2023.09.20
調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(3)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】
9月2日に日本産業経済学会の全国大会に参加するためJR名古屋駅構内を通りかかったところ、偶然JR東海による推し旅x『五等分の花嫁』の特別展示をみかけました。東海道新幹線車内で聴ける限定ボイスや、愛知・三重の観光コースを巡るデジタルスタンプラリーなどの施策が盛りだくさんでした。
『五等分の花嫁』に出てくる学校などのモデルは愛知県と言われており、熱心なファンの聖地巡礼を意識し、背中を押す企画として興味深いです。
JR名古屋駅構内で筆者撮影(2023年9月2日)
さて、前回は「キャラクター定量調査2023」から、「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性を比較するにあたって、好きなキャラクターの想起タイプ別にファンを4分類しながら以下の分析結果をご紹介しました。
- キャラクターのコアファンは「マンガ系」と「ファンシー系」に分類
- ライトファンは「ご当地・企業キャラ系」と「絵本・ゲーム系」に
- 各キャラクターファンと、タレント・有名人の効果的な組み合わせとは?
今回は、人気タレントとキャラクターの起用に関する検証材料とすべく、想起キャラクタータイプ別にどんな組み合わせが広告・キャンペーンなどの活用効果を発揮するのか、前回に続き定量データを用いて確認します。
好きなマンガキャラに対し誠実さや信頼、憧れを感じている「マンガ系ファン」
最初に、前回ご紹介した想起キャラ4クラスターによる、「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサーとしての効果と可能性を示す計16の質問項目の結果を紹介します。それぞれ、好きなキャラクターやタレント・有名人を思い浮かべてもらった上で、図表1はキャラクター、図表2はタレント・有名人に対して「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」と回答した結果です。
図表1. 想起キャラ4クラスター別:好きなキャラクターのエンドーサーとしての評価
図表2. 想起キャラ4クラスター別:好きなタレント・有名人のエンドーサーとしての評価
(1)キャラクター、タレント・有名人とも、一つ目のエンドーサー因子である知覚的類似性(自分と似ていると感じる)のスコアは全般に低く、有意差もみられません。かたや架空の存在、かたや憧れのスターであるため、どちらも自分とは異なる存在として認識されているということでしょう。その中で、マンガ系ファン(男性が7割以上を占めます)はキャラクターに対して「私のように考える」、ファンシー系ファン(女性が8割近くを占めます)は「私のようだ」と考える人が、タレント・有名人より僅かに多いようです。
(2)タレント・有名人は、全体的に二つ目のエンドーサー因子、希望的識別性(その人のようになりたい)のスコアでキャラクターを大きく上回っています。特にファンシー系ファンを筆頭に、「見習いたい人である」などでタレント・有名人とキャラクターのスコア差が顕著です。ただそのような中、マンガ系ファンでは「私自身がそうなりたいタイプである」などで、キャラクターがタレント・有名人に迫るスコアとなっています。この結果から、マンガ系ファンは好きなマンガの登場人物に対し、現実のタレントに匹敵するレベルで憧れを抱いている様子が窺えます。
(3)タレント・有名人とキャラクターで三つ目の因子、信頼性(知覚的信頼性+専門性)のスコア差が大きい点は、どのクラスターでも共通します。その中でマンガ系ファンは、「誠実である」「信頼に値する」などで示される、キャラクターへの知覚的信頼性に関する評価が相対的に高くなっています。一般的には、スキルや経験の専門性が秀でた歌手・役者・スポーツ選手などのタレント・有名人に、キャラクターは太刀打ちできませんが、マンガ作中に出てくる登場人物の性格・行動に対して情緒的に信頼感や誠実さを抱くマンガ系ファンも多いことを示す結果と言えます。
「ファンシー系ファン」には人物+ファンシーキャラのコラボが有効
図表3は、キャラクターとタレント・有名人で三つのエンドーサー因子スコア(平均0、分散1)の平均値を、想起キャラ4クラスターで比較した結果です。
図表3:想起キャラ4クラスター別:キャラクターとタレント・有名人のエンドーサー因子スコア平均値比較
(1)知覚的類似性(自分と似ていると感じる)は、どの想起キャラタイプもキャラクターとタレント・有名人の因子スコア平均値が共通して低い上に、両者のスコア差は1%水準の分散分析で有意差なしですが、マンガ系ファンとファンシー系ファンでは、キャラクター、タレント・有名人ともに因子スコアが相対的に高めでした。
(2)希望的識別性(その人のようになりたい)は、ファンシー系ファン、ご当地・企業キャラ系ライトファン、絵本・ゲーム系ライトファンで、キャラクターとタレント・有名人の因子スコア差が1%水準以上の分散分析にて有意でした。特にファンシー系ファンでスコア差が顕著な一方、マンガ系ファンでは有意差がみられませんでした。
(3)信頼性(知覚的信頼性+専門性)は、どのクラスターでもキャラクターとタレント・有名人の因子スコア差が1%水準以上の分散分析で有意で、特にファンシー系ではタレント・有名人の因子スコアの高さが圧倒的でした。その中で、マンガ系ファンではキャラクターの因子スコアも相対的に高めです。
前回と今回の分析結果をまとめると、ファンシー系ファンには、憧れの存在で共感できる面も併せ持つ男性アイドルや男女俳優をメインに、ファンシーキャラが共演するキャンペーンやコラボが有効そうです。
マンガキャラの魅力を熱く語れる「お笑い芸人」を使ったコラボも有効
一方、マンガ系ファンには、マンガキャラをメインに、マンガ登場人物の性格・行動に共感し、魅力を熱く語れるスピーカーとしての男性お笑い芸人を使ったキャンペーンやコラボが有効だと考えます。
Van der Waldt, Van Loggerenberg, and Wehmeyer(2009)などの先行研究から、タレント・有名人とキャラクターのエンドーサーとしての可能性を考える際には、魅力的、上品、美しい、セクシー、エレガント、などで構成される魅力(attractiveness)という視点や、キャラクターならではの、情動を刺激するコミュニケーターとしての新たな視点も加えるべきでしょう。今後も研究を続けて、これらを明らかにしていく所存です。
次回は、これまでと少し毛色を変えて、全国47都道府県の魅力度と、キャラクター好き、マンガ原作系キャラ好きとの関係について探ってみます。どうぞお楽しみに。
<第2部 バックナンバー>
第15回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(2)
第14回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。