2023.04.19
さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)|マンガキャラクター活用の極意【第二部】
例年より早いタイミングで桜が舞い散る中、私が勤務する大学でも入学式が開催されました。まだ初々しい新入生の姿を見て、自分も心機一転せねば、と気を引き締めています。
3月17日から公開中の「シン・仮面ライダー」を観てきました。大量のオマージュやこだわりに彩られた、様々な意見が飛び交う意欲作です。小学校1年生当時にリアルタイムで「週刊ぼくらマガジン」や「週刊少年マガジン」を読んでいた筆者は、連載当時のマンガのテイストを活かした展開に快哉を叫びました。若者世代にどう響いたかはわかりませんが、個人的に深く刺さった作品です。
さて、前々回から、筆者が共同研究などで大変お世話になった大阪公立大学の荒木長照先生、荒木先生のもとで学んだ辻本法子先生、田口順等先生との共著「コンテンツの、コンテンツによる、コンテンツのためのマーケティング」(大阪公立大学出版会:、2023年2月発刊)で記した、「マンガ原作系キャラクターファンのマーケティング活用効果に関する研究結果」を紹介しています。前回は以下のような内容でした。
- キャラクターとの日常接点は、「玩具・グッズ」と「アニメ・映画・マンガ」
- キャラクターの提供体験は癒し・安らぎが最も多く、カタルシス・非日常感が続く
- 各ファン層で「日常接点」と「提供体験」の傾向が異なる
今回は、想起キャラタイプによる各クラスター、特にマンガファン層とそれ以外の層でキャラクターの活用効果がどう異なるのか、そして日常接点、提供体験、活用効果の因果関係について、これまで同様に「キャラクター定量調査2021」結果を用いてご紹介します。
注目・親近感・好意・記憶が顕著な、キャラクターの活用効果
図表1は、キャラクターに関する「活用効果」の設問※1、計26項目の因子分析結果※2です。
※1:「『キャラクター』が、パッケージ・おまけなどで商品に付いたり、広告・キャンペーンで使われることで、どのようにお感じになりますか?あなたがお好きなキャラクターや気になるキャラクターを思い浮かべながらお知らせください。」に対して、「かなり当てはまる」「まあ当てはまる」「あまり当てはまらない」「まったく当てはまらない」の4段階評価で回答。
※2:多変量データに潜む共通因子を探り出すためによく使われる統計手法。今回分析では主因子法で抽出し、プロマックス回転を行った。IBM SPSS Statistics 28を用いて集計。
図表1. キャラクターに関する「活用効果」:因子分析結果
抽出された3つの因子のうち、出現率で特に多いのは「注目・親近感・好意・記憶」でした。
消費者購買行動モデルAISASの「Attention」「Interest」「Action」に該当する「注目・親近感・好意・記憶」が、キャラクターへの好意度が全般に高い男女園児・小学生でも高くなりました。
これは、広告コミュニケーションに関する先行研究で有名な、タレント・キャラクターへの親しみや好意度が活用企業・商品への親しみや好意度を向上させる「バランス理論」や「意味移転モデル」を裏付ける結果です。
また、インターネット、特にスマホの普及による「探索・信頼・評判」(AISASの「Search」に該当)や「理解・話題共有・拡散」(AISASの「Share」に該当)が、中学生から34歳の若い男性で顕著な点も興味深いところでした。(性・年齢別の結果は、「コンテンツの、コンテンツによる、コンテンツのためのマーケティング」をご覧ください)
キャラクターを使うことで商品・広告の探索や共有が促進される
続いて、前回紹介した純粋想起による好きなキャラクタータイプ(マンガ原作系、ファンシー系、絵本・ゲーム等原作系、オリジナル系、企業キャラ、ご当地キャラ)の傾向から算出した4クラスターで、「活用効果」の各因子スコア平均値(平均0、分散1)を比較しました(図表2)。
図表2. 想起キャラクタータイプ別:キャラクター「活用効果」因子スコア平均値
この結果から、以下の傾向が明らかになりました。
マンガファン層
アニメ・マンガ・映画などに反応
〔活用効果〕 「理解・話題共有・拡散」が僅かに多め。
ファンシー系ファン層
グッズ系による癒し・安らぎと収集に反応
〔活用効果〕 「注目・親近感・好意・記憶」が多い。
キャラ・アニメ・ゲームファン層
最も多くの日常接点・提供体験因子に反応
〔活用効果〕 「注目・親近感・好意・記憶」が最も多く、「探索・信頼・評判」も多め。
無関心層
どの因子スコアも低く、無反応
〔活用効果〕 特に「注目・親近感・好意・記憶」に反応せず。
これらの分析結果から、以下のことを読み取ることができます。
活用効果において、
・広告や商品への注目・親近感・好意・記憶が高まるのが、「キャラ・アニメ・ゲームファン層」と「ファンシー系ファン層」である。
・探索・信頼・評判が高まるのが、「キャラ・アニメ・ゲームファン層」である。
ただし、日常接点や提供体験と比べると、活用効果全般、特に「理解・話題共有・拡散」(AISASの「Share」に該当)では、好きなキャラクタータイプで分類したクラスターによる違いが少ないです。よって、無関心派でなければ、どのタイプであってもキャラクターファンでは商品・広告の探索や共有などの点で活用効果が見込める、と言えそうです。
キャラクターの持つ体験価値が、プロモーション活用効果を増幅する
ここまでの分析結果を踏まえて、キャラクターに関する日常接点、提供体験、活用効果の3つの潜在変数を用いて、SEM(構造方程式モデリング)※3によるモデル化を試行した結果が図表3です。
※3:因子分析や重回帰分析などの機能を併せ持つ統合的な統計手法。詳細は当連載の第1部第9回を参照のこと。
図表3. 男女3~74才全体のSEM(構造方程式モデリング)による因果モデル
図表中の数字はパス(標準化係数)で、上記因果モデルにおける各変数間の関連の強さを示しています。
日常接点から活用効果に及ぼす影響は、直接【図表3の②】よりも、提供体験を経由した場合【図表3の①→③】に大きくなることが確認されました(③は単体では②よりわずかに小さいが、接点→提供体験①に続いての因果関係となっていることから、①→③合わせた流れのほうが、②単体よりも影響度合いが大きい)。
これは、日常接点を通して提供されたキャラクターの持つ体験価値が、消費者の情動を刺激して、プロモーション活用効果が増幅されることを裏付ける結果※4です。
※4:モデルとしての説明力を示す適合度指標GFI(goodness of fit index)が0.813と一般的学術論文などで掲載される0.9には達しておらず、モデル適合度の点で精度が高いと言えないため、今後さらなる精緻化を進めていきます。
名場面や名セリフで、プロモーション活用効果がさらに増幅される
想起キャラクタータイプ別にSEM(構造方程式モデリング)を実施した際の、日常体験×提供体験×活用効果の因果関係を示すパス(標準化係数)を一覧表にまとめてみました(図表4)。
図表4. 想起キャラクタータイプ別:日常体験×提供体験×活用効果の因果関係
いずれのタイプも共通して高いのが「提供体験←日常接点」のパスで、特にマンガファン層で目立って高くなっています。マンガファン層は、「活用効果←提供体験」のパスも高いのが特徴です。
一方で、「活用効果←日常接点」のパスは、キャラ・アニメ・ゲームファン層が高く、マンガファン層で低くなるなど、マンガファン層は他のファン層と異なる傾向を示しています。
以上の結果から、マンガファン層は、マンガ・アニメ・ゲームなどのコンテンツを通して作品のストーリーや世界観に触れることで、なりきり感やカタルシス・非日常感が刺激され、プロモーション活用効果がさらに増幅される、ということがわかりました。
つまり、ファンにとってはコラボ企業の商品・広告で示された推しキャラの魅力を象徴する名場面や名セリフが、購入や利用を後押しする重要な要素であるということが定量的にも確認されたわけで、なかなか興味深いです。
次回からは、2023年2月末から3月初めに実施した「キャラクター定量調査2023」で得られた、最新の調査結果を紹介していきます。どうぞお楽しみに。
<第2部 バックナンバー>
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も
<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧
筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)
栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。