2019.07.04

中性化するニッポン:第1回 中性化を象徴する「#KuToo」運動と「女性のヒール(靴)」問題 <前編>

はじめまして。マーケティングライターで世代・トレンド評論家の牛窪(うしくぼ)恵と申します。「おひとりさま」や「草食系男子」の言葉を世に広めた、として紹介されることが多いのですが、本業は、女性ばかりのマーケティング会社(インフィニティ)の経営です。
取材や執筆、講演、テレビ番組のコメンテーターなどをさせて頂きながら、今年3月に立教大学大学院で修士(経営管理学/MBA)を取得。大学の一部の授業でも教えながら、経営やマーケティング関連の学会等にも参加・発表する日々を送っています。どうぞよろしくお願い致します。


ところで、なぜマーケティングを本業とする私が、「おひとりさま」や「草食系男子」など、社会学寄りの言葉を発信してきたのか......?連載第1回目の今回は、それをご説明するためにも、最近話題の「#KuToo」運動と「女性のヒール(靴)」をテーマに、「中性化」するニッポンの現状とマーケティングの新機軸をお伝えしたいと思います。

女性がハイヒールを履くメリットを感じにくい社会

まず、突然ですが「中性化」と聞いて、皆さんは真っ先に何を思い浮かべますか?

ここ数年、テレビを賑わす、マツコ・デラックスさんやミッツ・マングローブさんなど、いわゆる「オネエ」タレントの方々でしょうか?
それとも、女性視聴者を中心に圧倒的な支持を得た、「男が男に恋する」物語、すなわち俳優の田中圭さん主演の連続ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系/ 2018年4月~6月放映)や、西島秀俊さん主演の『きのう何食べた?』(テレビ東京系/19年4月~6月放映)ですか?

あるいは、いまや日本でも約6兆円市場とまで言われる、「LGBT(性の多様性。女性同性愛者(レズビアン)、男性同性愛者(ゲイ)、両性愛者(バイセクシュアル)、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉)」の流れでしょうか?

確かにいずれも、「中性化」を象徴する現象かもしれない。ただ、これだけなら「日本も成熟して、価値観が多様化したから、いろんな嗜好が認められる社会になったよねー」で終わってしまうかもしれません。
でもこの連載の本題は、あくまでもマーケティング。そこであえて、毎回一つの「モノ」から中性化を読み解きたいと思います。今回は、先の「女性のヒール(靴)」がそれです。

「#KuToo」運動は、既に多くの方々がご存じでしょう。始まりは今年1月、ツイッター上のある呟きがきっかけでした。ちなみにこの言葉は、性被害やセクハラを告発する「#MeToo」運動と、「靴(くつ)」「苦痛(くつう)」を掛け合わせた造語だとされています。

最初の発信者とされるグラビア女優・石川優実さんは、アルバイト先の葬儀の現場で、5~7センチほどのヒールを履くよう求められていたと言います。そこで「女性が職場で、ヒールやパンプスを履かずに済む社会が来ればいい」との思いをツイートすると、またたく間に「その通り!」や「私も辛い思いをしています」といった共感の輪が広がりました。
さらに石川さんは、ネット上で署名を呼び掛け、6月には集まった約2万人弱の署名を厚労省に届けました。そこで、「ハイヒールの強制を禁止して欲しい」と訴えたのです。

ちなみに、この「#KuToo」運動と似た動きは、4年前(2015年)のイギリスでも起こっています。イギリスの公共放送局・BBCなどの報道によると、ロンドンで受付係として働く女性が、フラットシューズで出社したところ、「5~10センチのハイヒールを履くように」と命じられた。女性が「できない」と反発すると、日給なしで帰宅を命じられたそうです。

そこで彼女が、この内容をフェイスブックに投稿すると、似た経験をした女性が大勢いることが判明。そこから「ハイヒールの強制をやめて」と法改正を求める署名活動が拡がり、最終的には15万人以上が署名したといいます。すごい規模ですよね。
結果的に、イギリスの下院議会が調査に乗り出し、2017年には「法の見直しが必要だ」との主旨の報告書を公開しました。日本に比べ、政府もこうした女性の声に敏感だったと言えるでしょう。

「でもハイヒールって、そんなに辛いの?」......私の周りの男性は、何人かがそんな声をあげました。私は「個人差がありますけど、結構辛いですよ」と笑顔で答えましたが、ホンネではこう言いたかったのも事実。
「いまや、女性が(ハイヒールを)履く"メリット"を感じにくい社会なんです!」
でも、誤解を生みそうなので、グッと堪えました。

見栄より「使い勝手」や「心地よさ」へ

私は、バブル期(80年代後半~90年代前半)に青春を謳歌した、「真性バブル世代(現49~54歳)」です。平成2年(90年)には、ゴルフ場や飲み屋さんでオジサンのように豪快に振る舞う女性が「オヤジギャル」と呼ばれ、流行語にもなりました。
でも、この言葉のきっかけにもなった漫画家・故中尊寺ゆつこさんのイラストを見ればお分かりの通り、当時のオヤジギャルが履いていたのは、圧倒的にハイヒール。ワンレン(グス)のロングエアにボディコンスタイル、そして先の細い7~10センチ程度のピンヒールの靴を履くというのが、いわゆる「バブル女」の象徴でした。私もその一人でした。

ところがその後、バブル崩壊とともに時代は変わります。高級ブランドのファッションやスポーツカーのブームは鳴りを潜め、バブル期に設立された会社・良品計画による「無印良品」が、90年代半ば前後から、一気に広がりを見せたのです。

無印良品は、ブランドを主張しない「ノンブランド」の代表とされ、その後、マーケティング・アナリストの三浦展さんが「シンプル族」と呼ぶ、飾らないシンプルなカジュアルファッションが、当時の若者、すなわちバブル世代より一つ下の「団塊ジュニア(現43~48歳)」に支持されるように。このころ、キョンキョン(小泉今日子さん)が火をつけたとされる「ショートヘア」も流行り始め、バブル期のワンレンは徐々に「時代遅れ」と見られるようになりました。

では、靴はどうでしょう。80年代後半にスポーツブランドのナイキが初めて発売した「ナイキ AIR MAX(エアマックス)」と呼ばれるランニングシューズが、日本でもバブル崩壊後に大ブームを迎えます。
ほぼ同じころ、腕時計も「カシオ G-SHOCK(ジーショック)」(カシオ計算機)のシリーズ商品が、若い世代に大ヒット。きっかけは、1994年公開の映画『スピード』で、俳優キアヌ・リーブス演じる主人公が、 G-SHOCKを身に着けていたから、だとされています。

ただもう一つ、エアマックスと G-SHOCKには、大きな共通項があります。
それは、バブル期に流行った「高級ブランド」ではなく、手が届く大衆的なブランドの「レアもの」、すなわち希少価値が高い(レアな)、限定商品である点です。

エアマックスも G-SHOCKも、ほとんどのシリーズ商品は、売る側が「期間限定」「個数限定」「○○モデル」といった"枷(かせ)"をハメています。
バブル世代と違い、団塊ジュニアからは、あまりモノを欲しがらなくなった世代。子ども時代からファストフードやコンビニが身の回りにあって、「欲しいモノはとくにない」と答える若者が増えました。また、多くはバブル崩壊後(=就職氷河期(93年))に就職活動を強いられ、「頑張れば、どんどん給与が上がっていく」と信じられる時代ではなくなった。

だからこそ彼らは、上の世代のような「高級ブランドを身に着けたい」といった欲求を抱きにくい。おカネがものを言うブランドものより、希少価値が高く「いま買わないと!」と焦りを覚えるレアものを支持。見栄や見映えより「使い勝手」や「心地よさ」で消費する世代です。
クルマも、アウトドア用に荷物が積める、あるいは街中でも駐車しやすいような、4WDや軽自動車が売れ始めました。ファッションも、着心地の悪い肩パッド入りのミニ丈のワンピースでなく、コーディネイトして使い回しがきく、そして動きやすく肌触りのいい、無印やユニクロの洋服が売れるようになったのです。

女性に奢らなくなった男性たち

そしてもう一つ、大きなポイントがあります。それはこの団塊ジュニアから、初めて小中学校で「男女平等教育」を受けた世代であること。
このことが、のちに「男だって、家事や育児をシェアすべきだ」という「イクメン」文化の大きなきっかけにもなりましたが、一方でちょっとした悩ましい問題も起こります。

それは、男性が女性に、デートで「奢らなくなった」こと。
このことは、複数の統計データや、私たちの会社で行なってきたグループインタビュー調査(5~6人を1つの部屋に集めて、意見を聞く調査)でも明らかです。

当然でしょう。小中学生の頃から、「男女は平等であるべきだ」と教えられ、就職した直後(90年代半ば~後半)から企業内で、あるいは採用段階で、「男女差別を行なってはならない」と言われ続けてきた彼ら。異性と交際したからといって、いきなり「男性が女性に奢るのは、当たり前だ」と言われても、ピンとこないはずです。
ちなみにこの傾向は、さらに下の20、30代男性こそ顕著で、彼らは「なんで映画館とかって、レディースデイはあるのに、メンズデイはないんスか?」「それって、逆差別じゃないですかー」と、言い放つ世代。

だからこそ、他方の女性は、男性以上に「異性の目」を意識しなくなっていきます。その象徴が、2000年代初頭の「カワイイ」ブーム。
次回、また「女性のハイヒール(靴)」問題との関係で、続きをお話していこうと思います。どうぞお楽しみに!

筆者プロフィール
牛窪 恵(うしくぼ めぐみ)

世代・トレンド評論家。マーケティングライター。修士(経営管理学/MBA)。大手出版社勤務等を経て、2001年4月、マーケティング会社・インフィニティを設立、同代表取締役。著書やテレビ出演多数。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。

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