2023.07.12

調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

猛暑が続く7月6日に、FacebookやInstagramを手がけるMeta社が、新SNSサービスThreads(スレッズ)を開始しました。現時点ではTwitterと同様の内容で、ハッシュタグ機能などはありませんが、Instagramとの連携でどこまで普及するのか、どんな独自機能が実装されていくのか、今後が楽しみです。

さて、前回は今年2月に実施した「キャラクター定量調査2023」で得られた幾つかのトピックから、純粋想起による2023年キャラクター好意度ランキングのうち、③ご当地キャラ、そして比較検討対象として、④タレント・有名人⑤Vtuberに関する以下の結果を紹介しました。

  • 全国でのご当地キャラトップ3は不動の「くまモン」「ふなっしー」「ひこにゃん」
  • 地元トップ支持の「ぐんまちゃん」「チーバくん」「みきゃん」など
  • 司会・MCなどのTV出演で幅広い支持を集めるお笑い芸人・男性アイドル
  • 男性お笑い芸人は同性からの、男性アイドルと俳優は異性からの支持が高い
  • にじさんじ・ホロライブ所属が6割を占めるVtuberは、まだ存在感が希薄

今回からは、同じく「キャラクター定量調査2023」から、「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性を比較した分析結果をご紹介します。

憧れの存在としての「タレント」、自分と似ていて信頼性・専門性を持つ「インフルエンサー」

タレント・有名人やキャラクターは、消費者の注目を引き付けて訴求したいメッセージを伝達するための効果的な手段として、以前から広告業界で数多く使われ続けてきました。広告エンドーサーについては、2020年に小倉優海さんがマーケティングジャーナルで発表した論文「広告におけるキャラクターエンドーサーの役割」で詳しく紹介しています。

今回は、Schouten, A. P., Janssen, L., & Verspaget, M. (2020)による、タレント・有名人とインフルエンサーに関する先行研究をもとに、

(1)Identification(識別性) ⇒ Perceived Similarity(知覚的類似性:自分と似ていると感じる)+Wishful Identification(希望的識別性:その人のようになりたい)

(2)Credibility(信頼性) ⇒ Perceived Trustworthiness(知覚的信頼性:正直さ、誠実さ)+Expertise(専門性:関連知識、スキル、経験)

を示す計16項目を用意し、タレント・有名人、キャラクター、Vtuberについて、それぞれ質問しました。ちなみにSchoutenたちの先行研究では、以下の結果が示されています。

(1)タレント・有名人は希望的識別性、インフルエンサーは知覚的類似性の点で、それぞれ広告での推薦が支持されやすい

(2)インフルエンサーは信頼性と専門性の点で、広告での推薦がタレント・有名人よりも支持されやすい

要するに、タレントは憧れの存在として、インフルエンサーは自分と似ている上に信頼性・専門性も兼ね備えた存在として、広告での推薦が効きやすい、というわけです。では、インフルエンサーでなくキャラクターは、タレントと比べてどのような存在なのでしょうか。それを今回の分析で探ってみました。

憧れと信頼性・専門性の点でタレントの評価はキャラクターを上回る

図表1はキャラクターについて、図表2はタレント・有名人についての質問結果で、それぞれ、好きなキャラクターやタレント・有名人を思い浮かべてもらった上での回答です。

計16の質問項目は、1)知覚的類似性(自分と似ていると感じる)、2)希望的識別性(その人のようになりたい)、3)信頼性(知覚的信頼性:正直さ、誠実さ+専門性:関連知識、スキル、経験)、の3因子に集約され、以下の傾向が明らかになりました。

(1)キャラクターとタレント・有名人で、知覚的類似性(自分と似ていると感じる)のスコア差はみられず、性・年齢によっては、キャラクターがタレント・有名人を上回る。

(2)キャラクターとタレント・有名人で、希望的識別性(その人のようになりたい)のスコア差は大きく、多くの項目でタレント・有名人がキャラクターを上回る。(特に男女中学生-19歳と女20-34歳)

(3)キャラクターとタレント・有名人で、信頼性(知覚的信頼性+専門性)のスコア差は大きく、全ての項目でタレント・有名人がキャラクターを上回る。(特に男女中学生-19歳と女20-49歳)

図表1. 性・年齢別:好きなキャラクターのエンドーサーとしての評価

性・年齢別:好きなキャラクターのエンドーサーとしての評価

図表2. 性・年齢別:好きなタレント・有名人のエンドーサーとしての評価

性・年齢別:好きなタレント・有名人のエンドーサーとしての評価

男性ミドルと女子ティーンが「自分と似ている」と感じるのは、タレントよりキャラクター

図表3は、キャラクターとタレント・有名人で3つのエンドーサー因子スコア(平均0、分散1)の平均値を比較した結果です。

(1)知覚的類似性(似ていると感じる)は、キャラクターとタレント・有名人の因子スコアに総じて差がみられず、どの性・年齢区分でも、因子スコア平均値が5%水準の分散分析で有意差なしでした。男35-49歳と女子中学生-19歳では、僅かながらキャラクターがタレント・有名人を上回っています。

(2)希望的識別性(その人のようになりたい)は、男女3-74歳全体、男子中学生-19歳、男50-74歳、女子園児・小学生、女子中学生-19歳、女20-34歳、女35-49歳で、因子スコア平均値が5%水準以上の分散分析にて有意でした。特に男女中学生-19歳と女20-34歳でスコア差が顕著な一方、男20-34歳ではスコア差が殆どみられません。男女ティーンと女性ヤングでは、タレントが憧れの存在であるようです。

(3)信頼性(知覚的信頼性+専門性)は、全ての性・年齢で、因子スコア平均値が5%水準以上の分散分析で有意です。たとえば野球における大谷翔平選手のように、推しのタレント・有名人(アーティストやスポーツ選手も含みます)は何らかの突出したスキルを持っており、それに対して架空の存在のキャラクターは、いくら設定上で優れた点があったとしても、現実にはかなわない、といったところでしょうか。

図表3. 性・年齢別:キャラクターとタレント・有名人のエンドーサー因子スコア平均値比較

性・年齢別:キャラクターとタレント・有名人のエンドーサー因子スコア平均値比較1

性・年齢別:キャラクターとタレント・有名人のエンドーサー因子スコア平均値比較2

今回の分析は、タレント・有名人のエンドーサーとしてのメリットばかり目立つ結果となりましたが、トップクラスの人気タレントの場合は広告出演料が極めて高いことから、費用対効果の点でも、また昨今は人気タレントのスキャンダル等による広告出演へのリスクも無視できないことを考慮すると、必ずしもタレント優位とは言い切れないのではないかと推察できます。

また、前回の純粋想起結果で記したように、好きなキャラクターやタレント・有名人のタイプは性・年齢によって大きく異なります。今回の質問項目を用いることで、高い効果を発揮しやすいタレントとキャラクターの組み合わせを考えることもできそうです。

次回は「キャラクター」と「タレント・有名人」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性を比較した分析結果の続きをご紹介します。どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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