2019.07.03

「プロの料理」から「素人の料理」へ │ 南信長さんから学ぶ食マンガの歴史①

オールタイムで愛され、ドラマ化、アニメ化作品も膨大。ベストセラーを供給し続けている食マンガは、どのようにして生まれ、これからどこに行くのか。『マンガの食卓』(NTT出版)著者であり、朝日新聞読書面コミック欄ほか各紙誌でマンガ関連記事を企画執筆、2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務めるマンガ解説者・南信長さんにお話をうかがいました。


ポイント① 「プロの料理」から「素人の料理」へ
食マンガはかつてプロのものだった

食マンガの元祖は、マンガ史的には1970年に連載がスタートした望月三起也さんの『突撃ラーメン』と言われています。ただ、食をテーマにしつつもアクションマンガだったので、料理がうまそうかというとそうではありませんでした。

今の隆盛につながる食マンガの元祖は、やはり1973年の『包丁人味平』ということになるでしょう。プロの料理人による料理バトルが題材。カレー将軍の鼻田香作をはじめとしたキャラクター造形が面白いし、汗の一滴で味が完成するなど、バトルにけれん味がありました。

この『包丁人味平』が後に与えた影響は大きいです。80年代のヒット作品『ミスター味っ子』から近年の『食戟のソーマ』に至るまで、プロあるいはプロをめざす主人公による料理バトルは、食マンガの王道として人気を保ち続けています。

ミスター味っ子:寺沢大介

カウンターとして生まれた素人料理マンガ

一方、80年代に入って出てきたのが『美味しんぼ』です(1983年より連載開始)。料理バトルもテーマではあるものの、食事をしてああだこうだ語る、作る側じゃなくて食べる側が主役のマンガが生まれ、ちょうどその頃にグルメという言葉も社会的に定着し始めました。

同じ頃に登場したのが『クッキングパパ』(1985年より連載開始)。プロの料理人ではなく、素人が料理するという意味でも、家庭で男が料理するという意味でも、二重にエポックメイキングな作品でした。

クッキングパパ:うえやまとち

当時は男が料理をするのはかっこ悪いという価値観があり、『クッキングパパ』も、最初は主人公が料理するのを隠しているんです。お弁当も自分で作っているんだけど、そうじゃない風に見せていました。そういう価値観の中で、『クッキングパパ』が生まれたというのは大きいです。


図表:編集部制作


素人料理マンガの新潮流「おうちごはん」

『クッキングパパ』以降、プロを上回る勢いで素人の料理がマンガの題材になり始め、時代を反映して00年代からは「おうちごはん」を扱うものが増えてきています。例えばその名もズバリ『おうちでごはん』や手抜きレシピの『花のズボラ飯』など。最近の作品だとおかざき真里さんの『かしましめし』なんかはキャラクター、ストーリー、調理から食べるシーンまでが三位一体となってすごく読みごたえがあります。

リトル・フォレスト:五十嵐大介

一番料理がおいしそうなものを挙げるなら、五十嵐大介さんの『リトル・フォレスト』。山あいの集落で自給自足に近い暮らしをしている若い女性の労働と食の話で、特にバゲットサンドの回の、ウドとミントのフリットとフライドエッグを揚げる際の「じがじがじがじがじが」「じぐじぐじぐじぐじぐ」という音や、それをバゲットに挟んで食べる絵面などは、シズル感満点です。

時代を先取りしていく食マンガ

さらに、料理男子の増殖を受け、素人料理の中でも「男子が作って女子が食べる」というパターンが増えてきました。従姉3人と同居することになった男の子が料理係を引き受ける『まかない君』、女王様気質の委員長のためにどんぶり物をつくる『どんぶり委員長』、映画化もされた『にがくてあまい』などがそうです。

きのう何食べた?:よしながふみ

反映というより、時代の先取りと言えるマンガもあります。『パパと親父のウチご飯』は、子どもを引き取ったワケありの男二人がルームシェアして、協力しながら子育てをし、料理経験はないけどごはんも作る。すごく今っぽいですよね。『きのう何食べた?』も、おうちごはんが題材でゲイカップルが主人公という、非常に時代を先取りした作品と言えるでしょう。

※ポイント②「作る」→「食べる」→「語る」→「めでる」食べるだけでも面白いマンガになる は7月10日公開予定

筆者プロフィール
南 信長(みなみ のぶなが)

1964年生まれ。マンガ解説者。朝日新聞読書面コミック欄のほか、各紙誌でマンガ関連記事を企画・執筆。2015年より手塚治虫文化賞選考委員も務める。著書に『マンガの食卓』(NTT出版)、『やりすぎマンガ列伝』(KADOKAWA)、『1979年の奇跡 ガンダム、YMO、村上春樹』(文春新書)など。

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