2023.08.18
調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(2)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】
8月6日に、今年で第44回を迎えた鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)決勝に行ってきました。ピットウォークでは、くまモン、アルクマなど、地元チームを応援するご当地キャラや、スマホアプリやアニメで知られる「アズールレーン」とのコラボで人気コスプレイヤーの尊みを感じて桜井などがレースクイーンとして登場して、現場を盛り上げていました。
1983年から1991年まで週刊少年マガジンにて連載された「バリバリ伝説」で、巨摩郡と聖秀吉がサポートレースの鈴鹿4耐で優勝するエピソードの影響もあり、当時の若者にとって鈴鹿8耐は特別なレースでした。その世代の元ライダーとして、バイクブームが最高潮だった1990年の大会期間延べ入場者数36万8,500人から、今年は4万2,000人(主催者発表)と大幅に減ったままなのは残念です。行列や渋滞が減って、観戦する側としては快適になりましたが。
前回は、「キャラクター定量調査2023」から、「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性を比較した、以下の分析結果をご紹介しました。
- 憧れの存在としての「タレント」、自分と似ていて信頼性・専門性を持つ「インフルエンサー」
- 憧れと信頼性・専門性の点でタレントの評価はキャラクターを上回る
- 男性ミドルと女子ティーンが「自分と似ている」と感じるのは、タレントよりキャラクター
前回紹介したのは「キャラクター」を一括りにした分析結果でしたが、当連載の第9回や第10回でご紹介したように「マンガ原作系」「ファンシー系」など、好きなキャラクターとして自由想起された"タイプ"によって、性・年齢やキャラクターに求める体験は大きく異なります。これは「タレント・有名人」についても同様で、「アイドル系」「バラエティ系」などのタイプがあります。
その人気タレントとキャラクターを両方を企業の広告・プロモーションで用いる際には、互いの強みを活かす組み合わせを考える必要がありますが、その方法論については今も勘と経験に頼っているのが現状です。
そこで今回は、どんなタイプのキャラクターやタレントが好意を持たれているのか、そしてどんな組み合わせが広告・キャンペーンなどで効果を発揮するのか、最新データを用いて確認してみます。
キャラクターのコアファンは「マンガ系」と「ファンシー系」に分類
最初に、2023年2月~3月に実施した「キャラクター定量調査2023」の調査対象サンプルごとに、好きなキャラクターの純粋想起内容(好きな順に3つまで記入)を分析しました。
キャラクターが「マンガ原作系」「絵本・ゲーム等原作系」「オリジナル系」「ファンシー系」「企業キャラ」「ご当地キャラ」の各タイプに該当した場合はそれぞれ「1」、非該当・無記入の場合は「0」と分類し、上記6タイプそれぞれについて最小値0から最大値3までの整数値データを作成して、k-means法による非階層クラスター分析を行いました。その結果、算出されたのが以下の4クラスターです。
・マンガ系ファン
出現率24.8%。平均想起キャラクター数は2.18で、殆どがマンガ原作系(図表1)。男性が7割近くを占め、特に多いのは男子園児から49歳。女性は中学生から34歳が比較的多い(図表2)。キャラクター好意度は58.2%で2番目に高い。可処分所得平均月額は32,973円で、最も多い(図表3)。
・ファンシー系ファン
出現率29.4%。平均想起キャラクター数は2.17で、殆どがファンシー系(図表1)。女性が8割近くを占め、特に多いのは女子園児から34歳。男性はどの年代も少なく、平均年齢が最も低い(図表2)。キャラクター好意度は65.7%で最も高い。可処分所得平均月額は29,158円で、男女3~74歳全体とほぼ同じ(図表3)。
・ご当地・企業キャラ系ライトファン
出現率7.0%で最も少ない。平均想起キャラクター数は2.14で、その多くがご当地キャラ。企業キャラも相対的に多め(図表1)。男女50-74歳が合わせて約半数と突出して多い一方、男女園児・小学生からティーン、女性20-34歳が少なく、平均年齢が特に高い(図表2)。キャラクター好意度は50.0%で、やや低め。可処分所得平均月額は31,957円で多め(図表3)。
・絵本・ゲーム系ライトファン
出現率38.9%で最も多い。平均想起キャラクター数は1.22と少なく、相対的には絵本・ゲーム等原作系が多め(図表1)。男子園児・小学生が特に多く、男性50-74歳も多い。女性は全般に少ない(図表2)。キャラクター好意度は46.5%で最も低い。可処分所得平均月額は26,973円で、最も少ない(図表3)。
図表1. 想起キャラ4クラスターのキャラクタータイプ別純粋想起平均回答数
図表2. 想起キャラ4クラスター別:性・年齢構成
図表3. 想起キャラ4クラスターのバブルチャート(キャラ全般好意度、可処分所得)
ライトファンは「ご当地・企業キャラ系」と「絵本・ゲーム系」に
2023年調査データを用いたこのクラスター分類を2021年と比べると、キャラクター全般への好意度が低めのライトファン層で大きな変化がありました。
それは、出現率が少ないながらもご当地キャラや企業キャラが好きなシニアが多くを占めて可処分所得が多めの「ご当地・企業キャラ系ライトファン」が抽出されたことと、明らかな無関心層が消えて、キッズ男子とシニア男性が多い「絵本・ゲーム系ライトファン」に代わったことです。後者は、祖父と孫の組み合わせで構成される層ではないかと推察されます。
図表4は、想起キャラ4クラスター別の純粋想起による「好きなキャラクター」ランキングです。各クラスターで、好きなキャラクターの性質が異なることが一目瞭然です。
図表4:想起キャラ4クラスター別:純粋想起による「好きなキャラクター」ランキング
マンガ系ファンでは人気マンガ作品が、ファンシー系ファンでは人気ファンシー系キャラが、ご当地・企業キャラ系ライトファンではご当地キャラが、絵本・ゲーム系ライトファンでは絵本やゲーム系のキャラが、それぞれランキング上位をほぼ独占しています。ちなみに、どのクラスターでも共通して上位にあがっているキャラは、スヌーピーやドラえもんなどごく一部です。
各キャラクターファンと、タレント・有名人の効果的な組み合わせとは?
図表5は、想起キャラ4クラスターによる、タレント・有名人タイプ別の純粋想起平均回答数です。ここでは、比較的想起数が多かった男女アイドル、男女俳優、男性お笑い芸人、バラエティ系有名人(よくバラエティ番組に出てくる芸人以外のタレント)についてのみ記載し、想起数が少なかった男女歌手・ミュージシャンや女性お笑い芸人、声優・アニメ歌手、YouTuber、スポーツ選手、韓流アイドル・歌手・俳優、海外歌手・俳優・スポーツ選手は除外しています。
図表5. 想起キャラ4クラスターのタレント・有名人タイプ別純粋想起平均回答数
ここで以下の傾向が明らかになりました。
・マンガ系ファン
平均想起タレント・有名人数は1.62で多い。「男性お笑い芸人」の想起数が突出して多い。
・ファンシー系ファン
平均想起タレント・有名人数は1.54でやや多い。「男性アイドル」の想起数が最も多く、「男女俳優」の想起数も多め。「男性お笑い芸人」の想起数は相対的に少なめ。
・ご当地・企業キャラ系ライトファン
平均想起タレント・有名人数は1.74で最も多い。「男性お笑い芸人」の想起数が特に多く、「男女俳優」や「バラエティ系有名人」の想起数も多め。
・絵本・ゲーム系ライトファン
平均想起タレント・有名人数は1.06で最も少ない。このクラスターで最も多かった「男性お笑い芸人」も、他クラスターと比べると少ない。
「男性お笑い芸人」が、ファンシー系ファン以外の各クラスターで共通して最も想起される万人受けしやすい存在であること、「男性アイドル」はファンシー系ファンに深く刺さっていること、相対的にどのタレント・有名人も、絵本・ゲーム系ライトファンにとっては印象が希薄なことが確認されました。
図表6は、想起キャラ4クラスター別の純粋想起による「好きなタレント・有名人」ランキングです。キャラクターほどには違いが明確でありませんが、マンガ系ファンでは「男性お笑い芸人」、ファンシー系ファンでは「男性アイドル」や「男女俳優」、ご当地・企業キャラ系ライトファンでは「男性お笑い芸人」や「バラエティ系有名人」など、各クラスターで好きなタレント・有名人の顔触れが異なることがわかります。
図表6. 想起キャラ4クラスター別:純粋想起による「好きなタレント・有名人」ランキング
以上の結果から、マンガ系作品をそれ自体のPRおよび企業・商品の広告キャンペーンに用いる際には男性お笑い芸人、ファンシー系キャラを企業・商品の広告キャンペーンに用いる際には男性アイドルや男女俳優、ご当地キャラや企業キャラを広告・広報キャンペーンに用いる際には男性お笑い芸人やバラエティ系有名人を共演させることが、重複したファンに対する印象を強化して、高い活用効果を発揮する組み合わせになりそうです。
次回は、今回紹介した想起キャラ4クラスターごとに、前回に続いて「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサーとしての効果と可能性を比較した分析結果をご紹介します。どうぞお楽しみに。
<第2部 バックナンバー>
第14回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。