さまざまな分野で活躍する人物から「マンガから学んだこと」を聞く連載。第10回は、日本テレビ系の情報番組『DayDay.』でMCを務める、フリーアナウンサーの武田真一さん。「マンガが大好きだった」と語る少年時代のこと、そして大人となった現在、アナウンサーという「伝える」仕事に、マンガはどのような影響を与えているのかを聞きました。
フリーアナウンサー 武田真一
1967年、熊本県生まれ。1990年、NHKに入局。『NHKニュース7』や『クローズアップ現代+』のメインキャスターとして活躍。2023年2月末をもって退局し、フリーアナウンサーに。2023年4月から『DayDay.』(日本テレビ系)のMCとして活躍中。
人生は一度きり。新しい世界を見たいと思った
──『ニュース7』のキャスターなど、NHKの看板アナウンサーとして活躍されてきた武田さん。フリー転身は大きなニュースとなりました。まずは、現在の心境を教えてください。
武田 目の前に、まっさらな大海原が広がっているような、清々しい気持ちですね。
私は33年間、会社組織の中で働いてきました。NHKは自分の家のような存在でしたし、まだまだやりたいこともありました。しかし定年が近づくなかで、「自分は何がいちばん好きで、何をこれからの人生でやり続けていきたいのか」を考えるようになりました。
現場でしゃべることが何より好き──。せっかくなら、ひとつの会社では見ることができない新しい世界も見てみたい。そう考え、思い切ってフリーになりました。人生は、一度きりですからね。
武田さんはNHK退局後、事務所には所属せず、フリーランスとして活動している
──この春からは情報番組『DayDay.』(日本テレビ系)のMCとして活躍されています。NHKとの違いを感じることはありますか?
武田 経営形態は違っても、同じ放送メディア。第一印象は「さほど変わらない」と思いました。番組に関わる全員が「社会を少しでもよくしたい」という志を持っている、という点も似ていると感じました。
『あしたのジョー』に夢中になった少年時代
──今回のインタビューのテーマは「マンガから学んだこと」です。少年時代、マンガは読んでいましたか?
武田 はい。マンガも活字も読む、本好きの子どもでした。『ドカベン』や『ブラックジャック』、『まことちゃん』などが好きで、自分自身「マンガに育ててもらった」という思いがあります。
講談社さんの作品ですと、『あしたのジョー』が好きでしたね。恵まれない生い立ちの主人公・矢吹丈が拳で切り拓くサクセスストーリーを、夢中になって読んでいました。
あしたのジョー(1)原作:高森 朝雄 著:ちば てつや
※2023年は本作、連載開始55周年のアニバーサリーイヤー
実は、小学生の頃に一度、マンガ家に憧れた時代もあります。Gペンとケント紙を用意し、マンガを描こうとしたのですが、きれいに描けずに挫折しました(苦笑)。中学生になると、マンガよりも音楽、バンド活動に夢中になりました。それでも自分の創造の原点は、やはり少年時代のマンガ体験にあると思っています。
マンガで育まれた空想力は、いまの仕事に活きている
──少年時代、マンガを読んでいたことが「仕事に活きている」と感じることはありますか?
武田 私は子どもの頃、空想少年だったんです。小学校から家まで30分ほどの道のりを歩くなか、ひとりでずっと、さまざまな物語を考えていました。その、「空想」の源になっていたのが「マンガ」でした。それがアナウンサーとして、さまざまなことを想像したり、頭の中でシミュレーションしたりするチカラにつながったように思います。
「空想力」と「ニュースを届ける」ことは、とてもかけ離れているようにお感じになるかもしれませんが、そんなことはありません。
ニュースとは、実際に世の中で起きていることです。だからこそ、ニュース原稿の文字を表面的に捉えるのではなく、文字の奥にある人々の暮らしや苦しみ、悲しみなどの感情まで想像することが大切だと考えています。あえて、感情を言葉に乗せることはしませんが、「心で感じている」かどうかで、伝わり方も異なると思っています。
大人になってハマった作品は『ザ・ファブル』。感銘を覚えたのは『聲の形』
──現在も、マンガを読むことはありますか?
武田 あります。『ザ・ファブル』は大好きですね。映画版の主演を務められた岡田准一さんに取材する機会があり、その前に原作マンガを手にしたのですが、おもしろくて、一気読みしてしまいました。読んでいて爽快感がありますし、主人公のキャラクターも魅力的ですよね。
──仕事以外で、マンガに触れることもありますか?
武田 はい。私には、社会人と大学生、ふたりの息子がいるのですが、いま流行っているマンガはふたりから教えてもらうことが多いです。
主人公の少年と、聴覚障害のある少女の恋を描いた『聲の形』も息子に紹介されて知った作品のひとつです。この作品では「コミュニケーション」が重要なテーマになっていますが、作品を通して、あらためてコミュニケーションの重要性について、深く考えさせられました。
現代社会は便利で、コミュニケーション手段が豊富にあります。だからこそ、人間関係はより複雑になっていますよね。そのなかでいま、私がやりたいのは「おしゃべりの価値を高めること」なんです。
おしゃべり=対話は、この世界の多様性を認め合い、平和で持続可能なものにしていくために欠かせないコミュニケーションです。ですが現代社会は、便利だからこその窮屈さがあり、職場や学校、ネット上でも、安心して自由に言葉を交わすことは容易ではなく、どこか臆病になっている風潮さえあるように思います。ですから『DayDay.』という、自由におしゃべりするスタイルの番組を通して、「おしゃべりの価値を高めること」に寄与できたらと考えています。
『DayDay.』ポーズを取る武田さん
マンガは、自分に寄り添ってくれる作品が必ずどこかにある
──いまやマンガは、日本が世界に誇るポップカルチャーです。武田さんはその魅力をどのように捉えていますか?
武田 世界中の人たちが夢中になれる作品がこんなにも生まれているのは、今日まで大勢のマンガ家の先生たちがマンガと本気で向き合い、チャレンジしてきた証ですよね。
そのおかげで、膨大な数の作品があり、自分に寄り添ってくれる作品が必ずどこかにある。この多様性も、マンガの魅力のひとつではないでしょうか。
私が大好きだった『サイボーグ009』も、老若男女、国籍もさまざまなキャラクターが活躍する物語で、子どもながらに「みんな違って、みんないい」ということを学んだ気がします。
マンガも『DayDay.』も、毎日を楽しくしてくれるもの
──最後に。マンガと『DayDay.』の共通点があれば、教えてください。
武田 マンガの題材はさまざまです。私たちが、これまで見聞きしたこともなかった世界に目を開かせてくれる素晴らしいコンテンツです。
そして現在、私がMCを務める『DayDay.』は、楽しいおしゃべりとともにお届けする情報番組です。どちらも同じコンテンツであり、マンガも『DayDay.』も、誰かの毎日を豊かにしてくれるという点で、私は似ていると思っています。『DayDay.』が今後、マンガのように広く、そして多くの方に長く愛されるよう、私もさまざまなチャレンジをしていきたいですね。
筆者プロフィール
C-station編集部
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