2021.02.25

効率を高めれば、動画を活用したマーケティングはメリットしかない|動画マーケティング 効果最大化のための知識と手法<第3回>

コロナ禍以降、いっそう重要性が高まった動画を活用したマーケティング。
グローバルで動画配信プラットフォームを提供する「ブライトコーブ」の日本法人代表・川延 浩彰氏が、日本のマーケターが動画をどのように活用し、効果をあげていくべきか、実践的な解説をお届けします。

コロナ禍によって、企業の動画活用機会が増加したという話題をよく耳にします。しかし、マーケティングでの動画活用が「いつかは実施しなければいけない施策」であった企業は多かったはずです。よって、これはコロナがきっかけとなって実施が早まったという表現が正しいでしょう。ユーザーとの対面コミュニケーションが制限されたことで、企業からのメッセージをオンラインで発信する必要性が高まり、動画を使用する機会が増えたのです。
今回は動画活用によるメリットがデータでどう現れているか、そしてそのメリットをふまえ、動画制作における効率化と動画活用時の注意点について解説していきます。

マーケティングにおける動画活用にデメリットはない

企業がマーケティングに動画を活用することに、メリットは数多くありますが、デメリットはほとんどないと言っていいのではないでしょうか。
まず、動画は文字情報と比べて短い時間の中でより多くの情報を視覚的に伝えられます。Forrester ResearchのJames McQuivey博士は、1分間の動画は、180万字に相当する情報量を伝えられると公表しています(※1)。180万字を一般的なWeb記事に置き換えた場合、3,600ページ相当ということからも、動画が与える情報量の豊富さがお分かりいただけるでしょう。
また、動画活用と消費者の購買意思決定の関係性についても、調査によって結果が出ています。

【小売業のオンラインショッピングに関する調査結果】
・90%の人が、購入の意思決定をする際に動画が役に立つと思うと答えた(※2)
・紹介動画がある製品は、紹介動画がない製品よりも多く売れる(※3)
・80%の人が過去1ヶ月間にwebサイトで動画広告を見たことを覚えており、そのうち46%は広告を見た後に何らかのアクションを起こしていた(※4)

(出典元)
VIDEOBREWERY by EPIPHEO / 18 Marketing Statistics And What It Means For Video Marketing より:
(※1)1.8 MILLION WORDS:That's the value of one minute of video, according to Dr. James McQuivey of Forrester Research.
(※2)90%:The percentage of online shoppers at a major retailer's website who said they find video helpful in making purchasing decisions.
(※3)Retailers who provide online video to show off their products report that the products with video sell a lot more than products with no video.
(※4)80%:According to the Online Publishers Association, that's the percentage of Internet users who recall watching a video ad on a website they visited in the past 30 days. It gets even better. Of that 80%, 46% took some action after viewing the ad.

以上のように、オンラインショップと動画の親和性は非常に高いと言えます。
商品の紹介動画であれば、文字情報では曖昧になりがちで伝えにくかった使用感を視覚的に伝えることができます。たとえば化粧品の場合、「ファンデーションを薄く塗る」ということがどの程度の薄さなのかは、動画であればわかりやすく表現することができるでしょう。
体験や使用感を伝える場合には、言葉を重ねて説明されるよりも、視覚的に伝えられる方が分かりやすいものです。したがって、特にハウツー系や教育系コンテンツは今後も動画コンテンツが増えていくと思います。

進む「動画の民主化」。動画制作にかかるコストについて、どう考えるか

これから5G時代がやってくることで、人々は今よりも気軽に動画を視聴できるようになるでしょう。「高速・低遅延・同時接続」とともに、5Gが持つ「大容量」という特徴が、気軽な動画視聴を阻んでいたいわゆる「ギガ死」の課題を解決し、動画がより身近になることが予想されます。
そうなると企業は動画を大量生産する体制が必要になってきますが、そこで気になるのが動画制作にかかるコストの問題です。これまでのように動画制作に1本あたり50万~100万もかけていては、需要に対して供給が間に合いません。
そのソリューションとして、最近では企業の動画制作をサポートするサービスが増えています。例えば、シンガポールに本社を置き、2020年より日本でのビジネスを開始した、定額制の動画制作サービスを提供するShootstaは、動画の撮影キット一式を貸し出して、お客様が撮影した動画を安価で編集するというサービスを展開しています。

動画制作プラットフォーム KAIZEN VIDEO にも勢いがあります。KAIZEN VIDEO では、クラウドソーシングにより動画制作を定額で依頼でき、プランによって納期が予め決まっている点が特徴です。このように企業が動画を量産できるサービスやプラットフォームが着々と整いつつあり、今後は"動画の民主化"が進むことが予想されます。

また、ひとつの動画コンテンツをいかに有効に活用するかでコストを抑える方法もあります。その取り組みをしているのがTOYO TIREです。
タイヤはクルマを保有する人であれば、必ず購入する商品であり、広く認知を獲得するためにもテレビCMは欠かせません。その一方、特定のターゲット層と深いコミュニケーションを取りエンゲージメントを高めるために、Web動画を活用したデジタルコミュニケーションにも力を入れています。2014年ごろから始めたこの取り組みでは、同社が実施しているモータースポーツの協賛活動などを中心に動画コンテンツ化し、自社のWebサイトのみならずYouTubeやFacebookで配信しています。
オウンドメディアやSNSなど、動画を有効に使えるメディアが増えてきたなかで、さまざまなコミュニケーション活動の機会を動画コンテンツ化し、その動画を複数メディアに活用する「ワンコンテンツ・マルチユースを狙う」取り組みをしています。
TOYO TIREが掲げるこの「ワンコンテンツ・マルチユース」は、企業マーケティングの動画活用における好例だと言えるでしょう。

クオリティの追求だけではない、発信することに価値があるコンテンツもある

動画を活用したコンテンツマーケティングにおいて、意外と重要なのが動画制作のハードルを下げることです。ケースバイケースではありますが、企業が発信する動画には必ずしもプロフェッショナルなコンテンツが求められているわけではありません。

たとえば、実店舗を持っている小売業などでは、販売スタッフに撮影デバイスを渡して「こういうフォーマットで撮影してください」と頼むだけでも動画コンテンツを用意することはできます。プロのようにハイクオリティのコンテンツではなく、喋りが上手でなくても、商品に対して想いを持っている人が話すからこそ伝わるメッセージもあります。同様に、モール型ECサイトであれば、出店している各店舗にコンテンツ制作を任せることで、制作コストをほとんどかけず、価値あるコンテンツをサイトに貯めていくことができます。
重要なのはコンテンツとターゲット、配信メディアをすべて連動して考えていくことです。この動画はSNSで若年層ユーザーに向けて配信するからポップに作る、この動画は比較的お金を持っている高年齢の購買層をターゲットにしているからより理解しやすい構成で購買意欲を喚起できるように作り込むなど、コンテンツ戦略を最初に考えてから制作を進めるとよいでしょう。

PDCAを回し続けることが、動画コンテンツマーケティングの鉄則

コンテンツマーケティングに動画を活用していく際は、まず自分たちのターゲットについて理解を深めることが最重要です。その例として分かりやすいのが、米Quibiというストリーミングサービスで起きた現実です。
Quibiは、モバイル向けに特化した10分程度の短尺コンテンツに絞った配信をするという戦略で、投資家から約1,800億円の調達やハリウッドのスタジオから支援を得るなど、大きな注目を集めて2020年4月にスタートしました。ターゲットである若年層が「モバイルで視聴できるYouTubeのような短いコンテンツの配信を望んでいる」という仮説のもとスタートしましたが、それは大きな読み違いでした。
ふたを開けてみると、彼らがターゲットにした人々の63%が「45分以上のプログラムを視聴できること」をストリーミングサイトの検討時に重視しており、75%が「モバイルではなくテレビで視聴可能なコンテンツを望んでいた」のです。
自分たちがターゲットとするユーザーが何を求めているかを頭だけで考えるのではなく、常にリサーチを重ねながら軌道修正しなければならないことを物語る事例です。

動画を制作していくにあたっても、PDCAを回していくことは欠かせません。解析ツールを利用しながら、「どこでユーザーの離脱が起きているのか」などを細かく分析していくことが大切です。
あるオンライン学習サービスでは、動画視聴ユーザーの一定数が離脱するタイミングがありました。原因の分析を細かく進めていくと、そのタイミングは「講師が良かれと思って言ったダジャレの瞬間」であることを発見し、それをやめたところ、50分ほどの動画にもかかわらず視聴完了率90%という数値を達成するに至りました。細かい分析やチェックを行えば、このような劇的な改善ができることもあります。動画制作・配信と解析は別々で考えるのではなく、必ずセットですすめていくことが重要です。

筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき) 

合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。

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