2024.11.08

Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [活用編]

本連載では、GA4を活用したい企業に対して、「Webサイトの種別で見るGA4の活用方法」をお届けしてきた。株式会社Faber Company 取締役(CAO)・株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役であり、数多くのGA4解説書籍を世に送り出してきたWebアナリスト小川卓氏を迎え、GA4を切り口にWebサイト運営を成功させる実践的なテクニックを紐解いていく。

Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [応用編]

第4回となる本記事は、第3回に引き続き、Webサイト運営における"PDCA"を回し続けるためのノウハウを探究していく。第3回では、PからD、DからCの流れを止めないための解決策をおもなテーマとして扱った。第4回は続く後編として、CからA、AからPの流れを止めないテクニックを解説していこう。

CからAへ――次の挑戦につながる気付きを言語化して残そう

KPIを設計し、施策を実行して、結果をチェックする。ここまでをスムーズに進めるための流れは前編で解説した。では、チェックした内容を次のアクションに結びつけるには、どうしたらいいのだろうか。

──CからAの間で生じる課題を教えてください。

小川 チェックからアクションを導きだす段階は、PDCAを回す中でも一番難しいと感じるところだと思います。GA4でサイト分析をしても、ただ数字をチェックしただけでは次に取るべきアクションはわからないので、結果から原因を分析しなければなりません。これには分析スキルが求められますし、より細かなデータを見るツールが必要になることもあります。この段階でプロジェクトが停滞する原因としては、スキルやツールが現場に足りないことで分析が思うようにいかず、次のアクションがうやむやになることが挙げられます。

──そもそも、なぜ原因分析が重要なのでしょうか? チェックしただけではアクションが見えないパターンを教えてください。

小川 結果の数字が施策前後で変わらない場合、分析しなければ問題の本質となる原因を探れません。

たとえば、ページの遷移率を上げたいという目標を設定して、ページのレイアウトを変えたとします。その施策後にGA4で分析した結果、遷移率に変化がなかったとしたら、「施策がうまくいかなかった」ということがわかりますよね。これが施策後、チェックした状態です。ここから「なぜ?」と掘り下げていくのが分析、つまりCからAにつなげていくためのプロセスです。

たとえば、GA4で新規顧客とリピート客に分けて比較すると、新規顧客は想定通りにページ遷移をしてくれていたが、リピート客は逆の動きをしていたので、結果的に変化がないように見えていたことがわかるかもしれません。あるいは、デバイスごとに比較すると、モバイルでは想定通りの動きをしていたけれど、PCではそうではなかった、ということもあり得ます。

同じ「変化がなかった」という結果でも、原因をたどっていくと複数の可能性が浮かび上がってきます。チェックした結果から仮説を立てて、検証しながら何が原因になっているか分析していくことが、ネクストアクションにつながります。

──なるほど。仮説と検証には、一定の分析スキルが必要そうですね。

小川 こうした分析に対応できる人員が社内にいない場合は、外部のパートナーに頼るのもひとつの手段だと思います。ただし、長期的なWebサイト運営を考えると、社内で自走できる体制を整えていくことが大切ですから、チェックをアクションにつなげるのに効果的な手法も続けてご紹介します。

【Check→Action】施策結果評価シート(例)

Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [応用編]

行ごとに、施策の概要と結果を記載していく。大切なのが、表内の紫色の列「ネクストアクション」の部分。
次に活かすためのポイントを「KPT法」で明記しておく。

上図のような施策結果評価のためのシートを作ってみましょう。施策結果評価シートには、KPIで設定した目標に対して達成率がどの程度だったのか、予算をどの程度つかったのか、施策後に書き入れます。そしてどんな気付きがあったのかも「KPT法」で書いておくようにしましょう。

KPT法とは、施策を振り返るフレームワークの一種で、「Keep(よかったこと=継続すべきこと」、「Problem(問題があったこと=解決すべきこと)」、「Try(次にチャレンジすべきこと)」を検討する方法です。

気付きについては、極論「わからなかった」でも構いません。わからないなら、どうすればわかる状況になるのか考えればいいのです。とにかく、次に何をチャレンジすればいいのか、何を改善すればいいのかわかる情報を残していくことを意識してみましょう。この施策結果評価シートを、前回の記事で紹介した施策一覧シートとリンクさせて、実行した施策とその結果を行き来できるようにすると、より使いやすくなります。

施策結果評価シートをもとに気付きを言語化していくことが、社内でネクストアクションを編み出すスキルの醸成につながる。時間はかかるかもしれないが、こうしたPDCAを支えるプロセスを丁寧に自社で設計していくことが、Webサイトの成長につながっていくはずだ。

POINT

【Check→Action】PDCAを回し続けるポイント
GA4の数字を見ただけでは、原因分析ができないことも。
施策の概要と結果に加え、KPT法で"気付き"を書き込む「施策結果評価シート」をもとに分析を。

Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [応用編]

AからPへ――KPT法を活用してPDCAそのものを振り返ろう

PDCAの流れをスムーズにする方法をひと通り小川氏に聞いてきたが、PDCAは一回性のものではない。繰り返し回して初めて、意味を為す。つまり、Aを次のPへとつなげるプロセスも重要なのだ。

──Aから次のPへの間で生じる課題を教えてください。

小川 AからPの段階では、施策から得られた気付きを次の新たな施策に活かしていかなければなりません。しかし、企業のWebマーケティングを支援していると、このAから次のPへの段階で流れが止まってしまうケースを非常に多く見ます。

何かキャンペーンを実施したとき、その結果を見て「うまくいった」と喜んで、そのまま終わってしまったことはありませんか? これがAからPで止まるケースです。

何かの施策を実行して、その結果を見ると達成感が生まれますが、その先にある次のPDCAを回していかなければ、次にはつながりません。

──達成感だけで満足せず、次につなげるための良い方法はありますか?

小川 KPT法を取り入れた会議が効果的です。KPT会議は、PDCAに関わったすべてのメンバーを招集し、定期的におこないます。対象となるメンバーはエンジニア、デザイナーはもちろん、外部のパートナー企業の担当者も含まれます。頻度としては、規模や施策数にもよりますが、月1回の開催が一般的でしょう。

KPT会議では、フローに対して「うまくいったこと」と「問題があったこと」、「解決すること」を議論する場とします。ここで重要なポイントは、振り返る対象が施策そのものではなく、PDCA自体であることです。

──「施策ではなく、PDCA自体を振り返る」の意味を詳しくお聞かせください。

小川 たとえば、あるキャンペーンを実施したあとのKPT会議で、そのキャンペーンの内容について「よかったこと」と「問題があったこと」を振り返っても、そのキャンペーン自体は再び実施されるかどうかはわかりません。つまり、施策の内容を振り返ることは、それほど重要ではありません。一方、このキャンペーンを実施するにあたって、PDCAを回していて気付いた「よかったこと」と「問題があったこと」は、今後に役立ちます。

具体的に「よかったこと」として挙げられるのは、「AさんがBさんに対して描いたワイヤーフレームのおかげで、キャンペーンを実行に移しやすかった」、「提案書に書いてあった特定の項目のおかげで、その後の判断がしやすかった」といった内容です。逆に「問題があったこと」として挙げられるのは、「Aさんの情報共有が不足していたため、手戻りが発生した」、「特定のデータが取れなかったため、チェックが不十分だった」といった内容ですね。

これらの振り返りは、次のPDCAを回すときに活かせます。先の例で言えば、「情報共有が不足したタイミングで、一度事前ミーティングを実施する」、「不足したデータを取れるよう準備する」といった「次にチャレンジすること」が見えてくるはずです。

──PDCAそのものを振り返ることが大切なんですね。

小川 施策の精度を高めていくためにPDCAを回し続けるように、PDCAそのものの精度を高めていくための取り組みは必要です。KPT会議のような場を設けることで、より早くPDCAを回すことができる、メンバーがストレスなく施策に取り組める、新しい施策が生まれやすくなる、といったさまざまな良い効果を得られます。PDCAを回し続ける意味をメンバー全員で共有し、そのプロセスを可視化しながら改善を繰り返していけば、Webサイトはよりビジネスに成果をもたらす場へと進化していくでしょう。

PDCAの一連の流れをスムーズにするためには、施策の情報をしっかり共有し、適切なフローを踏んでいくことが重要だ。そして次のPDCAにフックさせるためには、PDCAの回転そのものを振り返ることが必要だと小川氏は言う。ここをしっかり理解したうえで、PDCA自体の精度を高めていこう。

POINT

【Action→次のPlan】PDCAを回し続けるポイント
"気付き"を次のPlanにつなげるためには、「KPT会議」開催が有効。
会議では個々の施策ではなく、PDCAそのものを振り返り、プロセスを改善していく。

PDCAを回すのは「人」――成功する組織の作り方

Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [応用編]

ここまでPDCAを回し続けることの重要性に着目しつつ、PからD、DからC、CからA、そしてAから次のPへとステップをスムーズに踏んでいくために役立つシートやフレームワークについて小川氏に解説してもらった。

読者の皆さんも、きっとプロセスを可視化する方法は十分イメージできたと思う。Webサイト運営に取り組むうえで、あとは何を押さえておくべきだろうか。

──今回ご紹介いただいた手段のほかに、意識すべきポイントはありますか?

小川 作成すべきシートや取り入れるべき会議体などについて解説してきましたが、ここであらためて伝えたいのは、PDCAを回すのは「人」だということです。

どんなに最適なツールを取り入れても、あるいは仕組み化を進めても、それを運営する人材がいなければ、PDCAは回りません。

経営陣や責任者の方におすすめしたいのは、PDCAを回すことをミッションとする人を一人立てることです。PDCAがうまく回っていないチームでは、フローを作って組織に浸透させたり、会議を設定したりすることについて「リードする人」がおそらくいません。まずはこの役割を担う人を組織の中において、その人を評価してください。

──「人」について、それらを外部に委託するという方法もあると思いますが、いかがでしょうか?

小川 外部パートナーは、報酬と引き換えに経験や知見を提供してくれる存在です。ただし、提供される経験や知見は、本来は時間をかけてでも社内で培うべきものだと私は考えています。時間をかけるのが難しい状況ならば、コストをかけてでも外部を頼るべきだと思いますが、それにしても社内でフローや現状を整理する手間は避けられません。外部の知見を借りるとすれば、社内において何が不足しているのか明らかにしなければなりませんから。

外部から得たいのは、Pにあたる戦略を設計するコンサルタントなのか、Dにあたる施策関連の制作周りを支援するデザイナーやエンジニアなのか、Cにあたるデータ分析を担うアナリストなのか。社内のリソースと照らし合わせて、高い専門性とスピードを求めているのはどの領域なのかを考えましょう。そこが不明瞭なまま外部に頼っても、思ったような成果が得られないこともあります。

──最後に、これからPDCAに向き合う企業の皆さんにメッセージをお願いします。

小川 PDCAを回すための環境づくりは、大企業でも苦労されている印象があります。各部署で個別に頑張る体制をよく見ますが、それだとデータの読み取りが不十分になったり、施策の優位性が判断しづらくなったりするはずです。

企業の皆さんにお伝えしたいのは、まずはスモールステップから始めることです。PDCAは回し続けることが重要ですが、まずは1回、回してみなければ始まりません。その1回から得られた気付きをもとに、レポートを自動化する、情報を共有しやすいシートを作るといった試みをひとつずつ重ねていってください。その積み重ねが、必ずや自社のPDCAの精度を向上させていってくれるはずです。

POINT

GA4を活かす、PDCAを回し続けられる組織のポイント
まず、PDCAを回すことをミッションとする担当者、責任者を組織の中に置くべき。
そしてスモールステップから始め、得られた気付きをもとに、積み重ねていくことが大切。

全4回にわたる連載で、小川氏にはGA4を活用してWebサイトを分析・改善し、ビジネスを成功に導く戦略について解説してもらった。

第1回の記事に立ち戻ると、「GA4は登山におけるコンパスのような存在」と小川氏は語っている。第2回では、そのコンパスの読み方を解説してもらった。そして第3回・第4回では、GA4というコンパスを真の意味で活かすためには、PDCAサイクルを回し続けられる環境が大切であると教えられた。

ビジネスゴールに向けて、PDCAを回し続けるなかでこそ発揮されるGA4の活用術。さまざまな企業のWebマーケティングに結びつけてもらえたら嬉しい。

【Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 シリーズ記事】

Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! サイトタイプ別「GA4」成功戦略

小川 卓(Taku Ogawa)

ウェブアナリストとしてリクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパン等で勤務後、独立。株式会社Faber Company 取締役(CAO)をはじめ複数社の社外取締役、大学院の客員教授などを通じてウェブ解析の啓蒙・浸透に従事。株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役。

主な著書に『ウェブ分析論』『ウェブ分析レポーティング講座』『マンガでわかるウェブ分析』『Webサイト分析・改善の教科書』『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』『「やりたいこと」からパッと引ける Google アナリティクス 分析・改善のすべてがわかる本』など。最新版のSEO対策はこちらから。

聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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