<連載>データをチカラに アドテクノロジーとWEB広告
Web広告運用において、広告プラットフォームの活用は欠かせないものとなっています。とりあえず有名な広告プラットフォームを利用してみたものの、いざ運用してみてCVRやCPAに課題を感じたという方も多いかもしれません。また、これから利用しようと考えている方は、その種類の多さから比較検討に悩みを抱えているのではないでしょうか。
今回は広告プラットフォームをこれから利用しようと思っている方や、再検討しようと考えている方に、改めて広告プラットフォームの意味と種類、選びかたについて解説します。本記事を通じて、自社に合う広告プラットフォームの条件がわかり、資料請求や導入のきっかけになることを願っています。
※CVR Conversion Rateの略。Webサイトへのアクセスのうちコンバージョン(商品購入や会員登録などの成果)に至った割合を指します。
※CPA Cost per Acquisitionの略。1件のコンバージョンを獲得するのにかかった広告コスト(成果単価)のことで、Web広告の指標の中でも最も重要視されています。
広告プラットフォームとはWeb広告配信の基盤となる環境
広告プラットフォームは、広告掲載や広告分析サービスを主軸とするプラットフォームです。プラットフォームとは、サービスの基盤となるツール環境を指します。したがって広告プラットフォームとは、広告配信・分析に関わるツール全体や配信先のネットワークに関わるツール全体を包括した名称です。
広告プラットフォームと関連用語の意味
広告プラットフォームは広範な言葉なので、マーケティングでよく聞かれる他のワードと混乱しやすいかもしれません。広告プラットフォームの意味を明確にするため、関連ワードとの関係について解説します。
DSP/DMP/SSP
まず、DSP、DMP、SSPという広告に関わる3つのプラットフォームと、広告プラットフォームの関係を確認していきましょう。
DSP(Demand-Side Platform)、DMP(Data Management Platform)、SSP(Supply Side Platform)は、いずれも異なる目的を持つプラットフォームです。広告を直接の目的としているのは、DSPとSSPです。
DSPは広告配信する側の広告効果を最適化・最大化するためのプラットフォームです。SSPは広告を掲載する側の広告効果を最適化・最大化することを目的としています。つまり、DSPとSSPは対象が異なるものの、いずれも広告効果の最適化が目的の広告プラットフォームということです。
一方、DMPはDSPやSSPの精度をより高めるため、広告領域を越えて自社内外のデータを統合し、管理することを目的としたプラットフォームです。DMPの領域には、たとえば店舗接客で得た顧客データや、営業プロセスのログなども含まれます。DMPはそれらをマーケティングに活かし、効果を最大化することでその役割を果たします。DMPは広告プラットフォームの範疇には入りませんが、広告プラットフォームと連携してデータを統括するために用いられることがあります。
アドネットワーク
アドネットワークも広告プラットフォームと間違われやすい用語です。アドネットワークとは、複数の広告媒体に広告を配信するネットワークと仕組みです。複数の広告媒体とは、Webサイト、SNS、ブログなどを指します。
広告プラットフォームとアドネットワークの違いは、広告プラットフォームがツールであるのに対し、アドネットワークは仕組みを指していることです。広告プラットフォームが広告を届ける配信先の一つとして、アドネットワークが存在します。
広告プラットフォームの種類
より具体的にイメージしやすいよう、広告プラットフォームの例を挙げましょう。検索エンジンほかあらゆるサービスを提供するGoogleや、ECプラットフォームであるAmazon、SNSであるFacebookやInstagramなどは、すべて広告プラットフォームでもあります。これらのサービスは、それぞれ独自のソリューションを構築して登録ユーザーを集め、そのユーザーに対して広告を配信する仕組みおよびツールを企業に提供しているからです。また、GoogleやYahoo!などの広告プラットフォームでは、アドネットワークやDSPの機能に特化した独自ツールの提供も行っています。
ユーザー集客はせず、広告分析と広告価値の最大化に特化したソリューションを提供する広告プラットフォームも存在します。国内でシェアが大きいサービスは、Criteo、AD EBiS、Red、Logicadなどがあります。彼らが提供するサービスは、広告プラットフォームの中のDSPである、と言うことができます。
広告プラットフォーム選びの前に
あらゆる広告プラットフォームの中で、どの広告プラットフォームを選ぶのが最適解なのか悩む方も多いことでしょう。各サービスの機能や価格を比較する前に、自社内で今一度やっておきたいことがいくつかあります。
1. 自社の広告運用の現状を分析する
まず、広告プラットフォームを導入する前、あるいは導入しても期待する広告運用効果が見込めなかった場合、その現状を分析しましょう。広告プラットフォームさえ導入すればリーチ数やCVRなどの数値が向上するかといえば、決してそうではありません。現状に対する適切な解決策として広告プラットフォームを利用できてこそ、初めて数字に成果が表れます。
自社のこれまでの取り組みののなかに、どのような問題点があったかを言語化できるまでは、急いて広告プラットフォームの検討をしないほうが賢明です。
2. ペルソナを見直す
マーケターの皆さんは、商品やサービスのターゲットだけでなく、それを具体化したペルソナを設計されていると思いますが、改めてそのペルソナが適切であったか、改善する余地がないか確認してみましょう。先ほどの広告運用の課題抽出の中にペルソナのズレがあげられた場合は、どこにズレがあったのかを具体的にできると良いです。
後にも説明しますが、広告プラットフォームを選ぶときに「誰に広告を届けるか」が決まっていないと、判断に迷ってしまうことがあります。広告価値を最大化する広告プラットフォームですが、プラットフォームができることは広告配信の最適化までです。マーケティングの原点となるペルソナについて、再確認してみましょう。
広告プラットフォームを選ぶポイント
課題やペルソナの見直しができたうえで、自社に合った広告プラットフォームをどのように選択していくか考えましょう。具体的な判断基準となるよう、広告プラットフォームの名称と特徴を挙げて解説します。
1. ターゲット層で選ぶ
まず、自社のソリューションによってユーザーを集める広告プラットフォームは、その提供内容によって、リーチできるターゲット層が絞られます。とくに、TikTokやInstagramといった若年層向けのSNSでは、ユーザーの年齢層や性別が特化されます。
また、DSPの機能だけを提供する広告プラットフォームも、BtoBの広告に強いものや、海外配信を得意とするものなど、ターゲット層による特徴があります。最近は、むしろその専門性を武器にしている広告プラットフォームが目立つ存在になりつつあります。国内トップシェアの広告プラットフォームMicroAd BLADEから派生した自動車業界特化型広告プラットフォームIGNITIONや、製薬業界特化型広告プラットフォームIASOなどがその一例です。
自社のターゲット層に強い広告プラットフォームや、専門業界向けなどのターゲットに合致した広告プラットフォームを選ぶことで、より広告効果の高い配信ができるでしょう。
2. 価格と効率で選ぶ
「予算をなるべく抑える」、「まずは広告プラットフォーム運用に慣れたい」という意図があるのならば、初期費用やランニングコストがない広告プラットフォームを選択すると良いでしょう。BypassやLogicadは広告費のみで利用することができるため、導入が容易です。
逆に価格は高くても、自社にはないノウハウを補ってくれて、成果につながる広告運用を行いたいというニーズがあるかもしれません。この場合は、コンサルテーションもサービスに含まれるFreakOutをはじめとした、サポートを期待できる国内発の広告プラットフォームの利用を検討してみてください。
3. 運用方法で選ぶ
広告プラットフォームの運用方法には、大きく分けて「自動運用」と「手動運用」があります。
自動運用の場合、ユーザーセグメントや配信先などの設定は全て自動で行われます。成果があると判断された配信先に対して広告を自動配信するため、人的リソースを割かずに広告運用できることが魅力です。
自動運用はマーケティング担当者の経験が浅い場合も、さほど成果に影響が出ません。その反面、柔軟な設定はできず、どんな要因で成果が上がったのか把握しづらいことが運用の課題です。また、安定した広告効果を感じられるまでの期間を予測することができず、広告運用のスケジュールや戦略のコントロールが難しくなります。
手動運用の場合は担当者が配信設定を行うため、ケースバイケースで柔軟に対応できます。当然どの設定が要因となって成果が変化したかもわかりやすいです。ただ、マーケティング担当者の運用リソースが大きくなることと、担当者の経験知によって成果に差が出ることには注意しなければなりません。
設定の柔軟性や、担当チームの経験知などを判断基準に、自社に合った運用方法はどちらかを考えると良いでしょう。
広告プラットフォームの活用事例
実際に広告プラットフォームを活用することで大きな成果を得た事例を、いくつか紹介します。
1. レコメンド広告配信で獲得した新規顧客は、リピート率が2倍に
コロナ禍を機に店舗休業を迫られた某商社は、売り上げはもちろんですが、新規顧客獲得の機会が激減する危機に直面しました。そこで、ECサイトでの新規顧客獲得にシフトする際に導入したのが、広告プラットフォームCriteoの検討層向けソリューションです。
採用のポイントとなったのは、継続性のある新規顧客を獲得できることでした。このソリューションでは、消費者に関するデータセットから新規顧客候補を探し出し、購入見込みが高いユーザーのみターゲットにしたうえで、購買傾向からさまざまなデータをスコアリングすることが可能とされていました。
このスコアリングをもとに商品レコメンド広告を配信することで、新規顧客が獲得できました。その顧客層のリピート購入率は実に通常の2倍を記録し、低CPAで顧客を獲得することに成功したということです。
2. 効果的な初期設定と行動履歴の分析で、顧客への理解を深める
某飲料メーカーは、自社サイトから得られる商品購入履歴のみで顧客理解を深めることに限界を感じており、顧客の趣味嗜好をより精細に分析するツールを探していました。そこで取り入れたのが、講談社が提供する広告プラットフォームOTAKADです。
OTAKADは、複数メディアの読者履歴を独自のセグメントで捉え、最も効果が見込める読者に対して、最も彼らに適した掲載場所に商品広告を掲出したり、タイアップ記事を届けたりするプラットフォームです。
この飲料メーカーは、商品とターゲット層が合致するメディアにタイアップ記事を掲載し、さらにその後の読者の行動履歴を分析することで、ペルソナを再設定することができました。また、タイアップ記事によるブランディング効果から、新規顧客の自社サイトへの遷移を促すことにも成功しました。
3.BtoB顧客に特化した広告配信で顧客との接点を増やす
SEOを強みとする某マーケティング企業は、BtoCとBtoB双方のクライアントをターゲットとしているものの、BtoBに対する広告施策が薄く、新規顧客獲得においてはテレマーケティングに頼っていました。既存のBtoC向け広告プラットフォームでは適切な対象に広告配信することが難しいと考え、BtoBに強いADMATRIX DSPのオフィスターゲティング機能を採用しました。
この機能は、IPアドレス照会により企業を選定し、広告との合致性が高いと考えられる企業に向けて広告を表示できるものです。さらに広告をクリックした企業を分析することで、より確度の高い企業に対してアプローチしていくこともできました。課題に応じてこのような独自性の高い広告プラットフォームを利用したことで、BtoB領域での新規顧客獲得率が上がりました。
広告プラットフォームを的確に活用するために
広告プラットフォームとは、適した対象に広告を配信するための土台となるツール環境を指します。GoogleやAmazonといった大手プラットフォーマーから、DSPを提供する各社まで、その価値の幅は広く、どのプラットフォームを利用するかはマーケティング担当者に委ねられています。
広告プラットフォームを選ぶときに意識してほしいことは、自社の課題が何なのかと、それを解決するためにどんな機能や運用方法が適切であるかです。さまざまな広告プラットフォームを比較し、成功事例を照らし合わせながら、自社に合った広告プラットフォームを見つけてください。
>#1 アドネットワーク、DSP、DMP、ユーザーデータ...。WEB広告の基本とは
>#2 広告プラットフォームのトレンドと特色を知って結果につなげよう
>#3 WEB広告に関するデータ分析のステップと、今後のデータ活用を考える
>#4 ペルソナとAIがもたらす広告配信の変化
筆者プロフィール
宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。