2023.07.25

内面重視のZ世代は、コンテンツに「私」を求めている|心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント vol.03

Z世代のリアルタイトル画像

次世代の消費行動やライフスタイルを体現する存在として注目を集める「Z世代」。テクノロジーの発展やコロナ禍によって時代が大きく揺り動かされ、世代ごとの価値観に深い乖離が生じつつある昨今、Z世代を深く理解することはマーケティング施策の確度を高めるための重要課題と言えるだろう。

本シリーズでは、Z世代をメインターゲットとする女性誌ViViのネット版「NET ViVi」で編集長を務める講談社の平本哲也氏に、C-stationでさまざまな連載を手がけた宿木雪樹氏がインタビューし、Z世代の実像に迫っていく。第3回の今回は、Z世代と直接対話する機会の多い平本氏のエピソードと考察をもとに、Z世代マインドの本質を紐解いていく。

"外"ではなく"内"に向かうZ世代の関心

まずこれまでの流れを振り返ろう。前回は「NET ViVi」で話題を呼んだ企画を事例に挙げ、Z世代の心をつかむコンテンツづくりについて考察した。

  • 企画=固定概念にとらわれないこと
  • ビジュアル="胸きゅんポイント"を作ること
  • コンテンツ=リアルで実用性のある内容にこだわること

「NET ViVi」の編集長を務める平本氏から得られたコンテンツづくりのポイントは、明日からでも役立てられる実践的なものばかりだ。一方で、このポイントを単なるテクニックとして消化してしまうと、期待する成果にはつながらない。今回は「なぜ」の部分を埋めるZ世代の考え方や視点について理解を深めたい。

平本氏は、仕事の現場でZ世代とコミュニケーションを取る機会が多い。日ごろの会話を通じて発見した彼ら、彼女らの視点や考え方を企画に反映することで、「NET ViVi」のコンテンツの精度を高めているのだという。

Z世代との対話から感じ取ったことと、それがコンテンツに与えた影響。この2つを軸に平本氏の体験談を聞いていこう。まず掘り下げていくのは、扱うコンテンツのジャンルだ。

「ViViはファッション誌に分類されますが、最近は『ファッション誌ではないのでは?』という疑問を投げかけられることも時々あります。美容関連のTipsやアイドル特集にも力を注いでおり、ひと言でファッションと分類できない幅広いコンテンツを扱っているからでしょう。

私はこうした今のViViの発信内容は、むしろZ世代のリアルをそのまま表したものだと思っています。なぜなら、Z世代が求める情報はファッションだけにとどまらないからです。特に美容への意識の高まりは顕著な傾向だと思います」

NetViVi平本編集長写真

NET ViVi 平本編集長

確かに世の化粧品のラインナップやメイク手法に関する情報は、ここ数年で一気に増したように感じる。特に肌をいたわる日常的なスキンケアやベースメイクのコンテンツが充実した印象だ。ViViの誌面でもその傾向は強くなっており、特別な日のための「おしゃれ」に限らないニーズに適応しつつある。

ViViオフィシャルInstagramより

その一要因としては、コロナ禍が挙げられる。屋外におけるマスク着用が一般化したことや、部屋で過ごす時間が増えたことが、見せるための化粧ではなく、セルフケアのための化粧を促進した。

Z世代の美容に関する意識調査(2023年5月、SHIBUYA 109 lab.調べ)によると、「コロナ禍を境にスキンケアを意識するようになった」と答えた人は調査対象の半数にのぼっている。コロナ禍によって、全体を見れば日本の化粧品市場は少なからず打撃を受けている。が、それはインバウンド需要の減少や、それに伴う高価格帯の化粧品の伸長が期待できなくなったことが大きな要因のようだ(経済産業省HP)。

国内における需要、こと日用品に分類される基礎化粧品群に視点を絞ると、ドラッグストアを中心に存在感を示す新たなラインナップも増えている。これにZ世代の視点を加えると、なぜこのような変化が起こっているのか見えてくるだろう。

「おそらくZ世代は、外見を飾ることよりも、内側から自分自身を磨くことに価値を感じているのだと思います。それが美容の意識の高まりにもつながっているのではないでしょうか。小さな毛穴とかシミとか、周りから見たらさほど問題ではないことでも、彼ら、彼女らはとても気にしているんです。

もちろん、これはZ世代特有の感覚というわけではありません。たとえば、前髪をずっと整えている思春期の娘に対して、父親が『誰も見てないだろ』とツッコむようなシーンは、ずいぶん昔から多くの方がドラマなどで見慣れたものだと思います。誰かが見ているからではなく、自分が気にするからやる。そういう自意識は古くからあったものですが、世代の傾向として一層強いのがZ世代なのかもしれません」

大多数の意識が内側に向いていることは、同世代間で交わされる会話にも影響を与える。これを象徴するエピソードとして、平本氏は話題性のあるブランド名が変わりつつあることについて言及する。

「Z世代の会話では、『ここのブランドのリップが好きマスカラはこのブランドが良いなど、美容ブランドの名前がよく出てきます。ミレニアル世代までは、一見してわかるハイブランドのバッグやアクセサリーを身に着けることが同様の役割を果たしていましたよね。誰もがロゴを見て高価だとわかる商品を持つことが、周囲に自分のステータスを示す方法だった、とでも言いましょうか。

最近『カラーマスカラにハマってる』といった話題もよく耳にしますが、これもZ世代らしい感覚だと思います。周囲が見たときのインパクトを比べれば、おそらくカラーマスカラよりもハイブランドのバッグのほうがステータスとしてはわかりやすい。けれど、それよりも自分にしかできないメイクを楽しんでいること自体に、彼ら、彼女らは誇りを感じているのでしょう」

自分らしさの一助となる情報を求めている

"外"ではなく"内"へ──誰かに自慢できる服を身にまとうよりも、自分が納得できるメイクを。こういったアイデンティティの置き所の変化は、ViViの進化に大きな影響を与えている。さらに平本氏は、内面を重視するZ世代には、その内面の魅力や強みを引き出すコンテンツが響くという。

「すこし話がそれますが、私はよく現場の若いスタッフから『平本さんは私の良い部分を伸ばしてくれる』と言われます。この指摘は、『ああ、彼らにとってそこが嬉しいポイントなのか』という発見につながっています。

Z世代以前の感覚だと、上司に『これやっといて』と言われたら、疑問を持たずに粛々と作業に取り掛かる人が多いのではないでしょうか。しかしZ世代には、それだけでは言葉が足りません。『誰でもいいからやってほしい』という指示は響かないからです。でも『あなたの強みは〇〇だから、これをやったらもっと伸びるよ』というような"納得できる動機"をあわせて伝えると、彼ら、彼女らは高いパフォーマンスを発揮します。

自分に向いているもの、自分に似合うもの、自分の魅力を引き出してくれるもの。Z世代はそれらを示すコンテンツや、ヒントとなる言葉に惹かれます。周囲の情報から自分を改善し、カスタマイズしていく志向が強いので、そのテンションやニーズに合致するコンテンツが求められているのでしょう」

ViViオフィシャルInstagramより

近年よく見るようになったコンテンツとして、美容・ファッションに関わる診断が挙げられる。肌や髪の色によって似合う化粧品群を示す「ブルべ・イエベ診断」や、体格に応じて適切な服の選び方を支援する「骨格診断」などがその一例だ。

成熟した市場には商品の選択肢があふれている。あまりに選択肢が多すぎるから、逆にどれがいいのか判断する基準がほしいと思うのも無理はない。これは世代を問わず多くの人々が共感することかもしれないが、選択肢だらけの世界で育ってきたZ世代には、特にこの傾向が強くみられるのかもしれない。正しい選択のためには自分の内面や素養と向き合うほかないことを、直感的に知っているのだろう。

自分が欲しい情報を得るために「プロセス」を重視する

自分が持つ内面性を最大限に活かして輝きたい。そのために、自分に似合うものを示してくれる存在や情報が欲しい。こうしたZ世代のニーズは、ViViに登場するモデルの役割にも影響を与えている。

「モデルは読者が憧れる対象として大きな影響力を持ちます。それは今でも変わりませんが、現代の読者はモデルに対して『このメイクは取り入れられそう』、『このスタイルは自分も真似できそう』というまなざしを向けています。つまり憧れの先に、自分自身を想像できることが重要なんです」

これまでモデルが担う主な役割は、写真の被写体として商品価値を訴求することだった。ここに読者が自分の未来を重ねたいという期待も増えてくると、モデルに求められる素養はルックスだけではなくなってくるのだ。

「ViViモデルである古畑星夏さんは、本来であったら逆境であるコロナ禍でさらに活躍の場を増やしました。美容クライアントなどからInstagramのライブ配信をタイアップ企画として依頼されることが増えたのですが、そこで彼女の高いトーク力と発信力が注目されるようになったんです。物おじせずカメラの前でセルフメイクを披露し、そのメイク技術に加えて商品の説明もリアルで秀逸。何よりステイホーム中のユーザーが親近感を持てる距離感、雰囲気を持っていたことが人気に拍車をかけたのでしょう」

古畑星夏さんのYouTube動画

モデルの職場はプロのヘアメイクが常駐する撮影現場から、自宅へと拡張された。それに伴い、非日常や理想像を体現する存在であったはずのViViモデルが、読者やユーザーに近しい存在へと変換されつつある。その間にあるのは、先に挙げたInstagramなどにあるライブ配信機能である。

「今まで媒体で取り上げられてきたコンテンツの多くは、すでに仕上がったあとの姿を編集したものです。しかし、『自分でも真似したい』、『技術を取り入れたい』という要望に応えるとなると、完成形に至るまでのプロセスのほうがコンテンツとしての価値が高まってきます。たとえば、すっぴんから下地を塗るまでのプロセスをも映し出すライブ配信は、多くの『NET ViVi』ユーザーから支持されています。

とはいえ、ライブ配信をすれば時間通りに大多数の視聴者が集まる、というわけでもありません。多くの視聴者はあとからアーカイブ動画で自分が欲しい情報だけを飛ばして見ています。ポイントは、リアルタイムで見ない人にとっても有益でリアルな情報をどれだけ入れ込めるかだと思います」

SNSをうまく活用しよう、注目度の高い配信者に出演してもらってライブ配信を企画しよう。これを読んでいる皆さんにとっては、そんなノウハウはもう聞き飽きたことかもしれない。しかし平本氏の話から学ぶべきは、SNS発信やライブ配信の意味合いや価値を、企業側がどのように捉えるかである。

ライブ配信の同時視聴者数が伸びないからといって、そのコンテンツの価値が低いかと言えばそうではないこと。そして、ライブ配信をするならばユーザーが求める"プロセス"をしっかり伝えられる内容にすること。これらの視点は、これからSNSマーケティングに挑みたいマーケターの皆さんに対し、何らかの気付きを与えるのではないだろうか。

できないものは意味がない、意味がなければスルーする

ここまでの話でわかってきたのは、Z世代は単に現実的というよりも、自分自身の内面に興味を持っている。だからこそ、現実的かつ実践的なものを求めているということだ。そしてそのニーズにしっかり応えられるコンテンツは、彼ら、彼女らの心をつかむ。

平本氏の実体験やViViのコンテンツがベースにあるため、ここまでの話は美容・ファッション領域を中心としてきた。しかし、平本氏が語ってきたZ世代の考え方は、他のジャンルにも応用できるものだ。

「Z世代は、ほかの世代と比べて背伸びや無理な冒険を避ける傾向があるように感じます。日本の経済状況もあるかと思いますが、海外旅行を例に挙げると、文化圏が大きく異なり、コストもかかるヨーロッパなどの行き先にはそれほど関心を示しません。

旅先として韓国が根強い人気を誇るのは、安価で行けることはもちろんですが、親近感を持ちやすい食生活やファッションがそこにあるからだと考えられます。もちろん韓国カルチャーが好きというのも大きな理由ですが、あくまで安全で、自分たちの生活に取り入れやすい海外を求める感覚が強いのかもしれません。

そういえば、以前の若者の間では『インドに行って人生観を変えよう』というような旅のスタイルが支持されることもありましたよね。でもおそらくZ世代からすれば、『インドに行ったとして、それが自分にとって何になるんだろう』と疑問がわくでしょう。なぜならインドでの体験は、自分たちの生活とは程遠いものだからです。日本でサリーを着たり、毎日カレーを食べたりすることは想像しづらいですからね。できないことは、彼ら、彼女らにとって意味がないんです」

この例をヒントに、自社の製品やサービスが果たしてZ世代にとって取り入れやすいものなのか、意味があるものなのか、あらためてマーケターの皆さんに想像してほしい。背伸びをした理想やあまりにもかけ離れた非日常を提供する商品やサービスは、Z世代にとってそれほど魅力的ではないかもしれない。そしてこれらを扱うコンテンツは、残念ながら多くの場合Z世代にスルーされてしまう可能性が高い。

「たとえば、一般的な美の基準で判断すれば抜群のルックスを持つモデルがいたとします。あまりにも美しすぎて、誰も真似できないような人を想像してください。そういった存在を前にしたとき、Z世代は『かわいくない』と批判するわけではありません。きっと『かわいい』、『きれい』と素直に感じるはず。

でも、だからといってそのモデルのことを特に話題にもしないんですよね。意味がないものには、言及すらしない。このスルースキルの高さは、上の世代からすれば、"冷たさ"とも捉えられるかもしれません」

前々回、Z世代が興味のない情報を即座にスルーする様子を、平本氏はスマートフォンの一操作である"スワイプ"に例えた。その際は「"ヤバい"と感じたらスルー」という文脈だったが、Z世代はそのほかにも「自分が取り入れられない、程遠いもの」も同様にスルーする。話題に上がらないということは、波及効果が狙えないということだ。これはマーケティングに携わる者にとって避けたい事態だろう。

そうなると、やはり気になるのは波及効果を生み出すバズコンテンツ、そしてそのようなコンテンツを作る秘訣である。

次回の記事では、実際に「NET ViVi」が企業とコラボレーションし、商品PRを行って高い波及効果を生み出した成功事例を紹介する。キーワードとなるのは、「編集力」と「信頼」だ。Z世代を中心としたバズコンテンツに挑みたいマーケターは、ぜひ次回記事も読んでいただきたい。

【心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント シリーズ記事】

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聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)

広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。

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