2020.12.08
中韓で定着したライブコマース、日本での成功のカギは?|動画マーケティング 効果最大化のための知識と手法<第1回>
コロナ禍以降、いっそう重要性が高まった動画を活用したマーケティング。しかし、日本が動画マーケティング先進国からいまだ遅れを取っている側面があることも否めません。
グローバルで動画配信プラットフォームを提供する「ブライトコーブ」の日本法人代表・川延 浩彰氏が、日本のマーケターが動画をどのように活用し、効果をあげていくべきか、実践的な解説でお届けします。
コロナ禍によって大きく変わった動画利用形態
新型コロナウイルスの流行は、人々の動画利用形態に大きな変化を与えました。弊社が発行している動画に関する調査レポート 「GLOBAL VIDEO INDEX」によると、外出自粛の影響が大きかった2020年4月~6月は、昨年同時期に比べて動画の視聴時間、視聴回数が大幅に増加しました。グローバルでは、マーケティング・小売業に関する動画視聴回数が、前年の2倍を超える114%を記録。日本においても、小売業に関する動画視聴回数が前年の3倍以上となる223%増を記録するなど、ステイホームによる動画視聴形態の変化が顕著に表れています。
ブライトコーブが四半期毎に発行している動画に関する調査レポート「GLOBAL VIDEO INDEX」
(詳細はリンクよりダウンロードできます)
企業の動きに目を向けると、実店舗を運営する小売業では、この時期に来店者数が43%減少したというデータがあります。しかし店舗への来店機会が減る一方で、ECサイトへアクセスする機会は大幅に増えています。
例えば、NIKEはこの時期にeコマースの売上が75%増加。それに伴い、店舗を中心とした戦略から顧客に直接アプローチできるD2Cへと人員をシフトしています。
さらに、GAFA4社のうちの3社がライブコマースの取り組みやサポート基盤の提供を始めるなど、企業がeコマース・ライブコマースへと戦略を転換しつつある大きな流れを感じます。日本でも、コロナ禍において資生堂やビームスがライブコマースを実施するなど、eコマース・ライブコマースへの注目が高まっています。
しかし、日本では2017年~2018年に第一次ライブコマース黎明期〜流行期があり、メルカリ(メルカリチャンネル)、BASE(BASEライブ)などさまざまなサービスがローンチしたものの、定着はしなかったという過去があります。ライブコマースが日本に今後定着していく可能性があるのでしょうか。先行している中国・韓国の事例から考えてみます。
中国・韓国ではなぜライブコマースが定着したのか
昨年のライブコマースの市場規模は中国が6兆6000億円、韓国が約2700億円となっており、中国は2020年に15兆円、韓国は2023年に約9000億円に成長すると予測されています。
中国と韓国でライブコマースが大きく成長している基本的な要因として、まず考えられるのが街中のWi-Fi環境です。
日本では、スターバックスやマクドナルドなど「Wi-Fiが通っているお店を探して利用する」というスタイルですが、中国・韓国では都市部ならどこでもWi-Fiを利用することができます。パケット制限がない、もしくはあっても安く利用できる環境が整っているため、データ通信料が大きい動画コンテンツを、どこにいても気兼ねなく利用できます。
次に、電子決済の普及度です。中韓の電子決済の浸透度はすさまじく、都市部では現金を持ち歩いている人はほとんどいません。
日本でも電子決済は定着しつつありますが、スマホ決済の種類がとても多くなっています。サイトによって対応しているスマホ決済が異なるため、複数を並行して利用しなくてはいけなかったり、自分の使っているスマホ決済に対応していない理由で商品の購入を諦めるケースが多くなります。新規利用サイトでクレジットカードを登録するのも面倒です。
中国なら電子決済は「Alipay」「WeChat Pay」の二種類で済み、そのアプリがほとんどどのお店・サイトでも使えるので、決済手段に関するストレスがないのです。
ライブコマースの普及において、動画視聴の気軽さ、決済手段の簡単さ・スピーディーさは重要です。商品に興味を持った時にその場ですぐ視聴し、そのまま電子決済で購入できる環境が整っていたことが、中韓でライブコマースが定着した大きな要因のひとつでしょう。
ただこのようなインフラ環境は、日本でも徐々に整いつつあります。では、日本でライブコマースを成功させるためには、何が重要なのでしょうか。
日本でライブコマースを成功させるには
企業として強い想いを持ち、戦略的に進める
私はライブコマースを成功させるためには、企業としてどこまで戦略的に事業を進められるかが重要だと考えています。
そのためには、「ライブコマースをどう位置づけるか」に始まり、「ターゲットユーザーを誰にするか」「動画のなかでどのように商品を紹介するか」「動画に誰が出演するか」など決定すべき要素が数多くあります。
たとえば、韓国のECモールであるTMONは、自社のコアユーザーを30代主婦と定め、おむつやウェットティッシュなど育児に関する商品を売ることで成功しました。コアのユーザー層に対し、商品は「今ここでしか買えない」という限定性を訴求する手法で成果に繋げていきました。
ライブコマースの戦略とそれに応じたKPI
今年の夏からライブコマースを始めた企業の一つとしてディノス・セシールが挙げられます。数年前からライブコマースの計画がありましたが、昨年末に正式に実施する方向が固まり、スタートしました。
ディノス・セシールはこれまでカタログ、テレビ、WEBという三つのチャンネルを中心に顧客にアプローチしていました。しかし、テレビは幅広い層へ訴求できる一方で、フォーマットが決まっているため、商品の魅力を伝えようとしたときに情報が漏れてしまうことがありました。
そこで、ライブコマースをテレビでは伝えきれない、商品の新しい使い方の提案など商品の魅力を全て伝えるという「テレビショッピングを補完し拡張させるもの」と位置づけて活用しています。ファンにもっとディノス・セシールの商品について知ってもらい、顧客エンゲージメントを上げていく手段にしているのです。
そのような目的に照らして考えた場合に、ライブコマースのKPIは売上だけにはなりません。
テレビやカタログは、枠の中で何をどう伝えていくかルールが決まっているフォーマットです。そのため、「この商品にはこんな使い方もある」といったノウハウ系の情報はあまり詰め込むことができません。
だからこそ、この事例のように、ライブコマースをより自由な商品情報を発信する場として位置づけてみても良いでしょう。商品の新しい用途の提案、他の商品と組み合わせることによる新しいライフスタイルの提案などが考えられますが、KPIはその価値を反映した、売り上げだけではないライブコマースならではの設定をするべきです。
ライブコマースには誰が出演するべきか?インフルエンサー起用の注意点
ライブコマース先行国のうち、中国は企業がKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーを起用してライブコマースを成功させています。日本でもインフルエンサーやライバーによるライブコマースの事例をよく見るようになりましたが、インフルエンサー起用には注意点もあります。
それはインフルエンサーに商品知識があるとは限らないこと。テレビだと15分や30分の枠のなかで細かく台本による流れが決まっています。しかし、ライブコマースのようにリアルタイムかつインタラクティブな環境で物を売る場合は、インフルエンサー自身に商品知識がないとそれが露呈してしまい、コンテンツの内容が薄くなってしまう可能性があります。
それならば、無理にインフルエンサーを起用しなくても、CEO自らが出演したり、社内で商品知識がある人を社内インフルエンサーとして起用していく戦略もあります。
小売店などでお客さんが少ない時間帯を活用して、カリスマ店員がライブコマースを配信するのも効果的です。店舗の人ですから活き活きとした商品情報を説明できますし、空き時間を有効に活用できるでしょう。いずれにしても、企業の戦略と人材をうまく組み合わせることに、ライブコマースの可能性があるのではないでしょうか。
配信プラットフォームとデータの重要性
配信プラットフォームをどう選ぶかも重要なポイントです。マスに広げたいのであれば、既存SNS上の配信プラットフォームで展開する方法が考えられますし、自社で細部までデザインしていきたいなら、自社でプラットフォームを持って展開する方法があります。また、そのハイブリッドで展開する途もあります。
ただここで注意しなければいけないのは、データを手元に残すことが重要であるということです。ライブコマースを成功させるためには、購入前後のデータと購入データを組み合わせ、PDCAを回す必要があります。プラットフォーム選びは、自社の戦略に合わせて慎重に考えた方が良いでしょう。
以上のように、日本でライブコマースを成功させるためには「ライブコマースの役割を見極め、どのようなKPIを設定するか」「誰が出演するのか」「どのようなチャネルを使うべきか」「データを元にしたPDCAをどのように回すのか」など、戦略的にライブコマースを進めていく必要があると考えています。
今後のライブコマース市場への期待
ライブコマース先行国である中国と韓国を比べると、日本は後者に似ていると感じています。なぜなら、韓国でライブコマースが浸透した背景に「テレビホームショッピング」があるからです。日本で言うと「テレビショッピング」のことですが、この文化は日本でも広く親しまれているため、日本でもライブコマースが浸透する素地はあると思っています。
そうなると、後はインフラ面です。日本でも、料金をあまり気にせずに通信できる環境がここ数年で実現しそうな流れです。
ネット環境やデータ通信量の料金体系、電子決済などの必要なピースが重なり、かつそこに企業の戦略をうまく融合させることができれば、日本のライブコマース市場は今まで以上に伸びるはずです。
コロナ禍において、より重要な販売やマーケティングの機会となったライブコマース。今度こそ日本に定着するよう、企業の本格的な取組みに期待したいと思います。
筆者プロフィール
ブライトコーブ株式会社 代表取締役社長 川延 浩彰(かわのべ ひろあき)
合計で15年以上のビジネス経験を有し、そのうち約10年にわたり動画配信プラットフォーム事業に携わる。
ブライトコーブでは、マーケティング兼アカウントマネージャーとして入社し、ブライトコーブ株式会社第一号のアカウントマネージャーとして、日本のブランド並びにメディア企業の動画配信プロジェクトに従事。その後、2016年には、アカウントマネジメント統括としてブライトコーブ株式会社の既存ビジネスの総責任者に着任。2018年よりVice Presidentとして韓国事業並びに日本市場におけるセールスを統括。2019年9月より現職。
下関市立大学経済学部卒業。カナダビクトリア大学 Peter B. Gustavason School 経営学修(Entreneurship専攻)。