2023.08.30
動画マーケティングの現在地。その変遷と最新トレンド|「動画マーケティング」2023-2024 成功戦略 Vol.1
「TikTok売れ」によってヒット商品が続々誕生している今、「動画」抜きではマーケティングが成り立たない時代になってきました。とはいえ実際に何をすればいいのか、限られた予算をどこに向ければよいのか、バズる動画は自分たちにも作れるのか......。そんな疑問や悩みを抱える企業・自治体の担当者の方々も多いのではないでしょうか。
そこで、「動画マーケティング」実践講座を連載形式で開講! 年間7,000本の動画制作実績を誇る株式会社サムシングファンのCOO(執行役員)兼ディレクター・山口貴久氏が、動画マーケティングの最新・成功戦略を実例とともに解説します。
YouTubeやTikTokなど、年々勢いを増している動画コンテンツ。2022年度の動画広告市場は、前年比133.2%の5601億円に到達し、2025年には1兆円を突破すると見込まれています。(サイバーエージェント調べ)
動画は、文字や静止画だけのコンテンツに比べて、インパクトがあって情報量も多く、感情に強く働きかけるパワーを持っています。これをうまく活用する"動画マーケティング"は今後、商品やサービスの認知拡大、売り上げ増、さらにファン獲得をはかりたい企業や自治体にとって、必須の施策となります。連載第1回となる今回は、"動画マーケティングの現在地"を知るべく、これまでの変遷と最新トレンドからお届けします。
動画マーケティングとは何か?
──基礎的な話になりますが、動画マーケティングの基本から教えてください。
山口 マーケティングというからには、最終的にモノやサービスが売れなければ意味がないですよね。動画マーケティングの本質とは、動画を有効活用してモノやサービスが"売れる仕組み""ファンが増える仕組み"をつくることにあると思っています。
そして有効活用のためには、まず"選択肢"を知ることが大切ですね。
──どんな選択肢があるのでしょうか。
山口 人がモノやサービスを購入する際、一般的に「認知」→「興味・関心」→「比較・検討」→「購入」、さらに「推奨」という段階を踏みます。そのフェイズごとに、どんな動画をどのプラットフォームで見せるか、そこにさまざまな選択肢が存在しているのです。
【「認知」~「購入」「推奨」までのフェイズ】
たとえば企業がいま動画を使って「認知」を高めたいと思ったら、テレビCMやSNS広告、電車内やタクシー内のビジョン広告、街なかのサイネージ広告、スーパーの陳列棚に設置されたモニターで見せる店頭動画など、幅広い選択肢がありますよね。それらを活用して顧客とのタッチポイントを増やすことで、まずは「認知」を高めていきます。
──そうして商品を「認知」して「興味・関心」を持つと、「購入」を視野に「比較・検討」のフェイズに入ります。
山口 本当に買うべきか、口コミを検索したりしますよね。モノを買おうとするにあたって、公式サイトの商品紹介動画やYouTubeの商品レビュー動画に背中を押される方は多いんじゃないでしょうか。
そして「いい商品だから買おうかな」と通販サイトへいくと、購入ボタンの近くに、使い方の解説動画が置かれていたりしませんか? 誰しも買い物で失敗はしたくないもの。あれは不安を取り除き、納得して「購入」してもらうためのダメ押しの動画です。
──動画を使って、ユーザーに安心感を与えているということですね。
山口 そうです。さらにユーザーにとって、購入で終わりではありません。いい商品だったら、誰かに「推奨」したくなって口コミサイトにコメントしたり、SNSに投稿したりします。最近はここでも動画投稿が増えています。
さらに企業にとって大切なのは、公式YouTubeやSNSアカウントをフォローしてもらって顧客、ファンになってもらうことです。
ここまでを1セットとして、フェイズごとの目的に合わせた動画を作り、最適なプラットフォームで見せること、それが戦略として重要になるのです。
動画マーケの変遷。テレビからWEBサイト、そして動画中心へ
──年々存在感を増している動画マーケティングですが、現在に至るまでの流れを教えてください。
山口 1900年代後半、広告業界をリードしていたのはテレビCMだったと思います。テレビCM動画にはパワーがあるし、集客力や認知力、販売力も極めて高いと信じられていました。
ただ2000年代の初頭頃から、 "物を売る活動"を指すセールス(販売)と、"物が売れる仕組みづくりや戦略"を指すマーケティング(集客・見込み客のフォロー)は分けて考えられるようになっていきます。
──いま2000年代初頭という言葉が出ましたが、2000年前後が、何かひとつの境目になっているのでしょうか。
山口 はい。内閣府の調査によれば、PCの普及率は1990年代前半までは10%台で限られていたのに対して、90年代後半からはどんどん普及率が上昇しました。2001年には過半数を越えて、広く普及しているんですね。それに伴い、注目を浴びたのが、WEBサイトでした。
──WEBサイトはアクセス数などの数字が取れるので、効果測定も容易ですよね。
山口 ええ、そうですね。加えて、他サイトへの誘導や連携がスムーズにできるというメリットもあり、有効なマーケティング戦略を打ち出せるツールとして、プロモーションの中心にWEBサイトを置くようになっていったわけです。テレビCMでも、最後に「続きはWEBで」と誘導を促すパターンを覚えている方も多いはずです。
この先、長期的にWEBサイトが広告業界を牽引していくのかと思われていましたが、2011年~2014年頃にかけてスマートフォンが急速に普及した事で流れが一気に変わります。
──スマートフォンと、その後の通信インフラの発展が、動画を見ることが当たり前の時代をもたらした、ということでしょうか。
山口 ええ、通信規格が3Gから4Gへと発展したことで、スマートフォンでいつでもどこでも、ストレスなく動画の視聴ができるようになっていったんです。
それ以降、動画マーケティングの主戦場はスマートフォンになります。そしてそこには、TwitterやInstagram、TikTokといったSNSを介した"バズ"が大きく影響しています。
ちょっと横道ですが、バズについてもお話しします。たとえば2013年、女子高生が人気格闘ゲーム「ストリートファイター」の技の一つである『波動拳』を使った瞬間の「吹っ飛び画像」をSNSに投稿しました。これは動画ではないのですが、世界的に大きな話題になり、マネする人が続出しました。
──はい、それは私も覚えています。あの頃が、バズの始まりだったんですね。
山口 その後、2014~2015年には、サントリーの「忍者女子高生」や宮崎県小林市の「移住促進動画」などが公開され、これらはSNSでもかなりシェアされました。この辺りから動画もバズる時代に突入していきます。
「宮崎県小林市 移住促進PRムービー "ンダモシタン小林"」小林市公式チャンネルより
──動画のプラットフォーム、YouTubeについては、いかがですか?
山口 まさにバズの流れと同時進行でYouTubeが台頭しました。さらに、YouTubeに動画コンテンツを置くことで、オウンドメディアとして活用できるということに気づく企業が出てきます。
──たとえば、どんなケースがあったのでしょうか。
山口 成功例としては、エナジードリンクで知られるRed Bullがあげられます。彼らのYouTubeチャンネルでは、支援しているスケートボードやBMXといったエクストリームスポーツの動画を中心に配信し、現在までに1200万人を超えるチャンネル登録者数を獲得。自社のブランドイメージの向上に成功しました。
国内では、自社の想いやブランドストーリーを動画でわかりやすく伝えることで好評を得た、トヨタの「トヨタイムズ」も一例です。
──いまや、生活の身近なところに動画が当たり前にある時代になりました。動画でのコミュニケーションが生活者に寄り添っているわけですね。
山口 ええ、そしてプロモーションの中心に動画が置かれる流れも、加速していったんです。
動画でバズらせるための最新トレンドは「短尺」「縦型」
──YouTubeを始めとする動画SNSの変遷や昨今の傾向を教えてください。
山口 2013年頃にまずはYouTubeが盛り上がりを見せ、その後2015年にTwitterが30秒の動画を配信できるサービスを実装しました。2017年にはTikTokが日本でもサービスをローンチ。動画市場の活発化をいよいよ無視できなくなった写真投稿アプリのInstagramも2020年に、15秒から最大90秒の動画を共有できるリール機能を追加します。
いまや動画マーケティングの主戦場はスマートフォンで、とくに近年、動画市場を盛り上げているのはやはりTikTokですね。
──動画の長さ、尺も移り変わっていませんか?
山口 そうですね。5~10年前は、バズる動画といえばおもにYouTubeで再生される長尺の「泣ける系」「感動系」が中心でした。
「サイボウズ ワークスタイルムービー「大丈夫」 イラストアニメバージョン」サイボウズ公式チャンネルより
でもいまは「短尺」で、わかりやすい動画が第一。TikTokを使っている人はわかると思いますが、雑誌をめくる感覚で動画を見ていきますよね。バズらせたいなら、あの感覚を活かせる10~30秒、長くても1分前後のショート動画で、ひと目で内容がわかってインパクトのあるものを作ることがカギになります。
──動画の画角も「横」から「縦」へと移り変わってきています。これもスマートフォンの影響ですよね。
山口 その通りです。テレビやPCで視聴しやすい従来の横型動画に対して、縦型動画はスマートフォンでの視聴に最適化されています。スマホを縦に持ったまま、画面いっぱいに動画が広がるため、奥行きや迫力を感じる方が多いのではないでしょうか。
動画マーケティングにおいて、強く求められるポイントは"見た人の心を動かせるかどうか"です。その点、視覚的に大きなインパクトが残せる縦型動画は、今後も増えていくと思います。
動画マーケティングと"テレビショッピング"、違いはどこに?
──ここでちょっと視点を変えて、別角度からの質問です。そもそも動画マーケティングが隆盛になっている、その原点はなんなのでしょうか。
山口 私は、テレビショッピングとも呼ばれる通販番組ではないかなと思っています。テレビショッピングは、画面のなかにいる人が視聴者に語りかけることによって購買を促す、現在も変わらず需要がある動画コンテンツです。
最初にYouTubeを見たときに、YouTuberが画面の中で一人、視聴者側に向けてしゃべりながらどんどん話を進めていく様子に「なんか見たことあるぞ」と、既視感を覚えた方もいるのではないでしょうか。彼らが製品について語る動画を見ているうちに、気づいたら購入ボタンを押していた......なんて経験は、まさに通販番組的ですよね。
こういうことがいまYouTubeに限らず、TikTokやInstagram、Twitterなどを介して起こっているわけです。
──では、そのような動画コンテンツとテレビショッピングは、どこがどう違うのでしょうか。
山口 まず、発信する側のスタンスが大きく違います。テレビショッピングは、当然ながら企業が物やサービスを販売するためにおこなっているものなので、商品のいいところばかりを伝えるわけです。それに対してYouTuberやインスタグラマー、ライバーたちは一個人の感想として語れるので、メリット以外の部分も伝えることができます。また、彼らは自らの顔を出して好きな物事を伝えることを生業にしているので、視聴者側も信頼性を感じるのだと思います。
──動画コンテンツとテレビショッピングではデバイス自体も違いますが、視聴する側の感じ方、受け取り方にも影響があると感じますか。
山口 あると思います。第一に受け身で情報を得るテレビに対して、スマートフォンやパソコンは能動的に情報を探しにいくツールです。自らアクションして、探しに行った先で自分の好きな物に出会える、この点は大きいですよね。
加えて、動画コンテンツを見ている人の多くがスマートフォンを使っていると思うのですが、YouTuberやライバーなど、インフルエンサーたちがまるで自分に一対一で語りかけてくるような没入感がありますよね。この点も重要な違いだと思います。
インフルエンサーは果たしてクリエイターか、ビジネスマンか?
──動画コンテンツの活性化には、「インフルエンサー」という存在が大きい印象があります。
山口 ええ、そうですね。彼らはコンテンツを作れるクリエイターです。一方でモノやサービスを売る力のある"商売人"でもあり、両者の境目はほぼないと感じています。
さらに、日本はいまスマートフォンを1台持ってさえいれば、すぐにでもクリエイターになれる、1億総クリエイター時代になってきたと感じています。スマートフォンがあれば動画や画像の撮影・編集ができるのはもちろん、イラストを描いたり、ゲームやアプリを開発することだって可能です。
──そして作ったものを国内外に広く発表することも、スマートフォンから簡単にできますね。
山口 そうです。最近、 "クリエイターエコノミー"という言葉をよく聞くようになりましたが、これはおもに個人のクリエイターによる創作活動や情報発信によって形成される"経済圏"を指します。
近年、SNSで大きな発信力を持つインフルエンサーと連携して、商品やサービスのPRを展開するインフルエンサーマーケティングのニーズも高まっています。それに比例して、クリエイターエコノミーも拡大。彼らが生み出すクリエイティブへの関心は年々高まりを見せています。
インフルエンサーが自らブランドを手がけたり、商品をプロデュースすることも当たり前のようにおこなわれています。もう企業だけが物を売る時代ではないんですよね。
──そのような状況のなか、物を売りたい企業はどんな戦略をとっているのでしょうか。
山口 たとえばニトリの取り組みがおもしろいです。自社の販売スタッフがライバーとなって製品を紹介する「ニトリLIVE」というライブ配信を毎週おこなっているのですが、「Tig LIVE」というライブコマースサービスをうまく活用しています。
Tig LIVEは、リアルタイムでユーザーの画面上に商品の詳細を表示し、シームレスで購入ページへ遷移させられます。
──ユーザーにとっても、別のサイトに飛ばされることがないので、ストレスが少なそうです。
山口 ユーザーと配信側の双方にメリットがあるサービスだと言えますね。その利便性の高さからViViやVoCEもタイアップに使っています。
ViViタイアップ「Tig LIVE」活用例
VoCEタイアップ 「TIG」活用例
動画マーケティングを成功へ導くために...
──あらためて、これから動画マーケティングに力を入れたい企業や自治体は、どういったところから始めればいいでしょうか。
山口 冒頭でお話しした通り、動画マーケティングには認知から購入まで一連の流れがあり、そのなかで動画を活用するポイントは多岐にわたります。当然ながら、ヤミクモに展開しても思ったような効果は得られません。
動画が当たり前の時代になったからこそ、問われるのは戦略です。テーマやシナリオはもちろん、出演者が誰か、自社で完結できるのか外注するか、縦なのか横なのか、尺は何秒にすべきなのか、どんなタイミングでどのプラットフォームから配信していくのか......。目的やターゲットに合わせて、ディテールまで戦略を練り上げることが求められています。
次回以降、その具体策をお話ししていきたいと思います。
【「動画マーケティング」2023-2024成功戦略 シリーズ記事】
株式会社サムシングファン
COO(執行役員)・ディレクター 山口 貴久
ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業後、映像制作全般に携わる。撮影技術、制作、ディレクションなどで活躍しながら自主映画を制作。2013年に脚本を担当した映画がPFF:ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞・日活賞W受賞、2014年にIFFR:ロッテルダム国際映画祭に招待。以降も脚本執筆を続けている。2013年、サムシングファンに入社し現在は動画DX事業の執行役員。