談社の社名は、伯山さんの生業である「講談」に由来しますし、講談社と伯山さんのつながりはさまざまなところにあります。現在、監修を担当されている本格講談マンガ『ひらばのひと』については、どのような思いを抱いていますか?

伯山 『ひらばのひと』は、もう名作ですよね。久世先生が描いてくださることで俯瞰して見ることができ、あらためて講談の世界って面白いなと感じています。

伯山さんが手に持つのは、4月23日に第1巻が発売される、月刊モーニング・ツーで隔号連載中の、
自身が監修するマンガ『ひらばのひと(1)』  著:久世 番子

ある著名な方と番組でご一緒したときに、「講談界復興のためにはどうしたらいいですか」と相談したら、その答えが「マンガになること」だったんですね。マンガによって知らなかった世界と出会い、「それほど興味がなかったものに対して関心が芽生える」という経験は、僕にとってのバスケットのように、多くの方が経験しているんじゃないでしょうか。同様の効果が『ひらばのひと』によって生まれると、感じています。

光が当たっていなかったところに、マンガという光が差し込んで、明るく照らされる。講談が再び注目されているこのタイミングで、久世先生がマンガによって、さらに大きな光を当ててくださった。講談を知るために、このマンガを読んでくれる方もいるでしょうし、ひょっとしたらマンガを読んで講談師になろうという人もいるかもしれない。考えるだけで、うれしくなりますよね。

もし今後、アニメや実写化なんてことになれば、もっと多くの人に知ってもらえますし、世界に広がっていく可能性だってある。腕はあるけど日の目を見ることのない講談師を知ってもらえるかもしれない。そうやって、マンガには見果てぬところへ連れてってくれる可能性があるのが魅力であり、すごさだと思います。

もちろん、僕は僕でこれまで通り、講談の繁栄のためにがんばっていきます。そのなかで、久世先生の『ひらばのひと』と一緒に並走しながら、業界を盛り上げて行けたらうれしいですね。

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筆者プロフィール
C-station編集部

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