2024年になりました。元旦に発生した能登半島地震に遭われて今も不便な生活を強いられている多くの方たちに、心からお見舞い申し上げます。
2019年7月に訪問した輪島朝市が、永井豪記念館も朝ドラ「まれ」の輪島ドラマ記念館も悉く焼失してしまい、衝撃を受けました。筆者はちょうど宇都宮市の実家に帰省中でしたが、福井市の自室や大学研究室はほとんどそのままでした。阪神淡路大震災からも29年が経ちました。日頃から災害への備えをしておかねば、と痛感しながら、今は自分にどんな支援ができるのかを考え続けています。
前回は、それぞれの居住地域に分類される各都道府県をPRする際に、どんなキャラクターやタレントを使えば効果を発揮するのかについて、以下の分析結果をご紹介しました。
- マンガ原作系キャラは、地域を問わず好意度で上位に位置
- マンガ原作系キャラの純粋想起が多い東京都と東海地方
- 人気タレント・有名人の顔触れは共通するも、地元出身者に支持
- 好きなタレント・有名人タイプのトップは「男性お笑い芸人」
今回は、コロナ禍前後である2018年3月と2023年2月の定量調査データを用いて、キャラクターに関する日常接点がどう変化したか、キャラクター界隈におけるデジタルシフトの進行状況を紹介します。
変化が少ないマンガからのキャラクター接触。ただし男子キッズで減少傾向
「キャラクター定量調査2023」では、「次にあげるものの中で、あなたがふだん、お好きなキャラクターや気になるキャラクターと接することが多いのはどれですか」という設問で、計36項目のキャラクターに関する日常接点について質問しています。
男女3-74歳で「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」と答えた人の割合を2018年と2023年で比較した一覧表が、図表1です。
図表1. キャラクターに関する日常接点 (男女3-74才全体:2018年vs2023年)
36項目を6つの因子に集約して、各因子を構成する項目の平均値を算出したところ、2018年と2023年で大きな違いは見られませんでしたが、いずれの因子も2023年は微減している点が共通しています。
ちなみに「マンガ雑誌・コミックス・単行本」は31.1% ⇒ 30.3%で、ほぼ変化ありませんでした。ただ、男子園児・小学生で10ポイント以上スコアが減少している点が気になります。これが微減なのか誤差の範囲内なのかを判断するには、今後の推移を見ていく必要があります(図表2)。
図表2:性・年齢別2018年vs2023年:「マンガ雑誌・コミックス・単行本」
動画配信サービス・動画投稿サイトでの接触は大きく増加
そんな中、2023年でスコアが5ポイント以上増加しているのは「Netflix、Amazonビデオ、Hulu、dアニメストアなどの動画配信サービス」(20.6% ⇒ 27.4%)と「Youtube、TikTok、ニコニコ動画などの動画投稿サイト」(29.1% ⇒ 34.3%)です。
主にサブスク制でアニメや映画が見放題の「動画配信サービス」は、キッズから40代までの幅広い年代で大きくスコアアップしており、コロナ禍の日常生活で大きく存在感が増したことを反映する結果となっています(図表3)。
図表3:性・年齢別2018年vs2023年:「Netflix、Amazonビデオ、Hulu、dアニメストアなどの動画配信サービス」
また誰でも発信者になれる「動画投稿サイト」は、特に男女のティーンから若者層で大きくスコアアップしています。これらの年代にとっての身近な存在として、今後YoutubeやTikTokを通じてヒットする、Vtuberを含めたキャラクターがさらに増加することを予想させる結果と言えるでしょう(図表4)。
図表4:性・年齢別2018年vs2023年:「Youtube、TikTok、ニコニコ動画などの動画投稿サイト」
一方、2023年でスコアが5ポイント以上減少しているのは「コンビニ・スーパーのキャンペーン/飲料・食品などのおまけ・景品」(43.2% ⇒ 36.2%)、「お土産店やお土産コーナー(高速道路のサービスエリアや空港・駅の売店など)」(41.8% ⇒ 36.5%)、「着ぐるみなどのキャラクターが登場するイベント・ショー・テーマパーク」(31.4% ⇒ 26.3%)など、店舗や会場での接点です。
これらについては、コロナ前と比べて外出・訪問頻度が減ったり、キャンペーン自体が少なくなったりしたことによる影響かと思われます。コンビニや土産店などリアル店舗の接点は、男子キッズと男女シニアの減少が大きく、コロナ禍で孫と楽しいお出かけなどの機会が制限された故の結果ではないか、と推察されます(図表5、図表6)。
図表5:性・年齢別2018年vs2023年:「コンビニ・スーパーのキャンペーン/飲料・食品などのおまけ・景品」
図表6:性・年齢別2018年vs2023年:「お土産店やお土産コーナー」
さらにテーマパークやイベント・ショーについても、男子キッズと男性シニアでの減少が大きくなっています。これも同様の心理によるものではないでしょうか(図表7)。
図表7:性・年齢別2018年vs2023年:「着ぐるみなどのキャラクターが登場するイベント・ショー・テーマパーク」
テレビ放送系からのキャラクター接触は軒並み減少
次にかつて娯楽の王様だったテレビ放送系の接点について見てみます。
「地上波のテレビアニメ・特撮番組」(41.8% ⇒ 35.9%)、「地上波のテレビCM」(45.5% ⇒ 35.7%)、「地上波で放送した映画」(37.1% ⇒ 30.5%)、「地上波のニュース、情報ワイド」(26.6% ⇒ 21.6%)、「地上波のドラマ」(23.9% ⇒ 18.6%)など、軒並み減少しています。
これは、自宅にいたとしても、現在放送中、もしくは録画しておいたテレビ番組ではなく、前述したサブスク制動画配信サービスや動画投稿サイトをスマホやテレビ画面を通して視聴する人の増加など、近年の放送番組視聴離れを反映した結果と言えるでしょう。
最近の例として、2023年大晦日にNHK紅白歌合戦の裏で「SnowMan」「ももいろクローバーZ」の年越しカウントダウン番組が配信されて、紅白歌合戦が過去最低の視聴率を記録した件が記憶に新しいです。
なお、地上波のテレビアニメ・特撮番組や映画は、男女キッズや男性若者層など、これまでの支持年代で減少しており、要注意です(図表8、図表9)。
図表8:性・年齢別2018年vs2023年:「地上波のテレビアニメ・特撮番組」
図表9:性・年齢別2018年vs2023年:「地上波で放送した映画」
またテレビCMは殆どの年代で減少しており、存在感の希薄化が深刻です(図表10)。
図表10:性・年齢別2018年vs2023年:「地上波のテレビCM」
SNS疲れ? LINEやSNSによる接触は下降傾向に
今回意外だったのは、2018年と比べてスコアが5ポイント以上減少した接点に「LINEなどのスタンプ」(45.6% ⇒ 40.1%)、「TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSサービス」(36.0% ⇒ 28.3%)が含まれていた点です。
今や一般的なコミュニケーションツールとして普及しているLINEや各種SNSは、他と比べてまだまだスコアが高い重要不可欠な接点ですが、2018年当時の目新しさが薄れて、過剰でフェイクも含まれる情報源としてのネガティブ印象が無視できないレベルに達しています。
SNSに関しては、本来無料のはずのキャラクターノベルティを高値で販売するような、グレーゾーンあるいは違法の業者・個人による過剰な情報発信が、SNS全体の印象を悪くしている様子も見受けられます。今回の結果は、これらの現状が招いた、いわゆる"SNS疲れ"によるのではないか、と推察されます。
LINEなどのスタンプは、男女キッズと男性シニアでスコア下降が大きい一方、女子ティーンと女性若者層ではさらなるスコア上昇を果たしています。性・年代による違いがここまで大きい接点は他になく、今後の推移が注目されます(図表11)。
図表11:性・年齢別2018年vs2023年:「LINEなどのスタンプ」
また、SNSサービスは、男女キッズと男女シニア、そしてSNSメインユーザーと思われた女性20~40代でスコアが下降しており、これらの年代で"SNS疲れ"が増えていることが考えられます。こちらについても、今後の推移を見守るべきでしょう(図表12)。
図表12:性・年齢別2018年vs2023年:「TwitterやFacebook、InstagramなどのSNSサービス」
今回は以上です。コロナ明けが進んだ2024年に、今回各所で見られた傾向が続くのかどうか、現在企画中の新たな定量調査に仮説を反映させる形で、引き続き分析を続けていきます。それでは皆さん、今年もよろしくお願いいたします。
<第2部 バックナンバー>
第19回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(3)
第18回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(2)
第17回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(1)
第16回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(3)
第15回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(2)
第14回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。