Z世代という表現は、従来とは異なる価値観や行動様式をもつ新世代としてマーケティング業界を中心に注目を集めている。そして多くの企業が今後の経済活動を担う世代として理解を深めようと努めているが、表面的な定義だけで世代の本質をつかむのは難しい。
本シリーズでは、Z世代をメインターゲットとする女性誌ViViのネット版「NET ViVi」で編集長を務める講談社の平本哲也氏に、C-stationでさまざまな連載を手がけた宿木雪樹氏がインタビューし、Z世代の実像に迫っていく。第1回となる本記事は、まず定義そのものを見直すことをテーマに、平本氏がZ世代について感じていることを聞く。
世間で定義される「Z世代」と実際の違いとは
マーケティングでターゲットの様相をつかもうとするとき、「世代」という指標はわかりやすい。こと最近は、トレンドワードのように「Z世代」という言葉をよく耳にする。Z世代とは、おおよそ1990年代後半から2012年頃までに生まれた世代を指す言葉だ。X世代、Y世代に次ぐ新たな感覚をもった世代として注目されている。
このZ世代は、その特徴として、スマホ・SNSネイティブであり情報収集力が高いこと、多様性やサステナビリティに対する感度が高いこと、ワークライフバランスを重視することなどがよく挙げられる。しかし、そういった点と点を結びつけても、何かしっくりこないものがある。なぜZ世代がそういった特徴をもっているのか、根にある思想のようなものが見えてこないからかもしれない。この疑問に対し、メディア「NET ViVi」編集長の平本哲也氏はこう答える。
「世間が語るZ世代の特徴は、上の世代が彼らと自分の違いを挙げて、あたかも理解したように"取り急ぎの説明"をしているだけのように感じてしまうんです。実際のZ世代は、つかみどころがない。『こういう世代です』と定義づけるのは、そう簡単ではないはずです」
NET ViVi 平本編集長
平本氏が編集長を務める「NET ViVi」は、SNS総フォロワー700万人を超えるZ世代をターゲットとするメディアだ。そのコンテンツ制作の現場では、Z世代やZ世代マインドを持つユーザーの思考や趣向への考察と検証が日々繰り返されており、作り手側にもこの世代のメンバーが多い。ミレニアル世代である平本氏は、まさにその渦中に身を置きながら世代間の違いを体感してきた当事者だ。型にとらわれないZ世代のリアルを語れる数少ない代弁者とも言えるだろう。
「今回は、Z世代の印象を私の体験に基づいてお話しできればと思います。この話を通じてZ世代とほかの世代を分断したり、新しい定義を作ったりしたいわけではありません。ただ、マーケティングに携わる方がZ世代にどう向き合うべきなのか考えるヒントとして、リアルなZ世代の話を伝えたいと思っています」
本シリーズは平本氏が仕事を通じてZ世代と向き合った体験や思いをもとに、読者であるマーケターの皆さまにその真の姿を伝えることをめざす。第1回はZ世代の"つかみどころのなさ"を言語化し、紋切り型の定義付けとは異なる実像を描いていく。
興味のないものは"スワイプ"する個人主義と社会背景
まずは平本氏が向き合ってきた「Z世代のつかみどころのなさ」について深掘りするところから、話を広げていこう。
「私がZ世代の方々と話していて常々感じるのは、理解できるようで理解できないということです。たとえば、上の世代はよく『若者は政治や社会問題に興味がない』と嘆きますよね。ほんとうにそうであれば、Z世代もまた政治や社会問題には興味がないはずです。しかし、そうとは言い切れないように感じます」
2021年に実施されたZ世代の政治に対する意識調査がある。ここでは選挙投票意向や政治課題、政治に関する情報収集の方法などをZ世代にあたる男女400名に聞いている。その結果、選挙投票意向は約80%と極めて高く、彼らは「若者の投票率の低さ」を憂いていることがわかった。さらにはその解決策としてネット投票を求める声も上がっている。
若者の投票率の低さは、何世代も前から問題視されていながら変わってこなかったことだ。そこに声を上げるZ世代からは、興味がないどころか、若者の政治参加の現状を変えようとする真摯な姿勢が伝わってくる。
(参考:SHIBUYA109 lab.「Z世代の政治に関する意識調査」2021年8月)
「数年前から、コンビニやスーパーのレジ袋が有料化されましたよね。その後もレジ袋を利用し続けている人を観察していると、いわゆる"若者"ではなく30~40代のほうが多いのではないでしょうか。社会問題に対する意識も、Z世代は比較的強いと思います」
平本氏が感じていたことを裏付けるべくレジ袋利用率の調査結果を見てみると、言うように世代と利用率の間に相関性は見られない。むしろZ世代は上の世代と比べると辞退率が高い。
(参考:環境省「レジ袋使用状況に関するWEB調査」2020年12月)
Z世代は、上の世代から見れば間違いなく若者である。一方で、十把一絡げの"若者"にこびりついた印象をZ世代の特徴に無理やり結びつけると、こうしたズレが生じてくる。
これは決して珍しい話ではない。社会背景や生活様式が変われば、その時代を生きる若者の特徴も変わっていくのは自然なことだ。私たちはまず頭に染み付いた若者像をアップデートしなければならないのだろう。平本氏が感じるZ世代の印象をもうすこし聞いてみよう。
「Z世代は個人主義の傾向が強い世代だと思います。『自分は自分、他人は他人』という感覚がしっかり身についているんです。これは、私も含めたミレニアル世代とは大きく異なる感覚だと感じています」
ミレニアル世代とは、1980年ごろから1990年代前半に生まれた世代を指す言葉。Z世代と近しい世代であること、デジタルネイティブなどの特徴が重複することからまとめて語られることも多いのだが、細かに見ていくと思想や判断基準には差があるようだ。
「ミレニアル世代は、上の世代の指示や意見にはある程度従順な傾向があります。反発しつつも上の言うことを聞く。一方のZ世代は、上の世代"だから"聞こうという感覚がありません。
年功序列の感覚が強い世代は、どうしても下の世代に自分の意見を押し付けがちですが、Z世代を相手にするときはやめておいたほうがよいでしょう。否定や反発をされるからではなく、話が通じない人だと思ったらただ"スワイプ"するようにスルーされるからです」
スワイプとは、スマホ画面を切り替えるときに指をスライドする操作のこと。複数のアプリを立ち上げ、自分の欲しい情報だけ目に入れてサッとスワイプする。確かにこの動作に慣れれば慣れるほど、要らないものを切り捨てる判断のスピードが速くなっている気もする。そしてスマホとともに生まれ育ったZ世代は、現実世界に対しても脳内で"スワイプ"できてしまうのかもしれない。
上の世代が話す言葉、多数が賛同する意見。そういったものがZ世代に通用しない背景には、スマホネイティブとおなじくSNSネイティブであることが大きく影響しているようだ。
「テレビがメディアの核を担っていた時代、私たちは毎週決まった番組を見ていましたし、世代ごとのトレンドを追っていました。でも今は、YouTubeやTikTokにあふれる情報から好きなものを、自由な時間に選んで楽しむことができます。
Z世代にとっては自分の好きなものを選択するほうが自然で、意見を押し付けられることは不自然なのです。『これがおもしろいだろう』と押し付けるようなコンテンツを作っても、興味がなければZ世代はそれを選びません」
急速に社会に浸透したSNSは、インターネットやスマホの普及といったパラダイムシフトとともに、社会に大きな変化をもたらしたもののひとつと言える。コンテンツは多様化し、人とのつながりすらエンターテインメント化し、ユーザーは自ら発信することも含めて膨大な選択肢を得た。そんなSNSが普及した世界で生まれ育ったからこそ、Z世代は選択の自由の中で独自の個人主義と価値観を磨いてきたのだろう。
冷静でフラットなZ世代の視線、その先にあるのは
平本氏の話から紐解くZ世代は、確かにわかりやすい定義には落とし込みづらい。一人ひとりが自分の意思と基準のもと「正しさ」や「おもしろさ」を判断する世代とでも言おうか。そしてこうした特徴の背景には、スマホやSNSといった新たなスタンダードの影響が垣間見える。
思えば1990年代以降のIT社会は、じつに目まぐるしい変化を遂げてきた。その進化と浸透が人々の価値観をも変えたのはもちろんだが、Z世代に関してはそれ以前のスタンダードを体感したことがないのだから、根にある思想が違うのは当然のことなのだろう。
もうひとつ、Z世代を紐解くうえで重要なファクターが、日本の"失われた20年"が彼らの人生と重なることである。
「Z世代は、日本が他の国に比べて特にすぐれているという確固たる自信を持っていません。実際Z世代が生まれ育った日本は、あらゆる観点でゆるやかな下降線を描き続けてきました。それを冷静かつフラットな目で観察した結果、彼らは非常に現実的な日本を受け止めているのだと思います。
一世代前の人々は、高度経済成長期を担った世代から『日本が世界をリードしていく』という姿勢や目標を受け継いでいました。理由を求めず過剰な努力を積み重ねられたのは、『このまま突き進めば"No.1"』という漠然とした希望があったからだと思います。ミレニアル世代までは、こうした成功していた日本の名残をぎりぎり体感できていました。
一方Z世代は、その名残すら知りません。だから『やみくもに頑張ろう』といった理由のない押し付けや刷り込みが効かないのです。悲しく思う方もいらっしゃるかと思いますが、自分より上の世代が経済の基盤を築き上げてきたという感覚もないのだと思います。だからこそ自分自身が理由を考え、判断することを重視するのでしょうし、現実的だと言われることも多いのでしょう」
なるほど、平本氏の話を聞いていくと、よくZ世代について言及される"刺さらなさ"のようなものの本質が見えてくる。
すこし話は本題から脱線するが、ある調査では職場におけるZ世代のマネジメントに半数以上の総務人事担当者が難しさを感じているという結果が出ている。その難しさの詳細には「言われたことはこなすが、それ以外はしないし、自分で考えない」「自己評価が高い」といった声が抜粋されているが、これもまた上の世代のスタンダードというフィルタを通じた印象なのかもしれない。
そもそも指示以上のことをした先にある経済成長などの景色が共有できていないのではないだろうか。そして他者より自分に対する信頼を重くみていると考えれば、たしかに自己評価も高く見えるだろう。むしろ、それより前の世代までの自己評価が不当に低すぎたのかもしれない。どちらが悪いという意味ではなく、そういった意識の違いが世代間のギャップを深めているのではないだろうか。
(参考:月刊総務『Z世代のマネジメントについての調査』2022年11月)
平本氏は「NET ViVi」のコンテンツづくりを通じ、実際にZ世代とコミュニケーションを深める機会に恵まれてきた。だからこそZ世代の芯にある想いや考えを解像度高く語れるわけだが、彼もまたZ世代との意識の差を目の当たりにし、葛藤してきた一人である。
「こんな話をしている私も、Z世代と実際に接する中で、イラッとしたことがなかったわけではありません。でも、このイラッとする感覚こそ、Z世代を理解するヒントになるのではないかと思っています。
Z世代にあたる人のある行動に対して『なぜ?』と疑問を投げかけたとき、悪びれることなく『そのほうがいいと思ったから』という答えが返ってきたことが印象に残っています。ミレニアル世代はこういうシーンでは『とりあえず謝っておこう』という感覚が先立つのですが、Z世代は謝る必要性を感じなければ謝りません。とりあえず場をとりもつために謝罪することが何の意味もないことを、わかっているのでしょう。
こういうシーンを何度も繰り返し、私はZ世代の人間関係の築き方や考え方についてたくさんの発見を重ねました。その気付きが、後の企画やコンテンツづくりに活きていったと思います」
Z世代を甘く見ないほうがいい理由
Z世代をはじめとした世代ごとの定義は、特にマーケティングに関わるテーマで言及されやすい。多様なチャネルとコンテンツが複雑に絡み合い、マーケティングの正しい答えが今まで以上に見つけづらい昨今、その糸口をつかもうとZ世代に注目している人々も多いように感じる。
しかし、Z世代を定義し、Z世代を意識したコンテンツを出せば出すほど、思ったような成果を得られず四苦八苦する企業も多いようだ。筆者も仕事柄よく最新のマーケティング事例を調べるが、Z世代をターゲットにし、盛大にスベっているケースをよく目にする。平本氏が冒頭に述べたZ世代の"つかみどころのなさ"の罠にはまっているようなこの悪循環の根本には、何があるのだろうか。
「何を表に出すにしろ、Z世代を意識するのであればマーケターが"傲慢さ"を捨てることが大切です。というのも、先ほども話しましたが、『これがおもしろいだろう』『これがいいことだ』と発信側から押し付けられることこそ、Z世代が一番嫌うことだからです。
ただ、傲慢さそのものは悪だとは思っていません。たとえば、ViViは創刊以来"かわいい"を届けている媒体です。"かわいい"を自分たちが作るんだという自負があってもいいと思うのですが、時代によってその"かわいい"は変化するのが自然だと思うんです。
それはもう月単位、週単位で変わっている印象すらありますし、その"かわいい"がリアルなのか、今の空気にあっているか、Z世代から求められているものなのかを私たちも自問自答しています。なぜそれを大事にしているかというと、やはり先ほど話したようにZ世代はリアルでないコンテンツには共感しないからです。
そういった意識の変化を受け止めつつ、ViVi、そしてNET ViViは現代に合う方向性は何かをつねに見直し、コンテンツの内容をアップデートし続けています。ですから、マーケターの皆さんも同様に、受け取る側の変化や思いを真摯に受け止め、変わる姿勢が必要だとお伝えしたいです。
Z世代はファッションに関心が高い、エシカル消費の傾向がある......そういう表層的な定義でZ世代を決めつけて、満足はしないほうがいいと思います。Z世代は情報を見極める力が強いですから、決めつけや押し付けを感じるコンテンツはすぐスルーされてしまうでしょう」
理由なき押し付けはZ世代にはいとも簡単に拒まれる。甘く見ると痛い目を見る。実際のコンテンツづくりを通じてZ世代に向き合い続けてきたからこそ、平本氏はそれを体感し、ViViの進化に活かしてきた。では、ViViはZ世代に対し、どんなコンテンツを届けたのだろうか。
次回は実際にViViがZ世代を意識したコンテンツ作りで得られた成功事例にフォーカスし、マーケターがコンテンツづくりで意識すべきことを聞いていく。
【心をつかめ! Z世代のリアルとコンテンツづくりのヒント シリーズ記事】
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広告代理店で企画・マーケティングについての視座を学んだ後、ライターとして独立、現在は企業の魅力を伝える記事執筆を中心に活動。大学にて文化研究を専攻したバックボーンを生かし、メディアのトレンドについてフレッシュな事例をもとに紹介する。2018年より東京と札幌の2拠点生活を開始。リモートワークの可能性を模索中。