6月29日、梅雨明けで猛暑が続く東京ビッグサイトで開催されたライセンシングジャパンにて、日本キャラクター大賞2022表彰式が開催され、私も2018年以来の選定委員の1人として登壇してきました。
13回目の今回は、専門誌などマスメディア各社が選定した全46ノミネート作品について、創造性、市場性・新規性、社会性、将来性の4つの視点から審査を重ね、激論の上で各賞とグランプリを決定しています。その結果、キャラクター・ライセンス賞の「『エヴァンゲリオン』シリーズ」、「ちいかわ」、「TVアニメ『東京リベンジャーズ』」3作品の中から、「ちいかわ」がグランプリに選出されました。
「日本キャラクター大賞2022」受賞者とプレゼンターの集合写真
自分がTwitterに何気なく書き込んだ「ちいかわ」のグランプリ受賞を伝えるTweetは、僅か1日でインプレッション数が39万、エンゲージメントが2万3千、「いいね!」が3千超えとバズっており、ファンの喜ぶ姿を実感しています。
惜しくもグランプリは逃しましたが、「TVアニメ『東京リベンジャーズ』」については、"人気コミックをアニメや映画などのメディアミックス展開で大きく伸長させた好例。ストーリーのおもしろさに加え、魅力的な登場人物が人気を後押しした。続編である『聖夜決戦編』の放送も決定しており、今後さらなる盛り上がりが期待される"との選評が寄せられています。来年はどんなキャラクターがグランプリを獲得するのか、1人のキャラクターファンとして楽しみです。
「日本キャラクター大賞2022」ブースのキャラクター・ライセンス賞 「TVアニメ『東京リベンジャーズ』」展示
さて、先月からこの連載も第二部となり、最近のヒット作品の支持状況について、2021年11月に実施した「キャラクター定量調査2021」の結果を用いて以下をご紹介しました。
- 好意度上位30キャラクターのうちマンガ系は3分の1を占める
- マンガ系は男性全般、特に男子ティーン・ヤングで多くの作品がランクイン
- 女子ティーンで「東京リベンジャーズ」が人気
- 「東京リベンジャーズ」は女子ティーン・ヤングのマイキー支持が突出
- 「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」は、支持層がほぼ重なる
今回は、前回と同じく「キャラクター定量調査2021 」結果から、各作品の「提供体験」をキーワードに紹介します。
『カタルシス・非日常感』の体験を提供する「東京リベンジャーズ」「進撃の巨人」
「キャラクター定量調査2021」では、調査対象各キャラクターについて、「以下のそれぞれのキャラクターに実際に接することで、あなたはどんな気持ちになりますか。」と質問し、用意した計21項目のうち当てはまるものを複数回答してもらった結果を、キャラクターによる「提供体験」としています。
今回は、「東京リベンジャーズ」「進撃の巨人」、そして比較材料として「鬼滅の刃」「呪術廻戦」を対象に、この「提供体験」21項目のうち、『カタルシス・非日常感』に分類される4項目と、『参加・注目・同一視(なりきり)』に分類される3項目について、作品ごとに回答者の性・年齢で比較しました。なお、スコアを同条件で比較するため、当該キャラクターの非認知者も含めた全数ベースで算出しています。まず、『カタルシス・非日常感』4項目の回答結果です(図表1)。
いずれの作品も、リアルな描写の中に不可解な謎や超常現象を多く含んだ、現実と一部異なる設定・世界観の中で話が展開することを反映してか、男女3~74歳全体の評価では「別の世界に入り込める」が最も高く、「日常では味わえないスリルや冒険を感じられる」が続く点が共通しています。
これら2項目に「ワクワク・ドキドキする」「同じキャラクターが好きな人同士で盛り上がれる」を加えた計4項目の合計値「『カタルシス・非日常感』体験総量」(棒グラフで表示)で比べると、「東京リベンジャーズ」は女子ティーンと男女20-34歳で、「進撃の巨人」はM1(男20-34才)と男女ティーンで特に高くなっています。「鬼滅の刃」は女子ティーンと男女キッズ、男女20-34歳で万遍なく高く、「呪術廻戦」は女子ティーンに特化し、次いでM1(男20-34歳)でも高くなっています。
図表1. キャラクター提供体験『カタルシス・非日常感』:作品×性・年齢比較
「鬼滅の刃」は、他三作品よりも、男女キッズから「別の世界に入り込める」「日常では味わえないスリルや冒険を感じられる」で高く評価されている点が特徴的です。刀を使ったバトル(昔風に言うとチャンバラ)が新鮮に映り、その迫力に圧倒されたキッズたちがストーリーにハマって、ブーム発生に貢献したことが推察されます。
また、「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」は、前回紹介した好意度に続いて、『カタルシス・非日常感』の点で、女子ティーンに特に高く評価されている様子が共通しています。
『なりきり』で女子ティーンに強く支持される「東京リベンジャーズ」「呪術廻戦」
続いて、『参加・注目・同一視(なりきり)』3項目の回答結果です。
図表2. キャラクター提供体験『参加・注目・同一視』:作品×性・年齢比較
いずれの作品も、男女3~74歳全体の評価では「みんなが注目してくれる」が最も高く、「しぐさやポーズ、セリフを真似したくなる」「服装や恰好、グッズやアイテムで、登場人物になりきりたくなる」が続く点が共通しています。これらの作品は、魅力的なサブキャラが多数登場して、ファンの気持ちを鷲掴みにするような幾多の名シーンや名セリフが連発し、大いに物語を盛り上げています。また、服装や髪型、身に着けるアイテムなども個性的で、コスプレイヤーなどの本格派以外に、ハロウィンなどで真似をしたがるキッズやティーンが多いのも頷けます。この2年間はコロナ禍で、そんな願望も以前と比べて実現しにくくなっている世の中ではありますが。
これら計3項目の合計値「『参加・注目・同一視(なりきり)』体験総量」(棒グラフで表示)で比べると、「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」は女子ティーンで、「進撃の巨人」はM1(男20-34歳)で特に高くなっています。「鬼滅の刃」は男女キッズで圧倒的な高さで、男女20-34歳と女子ティーンでも高いことがわかります。「鬼滅の刃」のブームには、鬼滅キッズと呼ばれる層が大きく影響を及ぼした様子が、ここからも窺えます。
一方、「東京リベンジャーズ」と「呪術廻戦」の連載中作品は、女子ティーンでのコスプレも含めたなりきり需要が大きいようで、これらの若い層に向けた、服やアイテム、アクセサリーに関する商品展開の可能性を感じさせる結果です。その際には、彼女たちの懐事情を考慮して、リーズナブルな価格でカジュアルな要素を多く含んだ商品にすることが有効だと思われます。
今回は以上です。
次回は、旬のマンガ作品コアファンとして今回分析でもクローズアップされた、キッズ・ティーン・ヤング層の多くを含むZ世代(男女10-24歳あたり)を対象として、キャラクターの個別支持や消費実態に関する定量調査結果を踏まえた分析事例を紹介する予定です。どうぞお楽しみに。
<第2部 バックナンバー>
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。