2019.07.10

「作る」→「食べる」→「語る」→「めでる」 │ 南信長さんから学ぶ食マンガの歴史②

オールタイムで愛され、ドラマ化、アニメ化作品も膨大。ベストセラーを供給し続けている食マンガは、どのようにして生まれ、これからどこに行くのか。『マンガの食卓』(NTT出版)著者であり、朝日新聞読書面コミック欄ほか各紙誌でマンガ関連記事を企画執筆、2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務めるマンガ解説者・南信長さんにお話をうかがいました。

ポイント② 「作る」→「食べる」→「語る」→「めでる」
食べるだけでも面白いマンガになる

プロの料理から素人の料理へとマンガの題材が移っていくに従い、主人公の立ち位置も広がっていきました。

『美味しんぼ』以降、料理を作る側だけではなくて、食べる側が主人公の作品が出てきます。わかりやすいところで言うと、『孤独のグルメ』の井之頭五郎なんか、本当に食べているだけじゃないですか。作画の谷口ジロー先生も、最初に話が来た時は意味がわからなかったとおっしゃっていました。

でもいろいろあって描き始めて、豆かんの回の時に、やっと、何かわかったそうです。五郎が食べて、「うん! これはうまい」っていう顔がおいしそうに描けて、それでポイントが掴めたと。伝わりづらいことを描いたという意味でも、『孤独のグルメ』は画期的な作品でした。

『深夜食堂』なんかも、マスターは料理を作っているわけですが、彼は狂言回しのようなもので、物語をつくっているのは食べているお客さんですから、食べる側が主役と言えます。高田サンコさんの『たべるダケ』も、女の子がとにかく食べるだけという作品です。

ユニークなところでは、殺人の濡れ衣を着せられたお嬢様が逃亡先でご当地グルメを食べまくる『とんずらごはん』なんて作品も。指名手配中の身なのにおいしそうな店を見つけると食べずにいられない食い意地と食べっぷりがハンパなく、見ていて痛快ですらあります。

とんずらごはん:義元ゆういち

誰もが熱く語れるのが食というジャンル

そこから一歩進んで、語る側が主人公になる作品も生まれてきました。土山しげるさんの『極道めし』は、刑務所の中で、受刑者たちが正月に出るおせち料理のおかずを賭けて、これまでで一番おいしかったものの話で勝負をするというストーリー。実際に食べ物はなく、エアグルメというか、これも画期的だったと思います。

そのヒットを受けて、『めしばな刑事タチバナ』という作品が出てきました。今度は受刑者じゃなくて刑事が主人公ですが、取り調べの最中に語り出したり、仲間内でサッポロ一番は「塩」か「みそ」か「しょうゆ」かみたいな話をしたり、語る系ですよね。

小太りで食いしん坊のサラリーマンを中心に、食と生活と恋愛の機微を描く『おいピータン!!』も、登場人物たちが「おでんを頼む順番」とか食に対するちょっとしたこだわりを語ります。そのネタのほじくり方が絶妙で、「あるある」とヒザを打つ手が止まりません。

おいピータン:伊藤理佐

語る系で異色なものでは『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』なんてのもあります。食べ方についてのトークバトルで、まさに目玉焼きの黄身をいつつぶすのか、カレーのルーはどうかけるか、スパゲティにスプーンを使うかなど、人それぞれの食べ方の違いをとことん追求していきます。

めでるマンガに見られる食の官能的な側面

そこからさらに進んで出てきたのが、めでるです。さっきの『たべるダケ』がその先駆けなんですけど、食べる姿をめでる、鑑賞するみたいなタイプのマンガが増えてきました。

最初は女の子が食べる姿をちょっと官能的に描くものが多くて、ドラマ化された『ラーメン大好き小泉さん』なんかもそういう要素はありますよね。宇宙人の女の子が地球で初体験の食べ物を食べるというひねった設定の『クミカのミカク』もそうですし、『鳴沢くんはおいしい顔に恋してる』はまさに女の子が食べる姿にグッとくる男の子の話です。

続いて、BL畑の人が、男の食べる姿を官能的に描くマンガも出てきました。『めしぬま』『イケメン共よ メシを喰え』『男子、隣人と食せよ』『男のやる気メシ!』とか。あと、ちょっと違うところでは、『八雲さんは餌づけがしたい。』っていう、未亡人が男子高校生の食べっぷりを楽しむ的なマンガもあります。

食欲、性欲、睡眠欲は人間の三大欲求で、食べることは、ある意味セクシャルな部分がもともとあるじゃないですか。昔、藤子・F・不二雄先生のマンガで、道徳観が逆になったパラレルワールドの話があって、そこでは性欲と食欲が反対で、食べることがものすごく恥ずかしいことなんです。だから人前で食べるなんてとんでもないっていう。そういう意味では、めでる食マンガは人間の本能的な部分に訴えているのかもしれません。

呼称も「料理マンガ」→「グルメマンガ」→「食マンガ」と変化

「作る」→「食べる」→「語る」→「めでる」という変化に合わせるように、マンガの呼称も「料理マンガ」→「グルメマンガ」→「食マンガ」と変化していきました。

厳密な定義があるわけではないですが、「料理マンガ」は料理を作る人が主役、「グルメマンガ」は食べる人が主役とすると、そのどちらにも含められない現代の多様な作品は、包括的に「食マンガ」と呼べるのではないでしょうか。

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