サッポロビールは、顧客を知るために、積極的にデータ活用を進めています。その一環として、講談社が提供するデジタルマーケティングサービス「OTAKAD」(※1)の持つデータに注目しました。なぜサッポロビールは、出版社である講談社のデータに着目したのでしょうか?
※1 「OTAKAD」は、2022年2月28日(月)より、広告プラットフォームから、
デジタルマーケティングサービスへとリニューアルしました。
谷口優(以下、谷口) 本セッションのモデレーターを務めます、月刊『宣伝会議』編集長の谷口です。さて、先進的なデータ活用をしているサッポロビールさんは、なぜ出版社である講談社さんと組まれたのか? どのようなデータに可能性を感じて、どのような取り組みをしているのかを伺いたいと思っています。まずは自己紹介からお願いできますか。
福吉敬(以下、福吉) サッポロビールのビール&RTD事業部第1グループに所属している福吉です。
堀内亜依(以下、堀内) 同じくサッポロビールの堀内です。ビール&RTD事業部の企画グループに所属しており、CRM(顧客管理システム)の担当としてカスタムデータプラットフォームの運用をしています。
松村吏司(以下、松村) 講談社の松村と申します。第一事業局のコミュニケーション事業第一部デジタルマーケティンググループに所属して、サッポロビールさんにもご活用いただいている「OTAKAD」を開発しているチームのリーダーを務めています。
悩み続けてきた「誰が来ているのか」わからないという課題
谷口 サッポロビールさんではDMPを構築されるなど、顧客理解に努めていらっしゃいます。さらに、既存顧客の理解だけでなく未来の顧客創造に関する仮説構築のための新たな取り組みも始めていらっしゃると聞きます。講談社さんとの取り組みを話していただく前に、サッポロビールさんがこれまで、未来の顧客を創造するマーケティング活動のために、どのようなことをされてきたのかをお話しいただけますか。
福吉 もともとは普通に広告を打って商品を動かすということをやっていました。しかし最近は、対象を明確にしなければ、コミュニケーションが成立しづらくなっているため、ブランドサイトに来訪してくれるお客さまの分析などを行うようになっています。
堀内 ですが、たとえばブランドに対するエンゲージメントなどはわかっても、「お酒以外のところでどのような関心を持っているのか、お客さまが普段どのような生活をしているのか」といった部分はわかりません。そうした深い情報を得るためには、外部企業の方と連携する必要がありました。
福吉 (広告の効果測定という観点では)来訪者数やインプレッション(表示数)、クリック数などの数字は把握できるのですが、「誰が来ているのか」はまったくわからないんです。しかし私たちは、そこがいちばん知りたかったところなので、「そこを見せてくれる企業がどこかにいないか」と、いつも悩んでいました。
谷口 そのなかで講談社さんが、メディアとしてはかなり珍しく、いろいろなデータを取得しているのを知ったのですね。
福吉 そうです。お話を聞いたときには、「そんなデータを取っているんですか!?」と驚きましたし、すぐに「一緒にやらせてほしい」と思いました。実際、OTAKADを通じて、さまざまなデータを見せてもらえた際には「宝の山!」だと感じるほど興奮しました。
こうして、他社では見せてもらえなかった深いデータを見せてもらえることがわかり、講談社さんとなら、僕らが悩んでいた問題も解決できるのではないかと考えるようになりました。
仮説は想像。データがあって初めて「事実」になる
サッポロビールのタイアップ記事を、OTAKADで記事誘導(講談社メディアへの広告配信)、分析した際の概要
谷口 サッポロビールさんとタイアップ記事において、OTAKADの分析サービスでは、具体的にどのようなデータを提示されたのでしょうか?
松村 はい。今回「ユーザの背景、興味関心を知ること」を目的に、11の媒体からターゲティングなどはかけずにタイアップ記事へと誘導しました。
タイアップ記事で滞在時間や読了率などのデータを取得。同時に、記事上でサッポロ「GOLD STAR」のブランドサイトへも誘導をかけることで、タイアップ広告に接触した人と、接触していない人のスコアの比較などをしました。
そうすると、タイアップ記事を読んでから「GOLD STAR」のサイトへ行ったユーザーの方が(滞在時間などの指標において)高い数字が出やすいことがわかりました。さらに、タイアップ記事に接触した何日後にブランドサイトに訪れたのか、何回訪れたのかといったこともリポートしました。
OTAKADの分析サービスのレポートの一例(スコア比較)
そしてもうひとつ。クリックされた記事のURLリストや、ターゲットとなる人が普段読んでいる記事のリストなどを提示しながら、今回の分析から見えた「ユーザー像」をお伝えしました。これは、OTAKADの分析サービスの特徴のひとつである「ペルソナの可視化」につなげるものです。
OTAKADの「分析サービス」では、掲載媒体の傾向と対象URLアクセスユーザーの比較による分析によって、
対象ユーザーの特徴や傾向を⾒える化できる
福吉 僕たちの仮説としても、コンテンツ(タイアップ記事)を読んだユーザーの方がサイトへの滞在時間は長いだろうとは考えていました。しかし、それをレポートとして出してもらえるということは、これまでなかったんです。ここがものすごく重要で、データとして検証されたということは、「証拠」として今後も使っていくことができるということなんです。
仮説というのは、実際はどうかわからない「想像」に過ぎません。ですが、データとして提示されれば、それは「事実」になります。可視化されるということは、それだけ大きな意味があることなんです。
谷口 たとえ、仮説と違ったデータが出されたとしても、それが学びになり、知見として蓄積されていくわけですね。
福吉 はい。それにデータを蓄積しておけば、次に担当になった人もそのデータを見ることができますよね。ですから、こうしたデータを出していただけること自体がすばらしいと感じました。
趣味嗜好を反映したセグメントは、イメージしやすい
谷口 「セグメント別」に考察したデータも、福吉さんや堀内さんは大変興味を持たれたと聞いています。
福吉 そうですね。「今回は30代男性向きの商品です」と言って、社内でプレゼンをすることもありますが、冷静に考えれば、そんなに簡単に「30代男性」を一括りにすることはできません。
所得も違えば、住んでいる地域も違う。インドア派もいれば、アウトドア派だっている。なのに、ざっくりと「30代男性に向けて何かやりましょう」と語ることは、実は具体性に欠けていますよね。
そのなかで講談社さんは、「(タイアップ記事を見たユーザーは)こんな人です!」というデータを持ってきてくれた。具体的には「コンビニ族」とか「ミーハートレンダーガール」とか「プロテインボーイ」といった名称のセグメント別に、スクロール率や滞在時間を出してくれたわけです。
興味関心からデフォルメした言葉でまとめてくださっているわけですが、30代男性と括るよりもはるかにイメージしやすい。「プロテインをよく飲んで筋トレばかりやってそうな人はこのコンテンツを読んでくれるんだ!」とか、ギャンブラーはあんまりゴールドスターには興味がないのかな......とか。一般的に、お酒というとギャンブルと近しいと思い込みがちなので、これはすごい発見でした。
クラスタリングできていること自体が「宝物」
谷口 セグメントのつくりかたやネーミングのセンスが出版社っぽいですよね。
堀内 センスがあらわれるところですよね。単発の企画で見られるデータはどうしても限られるし、ローデータ(加工してないデータ)だけがたくさんあっても、必要な情報を整理するのは難しい。でも、こういう特徴的なクラスターをつくっていただいたおかげで、単発の企画でもここまでの見方ができるようになります。これならお客さま像がだいたい想像できますよね。
福吉 クラスタリングをすることで顧客像をとらえたいと思っていても、どうクラスタリングすればいいかという部分で、普通は課題に直面するんです。だから、講談社さんの中ですでにクラスタリングができているということ自体、僕らにとっては「宝物」のように映りました。
松村 本タイアップの際は、「ユーザーがよく読んでいる記事」などのデータも提出させていただきました。
OTAKADの分析サービスで提供されるレポートの一例(ユーザーがよく読んでいる記事)
福吉 僕たちは、「誰に対して何を伝えて、どうしてもらいたいのか」という話をよくするんです。「誰に対して」はさっきのクラスターで示され、「何を伝えるべきか」という部分の学びは「ユーザーがよく読んでいる記事」のリストにあります。
講談社さんのようなすごい数のコンテンツがあるなかで、こういう記事に興味を持っている、ということを示してもらえたのは大きかったですね。
堀内 このときは社内で盛り上がりましたよね。通常は単に「ニュース」などという括りになるのに具体的な記事名まで出してもらいましたから。別のジャンルのタイアップ記事を出したあとにデータを取れば、また違う傾向が見えてくるかもしれませんし、こういうデータを出してもらえるのがわかると、いろいろやりたいことが生まれてきます。
成功も失敗も、つまびらかにすべき
谷口 メディア企業で広告の成果をレポートする際、成功したか失敗したかということだけにとどまらず、取得できたデータのすべてが企業にとっての学びになるというスタンスでやっていただけるとうれしいですよね。
福吉 成功も失敗もつまびらかにすべきだとよく言うんですが、失敗を隠蔽していると、その部分の学びが欠落してしまいます。なぜ失敗したかを検証すれば、同じことを繰り返さないで済みます。だから、失敗も必ず見るべきなんです。そこで発見できたことを次に生かしていく気持ちが重要なんじゃないかなと思っています。
松村 私たちとしても、今後も「データをどんどん出していこう」という気持ちでいます。
先ほどお見せしたようなレポートが出せるのは、OTAKADの特徴のひとつである「読者データを活用した分析力」があるからです。実際に配信したタイアップ記事に来ている人を分析し、クライアントのサイトも含めて、行動を可視化してデータを提供するというのは、我々が力を入れているところです。
また時期によって、人の関心は変化しますから、そうした部分も含めて「興味関心の変化」を捉えて、精度の高いターゲティング(※2)に生かしていけるように開発を進めています。
※2 OTAKADでは現在、最短1日前の閲覧履歴によるターゲティングが可能
広告主さんとコラボレーションすることで得る学びによって、どんどん進化を続けていけます。「一緒にデータを見ていきましょう」、「連携していきましょう」と言っていただけるのは、私たちとしても本当にありがたいと思っています。
福吉 このような試みにおいては「自分たちのデータは見せないけど、そちらのデータを見せてください」というのではなく、「自分たちもデータを開示するので」ということで協力していく姿勢が大切になります。講談社さんとやっている場合、自分たちだけでは見えないところまでお客さまの行動が見えてくるので、次へとつなげていけます。そうして、ともにデータを見ていく世界がつくれると、素敵な進化を遂げていけるのと思います。
松村 本当にそうですね。OTAKADでは、ほかにもさまざまな取り組みをしています。ぜひお気軽に、ご相談いただけたらうれしいですね。
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【講談社メディアカンファレンス 2021:学び動画】
サッポロビールは、なぜ"出版社"のデータに着目したのか? "未来"の顧客インサイトを探るデータ活用法
登壇者:
・福吉 敬/サッポロビール株式会社 ビール&RTD事業部第1グループ シニアメディアプランニングマネージャー
・堀内亜依/サッポロビール株式会社 ビール&RTD事業部企画グループ アシスタントマネージャー
・松村吏司/講談社 第一事業局コミュニケーション事業第一部 副部長 デジタルマーケティンググループリーダー
・谷口 優(モデレーター)/株式会社宣伝会議 出版・編集取締役、月刊『宣伝会議』編集長