2019.07.11

中性化するニッポン:第1回 中性化を象徴する「#KuToo」運動と「女性のヒール(靴)」問題 <後編>

「中性化」するニッポンの現状、そしてそこから見えてくるマーケティングの新機軸をお伝えしよう、と始まった連載の第二回です。
前回は最後に少し脱線してしまいましたが、再び「女性のハイヒール(靴)」問題に話を戻しましょう。

猫をかぶるだけの"メリット"がなくなった

80年代後半~90年代前半のバブル期、「オヤジギャル」に代表される若い女性のファッションは、ワンレンボディコンにピンヒール、という出で立ちが象徴的とされていました。でもバブル崩壊後、90年代半ば以降になると、若者のファッションはブランドものよりレアもの、見栄より着心地がいい、主張しすぎないスタイルへと切り替わっていきます。

このころ流行ったのが、カジュアルで使い回しがきくウェアや腕時計、スニーカー。女性の間では「ぺたんこ靴」と呼ばれるフラットシューズもブームとなり、バブル期のようなピンヒールを履く女性は、目に見えて減っていきました。

ではなぜ、バブル崩壊後に、ハイヒールを履かない女性が増えたのか。
「決まってるじゃないですか。女性が男性の前で猫をかぶるだけの"メリット"がなくなったからですよ」......。

00年代前半、端的にそう教えてくれたのは、ある女性誌の編集長(当時)でした。彼いわく、バブル期までは男性の側に、女性に奢ったり、見栄を張ってカッコいいクルマを買ったりするだけの余裕があった。「いい女」を連れて歩くことが、男にとってステイタスであり、女性の側も、カッコいいクルマに乗ったり奢ってもらったりしやすいよう、「女性らしいファッション」を前面に打ち出していた。
編集長いわく、女性側のそうした「女らしさ」は、半ば「プレイ(フリ)」であったはずだ、とのこと。

でもバブルがはじけた後は、男性側にそれだけの金銭的・精神的余裕がなくなった。そもそも男女平等世代なので、男性は「デートでは、男が奢るべき」とは考えにくい。となれば、女性も本性を表すだろう。
「だって、無理して女性らしいファッションをしたところで、男性や社会から受ける恩恵が少なすぎる。それなら、女性だって着たいモノを着て、履きたいモノを履きますよ」

......なるほど! と目からウロコでした。わが身に置き換えても、確かに納得がいきます。

ハイヒールの強要は時代遅れ

90年代前半、私がピンヒールを履いてデートや職場に行っていたのは、まだ彼氏や社内に「女性には、女らしくいてもらいたい」といった空気があったから。
私が新卒で就職したのは大手出版社で、当時から男性と同じように仕事をさせられてはいましたが、それでも「女の子扱い」されれば、上司に会食の席に呼んでもらって美味しい食事を(タダで)食べられたり、スポーツの招待チケットを(タダで)もらえたりしました。それだけ会社側にも、接待交際費が潤沢にあったからです。

こうした傾向が、結果的に「セクシャルハラスメント」を生む温床になったと、いまでは思います。私自身、あまりに酷いセクハラに悩んで会社を辞めた経緯もありますが、それでも当時は、「ハイヒールを履いて女らしくしていれば、いいことが待っている」という、妙な成功体験や、パブロフの犬効果(条件反射)のようなイメージがありました。

だからこそ当時、外反母趾ぎみでヒールを履くたびに「痛い、痛い」と呟いていた私や周りの同僚までもが、皆ヒールを履いていたのだと思います。

でもバブル崩壊とともに、デートでも職場でも「ヒールを履く(猫をかぶる)"メリット"」は薄れて行きました。いまや「女性活躍推進」の名の元に、女性も営業現場や出張に、積極的に出向く時代。
しかも、いまや20~50代の既婚男性のうち7割が「妻にも働いて欲しい」と言い、そのうち5割はなんと、妻に「正社員」を希望するのです(19年 ワタベウェディング調べ)。

となれば、女性は結婚・出産する前から、(本意であろうとなかろうと)「一生働き続ける」ことをイメージします。当然、彼女たちは早い段階で気づくでしょう。
「この先、妊娠・出産したら、優雅にハイヒールで社内を闊歩することなんてできない」......。そのとき、「だから、若いいまのうちにヒールを履いておこう」と考える女性もいるでしょうが、多くはそうは考えない。近年、百貨店やショッピングセンターの靴売り場を見ても、圧倒的にハイヒールが減っているのは明白でしょう。

つまり、女性にハイヒールを強要する職場や恋人は、良し悪しや男女差別云々より前に、もはや「時代遅れ」。なぜなら、職場やデートの現場が、既に「中性化」しているからです。

逆に、そこを逆手にとってマーケティング戦略に変えたのは、ジョンソン・エンド・ジョンソン。「ヒールに抵抗をおぼえるのは、就活にのぞむ学生も同じはず」だとの考えから、今年3月、「#スニ活」キャンペーンに乗り出しました。

具体的には、企業や学生に「就活で履く靴は、スニーカーでも良いことにしませんか?」と呼びかけ、同社のばんそうこうブランド「バンドエイド」の公式ツイッターでも「スニ活はじめませんか」と賛同者を募集。脱ハイヒールや「#KuToo」運動を意識した結果、やはり若者や女性を中心に、共感を呼んでいるようです。

異性よりも同性からモテたい

......と、ここまで読んでくださって、「でもバブル崩壊後、驚くほどヒールが高い、「厚底サンダル」や「厚底ブーツ」が流行ったじゃないか」と首を傾げる方もいるかもしれません。

でも00年代、昨年引退した歌手・安室奈美恵さんを真似て「厚底サンダル(ブーツ)」を履いた、いわゆる「アムラー」の靴は、かかとの一部分だけが高いハイヒールではなく、かかと全体、あるいはつま先からかかとまで、広い幅で「くさび型」に高くなっていく「ウェッジヒール」が主流でした。
これらは、歩くときには猫背になりやすかったり、転倒しやすかったりするのですが、履いているだけなら、いわゆるハイヒールに比べてストレスが少ない。

また、00年代前半以降、若い女性が厚底サンダル(ブーツ)を履いたのは、「男性」の目を意識してではなく、同性である「女性」の目を意識して、のことでした。ひと言で言えば、「異性モテ」より、同性からの「カワイイ」を貰いたかったからなのです。

もちろん、女性の多くは分かっています。確率論でいえば、ハイヒールを履いたほうが女らしく、スタイルよく見えることを......。実際に17年、心理学の学術誌に掲載されたDavid M. G. Lewis氏らの研究によると、女性がハイヒールを履いた時に腰のカーブが「45.5度」に近づくと、女性は男性からより魅力的だと評価されることが分かりました。これはヒールの高さでいうと、5~7センチ程度に相当するそうです。

でもだからといって、それを職場で他人に強制されたくはない。自分の選択で、TPOに応じて履くときだけ履きたいというのがホンネでしょう。

もっとも、企業で「○○が当たり前」とプレッシャーを受けるのは、女性だけではありません。男性も「ネクタイ」などで、同じように縛られることはあるはずです。本来なら男性からも、「ネクタイは(首元が)苦痛」を意味する「#NeckTOO」運動が起こっていいと思うのですが......、男性のほうこそ、いまや「中性化」して、自分からはなかなか声をあげにくい時代。

そんななか、メンズ市場に大きな変化をもたらして(中性化して)いるのが、「香り市場」と、男性の「嫌われたくない」願望です。これについては、次回詳しくお話させて頂きますね。どうぞお楽しみに!

筆者プロフィール
牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。大手出版社勤務等を経て、2001年4月、マーケティング会社・インフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。

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