2020.12.22

ユーザーへの提供体験は、キャラクターによってどう異なるか| マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第8回>

想定外の出来事が続いた2020年が終わります。来年も、今年の漢字にもなった「密」を避けるべく最大限の注意を払う生活が続きそうですが、巷に飛び交う出所不明情報にはいたずらに惑わされないよう、心がけたいものです。

前回は、2020年9月17日(水)~23日(水)に楽天インサイトへの委託で国内に居住する男女3~74才2,000名を対象に実施した最新定量調査結果から、キャラクターとの接点について以下の傾向をご紹介しました。

●キャラクターとの接点は、SNSやLINEスタンプなどDXが進行中
●キッズは玩具とテレビアニメ、女性はグッズ売場とLINEスタンプ、男性はマンガや動画サイトが主なキャラクターとの接点
●接点としてのマンガの役割は、「ストーリー」訴求から「アイコン・シンボル」的位置づけへとシフト中

今回は同じく最新定量調査結果をもとに、講談社の主な少年マンガ、青年マンガ、女子マンガがどんな体験や価値を提供しているのかを深掘りする形でご紹介します。

物語への没入感や共感が高まることで、仲間との共通言語になるマンガ・キャラクター

図表1は、今回のキャラクター定量調査で、「以下のそれぞれのキャラクターに実際に接することで、あなたはどんな気持ちになりますか」との質問に「当てはまる」と回答した人の割合を、コレスポンデンス分析を使って可視化した結果です。
この知覚マップでは、各キャラクターと関連が高い計21の提供体験価値項目が近くにプロットされており、原点からの方向が同じ項目同士は関連が高いことを表しています。調査対象計111キャラクターのうち30マンガ・キャラクター作品を、少年マンガ(水色)、青年マンガ(濃紺)、女子マンガ(赤)で色分け表記しています。

図表1. それぞれのキャラクターと接することで、どんな気持ちになるか(コレスポンデンス分析)

マンガ・キャラクターのほとんどが、マップ右側、特に右上のコミュニケーション×物語・ストーリーで構成される「冒険・アクションを通した他者との物語共有」ゾーンに集中しています。
マンガでは、先の読めない物語・ストーリーが展開します。読者はその世界観に没入して日常で味わえないスリルや冒険にワクワク・ドキドキしたり、勇気がわいたりします。
また登場キャラクターに感情移入・共感して、セリフに感動したり見た目を真似したくなったり、歴史上の逸話や特定業界の日常的慣習などの意外な知識を楽しみながら得たりもします。多くの情動が刺激されるため、同じ作品が好きな人同士で盛り上がれるのもマンガの大きな特徴です。

これらの傾向は少年向け・青年向け・女子向けなどの種類を問わず共通するため、このゾーンに多くのマンガ・キャラクター作品が集中しているのは大いに頷けるところです。青年マンガや女子マンガでは、冒険が仕事や恋愛を通したチャレンジなどに置き換わるものが多いですが、読者の感情移入や共感を高める上で、リアルなアプローチの方が有効な場合もよくあるからでしょう。

また、長期連載やアニメ化などで一大ブームを巻き起こした作品は、右下のパーソナル×物語・ストーリーで構成される「物語への思い出による郷愁・幼年回帰」ゾーンに位置しています。このゾーンのレジェンド的作品には、物心ついた頃にアニメやマンガで触れて以来、今も好きで居続ける大人ファンが多く存在している点が共通します。

なお、上記マップの左側にはファンシー系や企業オリジナル、左上にはご当地キャラなど、女性に支持されるキャラクターたちが多く位置しています。

少年マンガが提供する主な体験価値は「元気・楽しさ」と「非日常感」

図表2で、個別キャラクターが提供する体験価値項目の回答結果を、マンガの種類別平均値で比べてみました。マンガ全体では、先ほど紹介したコレスポンデンス分析結果と同じく、「ワクワク・ドキドキする」「別の世界に入り込める」などのスコアが高くなっています。また、少年マンガでは「楽しい気分になれる」「元気になれる」「勇気がわく」「日常では味わえないスリルや冒険を感じられる」、青年マンガでは「子どもの頃の自分に戻れる」「懐かしい思い出にひたれる」も目立ちます。

図表2. 個別キャラクターが提供する体験価値と因子分析結果

計111キャラクターの回答結果を、因子分析※1によって以下の5つに集約しました。

1. 参加・注目・同一視
(寄与率※2 9.1%)
服装や格好、グッズやアイテムで、登場人物になりきりたくなる、しぐさやポーズ、セリフを真似したくなる、みんなが注目してくれる、夢や希望を感じられる、同じキャラクターが好きな人同士で盛り上がれる etc. ⇒「なりきりやすさ」を示す因子と考えられる

2. 癒し・安らぎ・収集
(寄与率 2.4%)
癒される、ほっとする、グッズやアイテムを集めてみたくなる、身の回りにつけたり、飾っておける

3. 元気・楽しさ
(寄与率 1.6%)
楽しい気分になれる、元気になれる、ワクワク・ドキドキする、勇気がわく、気分転換できるetc.

4. 非日常感
(寄与率 1.2%)
別の世界に入り込める、日常では味わえないスリルや冒険を感じられる

5. 郷愁・幼年回帰
(寄与率 1.1%)
子どもの頃の自分に戻れる、懐かしい思い出にひたれる

各々のキャラクターが各提供体験価値項目に当てはまるかどうか、Yes:1、No:0の疎な回答結果を用いて集計したこともあって累積寄与率※2は15.6%とかなり低いですが、参考までにご覧ください。

※1:因子分析:多変量データに潜む共通因子を探り出すためによく使われる統計手法。表中の因子負荷量は各変数と各因子の相関係数で、0から±1の値をとる
※2:寄与率:各因子がどの程度の説明力を持っているかを示す割合。各因子の寄与率を合計した累積寄与率は、分析対象項目(ここでは計21項目)をどれだけ説明できているかを示す。

ヒット作品は男女問わず、「非日常感」「元気・楽しさ」に加え「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」で高評価

ここからは、因子分析で得られた各マンガ・キャラクター作品の因子スコア※3性・年齢別平均値を用いて、各作品がどの層にどんな体験価値を提供しているのかを紹介していきます。

※3:因子スコア:調査対象者個々人が持つ各因子に対する重みのこと。因子得点とも呼ばれる。因子スコアの平均値が高いキャラクターは、その因子に影響されている度合いが高い。

図表3は、因子スコアが特定の性・年齢で高めだった少年マンガ4作品です。
「五等分の花嫁」は、男子ティーンから「参加・注目・同一視」、「元気・楽しさ」、「非日常感」、そして少年マンガで概して低くなりがちな「癒し・安らぎ・収集」も含めた多くの因子で、かなりの高評価となっている点が目を引きます。男20-34才(M1)からの評価も高い一方、女性からの評価は全般に低めです。

図表3. 少年マンガ作品の性・年齢別因子スコア平均値

「非日常感」は、男子ティーンでは「FAIRY TAIL」「転生したらスライムだった件」、男20-34才(M1)では「進撃の巨人」でも高評価で、女子ティーンや女20-34才(F1)からも評価されています。これらの結果から、特にファンタジー作品における「非日常感」は、ティーン~20-34才など男女ヤング層の熱狂的支持を集める重要な要素であることがわかります。

図表4は、青年マンガ4作品です。ヤング層では少年マンガと比べて男女差が少なく、「はたらく細胞」は「非日常感」、「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」、「元気・楽しさ」の点で女20-34才(F1)から最も高く評価されており、次いで男女ティーンからの評価も良好です。

図表4. 青年マンガ作品の性・年齢別因子スコア平均値


図表5は、女子マンガ4作品です。大人向け作品として連載、ドラマ化された「東京タラレバ娘」「逃げるは恥だが役に立つ」は、ヤング層で男女差が少なくなっています。

図表5. 女子マンガ作品の性・年齢別因子スコア平均値


少女向け作品として連載、アニメ化された「美少女戦士セーラームーン」「カードキャプターさくら」は、女20-34才(F1)から「郷愁・幼年回帰」の点でかなり高く評価されており、アニメ放送時の人気の高さを反映した結果といえます。特に「美少女戦士セーラームーン」は、女子キッズ・ティーンからも決めゼリフやコスチュームなど「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」の点で評価されており、世代を跨いだ共通のヒット作品になっていることがわかります。

最後に図表6にて、他社の大ヒット少年マンガ4作品についても紹介します。
TVアニメや映画でも大ヒットし続けている「鬼滅の刃」「ワンピース」「名探偵コナン」「ドラえもん」は、「参加・注目・同一視(なりきりやすさ)」「元気・楽しさ」「非日常感」の各因子で、キッズ・ティーンから20-34才の幅広い層から高く評価されており、特に女性に対して様々な方向の体験価値を提供し続けている様子が明確です。
「ワンピース」「名探偵コナン」「ドラえもん」は「郷愁・幼年回帰」の点でも高く評価されており、「ドラえもん」は「癒し・安らぎ・収集」のスコアが他マンガ・キャラクターよりも高い点が特徴的です。

図表6. 大ヒット少年マンガ作品の性・年齢別因子スコア平均

今回は以上です。来月の第9回では、マンガ・キャラクター作品が提供する体験価値のうち、キャラクターの好意度や関連商品所有意向を高めるのに有効な因子が何なのかを明らかにすべく、今回に続く形で講談社の主な少年マンガ、青年マンガ、女子マンガを題材に分析を進めます。
具体的には、多変量解析の一手法であるSEM(共分散構造分析)を用いて「キャラクターの提供体験と好意度、商品所有意向の因果関係」について考えます。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する
第5回:Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング
第6回:最新調査で探る各種マンガコンテンツの「広がり」と「熱さ」
第7回:DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むキャラクターとユーザーとの接点

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。

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