2023.12.18

【ミライトーク03】オリジナルIPの開発からひろがる、IPビジネスの可能性とは? ── 講談社メディアカンファレンス 2023

講談社メディアカンファレンス 2023で参加者向けに限定公開された、メディアと広告の現在とミライを読み解くプログラム「ミライトーク」。そのレポートをお届けします。ミライトーク03では、担当編集として『海月姫』『東京タラレバ娘』などの人気マンガに関わり、現在は講談社「IP開発ラボ」を率いる助宗佑美が、エンタメ社会学者としてコンテンツビジネスに関する数々の著書を執筆している中山淳雄さんと「IPビジネスの可能性」をテーマに、トークを展開しました。

(右から)講談社 クリエイターズラボ IP開発ラボ チーム長 助宗佑美、
エンタメ社会学者 Re entertainment代表取締役 中山淳雄さん
講談社 ライツ・メディアビジネス局 メディア開発部 副部長 丸田健介(モデレーター)

「講談社メディアカンファンレンス 2023」は、本プログラムを含め、現在アーカイブ動画を期間限定で公開中です。
動画の詳細・視聴申し込みは、こちらからご覧ください。

出版社が著作権を持つ、新たなカタチ「オリジナルIP」

丸田 本セッションは、「オリジナルIPの開発からひろがる、IPビジネスの可能性とは?」をテーマにお届けします。司会を務める講談社の丸田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

まずは簡単にIP(知的財産)のご説明からさせてください。講談社には、多種多様なマンガ作品があります。こうしたマンガなどの無形のコンテンツ資産をIPと呼びます。本プログラムでは、「IP」のオリジナル開発について、エンタメ社会学者の中山淳雄さんと、弊社の助宗とともにお届けしてまいります。では、はじめにおふたりの自己紹介からお願いします。

中山 中山淳雄と申します。過去にはゲームの海外展開、アニメの音楽コンテンツなどを担当してまいりました。現在はフリーランスの「エンタメ社会学者」という肩書きで活動しております。どうぞよろしくお願いいたします。

助宗 助宗と申します。2006年に講談社に入社し、女性マンガ誌、マンガアプリを経て、新規事業として講談社クリエイターズラボのIP開発ラボ チーム長を務めております。どうぞよろしくお願いいたします。

丸田 いままで講談社でもいろいろな作品をIPとして世の中に出してきました。しかし、助宗さんの「IP開発ラボ」では、原作マンガのあるキャラクターIPではなく、オリジナルでIPをつくろうとしているのですよね。どういう活動をしているのか、ご説明いただけますか?

助宗 はい。IP開発ラボは、「講談社が生み出す世界観(IP)を出版に限らないさまざまな形にコンテンツ化し全世界の人を楽しませる」というミッションで立ち上がった組織です。出版社はこれまで、マンガ家や小説家の出版したいコンテンツをサポートするのが仕事でした。著作権はもちろん著者にあり、著者が物語を生み出す壁打ち相手になったり、その先の出版という流通をお手伝いしたりしてきました。

一方、IP開発ラボでは、独自にIPをつくります。オリジナルIPですから、著作権は著者ではなく、講談社が持つことになります。これまで講談社がやってきた「出版」に限らない形での物語や世界観のコンテンツ化を目指し、YouTubeチャンネルなど、本ではない形でどのようなコンテンツができるのか、いまいろいろ試しているところです。

講談社 クリエイターズラボ IP開発ラボ チーム長 助宗佑美

丸田 これまではIPの権利元は著者で、出版社はその管理でしたが、「IP開発ラボ」では、講談社が著作権を持つIPを独自につくるというところがポイントなのですね。ではさっそく、IP開発ラボでつくったコンテンツのご紹介をお願いします。

IP開発ラボ オリジナルIPの事例『HUNDRED NOTE』

助宗 はい。『HUNDRED NOTE(ハンドレッド ノート)』をご紹介します。

講談社はミステリー作品の認知度が高く、熱量の高い講談社・ミステリーファンがいます。そこで、こうした「講談社・ミステリー好き」さんに注目してもらえるIPをつくろうと、ミステリー要素を入れたIPを新たにつくることにしました。それが今年5月に発表した『HUNDRED NOTE』です。物語の設定は「いまより治安が悪化した20XX年の仮想東京」。100組の探偵チームを登場させ、それぞれのチームがさまざまな事件を解決していくコンテンツです。

まずYouTubeでチャンネルをつくり、それぞれのチームごとのYouTube動画をアップしました。ショート動画や、本格的なミステリーが楽しめる番組など、さまざまなコンテンツを揃えています。ローンチして半年でチャンネル登録数が10万を超えたチーム(※)、100万再生する動画も出ています。

ほかにも、推しの声優と一緒に謎解きを楽しめるイベントもプロデュースしました。これは男性声優による音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。ほかには、グッズの企画販売なども行っています。今後は、『HUNDRED NOTE』のコミカライズも予定しています。

※『HUNDRED NOTE』では、キャラクターごとに制作チームが存在する

講談社発の新規クロスメディアコンテンツ『HUNDRED NOTE』。
人気キャラクターのスネイクピットは、YouTubeチャンネル登録者数およそ22万(2023年12月時点)

丸田 立ち上げ半年で10万登録を超えるチャンネルがすでに複数あり、100万再生を超える動画があるというのは、それだけ注目されているということですね。そもそも、なぜこうしたオリジナルIPをつくろうと思われたのですか?

助宗 女子向けマンガアプリ「Palcy」の編集長をしていた2019年に、「2030年の事業をどう考えるか」という社内のワーキンググループに参加し、2030年の会社のあり方について考えたことがきっかけです。そのとき、中山さんのところにもお話を伺いに行って、中山さんとはそこからのご縁ですよね。

中山 そうでしたね。

助宗 社内では、「エンターテインメントはテクノロジーの変化とセットでもっと体験型になるのではないか」という話や、「メタバースの中でどのようにコンテンツを展開するのか」などの議論を行いました。最終的に、紙や電子で文字にして出版していくのとは違うエンタメの形を模索していくべきだ、という結論になり、講談社でオリジナルのIPをつくる流れができました。

中山 私は、いま助宗さんがおっしゃった対話がきっかけで、IP開発ラボに参加させていただきました。そこから1年以上併走させていただき、『HUNDRED NOTE』のローンチもご一緒させていただきました。

マンガは、打率を気にせず試せる、優秀なシステム

助宗 私が女性マンガ誌を担当していた時も、10作品に1本くらいしかヒット作は生まれませんでした。講談社では1人の編集者が作品を10〜20本担当するのですが、何本も企画を立ち上げ、よかったものを伸ばしてビッグヒットにつなげていくというやり方をしてきました。

それに対して、IP開発ラボでは「みんなで意見を重ねてひとつのものをつくる」というやり方です。こうしたやり方は初めてだったので、とても新鮮に感じています。

中山 私はゲーム業界が長かったのですが、ゲームは新作をつくるのに平均予算が5〜10億円くらいと高額なので5年に1本くらいしか経験ができず、それでいて3〜4割はヒットさせないと、次から声をかけてもらえません。一方出版社は、同時に何本も抱えながら、10作品に1本のヒット、つまり打率1割でいいとは驚きです。経験値も稼げるし、制限もゆるやかで、うらやましい限りです。

丸田 ゲーム業界だと、かける人数もお金も桁が違うので、シビアな部分はありますよね。

中山 そうですね。プロジェクトによっては何百人規模で行うものもあるので、「こうすると5億円の予定が7億円になりますが、これだけ広く売れるようになる」など、徹底した合議制で進めなくてはいけません。それに対し、出版社の場合は、作者と編集者1対1で進むというお話だったので、そもそもの働き方が違うのだなあと思いました。

助宗 たしかに、私が担当編集を務めた東村アキコ先生の『東京タラレバ娘』も累計500万部のヒット作になりましたが、最初から最後まで東村先生と「次の話どうする?」「こういうのはどう?」と、友達のようにLINEで会話しながら2人だけでつくりあげていくやり方でした。

結局、マンガはリソース的なコストも実際のコストも非常に小さいので、何本も立ち上げて打率1割でいいという、特殊な構造ができているのではないかと思います。もっといえば、同時に何本も立ち上げられるからこそ、打率を気にせずいろいろなことを試せる、ある意味優秀なシステムなのかなとも思います。

ポイントは、余白を残した、強固な世界観の構築

丸田 中山さん、一方で、出版社流のコンテンツづくりにおける「弱み」と感じた点はありますか?

中山 そうですね。ゲーム会社やアニメ会社は、最初から何億円かけてと大型にしていくので広げやすいのですが、出版社はゼロからつくりあげていくからこそ、粗い部分が気になり、広げにくいところがあるのかなと思いました。

「こういうキャラクターで、こういう構成にしたらおもしろいから、こういう絵が描ける人に頼もう」ではなく、「そもそも、おもしろいってなんだろう」というところからクリエイターと真摯に向き合って考えるので、広げるスピードがどうしても緩やかになってしまうところはあると思います。

エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役 中山淳雄さん

丸田 出版社はゼロイチを生み出す力は強いけれど、10を100にするようにビジネス展開を広げる力はまだまだ開発の余地があるということですね。それを聞いて助宗さん、いかがですか?

助宗 中山さんに最初に入っていただいた時に、「手元で考えて作り込みすぎる」という鋭いご指摘はいただきました。おっしゃる通り、これまでは、企業とコラボレーションするときも、自分たちで全部つくりこんで完成した世界観を見せるコミュニケーションを取ることが多かったのですが、アドバイスをいただき、これからは余白を残して、かつ強固な世界観をつくれるのかというところをポイントにしたほうがいいのかなと思いました。

ですから、実は『HUNDRED NOTE』は、100人の探偵が登場しますが、内部ではまだ5チームくらいしかできていません。コンテンツが大きくなっていき、ご興味を持ってくださった企業さまとご一緒するときに、「次のチームは御社ブランドの商品を使っているチームにしましょう」など、企業やブランドの世界観を反映させたIPに育てていきたいと考えています。だからこそ「100」と大きく掲げた、というところもあります。

丸田 いろいろな企業さまが入れる「余白」があるということですね。キャラクターとのコラボはこれまでもいろいろやってきましたが、世界観を企業さまと一緒につくっていくという取り組みは、新しいですね。

助宗 そうですね、講談社でもはじめての取り組みだと思います。でもそれでいて、従来からやってきた「ゼロイチ」でもつくっていくというところが、強みだと思っています。

中山 IPには話がおもしろい「ストーリーIP」、キャラクターが立ってくる「キャラクターIP」、そして映画「スター・ウォーズ」シリーズのような「世界観型のIP」の3つがあります。世界観のなかにどういうストーリーがあり、どういうキャラクターがいるか。このバランスが重要です。

今回の『HUNDRED NOTE』は、非常にコンセプトがよかったと思います。講談社だからミステリーで、その世界観に補完して、「このキャラクターはこういうミステリー」「こんなタイプの探偵」と広がりを担保しながら、キャラクターとストーリーを立てるバランスがうまくとれていたのが成功のポイントだと思いました。

助宗 今回最初のショートコンテンツは、あえてミステリーに限定しませんでした。「謎解き」や「1分間クイズ」と垣根を低くして、ユーザーが気楽に見られるようにして、その後、長編と呼ばれるような、YouTubeの本格的ミステリー動画、コミカライズへと徐々に沼にはまっていけるような導線を考えました。

丸田 タッチポイントにあわせて、気軽に参加・楽しめるものから、本格ミステリの世界まで誘導していくということですね。

助宗 そうです。具体的には、コミカライズが登場したときに「このキャラクターがめちゃくちゃいい」と深掘りされて、世界観やキャラクターにさらにはまっていくような展開を想定しています。

オリジナルIPの拡張性を活かし、今後さらにビジネスを拡大

丸田 ありがとうございます。マーケターの方に向けて、上手なオリジナルIPの活用法なども教えていだければと思います。

助宗 新しいチームがプラスできたり、ブランドさんのキャラクターを立てられたりするなど、可変動が高いのは大きな強みだと思います。

それから、マンガの世界では、キャラクターの生い立ちやバックボーンを変えることは非常に難しいですが、オリジナルIPだとグローバルに対応していくために国や地域によってスピーディーに対応していくことも可能です。場所や地域に応じて物語の根幹が変わってもいいですし、主人公の探偵の宗教が変わってもいいと思っています。

中山 ライセンスをもらう企業側だったときは、100出して30くらいしか実現できないので、「キャラクターIPは制限が多い」と感じていました。オリジナルIPの場合は、トレンドに合わせて製品やブランドに合わせたプロモーションも可能ですから、自由でおもしろい展開ができそうですね。まだ100組のうち5組しか決まっていないので、商品販促用のユニットをつくるなど、絶大な効果が狙えると思います。

助宗 ありがとうございます。本プロジェクトに入る前は、マンガという強固なプラットフォームのなかでコンテンツをつくっていたので、「作品がよければみてもらえるだろう」と思っているところがありました。今後は自社のプラットフォーム以外のところでどうコンテンツを展開していくのかも考えていきたいと思います。

それから、今回のプロジェクトでご一緒したみなさまと、作品をどうつくっていくかにも力を入れていきたいと思っています。講談社はクリエイターとのつながり力が強いので、さまざまなクリエイターに声をかけやすい土壌があると考えています。

中山 今回ご一緒させていただいて、講談社さんの持つ、作家の先生方との距離感の近さというか、作家プラットフォームのすごさは本当に感じました。おもしろいものをつくる部分は講談社が担い、どうやったらバズるかという仕掛けの部分では、今回の協業先のPlottのように、TikTokやYouTube動画の専門家に入ってもらうというやり方が今回成功のポイントだと感じました。

助宗 おっしゃる通りです。YouTubeのショート動画では若年層の方々に広くアプローチされましたし、そこに声優さんの声を入れたコンテンツで声優推しの30〜40代ファンを獲得できました。

今後コミカライズして、マンガアプリ「マガポケ」の配信がはじまれば、男性読者も増えてきます。「これは男性誌」「これは少女マンガ」とユーザーが固定でついているメディアで勝負してそのMAX部数を狙っていたのとは違うやり方で、キャラクターIPの開発や、アーティストが楽曲を提供する仮想空間の提供など、世界観を通じていろいろなビジネスを展開していきたいと思っています。

丸田 いろいろな企業のブランドストーリーをイチから一緒につくり、世の中に発信していきましょうということですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

本プログラムのモデレーターを務めた、講談社 ライツ・メディアビジネス局 メディア開発部 副部長 丸田健介

助宗 『HUNDRED NOTE』で非常にいいスタートを切ることができたので、可変度の高いコンテンツとして、企業のみなさまとご一緒できることがあればうれしいです。ぜひお気軽にご相談ください。

中山 ドラマにしても音楽にしても映像にしても、いかにおもしろい人を見つけて、広がるコンテンツをつくれるかという意味で、IP創造は興味深い実験装置だと思っています。いま、マスメディアのディストリビューションが弱く、マンガ以外のコンテンツが盛り上がらない状況です。50年後、100年後の出版社が、本をつくるだけではない「クリエイターに寄り添うコンテンツメーカー」としてさらに花開くかどうかが、IP開発ラボに託されていると感じました。

丸田 本日は貴重なお話をありがとうございました。


【講談社メデイアカンファレンス 2023 ミライトーク03】
オリジナルIPの開発からひろがる、IPビジネスの可能性とは?

登壇者:
・中山 淳雄/エンタメ社会学者 Re entertainment代表取締役
・助宗 佑美/講談社 クリエイターズラボ IP開発ラボ チーム長
・丸田 健介(モデレーター)/講談社 ライツ・メディアビジネス局 メディア開発部 副部長

「講談社メディアカンファンレンス 2023」は、本プログラムを含め、現在アーカイブ動画を期間限定で公開中です。
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