2024.11.19
《2024年調査》タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(4)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】
秋が駆け足で過ぎ去ろうとしている中、毎週のようにご当地キャラ・ゆるキャラ大集合イベントが開催されています。
大学入試や他の用事と重なって行けなかったものも多数ありましたが、これらの元祖と言える、滋賀県彦根市で10月19日から20日にかけて開催された「ご当地キャラ博 in 彦根2024」には訪問することができました。
今回は、2008年の初開催以来の主な舞台である夢京橋キャッスルロードでの5年ぶりの開催で、各地から100を超えるキャラクターが駆け付けました。
初日は雨に祟られましたが、幅広い年代の来場客で賑わい、インバウンド客も多数見かけました。ひこにゃんをデザインしたもへろんさんがプロデュースする「ひこにゃんミュジアム」がオープンし、ライバル役のわるにゃんこ将軍も見事なドラム演奏を披露するなど、彦根市の地域活性化に向けた新たな動きも始まっています。
2024年10月19日・20日「ご当地キャラ博in彦根2024」(筆者撮影) ※右画像は、わるにゃんこ将軍・もへろんさん
前回は、Z世代での「タレント・有名人」「キャラクター」「YouTuber」「VTuber」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性について、商品・サービスへの興味が高まるのか、購買意欲が喚起されるのか、タレントのタイプ(お笑い芸人、アイドル、俳優など)によって反応がどう異なるのか、大学生を対象とした定量調査データを用いた以下の分析結果を紹介しました。
- スポーツ選手や男性ミュージシャンは憧れの存在。男性お笑い芸人への評価は辛め
- 男子はスポーツ選手や男性ミュージシャン、女子は女優と韓流スターの評価が高い
- 憧れの同性タレントによる推奨が、商品興味・購入を喚起する
- 男子は誠実で信頼できるタレントに、女子は憧れのイケメンに魅力を感じる
- 「マンガ原作系ファン」と「ファンシー系ファン」では、好きなタレントのタイプが真逆
今回はZ世代での商品・サービスのエンドーサー(宣伝役)としてのタレント・有名人、キャラクター、YouTuber、VTuber関する分析の完結編です。エンドーサーの魅力度アップや、エンドーサーが推奨する商品への興味や購入喚起にはどんな変数が効くのか、エンドーサータイプによる各因子間の因果関係の違いを紹介します。
エンドーサーへの「憧れ」や「共感・感情移入」が、商品への興味につながりやすい
図表1は、タレント・有名人、キャラクター、YouTuber、VTuber各々を純粋想起した大学生を対象として、6つのエンドーサー因子を潜在変数に設定し、潜在変数や測定変数の因果関係をSEM(構造方程式モデリング)※ にて比較した結果です。分析精度を示す指標のGFIが0.9未満で決して高くありませんが、参考にはなるレベルです。
※Structural Equation Modeling:因子分析や重回帰分析などの機能を併せ持つ、多変量解析の統合的な一手法。下図に記載した標準偏回帰係数(Amosでは標準化推定値)は、各独立変数(下図では知覚的類似性、希望的識別性、知覚的信頼性、専門性)が従属変数(下図では魅力度、推奨商品興味・購入喚起)に及ぼす影響の向きと大きさを示し、0から±1の値をとる。
図表1. 「タレント・有名人」「キャラクター」「YouTuber」「VTuber」のエンドーサー因子SEM結果
「魅力度(親しみ・面白さ・見た目の良さ)」を高める有意な変数(パス:標準化推定値と矢印の太さで表示)は、タレント・有名人とYouTuberでは「専門性(知識・スキル)」と「希望的識別性(その人のようになりたい)」です。加えてタレント・有名人では「知覚的信頼性(信頼・誠実)」も有意でした。一方、キャラクターとVTuberでは有意な変数がありませんでした。
「推奨商品興味・購入喚起」を高める有意な変数は、キャラクターとYouTuberとVTuberでは「知覚的類似性(自分と似ていると感じる)」、タレント・有名人とYouTuberでは「希望的識別性(その人のようになりたい)」でした。
エンドーサーの「魅力度」と「推奨商品興味・購入喚起」の関係の強さ(パスの太さ)が特に目立つのはタレント・有名人とVTuberで、YouTuberも有意です。一方、キャラクターは「魅力度」と「推奨商品興味・購入喚起」の関係が確認できませんでした。
以上の結果から、実在性が高い存在であるタレント・有名人とYouTuberは、憧れ感を持たせることで魅力度および推奨商品興味・購入喚起がアップすること、架空性や匿名性が高い存在であるキャラクターとVTuberは、自分と似た部分に共感・感情移入させることで推奨商品興味・購入喚起がアップすることがわかりました。
自分と似た部分に共感・感情移入させることが推奨商品興味・購入喚起アップにつながるのは、YouTuberにも当てはまります。
また、先天的・後天的に見た目が良くて、実在性も兼ね備えている魅力的な存在であるタレント・有名人とVTuber(VTuberの場合は、キャラクターと比べて「中の人」の存在を想像させる)は、その魅力がダイレクトに推奨商品興味・購入喚起につながる結果になっています。
タレント:男子は「誠実・信頼できる」、女子は「憧れ」で商品への関心が高まる
続いて、タレント・有名人のSEM結果を性別で比較しました(図表2)。
図表2. 性別:「タレント・有名人」のエンドーサー因子SEM結果
「専門性」→「魅力度」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが有意な点は男女共通しますが、男子学生は「知覚的信頼性」→「魅力度」、 「希望的識別性」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、女子学生は「希望的識別性」→「魅力度」のパスが、それぞれ有意になっている点が異なります。
これは、男子は誠実さや信頼感があるタレントに、女子は憧れのタレントにそれぞれ魅力を感じて、推奨する商品への興味や購入意欲が喚起されることを示す結果です。
キャラクター:男子は「誠実・信頼できる」、女子は「自分と似ている」で商品への関心が高まる
続いて、キャラクターのSEM結果を性別で比較しました(図表3)。
図表3. 性別:「キャラクター」のエンドーサー因子SEM結果
男子学生は「知覚的信頼性」→「魅力度」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、女子学生は「知覚的類似性」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、それぞれ有意になっている点が異なります。
これは、男子は誠実さや信頼感があるキャラクターに魅力を感じて推奨商品への興味や購入を喚起され、女子は自分と似た部分があるキャラクターが推奨する商品への興味や購入意欲が喚起されることを示す結果です。
YouTuber:男子は「憧れ」、女子は「自分と似ている」で商品への関心が高まる
続いて、YouTuberのSEM結果を性別で比較しました(図表4)。
図表4. 性別:「YouTuber」のエンドーサー因子SEM結果
「魅力度」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが有意な点は男女共通しますが、男子学生は「専門性」→「魅力度」、「希望的識別性」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、女子学生は「知覚的類似性」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、それぞれ有意になっている点が異なります。
これは、男子は専門性があるYouTuberに魅力を感じ、男子は憧れの、女子は自分と似た部分があるYouTuberが推奨する商品への興味や購入意欲が喚起されることを示す結果です。
VTuber:男子は「専門性がある」で商品への関心が高まる
最後に、VTuberのSEM結果を性別で比較しました(図表5)。
図表5. 性別:「VTuber」のエンドーサー因子SEM
男子学生は「知覚的信頼性」→「魅力度」→「推奨商品興味・購入喚起」、「専門性」→「推奨商品興味・購入喚起」のパスが、女子学生は「専門性」「希望的識別性」→「魅力度」のパスが、それぞれ有意になっている点が異なります。
これは、男子は誠実さや信頼感がある、女子は専門性があるVTuberに魅力を感じ、男子は専門性があるVTuberが推奨する商品への興味や購入意欲が喚起されることを示す結果です。
以上のように、エンドーサーとしての魅力度および推奨商品興味・購入喚起を高める要因を明らかにするためのSEMでは、男女による傾向の違いが随所にみられました。
総じて、魅力度アップにつながる変数は、男子は「知覚的信頼性(信頼・誠実)」、女子は「希望的識別性(その人のようになりたい)」でした。
そして「推奨商品興味・購入喚起」につながるのは、男子は「専門性(知識・スキル)」、女子は「知覚的類似性(自分と似ていると感じる)」でした。これは、性別による推し活心理の違いを示す、興味深い結果だと言えるでしょう。
今回は以上です。次回は、2025年キャラクター定量調査に向けた予備分析として、時系列でのキャラクターに関するトレンドの変化について紹介します。どうぞお楽しみに。
<第2部 バックナンバー>
第29回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(3)
第28回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(2)
第27回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する
第26回:《2024年調査》キャラクター・YouTuber・Vtuberのエンドーサー(宣伝マン)としての可能性を分析する
第25回:《2024年調査》 YouTuber・VTuberファンの、マンガ・アニメ・キャラクターへの反応を分析する
第24回:《2024年調査》 タレントタイプ別ファンの、マンガ・アニメ・キャラクターへの反応を分析する
第23回:《2024年調査》 各キャラクターの支持層から、どのような反応が期待できるかを分析する
第22回:《2024年調査》 キャラクターの最新人気ランキングとその支持層
第21回:コロナ禍の前後で、キャラクター関連への「好意度」はどう変化したか
第20回:コロナ禍の前後で、キャラクター関連への接触はどう変化したか
第19回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(3)
第18回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(2)
第17回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(1)
第16回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(3)
第15回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(2)
第14回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。