梅雨の戻りも終わって、夏真っ盛りです。今年こそはとの意気込みで三年ぶりに夏のイベントが目白押しになるはずが、コロナ禍第七波の到来で、イベント開催側は苦渋の決断を迫られています。筆者が勤務する福井の大学でも、濃厚接触者として講義を欠席する学生が急増しており、勢いが収まるまで何とかやり過ごしたいところです。
前回は、最近のヒット作品が読者や視聴者に提供する体験について、2021年11月に実施した「キャラクター定量調査2021」の結果を用いて以下を紹介しました。
- 『カタルシス・非日常感』の体験を提供する「東京リベンジャーズ」「進撃の巨人」
- 『なりきり』で女子ティーンに強く支持される「東京リベンジャーズ」「呪術廻戦」
今回は、これからの消費を担い、旬のマンガ作品のコアファンが多いZ世代を対象とした定量調査結果から、今どんなマンガ原作コンテンツが支持を集めているのか、その支持の理由は何か、について紹介します。
Z世代の定義は明確でありませんが、1990年半ばから2010年代に生まれた世代を指すことが多いようです。生まれた時からインターネットが普及していたデジタル・ネイティブ世代で、ソーシャルメディアでのコミュニティを重視し、モノよりもコト、娯楽や経験に価値を見出す傾向が強く、他者との競争よりも自己実現や社会貢献に対する欲求が高いと言われています。
Z世代に関する詳しい解説は「講談社SDGs」の記事をご覧ください。
大学生が好きな作品のうち約4割が「マンガ原作系」
今回はZ世代のうち、消費行動やSNS発信などで社会に及ぼす影響が特に大きいと思われる大学生に焦点を当てて、現時点で最新のマンガ原作コンテンツ支持状況を調べてみました。
図表1は、筆者が講義を担当する2つの大学でマーケティングや広告論を受講している大学生を対象として、2022年6月下旬から7月上旬に調査したアンケート結果です。
純粋想起で「好きなキャラクター」を3つまで記入してもらったところ、大妻女子大学社会情報学部の学生(n=87)は全部で109キャラ、福井工業大学環境情報学部経営情報学科の学生(n=74、うち女性5)は全部で83キャラを回答しました。青く網掛けされた作品がマンガ原作系で、図表1で記した計46作品(3サンプル以上が回答)のうち19作品、約4割を占めています。
一見して、大妻女子大生と福井工大生で、想起された好きな作品の顔触れが全く異なることがわかります。「マンガ原作系」が占める割合は、大妻女子大生が3割弱で「ファンシー系」より少ないのに対し、福井工大生は「マンガ原作系」が6割強と圧倒的に多くなっています。
図表1. 大学生の好きなキャラクターランキング(純粋想起:作品単位)
大妻女子大生のTOP5(第1位「スヌーピー」(14.9%)、2位「ポケットモンスター」(12.6%)、3位「名探偵コナン」「SPY×FAMILY」「呪術廻戦」(各11.5%)は、福井工大生ではいずれも6位以下で、「ポケットモンスター」のみ6位(5.4%)、他は全て10位以下にとどまっています。
一方の福井工大生のTOP5は、第1位「ONE PIECE」(48.6%)が突出しており、2位「ドラえもん」(14.9%)、3位「ドラゴンボール」(8.1%)、4位「クレヨンしんちゃん」「僕のヒーローアカデミア」(各6.8%)と続きますが、大妻女子大生でこれらの作品はいずれも15位以下でした。
性別、学部、大学所在地、視聴可能な民放局数など条件の違いに起因すると考えられますが、同年代のほぼ同時期の回答結果で、好きな作品の嗜好性がここまで違ってくるとは予想外でした。また超人気作の「鬼滅の刃」がほとんどあがってこないことにも驚きました。
男子大生は主人公に、女子大生はサブキャラに支持が集まる傾向
マンガ原作系作品に限定して、純粋想起で記入された作品ごとの登場キャラクターたちの出現率と順位を集計した結果が図表2です。最も多かったのは「ONE PIECE」の主人公「モンキー・D・ルフィ」で、福井工大生では2割近くに達しています。次いで多かったのはSPY×FAMILYの「アーニャ・フォージャー」で、大妻女子大生では唯一1割を超えています。続いて、福井工大生では「ロロノア・ゾロ」「サンジ」「トラファルガー・ロー」など「ONE PIECE」の、大妻女子大生では「安室透」など「名探偵コナン」のサブキャラが続きます。
男子(福井工大生の約9割)はルフィや緑谷出久(デク)、うずまきナルトなど主人公キャラに、女子(大妻女子大生)はコナンや呪術廻戦、ハイキュー!!︎などのサブキャラに支持が集まる傾向が見受けられます。
図表2. 大学生の好きなキャラクターランキング(純粋想起:キャラクター単位)
男子大生と女子大生の、キャラへの好感の持ちかたの違い
今回の調査では、いちばん好きと答えたキャラクターについて、好きな理由も自由に記入してもらいました。主なキャラクターについて、いちばん好きな理由を以下に列記します。
モンキー・D・ルフィ(ONE PIECE:n=10)
∙ 小学生から読んでいるワンピースの主人公だからです。また、ルフィの成長する姿を見て自分に力をくれるのでこのキャラクターを選びました。
∙ 常に自分より、強い相手に立ち向かっていくところが好きです。ワンピース自体、私が小学生の頃から見ているので、ルフィと一緒に成長していく感じがして、親近感も沸いています。1話から最新話まですべて視聴していて、その中でも特に印象に残っているところは、お兄ちゃんを亡くして、弱音を吐いているシーンです。そこから「もう仲間を亡くしたくない!」と強く思い、必死で特訓している姿を見て、とても感動しました。そこが一番印象に残っているところです。
∙ 小さいころから知っているから。
∙ 海賊で一番強かったカイドウと戦って勝利し、戦っている最中の技などがカッコよすぎるから。ワンピースは次の章がラストでいよいよ最終話が近づいて来ているのでとてもワクワクしている。ルフィは、人のために行動していて、たくさんの仲間や友達から信頼される存在である。なので、自分もこのような人間になりたいと感じている。
∙ 完璧でない自分を受け入れていて、「自分一人じゃ何もできない! だから仲間が必要なんだ! だから助けてくれ! 皆の力が必要なんだ!!」と素直に言うことができ、周りがついていきたくなるような存在であり、自分もこのようになりたいと思うから
アーニャ・フォージャー(SPY×FAMILY:n=2)
∙ 見た目はもちろん、しぐさや言動がかわいく見ていて癒されるからです。発する独特なセリフを声優の種﨑敦美さんによって漫画よりもさらにかわいさが増しているところもアーニャの魅力となっています。
∙ まず見た目がとてもかわいいという理由で興味を持ち、アニメを見ていく中で、話し方であったり、期待に応えようと頑張る姿や、家族思いなところなど、全ての姿がかわいく癒される存在だからです。
安室透(名探偵コナン:n=2)
∙ ビジュアルが良いだけでなく、頭脳明晰で運動神経も良い、ハイスペックな部分に惹かれました。警察官としてかっこいい面もあれば、喫茶店のアルバイトとしてする姿などギャップが良いです。
∙ 安室さんは、1黒の組織、2喫茶ポアロの店員、3公安といったトリプルフェイスを使い分けの上手さ! 本業は公安だが、ポアロ店員としてメニューの新作を考えたり、開店の3時間前にお店に来て、椅子の不具合や電球交換など、アルバイトでも仕事に対して、一切手を抜かない。運動能力が高く、頭が良い、運転姿がカッコ良すぎる。イケボ。公安や黒の組織に潜入している時、怖い顔だが飼っている犬の面倒を見ている時の優しい眼差しのギャップ萌え。
男子は、小学生の頃から読んでいる、見ているという関係性の長さがベースにあり、弱音を吐きながらも頑張っている姿や仲間から信頼されているところに共感し、憧れを抱いていることがわかります。
いっぽう女子は、見た目がかわいく、独特のセリフなどで癒されるキャラ(ここでは女児)に惹かれます。あるいは、見た目のカッコよさや頭脳明晰さなどハイスペックな部分と日常の優しい姿とのギャップがある理想の男性にも惹かれることがわかります。
以前キャラクターによる提供体験で記したように、男性は大きな物語の中で、完璧でないが頑張る登場人物に自分を重ねて共感や憧れを抱き、女性はかわいくて小さな存在や、カッコよくて完璧のようで、ギャップも垣間見える存在に触れることで癒し・安らぎを抱く、という嗜好性の違いが、大学生でもうかがえます。
最後に、「進撃の巨人」が最も好きだと答えた大妻女子大生の熱いコメントを掲載します。
進撃の巨人(n=1)
∙ 唯一無二の壮大な世界観と設定が好きです。ダーク・ファンタジーである『進撃の巨人』は、もちろん現実とはかけ離れた世界観の中で物語が進んでいきます。この世界では人類は巨人の餌と化し、巨人がすべてを支配している世界だということがわかります。少年誌で、ここまで絶望的なシチュエーションは珍しいのではないでしょうか。
∙ 人間を食べる巨人...。こんな生物が存在するというだけで絶望してしまいますが、こんな恐怖と隣り合わせで生きる子どもたちが、大きな犠牲を払いながら巨人と対峙していくんです。しかし、本作の見どころは少年誌に多い「敵との壮絶なバトル」や「主人公と仲間の熱い友情」などではありません。この漫画の舞台となっている"世界"そのものの謎を解き明かすことが、この漫画の最大の見どころなんです。
∙ 壁の中で暮らしている登場人物たちも、読者と同じくこの"世界"の謎について一切知りません。物語が進むにつれて、この神秘のベールに包まれた"世界"がどんどん紐解かれていくのですが...。緻密に計算し尽された独特の世界観に一歩足を踏み入れると、その魅力に取り憑かれ抜け出せなくなるはずです。
∙ 最初の謎であった「巨人の正体」についてはわりと物語の序盤で明かされますが、その事実により読者の間でもさまざまな仮説が立てられるはず。読みながらきっと「〇〇が怪しい」「実はこの世界は〇〇だ」なんて、多くの人が自分なりに考察していくでしょう。
∙ しかし、その予想や考察がことごとく裏切ってくれるのがこの『進撃の巨人』です! この物語は、読者の想像以上に複雑で難解で、一筋縄ではいきません。だからこそ、奥深く何度も読みたくなる! 最初に読んだときには気づかなかった、キャラの微妙な表情や目線、行動なども真実を知った後に読むと驚く発見が多いはず。作者の諫山創先生...細かすぎます!
∙ 『進撃の巨人』の人気を支えているのが、個性たっぷりのキャラクターたち。いちばんの人気キャラクターは、主人公のエレンではなく、幼なじみのミカサやアルミンでもなく、調査兵団の兵長・リヴァイなのは有名ですよね。
今回は以上です。あくまでもごく一部の大学による小サンプルでの調査結果のため一般化はできませんが、予想以上に個々のキャラクター支持の違いが顕著で、興味深いものがありました。
次回は、大学生以外も含めたZ世代(男女10-24歳)での、マンガ・アニメ・キャラクター関連の消費実態に関する定量調査結果を踏まえた分析事例を紹介する予定です。どうぞお楽しみに。
話題のマンガは独⾃の"熱"を持ち、メディアで取り上げられたり、SNS上で話題になるケースも多くなります。商品やサービスにプラスアルファの魅⼒を加え、インフルエンサーマーケティングにも活⽤できる講談社の「推しマンガ2022」の資料をご参考にしてください。
<第2部 バックナンバー>
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。