2021.06.11
【読者限定 無料視聴パス進呈!】メディアビジネスの革新とデジタルトランスフォーメーション:1──「ADVERTISING WEEK ASIA 2021」セッションレポート②
5月27日(木)にオンライン開催された、業界を超えたオープンイノベーションの場「Advertising Week Asia 2021」(※)のセッションレポート。
"枠"を提供してきたメディアビジネスが、"効果"を提供するサービスへと変革しようとしています。本セッションでは、広告主と広告会社の立場から、テレビとデジタルを中心に、「メディアビジネスのDX」について意見を交わしました。
モデレータを務めた、株式会社 イグナイト 代表取締役社長 Executive Producer 笠松 良彦さん(右上)、株式会社博報堂DYホールディングス、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、株式会社博報堂 常務執行役員 安藤 元博さん(左上)、公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 常務理事、資生堂ジャパン株式会社 メディア戦略部 エグゼクティブマネージャー 小出 誠さん(下)
※【限定100枚】記事の最後に、本イベントのアーカイブ視聴ができる
「C-station読者限定無料パス」を配付しています。
広告業界を大きく変える「AaaS」という概念
株式会社博報堂DYホールディングス、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、株式会社博報堂 常務執行役員 安藤 元博(以下、安藤) 昨今あらゆる産業でイノベーションや、デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれるようになり、私たちも広告会社の立場からそのお手伝いをする場面が非常に増えてきました。一方で、私たちが所属する広告業界自体のDXは進んでいるのだろうか、という疑問もあります。
広告主の皆さまからは、テレビとデジタルでは評価の指標もバイイングの仕方も別々で、事業成果やマーケティング効果にどうつながっているのかがわかりにくいという声もよくお聞きします。
こうした声にお答えすべく、いろいろな媒体やプラットフォーマーから新しいサービスが次々に提供されています。しかし広告主の側から見ると、それぞれが「点」になっていて、より複雑化している、という課題もあるのではないかと思います。
そこで私たちはAaaS(Advertising as a Service)というモデルを提唱することにしました。これは、広告メディアビジネスが向かうべき方向であり、広告業界のDXを果たす新たなモデルだと考えています。
デジタル化はあらゆる産業に変革をもたらしています。たとえば車業界では、車というモノを売っていた産業から、モビリティサービスを提供する業界へ転換する"MaaS(Mobility as a Service)"という概念が広まっています。
6兆円規模といわれる広告業界も同様に、広告枠(モノ)の売買における収益のシェアは、非常に大きなものでした。今後はこの枠という「モノ」ではなく、広告にまつわる「効果」を提供していこう、というのがAaaSの考え方です。
広告主の皆さまが考える効果というのは、「ある特定の人にブランドを知ってほしい」「好きになってほしい」「潜在的なユーザーにお店やサイトに来てほしい」「買ってほしい」「買い続けてほしい」ということです。
広告メディアはそうした目的を達成するために買い付け(バイイング)するわけですが、実際には指標や買い方がデジタルとテレビでは異なり、媒体によっても違うため、「こんなふうに買いたい」という目的をストレートに達成していくのが難しいのが現状です。
この課題を解決するのが、私たちの"AaaS"です。
たとえば「検索やサイト来訪をあげたい」「認知をあげたい」「ブランド好意/購入をあげたい」等という目的に応じて、テレビとデジタルを横断的に活用することで、目標達成を目指します。
そのために、まず膨大なメディア取引データを、媒体を超えて一元的に扱えるようなデータウェアハウス(DWH)・システム基盤をつくりました。
次に、メディアデータと博報堂DYの知見を掛け合わせたアルゴリズムを用意し、ツールやダッシュボードの形で提供できるようにしていく。これがAaaSの基本構想となります。
メディアを横断して統合的なバイイングを可能にするAaaSの構想
「枠」ではなく「効果」で顧客ニーズに応える
安藤 AaaSにはさまざまなサービスがありますが、主要なものを紹介しますと、
・事業成果を最大化するためにメディア投資配分はどうあるべきなのか、中間的なKPIをどう設定すれば管理できるのかを見える化する「アナリティクスAaaS」
・テレビとデジタルを統合的に運用するための「テレデジAaaS」
・テレビだけ、デジタルだけで運用を最適化していきたいというニーズにこたえる「テレビAaaS」または「デジタルAaaS」
の4つに分かれています。
なお、統合的なサービスが前提になっていますが、モニタリングだけとか、プランニングだけという形でも使えるようになっています。
AaaSはシステム基盤をベースにして、プランニング・モニタリング・バイイングの3つの要素を統合ダッシュボードの上で動かして運用していくことで、広告目的を果たしていこうとするモデルです。これまでは分断されていて目に見えない要素が多かったために、広告ひとつひとつが無駄ということはもちろんないにしても、広告メディア活動全体で見ると少し無駄が生じていたケースもあったかもしれません。
しかしデータ、システム、アルゴリズムによってこうした無駄を排除し、メディア効果を最大化する。それによって事業成果に直接的に貢献し、広告主の事業成長に貢献していこうというのがAaaSの目指す未来です。
顧客によって、すべて異なる価値を提供できる
小出さんから安藤さんへの質問。「AaaSは複数社との取り組みにおいても有効なのか」
小出 今の安藤さんのお話しは非常に挑戦的で、面白い取り組みだと思います。1968年に出版されたセオドア・レビット博士のマーケティング理論に、「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という言葉があります。
「人々が欲しいのは1/4インチ・ドリルではない。彼らは1/4インチの穴が欲しいのだ」と彼は述べていますが、それになぞらえると、私たち広告主は「枠」を買いたいのではなく、枠を購入することによる成果を求めているといえます。ですからAaaSは、広告業界にとって大きな進化だと捉えています。
ただ1点、「効果を最大化する」と言われても、もしこれを提唱している広告会社が複数社のクライアントを抱えていた場合に、何らかの優先順位が発生しないのかという点が気になりました。たとえばテレビスポットの場合などは、「この枠を買うのがベスト」と判断されても、競合他社がいたら買えない場合もありますよね。そんな優先順位がつくような心配はないのですか。
安藤 いまいただいたご質問は、とても本質的なテーマを含んでいると思います。AaaSは広告を従来通りの「枠」と考えるのではなく「価値」として考える仕組みです。従来通りの「枠」だと、誰にとっても同じ価値のものが出てくる可能性はありますが、AaaSでの広告メディアの扱い方というのはそういう意味では少し異なります。広告というのはマーケティング戦略の一環であり、事業成長に貢献する前提で捉えれば、「同じジャンルの商品でもまったく一緒ということはない」はずです。
先ほどレビット博士のドリルと穴の話がありましたが、「6㎜のドリル」といえば、誰にとっても同じ「6㎜のドリル」です。でも、どんなところにどんな穴を空けたいのかというのは個々の事情によって異なります。一見同じようなユーザーの人がいたとしても、「いつ空けたい」「何個空けたい」「どんなふうに空けたい」というのはそれぞれ違うはずです。
笠松 複数社であっても、同じ商材であっても、それぞれにマーケティング課題が違うだろうということですね。「まったく同じだった場合はどうするの」という問題は依然残るわけですが、そこは緻密に考えれば違うよね、ということですよね。
安藤 はい。まったく同じと考えてご提案するのは、広告会社の怠慢だと思います。マーケティング戦略が、「まったく同じ」なんてことは、本来あるはずないですから。
AaaSでテレビの広告課題解決に糸口を見出す
2つ目の質問は、テレビのプランニングとバイイングのアクチャル差について
小出 次の質問です。AaaSは、テレビとデジタルが2つの大きな領域だと思います。テレビのCM枠は、事前に想定したGRP(Gross Rating Point:延べ視聴率)でバイイングするため、実際の視聴率(買付GRP)とは異なるケースがあると思います。その点はどう考えていらっしゃいますか。
安藤 おっしゃる通り、これまではプラニングからバイイングは一方向的に扱われていたので、その実際の差は、特にテレビのCM枠においては課題となっていました。
AaaSでは、効果をどう最大化するかというところで運用していくので、「施策の結果を見ながら、どう改善し、目標に近づいていくか」という話を広告会社と広告主様が一緒にやっていけると考えています。
とはいえ、テレビは買い方に対して制限もありますので、テレビの差分を比較的速く展開できるデジタルでどうカバーしていくのかがキーになると思っています。ちなみにテレビでも、たとえばキャンペーンの前半の成果を見て、「後半はこういうスポットの打ち方にしましょう」というようなリプランニングは現在も行っています。
「アクチャルの差」というのは、GRPの話だけではありません。実際に広告効果を指標にした際には、誰にどのような到達の仕方をしているのかも重要になります。従来のプランニングとは違い、そこをもう少し精緻に見ていく必要があるというのが、これまでのテレビのバイイングと違ってくる部分になると思います。
小出 広告主側として都合良く今の話を解釈すると、たとえば「テレビスポットでの効果が思っていたような結果にならなかったとしても、ほかの手段を通じながら最後の着地点までは連れていってくれる」と考えてよいのでしょうか。
安藤 そのように務めたいと思ってAaaSをつくっています。ビジネス上の取引をどうしていくのかという問題に関しては個別の問題だと思いますので、これは広告主のみなさんにご納得いただく形で進めていければと思いますが、私たちがやりたいのはそういうことです。
テレビ・デジタル以外のメディアミックス効果は
モデレーターの笠松さんから安藤さんへの質問は、「他の媒体とのメディアミックス効果」について
笠松 ありがとうございます。3つ目の質問は、他の媒体との「メディアミックス効果」についてです。これまでのお話ではテレビにフォーカスしてきましたが、このメディアミックス効果をどうするのかということについてもお聞かせください。
安藤 AaaSは、テレビとデジタルを主体にスタートしていますが、当然、広告効果を考えていくうえでは他媒体も重要です。現段階でもプランそのものに対しての他媒体のミックス効果を考慮するということは当然できます。
ただ、AaaSのいちばんの売りである「常時接続的に広告を運用していく」という問題に関しては、媒体社のみなさんとの協力関係も含めてさまざまな準備や、データベースの構築がまだできておらず、段階的にやっていこうというのが正直なところです。
まずは広告費の大きいポーションであるテレビとデジタルの統合運用を可能にするところから始めましたが、これはあくまで第一弾というつもりなので、今年度中に新たな動きも加えていけたらと思っています。
最後の質問は、テレビの複数視聴効果について
笠松 最後の質問です。テレビは、個人視聴の場合は効果を発揮すると思われますが、実際に家庭内では親子でスポーツコンテンツを見るなど、複数視聴のケースもあると思います。こうした家庭内複数視聴での効果については、どのように考えていらっしゃいますか。
安藤 複数視聴効果については、「共視聴」ということ自体はデータに入っていますので、これをモニタリングやプランニングに使うということはできます。
ただコンテンツ価値の計測は、現在できるものだけでやると少し不十分かもしれません。スポンサードには、極めて多様なブランティング価値がありますよね。たとえばあえて自動車業界で進めているMaaSの例で言えば、モビリティサービスとして車を考えるという新価値がある一方で、「ブランドを所有する」というコンテンツに価値を持つ方もいると思います。
これはいまのAaaSだけでカバーし切れる領域ではないので今後、そういう部分も見ていかなくてはいけないのではないかと感じています。
広告業界のDXと広告主の事業を促進するAaaS
メディアDXが目指す未来
笠松 なるほど。よく分かりました。今回はタッチポイントとメディア投資の最適化の話だと思うのですが、そのなかでもタッチポイントの設計をDXで進化させていくことがAaaSの役割だと受け取りました。もちろんAaaSですべてが解決するということではなくて、他メディアも必要ですし、上段に書いてあるようなブランドからのメッセージングをどう設計していくかということも引き続き非常に重要だと考えています。
小出 広告主として言わせていただくと、結局広告主が望んでいるのは、自分たちが望む成果に到達できるようなサポートやサービスです。それがビジネスとして存在するのであれば、私たちも大歓迎です。新しい試みとしてぜひ成功してほしいなと思います。
笠松 30分という制限の中だと非常に短いですね。このテーマは継続して、9月に行われる「Advertising Week Asia」でも行っていきたいと思います。本日はありがとうございました。
開催日時:2021年5月27日(木)13:00〜13:30
Channel:Innovation Factory
テーマ:メディアビジネスの革新とデジタルトランスフォーメーション: 1
登壇者:
モデレーター:株式会社 イグナイト 代表取締役社長 Executive Producer 笠松 良彦 スピーカー:公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 常務理事、資生堂ジャパン株式会社 メディア戦略部 エグゼクティブマネージャー 小出 誠
/株式会社博報堂DYホールディングス、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ、株式会社博報堂・Hakuhodo Incorporated 常務執行役員 安藤 元博
Advertising Week Asia 2021(6月30日(水)までオンデマンド配信中)
https://asia.advertisingweek.com/
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