2024.03.08
BtoBの動画施策は"バズ"より"的確さ"が売上に直結する──成功の秘訣は『どう見られるか』|「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 Vol.6
動画マーケティングは、ビジネスを加速させる手段としてあらゆる業界の企業が着目するマーケティングの一手段だ。企業の取り組みを知るうえでSNSや動画プラットフォームはもっともわかりやすい場ではあるが、企業の動画活用の場はそれだけではない。展示会や就職説明会、タクシー広告や電車広告など、あらゆる場で動画マーケティングが展開できる。
本連載では、これから動画を活用したマーケティングに挑もうとする企業に向けて、「動画マーケティング講座」をお届けする。年間7,000本の動画制作実績を誇る株式会社サムシングファンCOO(執行役員)兼ディレクター・山口貴久氏を迎え、どのような工夫をすれば企業がより魅力的な動画を制作できるのか探求する。連載6回目となる本記事のテーマは「BtoB」だ。BtoBの商材を扱う企業は、対消費者ではなく対企業、あるいは対社員の動画づくりによって商機を増やすことができる。では、どんなふうに動画を活用すれば最大限の効果を得られるのか、BtoBを軸として考えていこう。
再生一回がもたらす効果が大きいBtoBの動画マーケティング
今回扱うテーマは「BtoB」だ。SNSや動画プラットフォームでバズっている商品PR動画の多くは「BtoC」に分類されるものなので、読者の皆さんが動画マーケティングと聞いて想像するのは、おそらくBtoCのものだろう。一方、BtoBでも動画は多く活用されている。ただ、訴求している対象や場が異なるだけなのだ。まずはBtoBとBtoCにおける動画マーケティングにはどのような違いがあるのか山口氏に聞くところから始めよう。
山口「BtoBの動画マーケティングは、BtoCに比べて視聴回数が急激に伸びることはあまりありませんが、1回の視聴で得られる効果が高い特徴があります。ある動画から案件を受注することができれば、その受注額はBtoCにおける一商品が売れる場合に比べて高くなるからです。弊社サムシングファンではBtoBの案件を扱うことが多く、よくBtoBで動画の視聴数が伸びないことを課題と感じるお客様の声を聞きますが、視聴数はそれほど気にする指標ではありません」
そうは言っても、動画を作ったならば多くの人に見てもらわないと意味がない、と考える企業は多いだろう。BtoBのほうが視聴回数にこだわらない理由を、別の視点から解説してもらった。
山口「BtoBの動画はSNSや動画プラットフォームへ展開するだけでなく、展示会やタクシー広告といった場面でも活用できます。さらにウェビナーを開催してアーカイブを残していくことも、BtoBにおける動画マーケティングの一種と言えます。BtoBのほうが、BtoCに比べて視聴者が限定的な場でも動画を活用できる傾向があり、単に多くの人に届けることだけが着目すべき点ではないことは、最初に押さえておきたいポイントです」
BtoBとBtoCではひとつの動画がもたらす効果も、展開する場所も異なる。これを踏まえて、さらに詳しくBtoBの動画マーケティングについて紐解いていこう。ここから、動画が使われる目的ごとに効果的な動画活用の例を山口氏に聞いていく。
「セールス×動画」で受注に直結する商談機会を生み出そう
はじめに営業活動で使う動画について掘り下げてみよう。BtoBでは営業担当者が潜在顧客とのアポイントを取り、商談を重ねて受注を獲得するのが一般的な営業の流れだ。そこに動画はどのように絡んでくるのだろうか。
山口「セールス系の動画活用場面はオンラインからオフラインまでさまざまですが、いずれも商材の理解を深める目的で使われることが多いです。BtoCと比べて、BtoBの商材の提供価値は一見してわかりづらかったり、ビジネスモデルが複雑だったりすることがあるので、商材の魅力をわかりやすく伝えるための手段として動画を使うと効果的です。
コロナ禍が明けて以降、対面で商談や営業活動をする場は次第に戻ってきました。しかし、その手法については変化が起こりつつあります。商材の説明については、紙資料よりも動画で流す形にしたほうが、商材をより直感的に理解してもらいやすくなりますし、個々の営業担当者の伝え方に左右されず最適化された訴求ポイントを伝えられます」
一度コロナ禍の影響で動画マーケティングへの関心が高まったことが、これまでの営業スタイルに変化をもたらしたということだ。さらに動画を活用した営業には、副次的な効果もあると山口氏は続ける。
山口「動画内にあらゆる商材の情報を入れておくことで、クロスセルを生み出せるのも動画の強みです。部門を超えて商材を提供している会社では、隣接する部門の商材について各営業担当者が説明しないこともありますよね。こうしたケースにおいては、動画が部門を横断して商材を紹介する機能を発揮します。取引先のニーズを動画起点で知ることができれば、視聴以降のミーティングの質が高まり、受注率も向上するでしょう」
(参考:サムシングファンPR動画2023)
つまり、動画は営業担当者の補助役のような役割を果たしてくれる。そして動画を使うことのメリットは、商材の魅力を漏れなくムラなく伝えられることと言えそうだ。その結果、顧客との対話がスムーズになり、受注への道筋が描きやすくなる。こうしたケースの一例として、山口氏はメールマーケティングにおける動画活用事例を教えてくれた。
山口「あるヘルスケアテック系の企業は、資料請求の問い合わせに対する自動返信に自社商材を紹介する動画コンテンツのリンクを貼りました。すると、その後の受注率が大幅に向上したのです。この成功の背景には、MAツールの活用があります。メールの送信相手がどこまで動画を見たかデータを取ることで、商談時にそれを踏まえたコミュニケーションを取ったことが、受注率に劇的な変化をもたらしたのでしょう。動画とセールステックの組み合わせは、非常に高い効果を出すことが期待できます」
セールステック領域では、日進月歩でさまざまなツールが生まれている。それらと動画を組み合わせて自社に適した独自の戦略を立てることが受注率向上につながることは、潜在顧客へのアプローチに悩んでいる企業にとって大きなヒントとなるだろう。
「人事・採用×動画」で自社の魅力を的確に伝え、働く意欲を高めよう
次に、人材採用や社員のモチベーション向上、教育といった目的で動画を活用するケースを考えてみよう。この目的で動画を活用するのはBtoBの企業だけではないが、BtoCの企業に比べて社名や商品がわかりやすい形で表に出る頻度の少ないBtoBの企業は、動画活用の意義が大きいと言えそうだ。
山口「まず、採用目的の動画発信は、就職説明会などの場で自社の魅力を伝える、あるいはテレビCMなどのマスメディアを通じて認知を広めるといった形で、BtoBの企業も積極的に取り組んでいます。
ある警備会社が採用動画を作って成功した事例を紹介します。警備員の仕事は男性がやるものという印象が一般的にあると思いますが、実際は女性向けのイベントや女性だけが入るスペースなどの警備にあたる女性警備員のニーズが高くあります。警備員になる女性のやりがいや働きやすさといったアピールポイントを整理し、女性警備員を採用するための動画を公開したところ、その会社の女性採用率が年間比で各段に上がりました。採用人材像を明確にし、ターゲットを絞った動画を展開すれば、それだけ採用につながるという好事例だと思います」
(参考:警備保障会社シムックスのリクルート用動画)
動画は他の手段と比較し、働き方や企業の雰囲気をイメージしやすい。候補者自身がユーザーとして企業との接点を感じる機会を得られないBtoBの企業としては、こうした動画のメリットを積極的に活かしていくことが採用成功の糸口となりそうだ。続いて、社員のモチベーション向上の観点ではどうだろう。
山口「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)への共感を生み出す企業PR動画は、電車やタクシーの中などでも流されることが多く、基本的には社外に対して企業の認知を広めることが目的です。しかし同時に、働く社員のモチベーションを上げるという効果も持ちます。コロナ禍が明けて以降は、リアル回帰の傾向が高まってきました。社員が一同に集まるイベントなども開催されるようになってきて、そのなかでこのような動画が活用されることもあります。また、年末年始などの長期休暇のタイミングでBtoBの企業がテレビCMを出すことがありますが、認知拡大はもちろん、休暇中の社員に向けてもアピールにもなり得ます」
(参考:会社紹介映像事例 三井化学)
なんらかの共感を生み出すための手段として動画は効果的だ。また、日常の中で自社の存在感を誇らしく思う機会を作るとなれば、動画以外に方法はないように思う。人事観点での動画活用は、工夫次第で人材採用・教育の大きな武器となりそうだ。最後に、人材教育面での動画活用について山口氏に解説してもらった。
山口「社員教育に必要な知識は、その会社独自の知識と一般的なビジネスパーソンの基礎知識に二分されますが、いずれも企業成長になくてはならない、非常に価値の高いコンテンツです。これらのナレッジを動画にすることで、社員教育の効率化や、テキストでは伝わりづらい技術・知見の継承が叶うでしょう。特にフランチャイズや販売代理店などの形態を取る会社では、各店舗のスタッフ教育などに動画が役立ちます」
多数の働き手がいる会社では、業務の属人化を防ぐことや、社員が必要な知識をしっかり身につけられる環境を整えることが、企業成長の鍵を握る。動画を社員教育の仕組みの中に取り入れることで、ナレッジの体系化が進むことも副次的な効果として期待できそうだ。
BtoBの動画マーケティングで成功するために企業がするべき準備
BtoBにおける動画活用についてさまざまな可能性が見えてきたところで、実際動画を作るときに心がけることや準備について考えてみよう。山口氏がはじめに挙げてくれたのは、動画制作を担うクリエイターとの関係性である。
山口「BtoBの動画は『ちゃんと理解してもらえる』『価値を生み出す』動画を作ることが重要です。一方で、企業文化や事業内容を深く理解し、それを適切に整理して映像化できるクリエイターはそれほど多くありません。そのため、企業側はカルチャーや理念、事業などの情報をまとめたブリーフィングシートを作成するなど、クリエイターに対して自社の情報を主体的に伝えるようにしましょう。そして、自社への理解度が高く、ヒアリングが丁寧だと感じられるクリエイターがいたならば、そのクリエイターと長く付き合っていくことを心がければ、それが持続的な動画マーケティングの成功につながるはずです」
BtoBの動画では「おもしろくする、感動させる」ことよりも、「複雑な内容をわかりやすくする」ことのほうが求められやすい。クリエイターと企業が互いに理解しあいやすい環境を整えることは、企業側ができるより良い動画づくりのための準備のひとつと言える。
そのほか、山口氏は本連載でたびたび『動画マーケティングの成功のポイントはPDCAを回すこと』を説いてきた。データを見て改善するという観点で、何か特筆すべきポイントはあるのだろうか。
山口「大前提として、動画を出す前のデータがあることがPDCAを回す必須条件となります。商談数、商材の受注数、アンケートによる社内モチベーションの調査結果など、動画を作る目的に沿った事前データを準備しましょう。そしてPDCAを回す際は、受注数などに加えて、動画がどう見られたのかに着目すると良いと思います。たとえば、半分しか見られていないにも関わらず商談につながる問い合わせが多い動画があれば、後半はカットしても良いですよね。こうした動画の見られ方を分析するためには、そのためのツールも準備しておかなければなりません。ちなみにイベントや展示会で動画を出す場合、正確な視聴データを把握するのは難しいので、あくまで『データを取れるところでは取る』というスタンスで臨むと良いと思います」
しっかりデータを取る環境を整えるというのはBtoBでもBtoCでも変わらない。ただ、BtoBの動画マーケティングにおいては、取るデータの種類が幅広いぶん、それに適したツール活用が求められる。このことは、PDCAを回すときに念頭に置いておきたいところだ。
Vtuber、ホワイト動画......BtoBでも広がる動画活用の幅広さ
最後に、山口氏にBtoBにおける動画マーケティングのヒントにつながりそうなトピックをいくつか紹介してもらった。
山口「弊社サムシングファンではVtuberの受託制作なども担っているのですが、最近はBtoBのお客様からの引き合いが多くなっているように感じます。就職説明会などの場で、若者の心をつかむための手段としてVtuberを起用したいという声も聞きました。BtoBというと遊びがない施策を考えがちかもしれませんが、今はBtoCとの境目がなくなってきているので、柔軟な思考で取り組んでほしいな、と思います」
確かに、BtoBの動画マーケティングでVtuberを活用するケースは、今はまだ珍しい。若者向けのSNSに情報を発信する企業もあまり見当たらない。だからこそ、そこに踏み出すことで採用面での差別化を図ったり、認知を広げたりすることができるかもしれない。
これとは異なる話題として、対企業向けでおこなわれるウェビナーもBtoCにはない施策の一種である。ウェビナーをより効果的なものにするためには、どのようなことを心がけると良いのだろうか。
山口「ウェビナーについては、アーカイブをしっかり載せるべきだということをお伝えしたいです。各企業の知見を外部公開用にまとめた資料をホワイトペーパーと呼びますが、近年はこの動画版、いわば『ホワイト動画』と呼べるものが、リード獲得に貢献することも多くあります。ウェビナーのアーカイブは、まさにこの『ホワイト動画』としての機能を果たす可能性を秘めたものであり、企業の知見を外に発信するチャンスとも言えます。こうしたアーカイブを単なる無料コンテンツとして見せるだけではなく、そこからセールスアポイントを作っていくための導線を作り、さらにデータを取ることで、成果につながるひとつの動画施策へと昇華させることができるでしょう」
これまで本連載で扱ってきたテーマの多くは、企業が商品を訴求することに着目した動画マーケティングの可能性だった。しかし、今回の山口氏の話から、その可能性はさまざまな領域──営業活動の向上、人材採用の成功、社内ナレッジやカルチャーの浸透──単に商品を売ることだけではない領域にまで広がることがわかった。
BtoBの場合、BtoCと比べて視聴数というわかりやすい指標は重要ではない。その代わり、その動画の見られ方の分析や、動画につなげる導線の設計、クリエイターへの適切な情報共有など、さまざまな観点での工夫を重ねることで高い効果が得られる。BtoBの商材を扱うマーケターの皆さんは、今回の記事の内容を参考にしつつ、ぜひ動画のポテンシャルを最大限に生かす施策を導きだしてほしい。
次回のテーマは『生成AIと未来の動画』である。AIムーブメントの到来によって、クリエイティブ業界には激震が走った。そして動画においても、AI活用のあらゆる可能性が示唆されつつある。企業が動画マーケティングに取り組んでいく上で、AIと動画の関係性をどのように捉えるべきか、山口氏と共に動画の"未来"をテーマに聞いていく。
【「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 シリーズ記事】
株式会社サムシングファン
COO(執行役員)・ディレクター 山口 貴久
ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作全般に携わる。撮影技術、制作、ディレクションなどで活躍しながら自主映画を制作。2013年に脚本を担当した映画がPFF:ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞・日活賞W受賞、2014年にIFFR:ロッテルダム国際映画祭に招待。以降も脚本執筆を続けている。2013年、サムシングファンに入社し現在は動画DX事業の執行役員。
聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。