2021.09.30

【リサーチ会社のプロが分析!】コンテンツメディアは態度変容を促す 〜クロスメディアプランニングの新たな方向性~

広告コミュニケーションを展開する際、多様なメディアを組み合わせて最適化する「クロスメディアプランニング」が一般的になってきました。では、消費者に態度変容を促すためには、どのような点に注意すべきなのでしょうか。株式会社ビデオリサーチの生活者データベース「ACR/ex(エーシーアール・エクス)」をもとに、紐解いてみました。

文/株式会社ビデオリサーチ マーケティングソリューション部 シニアエキスパート・吉田正寛

現状の広告クロスメディアプランニング

広告コミュニケーションを展開する際、特定のメディアだけでなく、複数のメディアを組み合わせる「クロスメディアプランニング」が実施される背景には、生活者やメディアコンテンツの多様化による、広告メディア接触の分散があげられるでしょう。そのため、これまでクロスメディアプランニングの主眼は、より多くの人との広告接点を獲得する「リーチの最適化」でした。

リーチ最適プランニングの課題

リーチの最適化への関心は高く、昨今ではデータを駆使し、より広く届けることができるようになってきています。しかしそこには、広告効果における重要な視点が抜けています。それが、「態度変容」の視点です。

筆者は、広告効果を「リーチ」「態度変容」の掛け合わせで捉えています。

たとえば、ある広告のリーチ数が900人としましょう。その中の10%が関心を持った場合、関心喚起にまで至ったのは900人の10%、つまり90人に態度変容をもたらした、と考えることができます。同様に、リーチ数が100人でもその中の90%が関心を持った場合、100人の90%ですから、こちらも同じく90人となります。

この両キャンペーンのプロモーション効果は、"態度変容"という指標では等しくなります。しかし「リーチ最適化」の視点では、前者のみが評価されることになります。これでは実際の市場への影響効果を正しくつかむことができず、真の意味での「効果検証」とは呼べません。つまり、プロモーション効果を正しく知るためには、リーチ同様、態度変容も加味して考える必要があるのです。

近年では、こうした「態度変容の最適化」の考え方を広告ビジネスに取り込む動きも見られます。たとえば、博報堂の掲げる、枠ではなく効果を売ることをめざす「AaaS」というサービスでは、広告の買い付けを「目的達成」と定義し、態度変容の指標を取り入れています。

従来の「枠」を買い付けるアプローチは、リーチ最適化の目線ですが、生活者が多様化するなかで、「態度変容」に主眼を置いたメディアプランニングは、今後さらに重要になっていきそうです。

態度変容を促す効果は、メディアによって異なる

マーケティングにおいて、態度変容を促すためには、最適なメディアプランニングが必要です。そのためには各メディア・コンテンツの態度変容について、知ることが大切となります。

筆者はこれまで、各メディアの態度変容上の役割の違いについて、さまざまなアプローチで研究を行ってきました。たとえば「購買ファネル上のメディア・エンゲージメントからみた広告メディア別の役割」もそのひとつです。

一連の研究調査のなかで、各メディアの役割はそれぞれ異なり、特に態度変容の土台となる「好意」や「意向」などのミッドファネルには、コンテンツメディア(※)が効果を発揮することが示されています。ここではその一例をご紹介したいと思います。

※出版社社や新聞社、ラジオ局、オンラインサービスなど、コンテンツを起点に作成者が展開するメディア。デジタルや紙など媒体特性は問わない。

今回、ビデオリサーチの生活者データベース「ACR/ex」の追加調査枠(Connect/ex)を用いて調査を実施。コンテンツメディアで見た情報や広告への印象は、デジタル上のマス向けサービスやテレビの特定番組とどのような違いがあるのかを調査しました。調査の概要は以下の通りです。

<ACR/ex追加調査枠を使った調査(Connect/ex)の概要>
●対象エリア:東京50km圏
●対象年齢:男女12-69歳
●調査内容:
・各メディア・コンテンツの利用有無(直近3ヵ月)
・各メディア・コンテンツの印象(利用者のみ)
・各メディア・コンテンツで取り上げられていた場合の、その商品・サービスの印象(利用者のみ)
●調査時期:2021年2月

ます調査したのは、「各メディア・コンテンツで取り上げられていた場合の、その商品・サービスの印象」です。

各メディア・コンテンツで取り上げられていた場合の、その商品・サービスの印象(利用者ベース%)

結果をみると、コンテンツメディア(某料理系コンテンツ利用者以外)の態度変容は、他のデジタルサービスやテレビの特定番組に比べ、「内容理解」や「好意」、「意向」といったミッドファネルで非常に高いスコアでした。

この結果は、一般にいわれるコンテンツメディアの効果特徴とも一致します。コンテンツメディアは、利用者にとって「自分に合った特別なコンテンツ」としてとらえられており、そこで得た情報の重要度は相対的に高いため、態度変容も高くなると考えられます。この点について、利用者の持つ印象から、さらに深掘りしてみたいと思います。

各メディア・コンテンツに利用者が持つ印象(利用者ベース%)。
コンテンツメディアの情報特性が、情緒特性にもつながっていることがわかる

各メディア・コンテンツ利用者のメディア・コンテンツの印象をまとめたところ、コンテンツメディア(某料理系コンテンツ利用者以外)では「好みに合う」だけでなく、「詳しい」「最先端」の情報を提供する結果、「共感できる」「信頼できる」という情緒的つながりが形成されていることがわかります。

また、他のデジタルサービスやテレビの特定番組にある「いつもの」「みんな見ている」情報と異なり、よりパーソナルな情報をコンテンツメディアから得ていることがわかります。結果、コンテンツに対して個人的な「共感」と「信頼」が形成されやすい環境が整っていると考えられます。これが高い態度変容を生み出す理由のひとつであると言えそうです。

コンテンツメディアを軸にした、「態度変容最適」プランニング

ここまで、コンテンツメディアの態度変容効果の高さとその理由についてデータで確認してきました。踏まえて、クロスメディアプランニングにどのように活かしていくかを考えてみたいと思います。

従来のリーチ最適の目線では、起点はリーチメディアであり、これにコンテンツメディアを"加える"アプローチでリーチ拡大を目指します。リーチが獲得できるテレビなどのメディアを念頭に、リーチが拡大する(テレビCMでは獲得できなかった新しいリーチ「インクリメンタルリーチ」が獲得できる)メディア・コンテンツを加えていくという概念です。

一方、「態度変容最適」を主眼に置く場合は、主軸である態度変容に強いコンテンツメディアを起点にプランニングを考えます。

態度変容最適の視点におけるメディアプランニングでは始めに、訴求する商品サービスにマッチしたコンテンツメディアを選定します。
選定においては、コンテンツのテイストと商品サービスの親和性から定性的に検討するだけでなく、商品サービス関与者(たとえば意向者やユーザーなど)の利用が多いコンテンツや、コンテンツと商品サービス関与者のプロフィールのマッチ度を数値化して検討するなど、データを用いた検討も大切です。ちなみに前述の「ACR/ex」では、こうしたプランニングを行う上で有用なデータも提供可能です。

次に、コンテンツメディア以外のプランニングは、始めに選んだコンテンツメディアを中心に検討します。たとえばテレビCMを活用する場合、出稿するメディアの閲覧ユーザーにCMをより見てもらえるように最適化を行います。

ここではリーチ拡大よりも、「いかにコンテンツメディアとうまく連携し、態度変容を強固にするか」を主眼に検討します。そのため、起点としたメディアの閲覧ユーザーに、他メディアを使って複数回接触させることを狙い、プランニングします。

テレビCMの場合なら、コンテンツ利用者のテレビ接触や当該番組・時間帯の視聴者におけるコンテンツ利用者の含有から、態度変容に最適なCM枠を探索します。ここで得られる最適枠は現在、第3のテレビCMと呼ばれ、15秒CMを1本単位で購入できる「Smart AD Sale(SAS)」を活用することで、ピンポイントな出稿を実現できる環境が整い始めています。

このように、態度変容の視点では、コンテンツメディアを起点に、テレビCMや、ほかメディアでリーチを補完することで、態度変容を最適化するというわけです。

今後さらに重要となる「リーチ最適」と「態度変容最適」を併用していくプランニング

今回は、クロスメディアプランニングの軸として「態度変容最適」を、ミッドファネルの態度変容に特徴があるコンテンツメディア起点に検討しました。

従来のクロスメディアプランニングは、リーチ最適を主眼にしたものが多い傾向にありました。しかし視点を変え、広告効果を構成するリーチとは別の要素である「態度変容」を最適・最大化することは、現在のコミュニケーションニーズにもマッチするものです。

態度変容の最適化は、データで実現できる時代になっています。AIや統計モデルを用いることももちろん可能ですが、こうした仕組みに頼らずとも集計分析で可視化できるため、活用ハードルが低い点も特筆すべきです。

訴求する商品サービスの特性や、そのブランドステータスによって、適切なプランニングは変わりますし、リーチ最適目線のメディアプランニングも重要であることは言うまでもありません。

今後、「リーチ最適」と「態度変容最適」を併用していくプランニングは、より重視されていくのではないでしょうか。そのなかで、態度変容最適の起点として、コンテンツメディアを用いるケースも増えていくように思います。ぜひ、今回の調査データを、皆さまのマーケティング活動の参考にしていただければ幸いです。


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筆者プロフィール
吉田正寛(よしだ・まさのぶ)


株式会社ビデオリサーチ ソリューション室マーケティングソリューション部 シニアエキスパート
2008年(株)ビデオリサーチ入社。主にメーカー等の広報・宣伝担当部署から、広告会社や媒体社営業担当部署をクライアントに、広告活動のプランニングや広告効果測定をコンサルティング、メディアの広告役割の観点から、次期広報・宣伝施策を第三者の立場でサポート。広告メディア・コンテンツ別にある固有の役割に関する研究を継続中。

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