2021.06.15

そもそも「ファン」とは何者なのか? | ニューノーマル時代のファンマーケティング教室[第2回]

ファンマーケティングのコミュニティマネージャーとして活躍する株式会社Asobica・CCOの小父内信也(おぶない・しんや)氏の連載です。
ニューノーマルの世の中でますます重要性を高める「ファンマーケティング」。その実践のために欠かせない考え方と手法について、じっくりと解説していきます。


ファンとの遭遇

前回は、「ファンマーケティング」の全体像から、いまファンマーケティングに向き合うべき背景と理由についてお伝えしました。
今回は、「ファンとは何者なのか?」がテーマです。そもそもファンはどこにいて、どんな人で、どのように関わっていけばいいのか。そしてその先にどんな嬉しい、楽しいことが待っているのかをお伝えしていこうと思います。

私は、はじめてファンと出会った瞬間を、いまでも鮮明に覚えています。それは、Sansan株式会社が運営する名刺アプリEightのサポートチームを統括している時でした。
ふとしたきっかけで、あるヘビーユーザーの方と会う機会がありました。関西在住の方でしたが、都内に用事があるということで、私と広報責任者とマーケティング担当者を合わせた4人でランチを取ることになりました。
彼は、会うやいなや、サービスのよいところや改善点、期待する未来像などについて、非常にポジティブに話してくれました。そして、これまでEightを通して、たくさんの人と出会って、本当に助けられたということを、すごく嬉しそうに語ってくれたことが印象的でした。

自分が日頃携わっているサービスが、こんなにも人の人生に影響を与えているのかと衝撃を受ける出来事でした。それからというもの、私はEightのユーザーに大きな興味を持つようになり、もっとユーザーの話を聴いてみたいと、強烈に感じるようになりました。
業務の合間を縫って、普段からサービスをよく活用してくれているユーザーの方約20人と、ダイレクトメールを使って1対1のやりとりを始めました。そうして私の行き帰りの通勤は、ほぼユーザーとコミュニケーションをとり続ける時間になりました。
我々の想定を超える使い方をするユーザー。新しいビジネスを起こすパートナーを見つけるユーザー。仕事の効率化により、さまざまなチャレンジができるようになったユーザー。シナジーをうむ事業同士で意気投合し、合同イベントを開きましたなどという声は頻繁に聞きました。
多くのユーザーが、Eightを通じて偶発的な出会い、いわゆる「セレンディピティを楽しんでいる」ことがわかったのです。

そのような声を聞くたびに、それまでの自分は、いかにユーザー目線に立てていなかったのかを気づかされました。この人たちのおかげでサービスが成り立って、プロダクトが成長しているんだと改めて感じ、ファンは作るのではなく、発見するものだと痛感した瞬間でもありました。いただいた多くのヒントをもとに、サービスの改善につながったものもたくさんありました。
特にファンマーケティングをこれから始めようとする方には、まず何よりもユーザーの声に耳を傾けることから始めることをおすすめします。「答えは顧客のなかにある」ということを実感できると思います。

ファンの定義とは?

一般にファンといっても、ロイヤルカスタマーやアンバサダー、ヘビーユーザーなど、呼び名はさまざまありますが、本連載では「ファン」という呼称に統一して話を進めてまいります。

そもそもファンとは何者なのか、ファンの定義について触れていきましょう。
ファンという言葉の語源を、みなさんはご存知ですか? 答えは、「熱狂的な」を意味するファナティック(英: fanatic)の略です。
熱狂的な人たち。つまり、「あの人、ほんと熱いよね!」という表現がイメージしやすいと思います。
ただし注意が必要なのが、「熱い」ということが、表面的な温度だけではなく、内部的な温度も含まれることが重要という点です。
SNSで発信したり、クチコミしたりなど、目に見える対外的なアクションを起こさずとも、心から愛着を持って、静かに遠目から見守ってくれているファンも存在します。目立たないファンも、企業にとって大切なファンであることに変わりはありません。

私は、「ファンとはサービスに愛情を持って、常に寄り添い、支えてくれるサポーター」であると考えています。この「常に」というのがポイントで、時に優しくもあり、時に厳しくもあるのが真のファンだと思っています。
企業が揺らぎないブランドを確立し、顧客との信頼関係を愚直に積み重ね、共感してもらえる関係を築くことで、初めてファンがうまれるのです。そして、ファンはお客様であると同時に、「仲間」としての立ち位置で企業に寄り添ってくれるようになるのです。

ところで、ファンマーケティングの取り組みでは、ペルソナを設計するよう推奨しています。
ペルソナとは、サービスや商品の典型的なユーザー像です。実際に実在する人物であるかのように、年齢、性別、居住エリア、職業、役職、年収、趣味、性格、家族構成、ライフスタイルなどリアリティのある情報を設定します。
自身の商品やサービスのファンはこんな人だということを、具体的にイメージできるようにして、ファンマーケティングに関わるプロジェクトメンバー間で共通の認識にしておくことが大切です。
ペルソナが決まれば、どのようにすればその方に喜んでいただける商品、サービスができるか、またどうやってペルソナに近い方にたくさん集まっていただけるのかを徹底的に考え抜きます。そうやってファンマーケティング戦略を具体化していくようにしていきます。

ファンの発見は、徹底的な顧客分析にあり

それでは、ファンはどこにいるのか? について、ファンを発見するための具体的な手法をご紹介します。
ポイントは、定量データ×定性データによるアプローチです。

まず、定量データを利用する上でのセオリーとなるのは、「取れる顧客データは、とにかくあらゆる角度で取得しろ」です。
年齢や性別、職業や住んでいるエリアなどのデモグラフィックはもちろん、サービスの利用状況やPOSデータに紐づくユーザーの購買履歴や頻度、購入金額。またサポートへの問い合わせ回数やイベントへの参加数もできる限り、参考情報として取得します。あとはファン度を測る参考指標として、NPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティを数値化する指標)をアンケートで取得するケースが多いです。

一方、定性データは、数値には変換できない感覚に近いものです。
これをどう測るかは、さまざまな手段があります。一般的には、営業やサポートなどユーザーと近い部門の担当者から直接共有を受けたり、サポートへの問い合わせの中身(質)やイベント参加時のアンケートの回答内容などを材料にしたりして情報収集していきます。会話してみた印象や、所作なども定性情報として残しておくこともあります。
私がよく利用するのが、アンケート回答時にが200文字以上書いてくれた人に絞って、さらにその内容を精査し、そのユーザーの熱量を判断するというものです。この手段であれば、基準がブレづらいので、判断に迷った際などにおすすめです。このように一定の基準で線引きをするという視点が大事になります。

次の図は、ある企業のファン発見のためのユーザー分析の事例です。
ここでは、取得したデータをもとにX軸×Y軸で象限としてユーザーをポジショニングしていますが、その際、3つの視点「セットアップ×エンゲージメント×ロイヤリティ(NPS)」からアプローチした例です。最終的にはユーザーを16分割して、その上位(図の右上)に位置するファンをコアファンと定義しています。

顧客ポジショニングマップ

「ファン」発見のための公式(SaaSプロダクト企業のケース)

  1. セットアップ・・・プロダクトを利用する上での前提条件や設定。プロフィールの充実度やアカウント登録者数など。
  2. エンゲージメント・・・プロダクトの活用状況。ログイン率やアクション数など。
  3. ロイヤリティ・・・熱狂度/ファン度。NPSや紹介件数、アンケート内容など。

この公式を一言で置き換えると、「プロフィールの項目が埋まっているかなどサービスを利用する上での設定が整っていて、頻繁にサービスを利用してくれている、愛着度合いが高いユーザー」となります。

さらにファンの発見のための手法として、「パレートの法則×パレートの法則」で導きだすアプローチも非常に効果的です。これは20:80のパレートの法則(全体の20%の顧客が80%の貢献をしている)を利用し、上位20%のロイヤルカスタマーのうち、さらに上位20%に絞って分析するというものです。つまり最終的には、上位4%ということになります。たとえば顧客が100人いたら、コアファンは4人になるというイメージです。

企業によっては、まだ顧客のデータをそれほど多く取得できていないケースもあると思います。またファンユーザーの定義に悩む方も多く、私も相談を受ける機会が頻繁にあります。
その場合に非常に有効な手法としては、最終的に上位4%がコアファンなんだと決め打ちして、逆算して絞り込むというアプローチです。
自身のサービスの利用者のうち上位4%のユーザーのアクティブ状況やセットアップ状態が明らかになれば、そのデータをもとに自然とコアファンの定義もできるようになります。
ぜひ、4%というマジックナンバーを意識して、ファンマーケティング設計を検討してみてください。

ファンとの関係を大切にするヤッホーブルーイング

ファンマーケティングに関わる方なら、誰もが一度は目にしたことがあるのが、株式会社ヤッホーブルーイングではないでしょうか。もしくは「よなよなエール」というクラフトビールをご存知というかたも多いと思います。私も、ヤッホーブルーイングの作るビールのファンの1人です。
ヤッホーブルーイングは、10年以上も前から、顧客に喜んでもらえるための企画やイベントを通して、ファンを大切にし、真摯に向き合って事業を拡大してきた企業です。

ヤッホーブルーイングのファン構造

株式会社ヤッホーブルーイング:顧客の階層と感情

その規模感がすごいもので、2018年にお台場で開催した「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」というファンイベントには、約5,000人の参加者が集まったほどです。日本でのファンイベントで、これだけの規模で開催できるブランドはそうそう見当たりません。
ヤッホーブルーイングは、間違いなくファンに愛され、ファンに支えられている企業といえます。その理由は明らかで、圧倒的なファンの売り上げ貢献度からわかります。ヤッホーブルーイングでは、上位10%のファンによる売り上げが、なんと全体の約65%も占めているのです。
これは驚異的な数値で、パレートの法則以上のインパクトです。また2007 年頃にスタートした定額制の年間契約サービス「よなよな月の生活」の継続率は約90%にもなるそうです。

ヤッホーブルーイングのファンマーケティングには、特徴があります。一般的には、他者へのおすすめ度合いを測るNPSがよく使われるファン度を測る指標ですが、これ以外に「熱狂度(ブランドに対する顧客の愛情の強さ)」というものを設けて、イベント参加者へのアンケートで集計しています。
徹底的にファンに向き合い、自社のサービスを磨き続け、多くの人を魅了するブランドを築くに至るまでは、大変な道のりだったと想像しますが、それも一人ひとりのファンを大切にしてきた結果であると思います。

ファンとの出会いがすべてを変えた

冒頭でお伝えした関西在住のファンユーザーとは、今でも頻繁に連絡を取り合い、対談イベントをしたり、ビジネスの相談をしあったりする仲です。ファンとの交流から、まさかこのような人生が豊かになるご縁が生まれるとは、当初は想像もしていませんでした。
あるユーザーとの出会いが、ファンと向き合うきっかけになり、今こうしてファンマーケティングについて語らせていただくことになったのも、大切な一期一会の証なんだと感謝しています。
「ファンとはサービスに愛情を持って、常に寄り添い、支えてくれるサポーター」である。
そんなファンのために、世の中のために、精一杯何ができるのかという視点から、あらゆるサービスや商品を生みだすことが私の理想です。

次回は、ファンマーケティングの成功にとって欠かすことのできない「ファンコミュニティのデザイン」について詳しく解説していきますので、ぜひお楽しみにしていてください。

ファンマーケティングのおすすめ本:2冊目 

「NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ」 
ジェレミー・ハイマンズ/ヘンリー・ティムズ著

一見、ファンマーケティングやコミュニティとは遠いイメージのタイトルですが、その本質は、ファンとの関わりやコミュニティの重要性について核心をついた内容となっており、さまざまな角度や事例から説明しています。
これまでの世界では、オールドパワーとして、権力は一部の大企業や政府が握っていたが、テクノロジーの進化により、個人が一層の影響力を持つ時代へと変化していることを指摘し、それをニューパワーとして定義しています。
これを従来のオールドパワーと対比させながら、一過性のムーブメントに終わらせないために継続的な「コミュニティ」の構築が必要と説いています。対比表やマトリクスで表現されているので、わかりやすいと感じます。
現代をよりよく生き抜くヒントを与えてくれる良書、おすすめです!
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筆者プロフィール
株式会社Asobica CCO 小父内信也(おぶない しんや) 

20歳から工事現場で働きながら、日夜、音楽活動に没頭。25歳、結婚を機会に大手電子機器メーカーへ入社。社員5000人のうち0.5%しか選出されない社長賞を2度受賞。在職中に中小企業診断士を取得し、2010年、創業初期の名刺管理システムを提供するSansan株式会社に参画。データ化部門責任者を経て、名刺アプリEightのコミュニティマネージャーへ。
現在は、カスタマーサクセス/コミュニティに特化したツールを提供する株式会社Asobicaで、CS責任者として数十のファンコミュニティの立ち上げ、および支援に携わる。

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