2023.11.30

【ミライトーク01】マーケターとエディターで「コンテンツの共創で生まれる価値」を考える ── 講談社メディアカンファレンス 2023

講談社メディアカンファレンス 2023で参加者向けに限定公開された、メディアと広告の現在とミライを読み解くプログラム「ミライトーク」。そのレポートをお届けします。ミライトーク01では、本イベントのテーマである「コンテンツの共創で生まれる価値」を、どのようにして具現化するのか、ブランド(企業)視点とメディア視点の双方からアプローチを試みました。

(左から)講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 メディア開発部 部長 ⻑崎亘宏、
株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役 ⾳部⼤輔さん、
講談社 mi-mollet編集⻑ 川良 咲⼦

「講談社メディアカンファンレンス 2023」は、本プログラムを含め、現在アーカイブ動画を期間限定で公開中です。
動画の詳細・視聴申し込みは、こちらからご覧ください。

同時に起きている「メディアのブランド化」と「ブランドのメディア化」

長崎 まずは、音部さんが以前から語られている、象徴的なふたつのキーワードをご紹介します。

現在の生活者を取り巻く環境は、ふたつのことが同時に起こっています。ひとつは「メディアのブランド化」、そしてもうひとつは「ブランドのメディア化」です。

「メディアとブランドが共創することで生活者に提供できる価値がある」。そのなかで、マーケターとエディターはどう共創すればよいのでしょうか。音部さんから回答をいただく前に、まずは川良さんから「mi-mollet」がどのようなブランドか簡単にご説明いただけますか?

川良 はい。「mi-mollet」は、2015年にウェブオンリーの媒体としてスタートした、女性向けのウェブマガジンです。主に40代50代の女性が読んでいます。

ファッションや美容を中心に、ライフスタイルの変化における女性の悩みに寄り添った記事を毎日発信しておりまして、読者との絆が非常に深いことが大きな特徴です。読者との距離も近く、濃い読者が多いのも特徴のひとつです。この8月には会員数(※)10万人を超え、月間訪問者数が400万を超えました。主に働いている読者が多い傾向にはありますが、専業主婦の読者も大勢います。
※会員登録すると、「mi-mollet」の記事へのコメント、メールマガジンの受信、限定記事の閲覧などができる

「読者との絆の深さが特徴」と語る、川良

ブランドは名詞。「誰向けのものか」から考える

長崎 川良さん、ありがとうございます。では音部さん、「mi-mollet」を、ブランドとして興味を持ってもらうために、まずは何からすればよいのか、教えてください。

Q.自分たちのメディアにマーケターの方たちへ興味をもってもらうには、どうしたらよいですか?

音部 はい。ブランドというのは名詞なので、まずはそのブランドにどのような意味を付与していくのかを考えるところから始めます。ターゲット消費者とベネフィットを明示することで整理できます。これは簡単に言うと、「誰が、なにを期待するブランドですか」ということです。

いま川良さんがおっしゃったような「40〜50代女性」という定義は、80年代にとても有効だったやり方です。当時は、性年代による同一性が高かったので、たとえば「40代男性」向けとしてベネフィットも訴求の仕方も概ね、ひとくくりにすることができました。しかし、いまは多様性が進んでいるので一概にくくれません。

いま日本には「40〜50代女性」が約1700万人(※)いますので、その中の「mi-mollet」読者10万人は、かなり特別な人たちと考えられます。そこで、"どんな人たちなのか"をあらためて考えていくところから始めることが必要だと思います。
※令和5年度 総務省統計局 人口推計より

長崎 まずは「誰に向けてのものなのか」というターゲットを、年代ではなく、設定するということですね。

音部 そうですね。この10万人、あるいはこの10万人になりそうな人たちは実は50〜60万人いらっしゃるかもしれないので、その人たちを1700万人から区別する設定ができると有効に使いやすいですよね。

そして、ベネフィットです。「役に立つ生活情報を提供する」というのは機能ですが、「それをmi-molletから手に入れることでどんなよいことが起こるのか」を提示することはベネフィットです。

「mi-mollet」のターゲットとベネフィット

長崎 今回、事前にお願いして、川良さんには「mi-mollet」のターゲットとベネフィットを考えてきてもらいました。いかがでしょうか?

川良 mi-molletのターゲットは「悩めるミドルエイジ女性」、ベネフィットは「良質な情報と共感」としました。

良質な情報提供はもちろん必要ですが、体も心もいろいろな悩みを抱える年代においては「私だけじゃない」という共感は非常に重要だと考えています。家族にもママ友にも言えない悩みを抱えている読者のサードプレイスになれているのが「mi-mollet」だと思っています。

音部 ベネフィットは機能と混同されがちですが、いま川良さんがおっしゃった「質のいい情報」というのは、実は「機能」です。これが、「私だけじゃないという孤独感の払拭」「自己肯定感の向上」となればそれはベネフィットです。見分け方は、主語が「mi-mollet」であれば機能、主語が「消費者」「読者」であればベネフィットです。

「mi-mollet」が質のいい情報を提供し、読者はそれを読むことで「私は孤独感を感じない」「私の自己肯定感が上がる」とつながっていくと考えると、「mi-mollet」はとてもよくブランド構築されていると思います。

「mi-mollet」のターゲットとベネフィットについて説明する川良(右)

長崎 そう考えると、「mi-mollet」はどんな読者のためにあるのでしょうか? たとえばビジネスマンにとっての「新聞」みたいな......。

川良 ビジネスマンは上司や取引先との会話のネタとして、新聞を読んでいる人が多くいますが、「mi-mollet」は誰の間にも入っていないのが特徴ではないかと思います。「mi-mollet」で得た情報を誰かに話したいというよりは、体のことやお金こと、親の介護のことなど、誰にも話せないことを「mi-mollet」で話せるという一体感、共有感みたいなところがあるのかなと感じます。

音部 マーケティングに、「無人島で必要か否か」という考え方があります。無人島で1人で生活するのに必要かどうか、という基準に照らし合わせると、多くの人は、過去1年間に購入したものの多くが、「無人島に住んでいたら必要ない」と答えると思います。その点、「mi-mollet」は、他者との間ではなく、「mi-mollet」のほかの読者との間に入っていくものなので、非常に濃厚なコミュニティが形成されていると考えることができます。

17年間の日米P&Gを経て、複数の大手企業のブランド回復を主導。2018年より独立し、現職。現在は、多様なクライアントのマーケティング組織強化やブランド戦略立案を支援する、音部さん

川良 「私がmi-molletを育てている」と思ってくださる読者の方も多くいらっしゃいます。一緒に作っているという共創意識は、とても強いと思います。

音部 すばらしいですね。これは、ブランドを消費者と共有する「co-own」という概念に近いと思います。「mi-mollet」くらい濃い読者になると、「mi-mollet」を「自分のモノ」と感じていらっしゃる方も多いと思いますが、読者のなかで「「mi-molletらしさ」、「mi-mollet像」みたいな部分へのご意見をいただくこともありますか?

川良 人選や記事の内容について、「mi-molletらしさ」の有無について、ご意見をいただくことはあります。

音部 「mi-mollet」のベネフィットが明確になればなるほど、そうしたフィードバックをもらいやすくなるので、そこは大事にされるとすてきです。

川良 編集部でも、「mi-mollet」は編集部のモノではなく読者のモノだと思っていて、一時期お預かりしているくらいの気持ちで大切に育てています。

長崎 「共感・共創」まで意識して、良質なコンテンツをつくっているからこそ、濃厚なコミュニティが生まれるのでしょうね。

愛着を持つファンを増やすことが「ブランドのメディア化」

長崎 では、メディアとしてのゴールが見えたところで、次の質問です。

Q.ブランドのメディア化について教えてください。そこでメディアはどのようなお手伝いができるのでしょうか。

音部 ブランドは使ってもらうだけでなく、愛着をもってもらうことを目指したいと思います。1回買って終わり、というのはブランドにとっても消費者にとってもポジティブではないですよね。

葬儀関連品など、人生で一度しか買わないようなものはブランディングはいらないと言われたりしますが、そうではないものは愛着を持って買ってもらったり、人にすすめてもらったりを目指すべきだと私は思っています。

もしかすると、「うちのブランドはメディア化なんかしていない」とお考えのブランドもあるかもしれません。ですが、愛着を持ってくれているユーザー、消費者がいるというのは、一種の「メディア」です。そして、この愛着を持ってくれているユーザーたちに向けて語りかけられる、という状態が「ブランドのメディア化」といえます。

長崎 製品やサービスすべてのゴールに満足や愛着を目指すことが、ブランドにとってのメディア化ということなのでしょうか。

音部 そうですね。ただし、買ってもらって満足してもらうのではなく、どうやったら満足するために買ってもらうかというところが大事です。加えて、メディアがどうやって読者に自分のメディアを好きになってもらうのかというのも、ブランドにとって大きなヒントになると思います。

川良 「mi-mollet」が目指しているのはまさに、ブランドのよさに"mi-mollet味(mi-molletらしさ"を加えて、「mi-mollet」を媒介に、「mi-mollet」への愛着がブランドへの愛着に移っていくことです。それによって、ブランドのファンが増えたらいいなと考えています。

メディアは共感を、ブランドは満足を届ける

長崎 メディアはコンテンツづくりにおいて共感を目指していき、ブランド側は製品やサービスを通じて満足を目指していく。この共感と満足を共存できることが、メディアとブランドのコラボのポイントになるのでしょうか。

本プログラムのモデレーターを務めた、講談社 ⻑崎

音部 そうですね。"mi-mollet味"と、さきほど川良さんがおっしゃいましたが、愛着と共感を持っている「mi-mollet」が推してくれている、というところが大事だと思います。それができると、「1回試しに買ってみよう」ではなく、満足や愛着、定期的な購入につながるような消費者へのリーチがしやすくなると思います。

長崎 これまでにも、広告主さんとのコラボやタイアップの仕事を受ける時に「ストーリー」という言葉をよく使ってきましたが、いまのように「編集者が共感を作り、ブランドが物質的かつ精神的満足を作る」という役割分担を重ね合わせることで、より確実に相手に届けられるということですね。

ではここで、「mi-mollet」がブランドのメディア化をお手伝いした事例について具体的にお聞きしたいと思います。

ブランドとメディアの共創で生まれた新たな価値
〜トリンプインターナショナルの事例〜

川良 今年行ったトリンプインターナショナルさまとのお取り組みをご紹介します。

トリンプインターナショナルさまは、コロナ禍でテレワークが広がった影響で消費者のブラジャー離れが進んだことに課題を感じていました。そこで、「mi-mollet」にあるミモレ編集室という500人の有料コミュニティ(現在は、会費無料の承認制コミュニティ)内で、どうやったらブラジャーに価値を感じてもらえるかを考えました。

機能面でのメリットは感じられなかったものの、「下着を手洗い」「いいものを着用」など、「自分のために時間とお金を使う」というストーリーにおいては興味を持てるという話し合いがされ、結果として「自分に還る時間」として「ブラジャーをする価値」をブランドからのメッセージとして発信。「mi-mollet」との共創で生まれた新しい価値観を、ブランド発信にお役立ていただくことができました。

「mi-mollet」の読者コミュニティを活用し、ブランドの新しい価値を生み出した、トリンプインターナショナルの事例概要

音部 お互いの強みを活かして価値創造につながった好事例ですね。

私は、ターゲットも読者も明確な雑誌媒体は、レストランだと思っています。ブランドが提供する素材を、そのメディアの風味で料理して媒体読者に届ける。自分たちが自信のあるブランドをつくり、それを「mi-mollet」の読者に届けたいのであれば、「mi-mollet」の読者が好きな味に加工してもらう。これができると、「mi-mollet」の読者としても、むりやり食べさせられた感じがないので、新しい素材も「mi-mollet」風という体験ができますよね。

自分たちのブランドもわかりやすくターゲットを設置して、そこに「mi-mollet」との重複がある。ベネフィットの訴求についても「mi-mollet」との重複がありそうなブランドが共創すると、お互いに価値創造につながりやすいのではないでしょうか。

川良 メディアとの共創で得たメッセージや価値観を、自社ブランドの新たな価値として今後の展開に活用していただけるというのがいいなと思っています。

音部 自分たちがもともと持っていた価値と、「mi-mollet」風味によって生まれた新しい価値を通して、新しいものが見つかる可能性もありますよね。

長崎 単なる情報流通を超えたレストランのような存在だということですね。では、もし音部さんが「mi-mollet」の編集長なら、どのような形でブランドとの共創をされますか?

音部 「co-own(共同所有)」したいので、読者が参加しやすいように、読者の参加を促す機会が多くなると思います。同時に出稿やタイアップするブランドのことも考えるのであれば、三者で共創できるといいですね。

でも、どうせ「mi-mollet」が料理をするならば、企業同士だと連携できないブランドや、複数のブランドを巻き込むと、仲間も増えて、co-creation(共創)しやすくなるかもしれません。

川良 「mi-mollet」は基本的にファッションと美容が強いメディアですが、最近はコミュニティのなかで「短歌部」というのが盛り上がっています。そこに参画していただけるブランドがあったら、おもしろい取り組みができそうです。「mi-mollet」は2025年に10周年を迎えるので、そのタイミングに向けて何かできたらと野望を抱いています。

「共感」と「満足」が合わさることで、愛着が生まれる

長崎 本日のまとめになりますが、メディア側のゴールは「共感」であり、ブランド側のゴールは「満足」。両社が合わさることで愛着を生んでいくということですね。

音部 編集者がついていることが、雑誌のメディアとしての固有性、ユニークさです。主張が明確で、自分たちのターゲット、オーディエンスを理解している編集者と一緒に仕事ができるブランドチームがベストだと思います。

川良 編集者はコンテンツをつくるだけでなく、常に読者のインサイトを考えています。市場についても常に考えてきたところがありますので、ぜひストーリーを一緒につくるご相談ができたらうれしいです。

長崎 本日は、ありがとうございました。


【講談社メデイアカンファレンス 2023 ミライトーク01】
マーケターとエディターで「コンテンツの共創で生まれる価値」を考える

登壇者:
・音部大輔/株式会社クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役
・川良咲子/講談社mi-mollet編集長
・長崎亘宏(モデレーター)/講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 メディア開発部 部長

「講談社メディアカンファンレンス 2023」は、本プログラムを含め、現在アーカイブ動画を期間限定で公開中です。
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