自社で運営しているWebサイトが、思うような成果を出していない。そんな悩みを抱えているとき、もしかすると「アクセス解析」に課題があるのかもしれない。その課題を解決するためのツールは数多く存在するが、Googleから無料で提供されるGA4(Google Analytics 4)は、おそらく多くの担当者がその活用を熱望するものだろう。しかし、GA4を最大限に活用するためには、前提となるWebサイトのゴールやKPIを設計したり、組織内のリソース(人・物・金・技術)を正しく把握したりする必要があるようだ。
本連載では、GA4を活用したい企業に対して、「Webサイトの種別で見るGA4の活用方法」をお届けする。株式会社Faber Company 取締役(CAO)・株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役であり、数多くのGA4解説書籍を世に送り出してきたWebアナリスト小川卓氏を迎え、GA4に向き合うWebサイトの担当者や企業がどのような準備や考え方をすれば良いか解説していただく。第1回となる本記事のテーマは、「GA4を活用する前に知りたい、ゴールとKPI設計の考え方」だ。基本の考えから積み上げていくことで、迷いなく自社のWebサイト施策にGA4を活かせる土台を作ろう。
GA4でWebサイトの訪問者について多角的に把握しよう
まず、GA4とは何ができるツールなのだろうか。Webサイトを運用するにあたって、なぜGA4を使うことが望ましいと考えられるのか、そもそもの意義から小川氏の解説を聞いていく。
──GA4とはどのようなツールなのでしょうか?
小川 GA4はGoogleが無料で提供するアクセス解析ツールです。Webサイトを訪れた人の"足跡"をデータとして残し、集積して分析することで、さまざまなレポートとして表示することができます。
──なぜ"足跡"を解析することがWebサイト運用において重要なのでしょうか?
小川 実店舗を例にイメージするとわかりやすいと思います。たとえば、書店ならば通常どんなデータが取れるでしょうか。おそらく、レジを起点として「どの本が何冊売れたか」、「何冊返品になったか」といったデータを見られるはずです。では、この書店に、もしもアクセス解析ツールを導入すると、さらに何がわかるのか考えていきます。
書店に入ってきたお客様が何回目の来店なのか。そしてそのお客様は、店舗内をどのように動いたか、つまり店内で何に興味を示したか。こういった書籍購入以外のデータまで、アクセス解析ツールは把握することができます。それに、入店したお客様全員が本を買うわけではありません。本を買わずに店を出てしまったお客様についても、アクセス解析ツールはそのデータを取っています。これらのデータは、書店が今後実施するフェアやイベントなどの施策づくりや、書棚の配置、仕入れ数の算出などにおいて非常に参考になるものですよね。これが、Webサイトにおいて"足跡"を見る、つまりアクセス解析ツールを活用するべき理由です。
──GA4を活用すべきWebサイトの前提条件をお聞かせください。
小川 大前提として、GA4を活用するWebサイトにおいては、月間およそ1000~2000件のアクセス数が必要です。一定のアクセス数が担保されているWebサイトにおいてGA4のレポートを適切に活用できていれば、およそ1ヵ月で傾向が見えてくるはずです。また、GA4のレポーティング結果に基づく改善を施す場合は、改善点が顕著に見えている部分から優先して取り組みましょう。
マーケティングにおいては、顧客を正しく理解することが要となる。そして企業が運営するWebサイトには、必ず目的がある。その2点を考えれば、より深く顧客を理解し、Webサイトの目的を達成するための道筋を適切に描くために、アクセス解析ツールが大いに役立つということがわかる。GA4活用にあたる前提条件を踏まえたうえで、次の話題に進んでいこう。
GA4には3つの目的に対応するレポートが用意されている
GA4を使えばさまざまなデータが取れるということは、言い換えれば膨大なデータを担当者が扱うことにもなる。GA4で取れる膨大なデータと、企業はどう向き合うべきなのだろうか。
──GA4のデータをすべて見るわけにはいかないと思うのですが、どのようにデータと向き合えば良いのでしょうか?
小川 GA4では延べ300~400種類のデータを取ることができます。このうちどれを見ればいいのか考えるためには、まず『何を知りたいか』を明確にする必要があります。
皆さんが受ける健康診断を想像してみてください。自分の身体の状況がさまざまなデータとともにレポートされると思いますが、そのうち何を知りたいのかという目的がないと、ただ一覧を見渡すだけになってしまいますよね。
アクセス解析ツールもこれと同様で、Webサイトの担当者の方には、まず『何を知りたいか』を書き出すところから始めてほしいです。それに基づいて、GA4からどんなデータを取るべきか、そしてどんな設定をするべきかを考えていきましょう。
──『知りたいこと』を300~400種類ものデータから探していくのは大変そうです。
小川 そこは安心してください。『知りたいこと』は大きく3つくらいに分けられるのではないでしょうか。GA4には、それぞれに対応した「レポート」が用意されていますので、まずはそれを見ることから始めましょう。
1つ目は、「集客」に関するレポートです。Webサイトを訪問するユーザーが検索エンジンやSNSから来たのか、あるいはチラシのQRコードを読み取ってきたのかといった、集客の経路を把握することができます。
2つ目は「エンゲージメント」、Webサイト内の行動に関するレポートです。それぞれのページが何回くらい表示されたのか、見ている時間はどれくらいなのか、そしてページ間をどのように移動したのか。そういったWebサイト内の移動や行動の情報に関わる情報を見ることができます。
そして3つ目は、Webサイトがどの程度"成果"につながっているのか知るためのレポートです。商品を売るWebサイトならば「eコマース設定」をすることで、商品がどれほど購入されたのかを「収益化」レポートで見ることができます。また、BtoBサイトであればお問い合わせや資料請求、そしてオウンドメディアであればメルマガ会員がどれほど増えたか、あるいはECへの送客がどれほどできたかなどが重要となりますが、それぞれを「コンバージョン設定」することで、「エンゲージメント」内の「イベント」レポートで"成果"を見ることができるようになります。
■GA4の標準レポート
GA4にあらかじめ準備されているレポートのうち、『知りたいこと』に答えてくれる3つのレポート。
GA4左側のメニューから「レポート」をクリック→「ライフサイクル」の下に、「集客」「エンゲージメント」「収益化」が並んでいます。
成果を見るためには「コンバージョン設定」や「eコマース設定」が必要となります。(連載第2回で詳しく解説します)
概要 | レポート例 | |
---|---|---|
集客 | ユーザーがどんな方法でサービスにアクセスしたかがわかります | 新規ユーザ数、流入元、広告キャンペーンからの流入数 |
エンゲージメント | サイト内でのユーザー行動の様子がわかります | (イベントごとの)イベント発生数、コンバージョン数、ランディングページ、ページごとの表示回数、エンゲージメント数、ロイヤリティ |
収益化 | 発生した収益を分析できます | 合計収益、購入者数、商品ごとの収益、購入経路 |
多くの場合は、GA4が用意するこれらのレポートを起点としてデータを紐解くことができるということがわかった。『何を知りたいか』の方向性によって、これらのレポートをうまく活用すれば、はじめの一歩のハードルは下がるだろう。
アクセス解析の土台となる「ゴール」と「KPI」を理解しよう
ここからは、GA4を扱う準備について、個別具体的な話へと進んでいく。小川氏はまず、ゴールとKPI(Key Performance Indicator)について正しく理解することが大切だというところから話を始めた。KPIは日本語で「重要業績評価指標」と訳されるビジネス用語であるが、Webサイトにおいてはどのような意味を持つのだろうか。
──ゴールとKPIについて、それぞれの定義をお聞かせください。
小川 まずゴールとは、登山でたとえるならば富士山、高尾山、エベレストなどの中から『登る山』を決めることです。その山にいつまでに登るのか、『期間』をここで併せて設定しておくことも重要です。そしてKPIは、その山に登るための『登り方』です。実際の山にも、複数の登山ルートがありますよね。比較的初心者でも登りやすいルートや、険しいけれど最短といったルートなどがある中で、どれを選んでゴールを目指すのか設定するのが、KPIです。
──Webサイトに置き換えて具体例を教えてください。
小川 商品の売上を上げることや、セミナー参加・会員登録から収益を得ることなどが、一般的なWebサイトのゴールになるでしょう。具体的には、「年内にいくらの売上を上げたいのか」、「いつまでにどれだけの会員登録者数を増やしたいのか」といった指標が例に挙げられます。
このゴールを達成するために、数多くの手段の中から、自社が実行できそうなものを選ぶことがKPI設定にあたります。たとえばWebサイトの改善ひとつ取っても、レイアウト変更、見せる商品ラインナップの増加、魅力を訴求するコンテンツ作成など、手段は挙げればきりがないほどあります。一方で、企業には「人、物、金、技術」といったリソースの制限がありますから、そのすべてを実行できるわけではありません。自社のリソースと照らし合わせ、最も実行できそうなプランを決めることこそが、KPIの設定になります。
ECサイト、オウンドメディア、コーポレートサイトにおける「ゴール」と「KPI」
このゴールとKPIについて、Webサイトの種類別で指標となる考え方を続けて聞いていこう。本連載では、企業が運営するWebサイトの種類を①ECサイト、②オウンドメディア、③コーポレートサイトに分類した。ここで取り上げるECサイトは「自社の商品を販売するためのWebサイト」、オウンドメディアは「おもにBtoCで、自社の商品やサービスにつながるコンテンツを掲載するWebサイト」、そしてコーポレートサイトは「おもにBtoBで、事業活動全体に貢献するWebサイト」と定義する。
──ECサイトのゴールとKPIの考え方からお聞かせください。
小川 ECサイトの場合、基本的には商品の売上を上げることがゴールになります。そしてECサイトと売上の関係性は、『集客数×購入率×購入単価=売上』というシンプルな公式によってあらわすことができます。Webサイトに訪れた人のうち、何割が、平均どれほどの買い物をしたか。各要素に対する適切なKPIを設定すれば、ECサイトはゴールに近づくことができます。
ここでポイントとして押さえておきたいのは、この集客数、購入率、購入単価そのものをKPIにしないほうがいいということです。たとえば、「集客数を1.5倍にする」というようにKPIを設定してしまうと、施策の数が多すぎて戦略を絞り込めません。SEO対策をするならば『検索流入を1.8倍に増やす』、メールマガジンに注力するならば『メルマガ登録者数を2倍に増やす』というふうに、手段の選択と指標の設定をして初めて有用なKPIとなります。この選択の判断基準として、自社のリソースを把握することが重要です。
■ECサイト例「ゲキサカFC ストア」
講談社が運営する国内No.1サッカーメディア「ゲキサカ」の公式通販サイト
「ECサイト」のゴール&KPI設定
ECサイトは、売上を上げることがゴール。
『売上=集客数×購入率×購入単価』が指標に。
──オウンドメディアのゴールと指標は、どのように考えればよいでしょうか?
小川 オウンドメディアですが、ゴールはやはりメディアを通じた売上ということになります。しかしオウンドメディアは、さまざまな収益モデルがあります。自社の商品購入やサービスへの誘導をはじめ、広告掲載、記事タイアップ、アフィリエイト、有料会員などもその一例です。あらためてメディアを通じた「売上」をどの範囲で設定するかをまずは決めましょう。
その上でKPIとしておさえるべきポイントがいくつかあります。1行でまとめると「定期的な読者が増えること」ですが、それらを測るための指標として以下を見ておくとよいでしょう。
- 1)訪問人数
- 2)1人あたりの訪問回数(月単位)
- 3)訪問時の平均閲覧ページ数
- 4)記事を最後まで読んでいる割合(読了率)
1)~3)をかけあわせるとページビュー数となり、さらに4)もかけあわせると「最後まで読まれた回数」となります。
これらすべて、GA4で計測ができます。
■オウンドメディア例「赤星★探偵団」
サッポロビールが運営、講談社が企画・制作に協力しているオウンドメディア
「オウンドメディア」のゴール&KPI設定
BtoCのメディアは、読まれることが重要。注目指標は『訪問人数×回数×閲覧ページ数×読了率』。
──最後に、コーポレートサイトのポイントを教えてください。
小川 コーポレートサイトは他のWebサイトと比べて、訪問するユーザーの目的が多岐にわたります。そのため、私はコーポレートサイトのゴールは『ユーザーが目的を果たせること』だと考えています。
BtoBの見込み客からのアクセスであれば、資料請求や商談の問い合わせ、見積もり依頼などがゴールになるはずです。投資家はIR関連のPDFをダウンロードすること、企業訪問の必要がある顧客は住所が掲載されているページに辿りつけること、採用候補者は適切な情報を得て応募できること。これらが、コーポレートサイトにおいて想定されるゴールです。コーポレートサイトでは、まず自社のWebサイトを訪問するユーザーがどのような目的を持つのか考え、5つ程度に絞ることから始めると良いでしょう。そしてゴールに紐づく着目すべき指標としては、それぞれのページにたどり着いた到達率や、トップページでの離脱率などが挙げられます。
■コーポレートサイト例「Faber Company」
小川氏が取締役を務める株式会社Faber Companyのコーポレートサイト
■コーポレートサイト例「講談社」
講談社のグローバル・コーポレートサイト
「コーポレートサイト」のゴール&KPI設定
BtoBサイトは、ユーザーの目的達成がゴール。
資料請求やIR情報への『到達率』などが指標。
──そのほか、Webサイトのアクセス解析において設定すべき指標はありますか?
小川 ここまで解説してきたのは、あくまで企業の視点でのゴールあって、そのWebサイトに訪問するユーザーにとって、それらのゴールは重要ではありません。ユーザーの視点に立つと、Webサイトの情報や提供される商品が役立つものかどうかこそ、そのWebサイトの存在意義を左右するポイントです。ユーザーは何かしらの疑問や課題があって、それを解決できる商品やサービス、情報を求めてWebサイトを訪れるはずです。その視点に立ったKPIを1つ設けておくことが、Webサイトの質を高めることにつながります。
このユーザー視点のKPIを考えるヒントになるのは、ユーザーのアクションです。たとえば、オウンドメディアの記事をユーザーがSNSでシェアするのは、誰かに伝えたいと思えた、つまりその記事が役に立ったということの裏付けになります。このユーザー視点のKPIは、必ずしも短期的な売上などの成果に直結するものではありません。中長期でファンを獲得していくことにつながるKPIであるため、企業視点だけで立てるKPIよりも、長いスパンで指標を見ていく必要があります。
Webサイトの種類によって、『登る山』は異なる。この違いを正しく理解したうえで、自社のリソースと照らし合わせつつ、適切な『登り方』を絞っていくことが重要だ。その『登り方』においては、企業とユーザー双方の視点を踏まえた手段を選ぶことが望ましい。GA4活用の土台となる考え方が、およそ整理できたのではないだろうか。
ユーザー視点の「KPI」を加え、コンパスとしてGA4を活かす
最後に、今回のテーマとなったゴールやKPIが、どのようにGA4活用へとつながっていくのかを踏まえつつ、小川氏に今回の解説の総括を聞いていこう。
──ゴールは『登る山』、KPIは『登り方』ということがわかりました。では、GA4はWebマーケティングを登山にたとえたとき、どんな役割を果たすのでしょうか?
小川 GA4は登山におけるコンパスのような存在です。登る山を決め、登り方も選んだあと、いざ山を登り始めることを想像してみてください。1ヵ月後に山の頂上を目指すと仮定して、2週間後に山の中腹までたどりつけていなかったら、何らかの対策を打たないと予定通り頂上にはたどりつけません。GA4は、自分が今まさにどこにいるのかを教えてくれます。選んだ登り方やペース配分が正しいのか、GA4で確認しながら進むことで、Webサイトはより確実にゴールへと近づいていくことができるのです。
逆に言えば、GA4のレポートは漠然と見るものではありません。施策に対して想定通りの成果が出ているか確認するという目的がなければ、GA4を見るモチベーションは高まらないでしょう。そのため、これからGA4を活用したいと考えている担当者の皆さまには、課題やKPIを洗い出すために、あるいは取り組みの成果や進捗を見るために、GA4をしっかり見ていくという感覚を持っていただきたいです。
今回はWebサイトにおけるゴールとKPI、そしてGA4の役割について、基本となる考え方を小川氏に解説していただいた。自社で成果を伸ばしたいWebサイトの種類を踏まえつつ、ぜひ『登る山』と『登り方』について吟味していただきたい。次回は、この考えを礎として、具体的なWebサイトをもとに、ECサイト、オウンドメディア、コーポレートサイトそれぞれのデータをどのように見るか、具体的な実践テクニックを聞いていく。
【Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 シリーズ記事】
- Vol.1 GA4はどんなツール? まず、ゴールとKPIを設計しよう|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.1 [導入編](本記事)
- Vol.2 どのレポートを見る? どの数字を追う? GA4の分析術|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.2 [分析編]
- Vol.3 Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[前編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.3 [活用編]
- Vol.4 Webサイト運営のPDCAを回し続けるために[後編]|Webアナリスト小川卓氏の熱血解説! 「GA4」成功戦略 Vol.4 [活用編]
小川 卓(Taku Ogawa)
ウェブアナリストとしてリクルート、サイバーエージェント、アマゾンジャパン等で勤務後、独立。株式会社Faber Company 取締役(CAO)をはじめ複数社の社外取締役、大学院の客員教授などを通じてウェブ解析の啓蒙・浸透に従事。株式会社HAPPY ANALYTICS代表取締役。
主な著書に『ウェブ分析論』『ウェブ分析レポーティング講座』『マンガでわかるウェブ分析』『Webサイト分析・改善の教科書』『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』『「やりたいこと」からパッと引ける Google アナリティクス 分析・改善のすべてがわかる本』など。
聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。