2023.08.25

バズコンテンツはアップデートし続けた「編集力」から生まれる|心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント vol.04

Z世代のリアルタイトル画像

次世代の価値観を象徴する存在として、マーケターの間で注目される「Z世代」。彼ら、彼女らの心に刺さるバズコンテンツを作るべく、さまざまな分析や考察に目を通しているものの、なかなか成功には至れないことで悩んでいる方も少なくないだろう。

そんな悩みを解決するべく、本シリーズでは、Z世代をメインターゲットとする女性誌ViViのネット版「NET ViVi」で編集長を務める講談社の平本哲也氏に、C-stationでさまざまな連載を手がけた宿木雪樹氏がインタビューし、Z世代の実像に迫っていく。第4回は、「NET ViVi」のバズコンテンツを事例に挙げつつ、Z世代マインドの心に届くコンテンツづくりの肝について平本氏に聞いた。

Z世代が求め、話題にするコンテンツとは

前回の記事では、Z世代の内面性に焦点をあて、彼らが本質的に求めているものは何なのか考察した。

自身の内面を磨くこと、理解することに関心を持つZ世代は、自らの強みや特性を分類し、適切な選択を示してくれるコンテンツに惹かれる傾向があり、それが昨今の診断系ツールのヒットにもつながっている。

また、モデルやインフルエンサーを、自らの理想を重ねる対象として捉えるため、メイクのプロセスをつぶさに見せるライブ配信や、日常に活かしやすいTipsなどのコンテンツは受け入れられやすい。これもまた、「NET ViVi」の編集チームが意識してコンテンツづくりに取り入れているポイントだという。

Z世代の「スルーする」スキルの高さについては本連載でもたびたび挙げてきた。「自分にとって価値があるもの」、すなわち上記に挙げたような「真似できる部分」や「自分を磨くのに役立つ情報」以外はスルーされがちであることが、コンテンツを作るうえで意識すべきポイントとなる。彼ら、彼女らは自分から程遠いものは話題にすらしないのだ。

Z世代を中心とした波及効果を期待するマーケターであれば、バズコンテンツやトレンドワードの創出をめざす機会も少なくないだろう。彼らがシェアしたくなるコンテンツを作るうえで、こうした根底にある意識を無視することはできない。

さて、今回はこういったZ世代の内面性を踏まえたうえで、どのようなコンテンツが"バズる"のかを紐解いていこう。平本氏がコンテンツづくりで意識していることや、「NET ViVi」の実際の発信における成功事例をもとに、バズコンテンツをつくるうえで重要なポイントを解説していく。

「おもしろいものを作るほかない」一貫したViVi編集チームのこだわり

まず、「NET ViVi」の編集長を務める平本氏が、コンテンツを作るうえで心がけていることを訊いてみよう。特にSNSにおいて強い発信力を持つ「NET ViVi」だが、その根底にある想いは実は10年前から変わらない、と平本氏は話を進める。

「SNSで運用するのだから、と作り手側の考え方をがらりと変えるような意識はありません。もちろん、小手先のテクニックはいろいろと挙げられます。たとえば、動画ならば短尺がいい、ハッシュタグはいくつもつけよう、顔に寄った写真を扉(サムネイル)にしよう......。こういった工夫はいくらでも重ねられるのですが、結局そのコンテンツの波及力は『Z世代にとっておもしろいものを作れるかどうか』にかかっているんですね。

そこを作るには、やはり編集力が必要不可欠です。私自身、Z世代と触れ合うなかで、編集者として成長しなければという気持ちをいっそう強く持ちました」

NetViVi平本編集長写真

NET ViVi 平本編集長

編集力。このスキルは、昨今マーケティング業界に限らず、あらゆる業界で言及されるトレンドワードとも言えるだろう。出版やメディア発信に関わる人間の専門スキルと捉えられてきた"編集"という概念は、数年前からビジネス全体で求められるスキルとして注目されつつある。

最近は編集力を磨くことをテーマとしたビジネス系の書籍や、有識者のウェビナーなども頻度高く目にする。一方で、この編集力がいったい何であるかという定義はさまざまだ。平本氏が示す編集力とは、どのようなスキルなのだろう。

「ユーザーにとって何が"いい"のか、そのためにどう"おもしろく"するのか、といった問いを掘り下げることが、編集力を高めるうえで重要だと感じています。

ViViで成功したコンテンツの一例として、『国宝級イケメンランキング』というヒット企画があります。今では看板とも言えるコンテンツですが、『イケメンがいい』ということに飛びついて、とりあえず男性アーティストを起用した類似のコンテンツを作っても、実はなかなか数字がついてこなかったりします。イケメンの方を起用した上で、おもしろいことをする必要があるんですね。

では、その次にくる「おもしろさ」とは何なのか。その問いについて考えるきっかけの一つとなるのが、この連載の第2回で触れた"胸きゅんポイント"です。

私たちの場合は媒体のターゲットやコンセプトに合う"胸きゅん"という言葉を用いていますが、どんな勝負ポイントを作るかはその媒体によって異なるでしょう。とにかく、自社の発信したいメッセージやターゲットに沿った勝負ポイントを明確に作ること。そこで編集力を発揮することが、とても大切なんです」

国宝級イケメンランキングページ

2023年上半期の「国宝級イケメン」企画は、総投票数62万票超えを達成

「NET ViVi」の編集チームは、Z世代当事者であるメンバーの意見や感性を全面的に活かしつつ、コンテンツの顔となるモデルやタレントが"かわいい"と思える一瞬、"胸きゅん"できる神ビジュアルを狙い撃つ。

そこに対する妥協をせず、制作チーム一丸となって"胸きゅん"を追求する姿勢が、コンテンツの波及力を支えているのだ。この飽くなき地道な追求こそが、編集力につながっているのだろう。では、その編集力が活かされた成功事例に触れていこう。

世界観を伝える発信で、Z世代の心を動かす

まずはこの約20秒の動画を見てほしい。イヴ・サンローランのルージュを訴求するタイアップ企画としてViVi公式TikTokアカウントから発信された本動画は、実に多くの反響を呼び、コメント数やシェア数も伸びている。

ViViオフィシャルTikTokより

平本氏はこの動画の成功要因について、先ほど挙げた"胸きゅんポイント"と重ねながら振り返る。

「このタイアップが成功した一番の要因は、"かわいさ"や"胸きゅんポイント"にこだわりきれるよう、クライアント側がこの動画制作をすべて私たちに託してくれたことだと思います。

化粧品のプロモーション動画では、もっと商品をよく見せてほしい、顔に寄ったシーンを増やしてほしい、といった指示を企業側からいただくことは珍しくありません。髪に意識がいくとよくないからモデルの髪型をシンプルにしてほしい、というケースもよくあります。

しかし、『もしも顔だけを映していたら、この動画は面白いだろうか』という観点や、『そもそもかわいいと思わなければ、商品すら見られないのでは』という疑問を持たなければ、ユーザーの心を動かすコンテンツは生まれないのが現実です。

私たちの視点に共感していただき、コンテンツ制作を全面的に任せていただけたからこそ、世界観を伝える全身のカットも取り入れることができ、最終的にZ世代が"かわいい"と思う動画を作ることに成功できたのかなと思います」

Z世代の目を意識し、"かわいい"や"胸きゅんポイント"を追求してきたからこそ培ってきた編集力。これがいかんなく発揮されたコンテンツは、しっかりと彼らの心に届いていることがわかる。

一方で、必ずしもすべての企画がうまくいくわけではない。マーケターだからこそ陥りやすい落とし穴についても、平本氏は続けて教えてくれた。

「マーケターの観点では、『この商品はこういうニーズに刺さる商品だから、このようなライフスタイルを送っているユーザーに届けたい』といった戦略を細かに描かれることが多いですよね。また、昨今話題のトレンドに便乗するコンテンツにも惹かれがちです。それがマーケティングの基本なのだと理解していますし、こちらが学ばせてもらうことも多くあります。

ただ、日々SNS運用を通して身にしみるのが、そのすべてをコンテンツに集約したからといって、バズコンテンツになるとは限らない、ということです。マーケターが狙った意図を出せば出すほど、先ほど挙げたような世界観や勝負ポイントへのこだわりがぼやけてしまったり、本来Z世代が惹かれるメッセージを打ち出せないケースもあります」

詳細なペルソナやカスタマージャーニーを描き、それに沿ったコンテンツの企画を緻密に立てているマーケターの方は、平本氏の言及に"ひやり"とするのではないだろうか。ニーズの多様化が進む現代社会においてユーザーのプロファイリングは一層重視されているが、一方で、そういった戦略とは異なる次元のこだわりがユーザーの心を動かすことも事実だ。

例えば、「癒やし」を提供する女性向けの商品を、残業で疲れきったOLが帰り道で購入するものと決めつける必要はない。PR動画でそのイメージ通りのシーンを盛り込んだり、「疲れた」とタレントに言わせたりするのが正解とは言い切れないのだ。

熟練のクリエイターの感性と編集力を信頼して勝負ポイントを預ける姿勢も、マーケティングの成功には必要なのかもしれない。

知らないことを受け入れ、自らの価値観をアップデートし続ける

さて、企業コラボレーションの成功事例をもとに、どのような発信がZ世代の心を動かすのか考察していった。これを踏まえて、改めてZ世代に情報を届けるひとりの担当者が、日々どのような意識をもってコンテンツづくりについて考えていくべきか、平本氏に訊ねた。

「やっぱり、いろんなものを見ることってすごく大切ですね。あとは、知ったかぶりしないこと。私は日ごろから若い世代の方々と話す機会があり、『これ知ってます?』と最近の流行について教えてもらうこともよくあるのですが、それを『知らない』と素直に言えなくなったら終わりだな、といつも思っています(笑)。『知らない』と言えれば、彼らはネット上で拾えないトレンドについて教えてくれます。

年齢を重ねるにつれて新しいものを受け入れたり、咀嚼したりすることが難しくなっていくのは当事者としてよくわかります。それでもなお、自分の知らないものを受け入れて、日々情報や価値観をアップデートしていける人って、それだけで魅力的ですよね。そういう姿勢を忘れないでいることが、今回挙げたような成功事例を作っていくうえでとても重要なことだと思います」

自分の知らないことを受け入れ、新しい世代の価値観を取り入れる。そのようにして培った編集力で、彼らにフィットするクリエイティブを追求し続ける。あるいは、その編集力をもつ信頼できるメディアとタッグを組み、信頼のもとコンテンツづくりを任せきる。こういった意識が、Z世代に情報を届けていく立場の人間には必要なのだろう。


さて、いよいよ次回は連載最終回となる。これまでZ世代をテーマに、平本氏が彼らに対して感じてきたこと、そしてそれをもとにコンテンツをどのように変えてきたかについて語ってきてもらった。ここまで読んでくださったマーケターの方は、Z世代の「つかみどころのなさ」の本質について、解像度を高められたのではないだろうか。

最終回では、"ネクスト"に思いを馳せる。Z世代が消費行動をけん引する世代になった社会、そしてZ世代の次にくる世代。未来を軸に平本氏の見解を聞きつつ、今後マーケターはどのような姿勢で彼らと向き合い、どんな発信をしていくべきか、共に考えていこう。

【心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント シリーズ記事】

【講談社C-stationのZ世代関連記事】

聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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