2020.09.18

Googleトレンドから見えた、マンガ・キャラクターの人気傾向とクラスタリング| マンガ・キャラクター 活用の極意と最新事情<第5回>

8月の強烈な暑さから季節は移り変わり、すっかり秋らしくなってきました。
前回は講談社の主な少年マンガ、青年マンガ、女子マンガを対象に、Twitterでどのぐらいの量と内容の情報が書かれているのか分析し
●少年マンガや少女マンガは、コンビニ・ゲームとのコラボキャンペーンや展示会でTwitter書き込みが劇的に活性化する
●青年マンガとオトナ女子マンガは、泣けるドラマやイケメンを愛でるドラマの源泉としての存在感を発揮する
●人気作品の作者や主要キャスト自身によるTwitter発信力は絶大である
ことなどをご紹介しました。

今回は最新調査結果を交えて「マンガ・キャラクター活用のメリットと留意点」について考察する予定でしたが、現在実施中のキャラクターに関する最新定量調査がギリギリで間に合いませんでした(この記事が掲載される頃には集計完了している予定です)。

そこで急遽「Googleトレンド」を使い、過去10年間(2010年9月~2020年8月)の講談社マンガ・キャラクターに関する検索推移をみることにしました。そこから、検索が急上昇する、あるいは高いレベルで持続するなど、作品が盛り上がった環境や条件について考えていきます。
なお「Googleトレンド」は、分析対象期間内に最も検索された月を基準値100として正規化した「相対的な関心の推移」を示しています。分析対象物(ここではマンガ・キャラクター作品)の絶対的な検索ボリュームや、対象物間の相対比較はできない点、あらかじめご了解ください。

少年マンガはアニメ化やゲーム化、青年マンガはドラマ化がポイント

図表1~4は、集計可能な少年マンガ系(計10)、青年マンガ系(計9)、女子マンガ系(計8)の計27作品のうち、2019年以降に検索のピーク値である100を記録した4作品の「Googleトレンド」時系列推移です。

図表1の「五等分の花嫁」は、2017年8月に週刊少年マガジンで連載開始。深夜枠でテレビアニメが始まった2019年1月に検索数が急上昇し、アニメ最終回の同年3月には86に達しました。
ピーク値の100を記録したのは初の展示会イベント「五等分の花嫁展」が開催された2019年8月。2020年2月に原作マンガが最終回を迎えた後も、2020年4月に開催予定だったスペシャルイベントのコロナ対応による延期発表などもあり、頻繁に検索され続けています。

図表1. 「五等分の花嫁」Googleトレンド時系列推移(2010年9月~2020年8月)

※以下すべてのデータにおいて同期間の集計です

図表2の「FAIRY TAIL」は、2006年8月に週刊少年マガジンで連載開始、幾度にもなるテレビアニメ放送(今回調査期間内では2014年4月と2018年10月)で検索数が上昇し、原作マンガが最終回を迎えた2017年7月は60でした。
アニメ終了後は検索数が減少するも、新作RPGが発売された2020年3月にはピーク値の100を記録し、根強いファンの存在をうかがわせる結果となりました。

図表2. 「FAIRY TAIL」Googleトレンド時系列推移

図表3の「ランウェイで笑って」は、2017年5月に週刊少年マガジンで連載開始。深夜枠でテレビアニメが始まった2020年1月に検索数が急上昇し、ピーク値の100を記録しました。ただし、アニメ終了後の同年4月以降はコロナ禍もあってか検索数が激減しています。

図表3. 「ランウェイで笑って」Googleトレンド時系列推移

図表4の「きのう何食べた?」は、2007年2月にモーニングで連載開始、西島秀俊さんと内野聖陽さんがダブル主演を務めるドラマが深夜枠で始まった2019年4月に検索数が急上昇しました。最終回が放送された同年6月にはピーク値の100を記録、その後は減少傾向でしたが、正月スペシャルが放送された2020年1月に再上昇しています。

図表4. 「きのう何食べた?」Googleトレンド時系列推移

マンガ原作をアニメ化する場合、少し前までは特典付きDVD・ブルーレイや主題歌CDなど、いわゆる円盤をセットで販売するビジネスモデルでしたが、最近は声優によるライブイベント、限定グッズを用意した展示会、既存スマホゲームタイトルとのコラボを含めたゲーム化に主軸がシフトしており、それらの傾向を裏付ける検索結果となっています。

独立UHF局深夜枠での初アニメ化作品は、放送終了後は検索数が減少

図表5~8は、テレビアニメ化されて2018年に検索のピーク値である100を記録した4作品の「Googleトレンド」時系列結果です。

図表5の「転生したらスライムだった件」は、2013年2月からWEB小説が連載開始され、2015年3月に月刊少年シリウスで連載開始。深夜枠でテレビアニメが始まった2018年10月に検索数が急上昇してピーク値の100を記録、アニメ終了の2019年3月まで高いレベルを維持しました。2021年1月からアニメ第二期放送が発表されており、現在は小康状態です。

図表5. 「転生したらスライムだった件」Googleトレンド時系列推移

図表6の「七つの大罪」は、2012年10月に週刊少年マガジンで連載開始。三度目のテレビアニメが始まった2018年1月に検索数が急上昇し、最終回の同年6月にピーク値の100を記録しました。ただし、4度目のアニメが放送された2019年10月にも検索量が上昇しています。

図表6. 「七つの大罪」Googleトレンド時系列推移

図表7の「はたらく細胞」は、2015年2月に月刊少年シリウスで連載開始、複数のマンガ誌で多数のスピンオフ作品が連載されています。ピーク値の100が記録されたのは、テレビアニメが始まった2018年7月です。

図表7. 「はたらく細胞」Googleトレンド時系列推移

図表8の「カードキャプターさくらクリアカード編」は、1996年5月になかよしで連載開始し、1998年4月から何度もテレビアニメ化されています。現在のクリアカード編は2016年6月から連載され、ピーク値の100が記録されたのは、クリアカード編のテレビアニメが始まった2018年1月です。

図表8. 「カードキャプターさくらクリアカード編」Googleトレンド時系列推移

いずれもテレビアニメ放送時に検索数が急上昇する点は同じながら、「七つの大罪」や「カードキャプラーさくら」など幾度も地上波やNHKBSでアニメ化されて固定ファンが多い作品はアニメ放送時以外の期間でも検索されています。
それに対し、独立UHF局の深夜枠で初アニメ化された「転生したらスライムだった件」や「はたらく細胞」は、アニメ終了後の検索量減少の度合いが顕著でした。放送期間が短いこともあって視聴者の関心が長続きしにくいようです。

ドラマ化・映画化作品はキャストのパワーで検索数が激増

図表9~12は、ドラマ化された4作品の「Googleトレンド」時系列結果です。

図表9. 「コウノドリ」Googleトレンド時系列推移

図表10. 「東京タラレバ娘」Googleトレンド時系列推移

図表11. 「逃げるは恥だが役に立つ」Googleトレンド時系列推移

図表12. 「ちはやふる」Googleトレンド時系列推移

ドラマ化された作品は、放送時に社会的ブームを巻き起こす程に注目されますが、終了後の検索量減少度合いは顕著です。
検索ピーク時の絶対的な検索ボリュームが不明なのではっきりしたことは言えませんが、ドラマ化の場合、個々のキャストとの契約やギャラが絡むため、番組終了後のキャストによるライブイベントや限定グッズなど付帯ビジネスの展開が難しいことや、深夜アニメ同様、1クール(3ヶ月)単位で次の作品に入れ替わって視聴者の関心が移ることが要因として考えられます。
ちなみに「ちはやふる」はテレビアニメ化と劇場版実写映画化が併存しますが、映画公開時に検索量が激増しています。広瀬すずさん、野村周平さん、新田真剣佑さんなど、人気キャストによるターゲットの関心拡大効果として興味深いです。

最後に、今回分析した27のマンガ・キャラクター作品について、2010年9月~2020年8月の10年間(120か月間)にわたる検索量データを用いて、多変量解析の一手法である階層クラスター分析を行い、計6つのクラスターに分類しました(図表13)。

図表13. Googleトレンド時系列結果による階層クラスター分類結果

クラスター1(6作品)

はじめの一歩、FAIRY TAIL、クッキングパパ、GIANT KILLING、神の雫、東京アリス
⇒ 安定した長期連載が多く、最近はメディアミックスおよび検索量の増減が少ない

クラスター2(5作品)

進撃の巨人、GTO、島耕作、金田一少年の事件簿、セーラームーン
⇒ 元は長期連載で映像化されて社会現象になり、最近のリバイバル時に検索量が増えたものが多い

クラスター3(1作品)

ダイヤのA
⇒ テレビアニメ化(一期)で検索量が急上昇するも、その後は落ち着く

クラスター4(2作品)

五等分の花嫁、転生したらスライムだった件
⇒ テレビアニメ化・ゲーム化などのメディアミックスで現在人気の作品

クラスター5(2作品)

七つの大罪、カードキャプターさくらクリアカード編
⇒ 幾度にもわたるテレビアニメ化で数年前に人気、今もファンが多い作品

クラスター6(11作品)

あしたのジョー、ランウェイで笑って、はたらく細胞、コウノドリ、中間管理録トネガワ、きのう何食べた?、東京タラレバ娘、逃げるは恥だが役に立つ、ちはやふる、ホタルノヒカリ、きみはペット
⇒ ドラマ化や実写映画化の時に検索量が上昇するが、普段の検索は少ない作品

これらの結果から、マンガ・キャラクター作品は、テレビアニメ化を起点としたライブイベント、展示会、限定グッズ、スマホゲームコラボなどの付帯ビジネス展開によって、ファンの検索量が急上昇、高いレベルで持続することが明らかになりました。

一方、世間的にまだ浸透していな原作作品の場合は、単発でのアニメ化(特に独立UHF局)やドラマ化は、放送中に盛り上がるものの、番組終了後は話題が持続しない傾向も見受けられます。絶好の機会である映像化で拡大したファンをいかに維持するかが課題だと言えるでしょう。
ただ今回対象とした作品がどの年代にどの程度認知され、好意を持たれているか、グッズを欲しいと思われているか、などの情報がないため、上記クラスタリング結果のこれ以上の解釈は難しいところです。
冒頭にお伝えしたとおり、来月の第6回では最新調査結果をもとに「マンガ・キャラクター活用のメリットと留意点」について語る予定です。どうぞお楽しみに。

<バックナンバー>
第1回:調査データにみる日本人とマンガ・キャラクターの関係
第2回:データでわかった、キャラクターが提供する体験と効果の実像
第3回:キャラクターが誰に、どのように効くのか可視化する
第4回:Twitterの書き込みからマンガの情報拡散を分析する

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授として、現在は法政大学経営大学院で学びながら、駒澤大学や福井工業大学で講師も務める。

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