数年先の未来の経済活動を支える世代であり、現時点でトレンドの中心点とも言える「Z世代」。マーケターとしてはこの世代の傾向やこだわりについて気になるところだろう。しかし、Z世代を理解するのはそうたやすいことではない。
本シリーズでは、Z世代をメインターゲットとする女性誌ViViのネット版「NET ViVi」で編集長を務める講談社の平本哲也氏に、C-stationでさまざまなマーケ連載を手がけた宿木雪樹氏がインタビューし、Z世代の実像に迫っていく。第2回の今回は、「NET ViVi」が挑戦したZ世代向けのコンテンツを事例に挙げ、平本氏が考えるZ世代に刺さるコンテンツのコツを聞く。
押し付けが嫌いなZ世代に刺さるコンテンツとは?
前回の記事では、平本氏が考えるZ世代の「つかみどころのなさ」に焦点をあててZ世代の本質に迫った。Z世代はスマートフォンやSNS、多様化したメディア、そして活気を失った日本経済と、前世代とは一転した環境そして社会のなかで生まれ育っている。その背景と照らし合わせることで、Z世代特有の考え方や価値観への理解を深めようと試みた。
その中で、平本氏がマーケターに対して鳴らした警鐘がある。
「Z世代は好き嫌いがはっきりしていて、価値観の押し付けを特に嫌います。『これがいいだろう』『おもしろいだろう』と押し付けがましい印象を与えるコンテンツを作ると、すぐにつまらないと判断し、スルーされてしまうと日々痛感しています」
NET ViVi 平本編集長
「NET ViVi」のコンテンツづくりで、リアルなZ世代とコミュニケーションを取り続けたからこそ出てきた言葉だ。
前回の記事で平本氏はZ世代がつまらないものをスルーすることを「スワイプする」と表現した。迷いなく自分に合わないものを切り捨てていく様子を表した、実に適切な表現だと思う。押し付けを嫌う判断が早いZ世代。そんな彼ら、彼女らに対し、刺さるコンテンツを作るためには、何がポイントになるのだろうか。
「ポイントは、Z世代のリアルにしっかりと根差したコンテンツづくりを追求し続けることです。それはどんな情報を求めるのかだけでなく、何に心を動かされ、行動を起こすのかということも含めてです。それらは刻一刻と変化していて、ひとつの型にはめることはなかなかできません。
ViViは創刊以来"かわいい"を届けてきましたが、時代によってその"かわいい"は変化してきました。ViViが発信する"かわいい"はリアルなのか、今の空気に合っているのか。月単位、あるいは週単位で変わっていく"かわいい"に対して、私たちは常に自問自答しています」
平本氏が編集長を務める「NET ViVi」の母体であるViViは、1983年創刊の女性誌だ。ファッション情報のみならず、海外芸能などに関する情報も豊富な女性向けトレンドメディアとして注目され、自分らしいスタイルを追求するコンセプトが共感を集めてきた。
時代の変化に応じて読者の"自分らしさ"を移す鏡として愛されてきたViViは、現在、主要ターゲットであるZ世代とどのように向き合っているのだろうか。今回はViViとZ世代の関連性を具体な事例から紐解き、Z世代に向けたマーケティングやコンテンツづくりのヒントを探っていく。
常識破りの男性×コスメ企画。成功の背景にあったのは「推し」の文化
「『NET ViVi』はZ世代、およびZ世代マインドを持つ人をメインターゲットに、ファッション、ビューティ、キャリア、ヘルスケアなどライフスタイル全般をあらゆるデジタル手段で届けるメディアです。昨年までは『おしゃれに敏感な女の子のためのバイブル』というコンセプトを掲げていたのですが、このコンセプトは今の空気、Z世代のリアルに合わないと感じたため、見直しを図りました。
まず『女の子』という性別や年齢層を絞る言葉は、あえて使わないことにしました。そして『おしゃれ』をコンセプトに掲げるのもやめることにしました。
ViViの読者やフォロワーはもちろんおしゃれに興味はあると思いますが、それが必ずしも絶対条件である必要はないと感じています。おしゃれ以上に美容が好きだったり、社会問題に興味があったり、アイドルに夢中になっていたり、いろんなマインドが集まるメディアである方が今のテンションに合うと思いました」
これまでコスメの魅力をアピールする主体は女性モデルだった。読者がめざす容姿を持つ女性がにこやかに商品を持っているような、よく見るCMや広告のイメージが浮かぶ。そして男性が登場する機会があるとすれば、それは女性らしさを引き立てるための男性であった。女性誌で男性ウケのいいファッションや化粧のテンプレートを紹介するページは、一世代前の女性であれば、それこそ定番と感じていただろう。
しかし、昨今のコスメ広告には、その女性という主体が必要なくなっているらしい。この変化は、「Z世代が何によって購買意欲をそそられるのか?」というテーマにも関わってくる。
「男性アーティストを起用したことによるコスメタイアップの成功の背景には、Z世代が特に強く持っている"推し"という概念があると考えています。『推しがすすめるものはほしい』という購買意欲が、企画の成功につながりました。
逆に、自分にとって興味のない相手から何かをおすすめされてもまったく心に響かないというのも、Z世代の購買の特徴です。こうした彼ら、彼女らの購買意欲や意思決定の基準をとらえつつ、従来のやり方にこだわりすぎないことが重要かもしれません」
平本氏が言及する「推し」とは、「好き」よりもさらに強い支持や憧れの感情を表すもので、アーティストやアイドル、漫画のキャラクターなどを対象に用いられる言葉だ。推す対象を「推しメン」と言ったり、推しに関わるイベントやグッズに対して課金したり遠征に行ったりすることを「推し活・推し事」と呼ぶ。
この「推し」に関わるカルチャーは1990年代後半から2000年代前半のアイドル絶頂期とともに浸透したと言われ、その後も進化を続けてきた。2023年現在は、アイドルという領域の枠を超えて、性別や対象をより広げて密度の濃い営みを表す言葉へと昇華した。その背景には、推せる対象の多様化がある、と平本氏は続ける。
「前世代までは、テレビの露出を通じて特定のアーティストやアイドルに人気が集中するような構図が一般的でした。たとえば、誰もが『浜崎あゆみが好き』という時代がありましたよね。もちろん、いまいちその流れに乗れない人もいたと思いますが、メジャーが好きでないと市民権が与えられていないような感覚があったはずなんです。
でも今は、YouTubeやTikTokなどのSNSが浸透し、発信者の数も増えました。アーティスト、アイドル、タレントのほか、インフルエンサーという新たな概念も生まれました。そのなかで、消費者は誰を推してもいいのです。だからこそ、自ら選んだ推しはアイデンティティの一部でもあり、判断基準に与える影響も大きいのでしょう」
動画コンテンツでは"胸きゅんポイント"と"神ビジュアル"にこだわれ
もうひとつ「NET ViVi」の取り組みの特徴として挙げられるのは、動画コンテンツをいかんなく活用していることだ。紙面において長い歴史を重ねてきたViViが動画に挑戦しているのは、やはりZ世代が求めるものだからなのだろうか。
「講談社は動画コンテンツを専門とする会社ではありません。ただし、動画が持つ将来性を感じて、出版社としてはいちはやく動画づくりに取り組み始めたと言えるでしょう。
『NET ViVi』では、取り組みを始めた当初は3分程度の動画を作っていましたが、やがてZ世代の身近にあるのはより短尺の動画だと気付きました。そのニーズに応じられるよう、30秒程度かつスマートフォン上で見やすい動画を作るといった工夫を重ね、動画コンテンツによって一定の反響を得られるメディアへと成長していきました。
結果、企業に対して『NET ViVi』が動画コンテンツに強い、当たるものが作れる、という印象を醸成することができ、ひとつの強みへと成長しています」
動画とひとことで言っても、世代によって心地よく見られる長さや、動画を閲覧するデバイスの主流は異なる。その多様性にいちはやく気付き、読者層に適した動画を追求したことが「NET ViVi」の成功を下支えした。
内容そのもののこだわりにも平本氏は言及する。
「動画コンテンツで心がけているのは、バズを起こすことができる、バズポイントを必ず動画内に作ることです。たとえば、男性アーティストを起用する企画では、"胸きゅんポイント"を必ず入れるようにしています。人気アーティストにただ出演してもらうだけでは不十分で、その人に何をどんな風にしてもらったら、見た人は心を動かされるのかを追求しています。
ViViの撮影現場を見て頂いたら、編集者が出演者にここまで色々とリクエストを出すのかと驚かれるかもしれません。そんな胸きゅんポイントを作りあげていくプロセスでは、ViViの紙面で得た経験値が意外にも役立ちました。動画制作となると、つい編集者は自分には手に負えない仕事だと思ってしまうのですが、実はそんなことはないんです。『この角度で撮った方がかわいいよね?』など、常に撮影で考えてきたことが、動画をディレクションする際にも大きく役立ちましたし、それがViViの作る動画の色にもなってきました。
もちろん、当初は動画業界で活動されているスタッフさんとコミュニケーションがうまく取れないことも多々ありました。でも、徐々にお互いに慣れてきて、価値観を共有できるようになり、いまや外部パートナーも含め、ViVi動画制作チームが確立しています。おもしろがりながら表現を試行錯誤してくれるチームがいることが、コンテンツをより魅力的にするための原動力でもあります」
動画と誌面では、表現手法が大きく異なる。ViVi動画制作チームがうまくワークしているこのエピソードは、培ってきたノウハウを新しい手法にあてはめ、新時代のユーザーニーズにメディアが適応した好事例と言えるだろう。
しかし、この平本氏の言う胸きゅんポイント、Z世代ではない読者の皆さんはなかなか想像しづらいのではないだろうか? 世代特有の共通感覚がない人が無理にこれを作ろうとすると、それこそ『こういう表現であなたたちは胸きゅんするでしょう』と押し付けることになってしまいかねない。胸きゅんポイントを作るにあたって、「NET ViVi」の編集チームではZ世代当事者のメンバーが活躍しているという。
「私たちは動画や写真でも、最高に満足のいくカットを"神ビジュアル"と呼ぶことがあります。この神ビジュアルに対して妥協しない姿勢が、結局は胸きゅんポイントを作るうえでとても重要だと感じています。コンテンツに関わる撮影中、チームメンバーからはよく『かわいい!』という称賛の声が上がります。
自分たちが心から『かわいい』と思えるものが撮れるまで撮り方を調整するなどして粘りますが、そもそも『かわいい』の感覚が間違っていたら意味がありません。ViViのZ世代のメンバーは、しっかりとその審美眼のようなものを持ってくれているので、とても心強く感じています」
ViViオフィシャルInstagramより
Z世代の心を動かす動画づくりのコツが、現場の様子から浮かび上がってきたが、これはあくまでViViにおける成功事例。企業によって千差万別のZ世代への胸きゅんポイントや神ビジュアルが存在するはずだ。これを読んでいるマーケターの方は、今回の事例をヒントとしつつ、ぜひ自社商品の訴求における胸きゅんポイントを見極めてほしい。
"リアル"を見極めるZ世代の目に留まるために
ここまで平本氏にはタイアップ企画と動画コンテンツの成功事例について話してもらった。アイディエーション(新しいアイデアを生み出していくプロセス)と表現手法については、具体的な事例も踏まえてさまざまなヒントが得られたはずだ。これに加え、平本氏はZ世代がコンテンツに対して求める、ある要素が重要であることを教えてくれた。
「Z世代は『リアル』を求める傾向があると感じています。たとえばコスメの広告であれば、著名な芸能人がにこやかに商品を持つビジュアルよりも、実際そのコスメを肌に乗せたときにどのような色になるのか比較できる特集のほうがよっぽど反響が大きいです。さらに言えば、一度塗りと二度塗りでどう変わるかといったユーザー視点のリアルな疑問に答えることがより効果的です。
こうした現実思考の傾向の背景には、デジタルコンテンツにあふれる虚像を彼ら、彼女らがあまりに多く見てきたという事実があると思います。自分自身もSNSでは発信する立場であることから、画面上で輝かしく彩られた世界のほとんどが嘘であることを理解しているのでしょう。
これまでの広告やコンテンツというものは、多かれ少なかれ虚像によってユーザーに高揚感を与えるものでした。しかし、Z世代には "下手な嘘"は通用しません。ですから、ユーザーにとって本当に役に立つかという基準で情報の質を考えなければなりません」
これはコンテンツづくりに関わる人間は誰もが押さえておくべきポイントと感じた。広告も世代と同様、時代の流れに応じてスタンダードが変化してきた。企業名や商品名を刷り込むべく何度も連呼していた時代、そしてコピーライターが"うまい"メッセージで人々の心を動かしていた時代。しかしそのいずれも、昨今はいまひとつ人々の心に届いていない印象がある。ことSNSが普及した現代においては、そういった前時代的な広告がSNS上で炎上することも珍しくない。
平本氏の話を重ねると、Z世代以降の人々は広告業界がこれまで使ってきたテクニックの裏側にある狙いに、冷静な目で気づき始めているのかもしれない。種明かしが済んだマジックにワクワクできないのは、自然なことだ。
広告やマーケティングに携わる人にとって、その現実的かつ冷静な目に何を映すか再考すべき時がきている。その突破口となるのが、先に挙げた動画コンテンツにおける胸きゅんポイントの醸成や、推しへの想いを基軸とした新たな企画などの模索なのだろう。
ここまで連載を読んでくださった方々は、そろそろZ世代の内面性について興味がふくらんできているのではないだろうか。これまでも要所要所でその特徴に触れてきたが、そういった内面性に平本氏が気付くまでのプロセスも振り返ってみたい。
次回は、平本氏が実際にZ世代と対話したエピソードを深掘りしていく。平本氏がZ世代と心を通わせていくなかで見えてきた価値観について聞くとともに、彼女らとコミュニケーションを取る際のポイントなどを紐解いていく。
【心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント シリーズ記事】
【講談社C-stationのZ世代関連記事】
聞き手:宿木雪樹(やどりぎ ゆき)
広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。